6.22鹿児島地裁 大崎事件第4次再審請求棄却

不当な再審棄却に弁護団 即時抗告

再審法の改正を

 6月22日、鹿児島地裁は「大崎事件」の原口アヤ子さんの第4次再審請求を不当に棄却した。弁護団は27日に、福岡高裁宮崎支部に即時抗告し、決定を取り消し再審開始をするように求めた。

大崎事件とは


 大崎事件は、1979年10月12日、鹿児島県大崎町の農道脇に転落し、前後不覚で道路上に横臥していた「被害者(義理の末弟)」が、午後9時頃近隣住民2名によって自宅に運ばれてきたところ、原口アヤ子氏(以下「アヤ子氏」という)が、アヤ子氏の元夫、義弟を含めた計3人で共謀して同日午後11時頃「被害者」を殺害し、翌午前4時頃、その遺体を義弟の息子も加えた計4人で遺棄したとされる事件である。逮捕時からの一貫したアヤ子氏の無罪主張にもかかわらず、確定審においては「共犯者」とされたその余の3名の自白、義弟の妻の供述を主な証拠として、アヤ子氏に懲役10年の有罪判決が下された。(日弁連会長声明、2022年6月22日より)

3度も再審決定がなされた

 原口さんは懲役10年の刑が確定し服役したが、取り調べ段階から一貫して無実を訴え、再審を求めている。第1次再審請求で、鹿児島地裁は再審を決定したが、高裁・最高裁はこれを棄却した。第3次再審請求に対して、鹿児島地裁・高裁が再審を決定したのに対して、最高裁はこの決定を差し戻すのではなく、決定を取り消し、再審請求を棄却するという前代未聞の決定をした。そもそも一つの再審請求事件で、3度も再審決定がされたことは今までにない。この裁判がいかに元被告人に対して不当なものであったのかを明らかにしている。警察・検察・裁判所という構造がいかに、人権侵害を行ってしまったのか、そして今もそれを改めていず、元被告とされた人たちの人生を奪ったのか、許されるものではない。

事故状況を周防映画監督が再現

 2020年3月30日、弁護団は、死亡時期について救命救急医の鑑定書、近隣住民2名の供述鑑定書を新証拠として、第4次再審請求を申し立てた。本請求審の新証拠は、それぞれが車の両輪となって、「被害者」が帰宅前に死亡しており、そもそもアヤ子氏らが「被害者」を殺害することはあり得ない、つまり殺人事件は存在しないことを明らかにするものであった(日弁連の声明より)。
 2020年10月12日、弁護団は転落した被害者を近隣住民2人が軽トラックの荷台に乗せて被害者の自宅まで運んだ様子を再現し、首への損傷で自宅に着いた時点で既に死亡していた可能性が高いことを示す狙いがあった。再現場面はスタントマンが演じ、弁護団に協力する映画監督の周防正行氏や、新証拠として提出した医学鑑定書を手掛けた埼玉医科大高度救命救急センター長の澤野誠医師も同行した。周防氏が撮った映像を新証拠を補強する素材として地裁に提出した。

死因は側溝への転落

 被害者の死因が何であるのかが裁判の最大の争点だ。ジャーナリストの江川紹子さんは次のように書いている。

 解剖した鹿児島大学法医学教室のJ教授は、「頸椎前面の組織間出血」があった点を頼りに、頸部に外力が加わったと推定し、頸部圧迫による窒息死と判断した。
 ところが、鑑定時のJ教授に、警察は重要な情報を知らせていなかった。Aさんは遺体が発見される3日前、酒を飲んで自転車ごと農道の側溝に落ちる事故に遭っていた。側溝のなかで動くこともできないまま放置され、その後、近隣の人に引き上げられ、車で自宅まで運ばれていた。
 J教授はこの事実を知って、第1次再審請求の際に、「側溝への転落で頸椎や頸髄に重篤な損傷が生じて事故死した可能性が高い」「頸椎前面の組織間出血以外に頸部圧迫を推測させる所見はなかった」と鑑定内容を修正し、新たな鑑定書を提出している(江川紹子の「事件ウオッチ」第206回2022年6月29日より)。

被告とされた人々の悲惨なその後

 そして、この殺人事件がでっち上げられ、原口さんら一族が逮捕・有罪が確定したことにより、この家族をどん底に落とし、次々と自殺者が出た。
 当時25歳だったおいは、裁判所で「警察で犯人と決めつけられ、机をたたかれて泣いた。証拠があると言われ、逮捕されて諦めた」などと証言したが、アヤ子さんとともに再審開始が認められる前年の2001年に自死。47歳だった。義弟も服役中から妻に事件への関与を否定。弁護士に再審請求する意向を示したが、58歳でやはり自死した。
 アヤ子さんの夫は離婚後も被害者宅隣の元の自宅に1人で住み、66歳で病死。長女は今回の第4次再審請求で、亡き父と認知症の母に代わり請求人になった。
 犯行を認めた夫、義弟、おいの3人は、知的能力が低かったことが裁判で明確に認定されている。再審開始を認めた3つの裁判は「3人には他人に同調しやすい傾向があるにもかかわらず、捜査官による強制や誘導がうかがわれ、これに迎合した可能性が否定できない。自白には疑問がある」などと判示した。
 

元判事らが再審取消しを批判

 大崎事件の再審開始を認めなかった鹿児島地裁決定を受け、元東京高裁判事の木谷明弁護士(84)らが6月22日、東京都内で記者会見し、「新証拠に限界があると指摘するばかりで旧証拠との総合評価を全くしていない。総合判断すれば違った結論に至ったはずだ」とする元裁判官有志10人の抗議声明を公表した。

日弁連小林会長「再審法改正は大きな過ちの是正」


 今回の大崎事件でも、3回もの再審決定がされたにもかかわらず、上級審によって否定される結論が出された。こんなことがまかり通ればいつまでたっても再審決定などほど遠いものになる。今までも名張毒ぶどう酒事件や袴田事件などで再審を認めた決定が出されたにもかかわらず、別の部の裁判所などによって棄却されるという不当なことが起きている。再審法の改正がぜひとも必要だ。日弁連の小林会長がそのことについて、以下のように指摘して、インタビューに答えている。

─原口さんの再審可否の判断がいよいよだ。

 「これまで事件の推移を見続けてきた。(弁護団が提出した)鑑定書を冷静に読み込み、6月22日には再審開始決定が出るだろうと私自身は確信している」

─事件は発生から既に40年以上が経過した。再審法をどう変えていくべきか。

 「再審の開始決定が出た場合に検察官の抗告を認めないと刑事訴訟法で規定することだ。加えて、現在は裁判官の裁量に委ねられている証拠開示についても、再審請求手続きでは全部出させるようにしないといけない」

 「再審事件を争っているのは原口さんをはじめ高齢の方が多い。時間との闘いだ。再審決定は入り口でしかなく、その後も長い道のりがある。現制度では終わりが見えたと思ったら、(検察の抗告で)振り出しに戻されるようなことが繰り返される。まずは早く入り口につかせるべきだ」

─再審は「開かずの扉」と言われるほどハードルが高く、冤罪被害者の救済は進んでいない。

 「法律がないから進まない。裁判官は証拠が出てきて初めて判断できるが、その証拠がなかなか法廷に出てこない。証拠を出させる規定が刑事訴訟法上にないのは致命的欠陥。裁判は人間がやるので過ちもある。過ちがあった際にそれを是正する制度がないというのが、最大の過ちだ。再審法改正は、大きな過ちを是正する方法だということを日弁連としても訴えていく」

─今月16日、日弁連内に「再審法改正実現本部」を立ち上げた。どう改正を促していくか。

 「全国の自治体首長や議会、経済・労働・消費者団体などから再審法改正の要望書や請願を出してもらいたい。改正には政治の力も重要。国会議員にはメッセージの発出や、国会質問でも取り上げていただきたい。国は国民の声を聞き、改正に本気で取り組んでほしい」(「南日本新聞」6月21日)。

袴田事件、狭山事件で再審決定を

 袴田事件では、静岡地裁の再審開始決定に対して、東京高裁がそれを却下した。しかし、最高裁は高裁に差し戻し、審理が行われている。袴田さんが犯行時に着用していた衣類は少なくとも1年間みそ漬けにされていたはずなのに、血痕には赤みがあった。弁護団は衣類をみそ漬けにする再現実験で色の変化を調べた。血痕は6カ月後に黒色に近い色になった。袴田さんの無実は明らかだ。裁判所は弁護側、検察側の鑑定人を呼んで調べることを決定した。
 狭山事件ではさまざまな新証拠の開示によって、石川一雄さんの無実が明らかになっている。石川さん宅から押収された万年筆のインクの成分と被害者が持っていた万年筆のインクの成分の違うことを弁護団が依頼した下山第2鑑定が明らかにし、石川さんが犯人でないことを立証した。今後この鑑定をした鑑定人の事実調べを求める意見書を提出する。第3次再審請求の最終局面に入った。裁判所は事実調べを行い、再審の決定をおこなえ。「犯人」とされている人々の人権侵害を回復せよ。(M)

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