エラー・カタストロフ

コラム「架橋」

 8月の第4週に入ったあたりから、全国のコロナ感染者数が急激に減少している。この減少カーブはコロナワクチン接種の増加率をはるかに上回るペースなのだ。ピーク時で5000を超えていた東京の感染者数も、昨日は300にまで減少している。格別「これ」といった対策が講じられたわけでもない。「なぜだろう」と、頭を抱える日々が続いていた。
 私にとっては初耳だったのだが、進化生物学の世界では「常識」だとされている、エラー・カタストロフ(ミスによる破局)という考え方による説明は、この奇怪な現象の答えになりうると思っている。東大先端科学技術研究センターの児玉龍彦名誉教授は、ざっと以下のような説明(仮説)を行っている(毎日新聞9/16夕刊)。
 新型コロナウイルスの持つ本来の遺伝子情報は、元株にあたる「武漢株」である。日本では昨年初めの第1波とその後の第2波は、この「武漢株」による感染拡大だった。しかし今年の1月にピークとなった第3波、5月にピークとなった第4波、そして8月にピークとなった第5波は、いずれも遺伝子情報の複写ミスによる「変異株」であった。ここで興味深いことは、この波が3~4カ月の周期性を持っているということである(他の国が同様なのかは分からないが)。そしてそこには「ウイルス自体の特性が影響している」らしい。
 どういうことかと言うと、複写ミスによって作られた「変異株」が急激に増えたとしても、「情報の読み間違いによって増えたウイルスは質が悪いために、自然に淘汰される」「増えるのが速いウイルスは自然に減少することは1970年代からわかっていた」。こうした現象のことを「エラー・カタストロフ」と言う。
 この考えに基づくと、ウイルスではないが産業革命以降に急激に増えた人類や家畜はどうなるのだろうか。人口のピークは「中位推計」で2100年の110億人、「低位推計」で2054年の89億人とされている。ホモサピエンスはアフリカで誕生したので、白人もアジア人も「変異」種ということになる。「質が悪いので自然淘汰される」のだろうか。事実、2100年には日本も中国も人口は半減し、アフリカは2倍以上に増えると予想されている。
 さて、この説に当てはめてみると、次の第6波は12月ごろにも増え始めて、年末年初あたりにピークが来るということになる。次に感染拡大するのは、どこ由来の「何株」なのか。しかし、ワクチン接種率が80%くらいにまで上がっているのだろうから、それがどのように影響するのか。GoToトラベルの再開や冬休みと年末年始の人の移動がどのように影響するのか。今のワクチンが効かない「耐性株」が出現するのかなど、様々な要素も考慮されなければならないのだろう。
 依然として予測するのは難しいようだが、「ワクチンしたからもう大丈夫」でもないようだ。空気感染対策としての不織布マスクも後2年くらいは手放せないようだ。そして獲得免疫はなくなることはないのだから、3回目のワクチンはいまだ接種率が数%でしかない、アフリカの人々のために使ってもらおう。この悲惨なパンデミックを終わらせるために。(星)
 

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