父子家庭

コラム架橋

 ボクには娘が3人いる。21歳の時に生まれたのが長女だから、3人ともそれなりの年となり、三女を除けばそれぞれが結婚し子どももいる。若いつもりでいるが、64歳にしてボクも一男三女4人の孫がいるいっぱしの爺さんだ。
 もちろん同居しているわけではないので一人暮らしの毎日。気ままな時間を過ごしていた、そんなボクが父子家庭になったのは一昨年の大晦日に、一羽の黒うさぎを求めてから。そう、以前このコラムでも紹介したオスの熊太郎だ。いま一歳半くらいになるから、人間でいえば24歳ということになる。
つい最近のこと熊太郎の胸のあたりがいつも濡れているのに気がついた。抱き上げて、口元を見てみると切歯とよばれる前歯が伸びすぎて、上唇に半場突き刺さっている状態だった。濡れていた理由は、口がよく閉じられないために涎が出ていたことによる。つまり歯が伸びすぎて不正咬合になっているのだ。
 うさぎの歯は、一生伸び続ける。歯が伸びた分は、主食となるチモシーなどの繊維が多い乾燥させた牧草を噛むことにより、すり減って適正な長さを保つというが、ネザーランドワーフなどの短頭種とよばれる顎が短い品種は不正咬合になりやすいことをネットで知った。以前、飼っていたミニうさぎのココアは、10歳以上生きて大往生したが、そんなことは一度も無かったので伸びすぎた熊太郎の切歯を見たときこれは大変だと驚いたしだいである。
 翌日、すぐさま以前かかったことがある動物病院へと向かった。ビビリが特徴だというネザーの熊太郎だが、籠に入れ初めて車に乗せても臆することなくおとなしくしている。病院に入って問診票を書いている間も籠から顔を出したり、引っ込めたりしてあたりを見回したりしていたが暴れることもなく安心した。
 名前を呼ばれて、診察室に入り獣医に診てもらうと、これは切歯をカットしなければならないとのこと。また、臼歯の高さも左右で違うということが分かり削ることになった。切歯のカットだけならすぐにでもできるとのことだが、臼歯を削るためには麻酔が必要だという。隣の診察台では、猫が寝かされ、これまた歯の治療が行われていた。ボクも歯の治療で毎月2~3回の割合で歯科医に通院しているが、動物もまさに人間並みの扱いだ。レントゲンや血液検査もするというので、午後の4時過ぎにお迎えということになった。ついでに、これまた伸びた爪のカットもお願いした。
 夕方、熊太郎を迎えに行き、獣医にレントゲンや処置の様子を写真で見せられあれこれと説明を受けた。切歯のカットは、毎月行わなくてはならないと告げられ、この子はおとなしいので麻酔なしでできるという。家にいるときは、決しておとなしいとは思えないのに、獣医の前ではきっと神妙にしているのだろう。
 治療費はあたりまえだが保険の適用外。税込で約1万8000円也の請求だった。3万円はかかるかと思っていたので、割と安価な治療費に少し安堵。そして最後に「熊太郎さま」と書かれた診察券をもらって帰路についたが、これから毎月1回の通院かと思うとまさに父子家庭ここにありきと、まざまざと実感させられた出来事だった。家の風呂場で、桶にお湯を入れ涎で汚れた熊太郎の身体をボディーシャンプーで洗い、タオルで水気を拭きとると、当たり前のように自分のゲージに入っていく様を見てほっとしたボクだった。
(雨)

前の記事

「駅弁と手作り弁当」

次の記事

安倍銃撃事件とメディア