日米首脳会談 明らかにされたクアッドの現段階

米国軸に重層的軍事同盟の強化
9条改憲阻止・安保破棄の闘いを

沖縄・韓国・アジアの人々と連帯を

対中シフトと米日

 米国の「国家安全保障戦略の暫定的な指針」(3月5日)は、ロシアのウクライナ侵攻を「深刻な脅威」と位置づけ、同時に中国を「最大の戦略的競合国」と規定し、同盟国と連携して抑止力を強化していくことを明記した。このことをヒックス国防副長官は、「(中国は)われわれの利益に挑戦する軍事的、経済的、技術的な潜在能力がある。優先順位としてインド太平洋における中国、次に欧州におけるロシア」(3・5)に対処していくと述べた。また、「指針」は、対中露シフトの一環として核戦略指針「核体制の見直し(NPR)」に取り組むことも強調している。
 米国は、次のステップに向けた対中シフト構築を目標にクアッド(日米豪印戦略対話)をも取り込もうとした。
 すでに日本は米国のグローバル戦略と連動しながらアジア軍事経済ビジョンとして安倍元首相(2012年)が「(日米豪印)安全保障のダイヤモンド」、「自由で開かれたインド太平洋戦略」を掲げ、以降、外務省局長会議を各国と定期的に開催してきた。トランプ米政権時(19年9月)でも継承され、クアッド外相会合(ニューヨーク/19年9月)、ワシントンで対面式首脳会合(21年9月)、豪メルボルンで外相会合(22年2月)、テレビ会議形式で首脳会合(22年3月)を積み重ね、今回の東京の首脳会合に至った。
 クアッド首脳共同声明は、インドのロシアとの外交関係の維持のため、ウクライナ侵攻を「悲劇的な紛争」と表現し、「主権や領土の一体性、紛争の平和的解決を強く支持する」など一般的な評価でまとめた。インドの立場は国連総会の「ロシア非難決議」を棄権、ロシア経済制裁に参加していないことに現れている。つまり、インド政権は兵器調達でロシアとの関係を重視し、経済面では中国との関係を維持するなどの立場の維持だ。米日政府は、インドを対中国に向けた「同盟国と連携して抑止力」の枠組みに引き留めるのに必死だったということだ。この引っ張り合いが今後のクアッドの「不安」材料となっていくかどうか注目していく課題であろう。
 「地域情勢」でも、中国と名指ししていないが、「東・南シナ海でのルールに基づく海洋秩序への挑戦に対抗する。軍事拠点化、海上保安機関の船舶、海上民兵の危険な使用など地域の緊張を高める威圧的な行動に強く反対。太平洋島嶼国との協力の強化」を確認し、とりあえず米国主導のインド太平洋戦略の枠組みを確認したにすぎない。

多国間安保構想

 だが米国のイニシアチブの低下がありながらも、すでに日米政府は、1月7日、日米安全保障協議委員会(2+2)で対中国、対北朝鮮共同軍事作戦態勢への踏み込みとして、①「日本は『国家安全保障戦略』の見直しで、ミサイルの脅威に対抗する能力(敵基地攻撃能力)を含めて必要なあらゆる選択肢を検討」する。②「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調し、両岸問題の平和的解決を促す」と称して「台湾有事」シナリオの緻密化へ。③「同盟の役割・任務・能力の進化および緊急事態に関する共同計画作業」の構築。④「統合された戦略を完全に整合させ、安定を損なう行動を抑止し、必要であれば対処するために協力」を高めていく。⑤「地域の平和と安定を損なう東シナ海での中国の活動や、核・ミサイル開発を進める北朝鮮に懸念を表明」し、具体的な対処に向けて着手する。⑥「南西諸島での自衛隊の態勢を強化し、日米の施設の共同使用を増加させる」ことを確認している。
 だからこそ米軍は中国軍との交戦対処に向けた戦争準備として「インサイド・アウト」戦略(対中国に向けた米海軍・米空軍+自衛隊の共同軍事作戦)に着手し、連動して自衛隊の南西諸島(琉球弧)配備軍事再編を推し進めている。
 さらに声明は、中国の「一帯一路」路線に対抗する「インフラ支援」、「北朝鮮」に対する非核化などの軍事的包囲の強化などを確認した。
 声明の柱は、日本自衛隊とクワッド参加国との軍事交流、共同軍事演習、秘密情報共有協定などにみられるように米国と米軍を軸にして「同盟国と連携して抑止力」を高めるために、つまり日米安保の多国間安保化構想が進行していることを表している。
 連動して日米首脳会談(5月23日)で岸田は、①「敵基地攻撃能力」やミサイルの脅威に対する「反撃能力」をはじめ軍事費の大幅増額 ②米国の核戦力による「拡大抑止」、日本への「核の傘」の提供が「信頼でき、強靱なものであり続けることを確保する」ことを確認した。
 日米首脳会談をバネに岸田政権は、日米安保体制下における戦争国家化を加速させ、対ロシア、中国、北朝鮮シフトに向けて参戦のレベルを上げようとしている。自民党は、防衛3文書(「戦略3文書」(「国家安全保障戦略」「防衛計画の大綱」「中期防衛力整備計画」)改定と称して、「敵基地攻撃能力」の呼び方を「反撃能力」に変え、攻撃対象に指揮統制機能なども含むとしたミサイル攻撃を言い出している。防衛費についても「GDP(国内総生産)比2%以上も念頭に増額を目指す」という公約を発表し、民衆の生活・福祉・命よりも軍拡を優先しようとしている。

戦争国家化を許すな


 バイデンは、首脳会談後の記者会見で「台湾有事が起きた場合に米国が軍事的に関与するか」の質問に対して、「はい(YES)。それがわれわれの約束だ」と発言した。メディアは一斉に歴代米政権が維持してきた「あいまい戦略」から「明確戦略への転換」か、と報じた。安倍晋三など改憲・戦争国家推進勢力は、バイデン発言を歓迎した。後に米政府は「われわれの政策に変更はありません。大統領は“一つの中国政策”と、台湾海峡の平和と安定に向けた我々の義務を述べた」とコメントし、トーンを下げようと振舞ったが、事前に作られていたものだ。
 予定通り、いくつかのプロセスを経ながらも「台湾有事」「南西諸島有事」を想定した米日共同軍事シナリオはスタートしている。「大軍拡と基地強化にNO!アクション2021」は、パンフレット「ストップ!敵地攻撃 大軍拡! 2022年度防衛予算」で次のように批判している。
 ①台湾有事の緊迫度が高まった初動段階で、米海兵隊は自衛隊の支援を受けながら、鹿児島県から沖縄県の南西諸島に臨時の攻撃用軍事拠点を設置する。
 ②米海兵隊が攻撃用軍事拠点を置く候補地として、陸上自衛隊がミサイル部隊を配置した奄美大島、宮古島、さらに配備予定の石垣島を含む約40カ所(大半が有人島)だ。
 ③米海兵隊が攻撃用軍事拠点を置くのは、中国軍と台湾軍のあいだで戦闘が発生し、放置すれば日本の平和と安全に影響が出る「重要影響事態」と日本政府が認定した場合と想定している。
 ④米海兵隊の攻撃用軍事拠点には、対艦攻撃可能な高機動ロケット砲システム「ハイマース」を配置。自衛隊は、輸送や弾薬の提供、燃料補給などの後方支援、米空母が展開できるよう中国艦艇を排除。事実上の日米共同軍事作戦による海上封鎖の強行だ。
 ⑤台湾本島の防衛ではなく、部隊の小規模・分散展開を中心とする米海兵隊の新たな運用指針「遠征前方基地作戦」(EABO)に基づく共同作戦を展開し、封じ込める。
 このように「台湾有事」「南西諸島有事」作戦が、すでに緻密に作り上げられている。バイデン発言に対して、まってましたと自民党の佐藤正久外交部会長は、「事前に想定問答で作られていたものだと思う。これまでの立場を一歩、半歩踏み出したという評価はできる」と大喜びだ。「産経新聞」は、「日米同盟で台湾防衛に当たれ」「対中抑止強化が急務だ」と煽る始末だ。中国は、「『アジア版NATO』包囲網の形成」、「アメリカの覇権主義を守るための道具だ」、「時代遅れの冷戦の思考に満ちている」と反発した。
 このようなアジアの非核・平和を破壊していく勢力が、あらためてクアッド、日米首脳会談によって浮彫りとなった。現在進行形のこの情勢に対してインターナショナリズムにもとづき反戦・平和に向けて闘うアジア民衆と共に奮闘していこう。憲法9条改悪阻止、日米安保破棄、核兵器禁止条約を批准せよ!
       (遠山裕樹)

THE YOUTH FRONT(青年戦線)

・発行編集 日本共産青年同盟「青年戦線」編集委員会
・購読料 1部400円+郵送料 
・申込先 新時代社 東京都渋谷区初台1-50-4-103 
  TEL 03-3372-9401/FAX 03-3372-9402 
 振替口座 00290─6─64430 青年戦線代と明記してください。