11.23永井浩さん講演会「ミャンマー民主化と日本」

 11月23日、立川市柴中会公会堂で、永井浩さんの講演「ミャンマー民主化と日本」が、ミャンマー問題を考える会の主催によって行われた。
 永井さんはジャーナリスト。東京外国語大学ロシア語科卒業後、毎日新聞バンコク特派員、編集委員などをへて神田外語大学教授。現在、同大学名誉教授。インターネット新聞日刊ベリタ初代編集長。近著に「ミャンマー『春の革命』:問われる「平和国家」日本」「アジアと共に『もうひとつの日本』へ」(いずれも社会評論社)がある。
 講演の前に、「ミャンマー民主化運動の一年について」、朝日新聞が放送した映像、および不当に拘束され、10年の懲役刑が言い渡されていた久保田徹さんが11月17日恩赦で釈放され、18日に日本に帰国を機にTBSがインタビューしたニュースが放映された。久保田さんは、デモができないのでゲリラ的にフラッシュデモとして数十秒行動したのを撮影していただけだ。軍隊が車から飛び出してきて銃を向けられ、車に押し込められ、刑務所に連行された。「逮捕されるような状況がなくなって欲しい。友人がたくさんいるので、行けるような状況になったら、また行きたい。自由を奪われた側に立ってやっていきたい」と毅然と語っていた。

ミャンマー民主化連帯運動の重要性
 主催者の大洞さんが「6000人が恩赦されたというが、政治犯は700人だけ。スーチーさんも釈放されていない。軍政の単なるポーズだ。Z世代と言われる若者たちと88世代の間には考え方の違いがあるようだ。若者たちはインターネットなどを有効に使っている。つい最近開かれたASEANがミャンマー軍政に厳しい対応を取ろうとしたように、変化の兆しも見えている。ミャンマー問題は日本の民主主義の問題でもある」と発言し、講演につないだ。

永井浩さんの講演から


 永井さんの講演にうつった。永井さんは詳細なレジメを元に講演を行った。
 大きく、3つのテーマで話された。1、「春の革命」への国家テロ 2、「アジア最後のフロンティア」暗転 3、民主化運動が期待する日本との関係、おわりに ミャンマー危機は対岸の火事ではない。

国軍系企業と結びついたODA供与
 日本にとって対岸の火事ではない。様々な形で日本が関わっている。ミャンマー人に言われた言葉「日本のお金で人殺しをさせないで」。これが忘れられない。日本は最大のODA供与国だ。インフラ、福祉のために政府が優遇措置を供与する。そのプロジェクトが国軍へ流れている。そして、軍は民主化運動を弾圧している。われわれの税金が使われている。日本の政府、経済界が加担している。
 問われる国際社会。軍のクーデターにどう対処するか。欧米は経済制裁を加え、ミャンマー国民の側に立った。11月ASEAN、ハリス副大統領はタイ首相との会談でミャンマー国民の側に立つと表明した。日本はどうなのか、未だにミャンマー国民側に立てていない。独自のパイプを持って、平和的解決をめざすとしている。しかし、成果はない。なぜなのか。対米従属姿勢と日本政府は言われるが、なぜ米国と同一歩調をとれないのか。
 アジア最後のフロンティア。クーデター直前。日本の進出企業は400社。民政移管し、テインセインが大統領になった2011年から進出ラッシュ。同大統領は民主化を進めていく。スーチンさんの13年の自宅軟禁を解いた。経済制裁が解かれ、欧米資本が入っていった。オバマ大統領が訪問した。
 国軍は大きな利権を持っていた。日本の経済進出は雇用を創出し、経済を底上げした。しかし、ミャンマー側のビジネスパートナー、ビジネスのおいしい部分は国軍が牛耳っている。だから、国軍系企業と手を結ばなければならない。
 独自パイプとは何なのか。クーデター直後、日本ミャンマー協会にミャンマー人たちが抗議行動を行った。なぜなのか。日本ミャンマー協会が日本側の経済進出の拠点になった。2011年に設立。会長は渡邊秀央(中曽根時代の郵政相)、最高顧問が麻生太郎。自民・立憲・公明党も参加。官は政務次官クラス。政官財トップクラスが理事。日本を代表する企業137社が会員。多額の会費を払っている。
 目玉商品として「ティワラ経済特区の開発」。渡邊会長がテインセイン大統領の意をうけ主導、「黒幕」「フィクサー」(ロイター通信)と詳しく報じた。50億ドルの帳消しと180億ドルの援助と投資。日本がいかに重視していたか。2013年、安倍首相がティワラを視察した。「日本とミャンマーの象徴だ」(安倍)。欧米を飛び越して日本が経済進出していった。カネのなる木だった。

 ミャンマー国軍との強い関係。首都をヤンゴンからネピドーに移転した。その時、国軍の「クローニー」(取り巻きの政商)が大きな役割を果たした。日本の企業も誘致にかかわっている。
 渡邊はミンフライン司令官とも親密な関係にあり、24回も会っている。クーデター後も2回会っている。
 利権集団と化した国軍。軍政下の1990年代に国軍系複合企業を設立。ミャンマー・エコノミック・ホールディングス(MEHL)とミャンマー・エコノミック・コーポレーション(MEC)。要職はミンアウンフラインら国軍の現役、退役幹部、株を保有。傘下に子会社と関連企業+外国企業との合弁会社。キリンやイオンの関わり。
 

「独自パイプ」
のウソと真実
 「独自のパイプ」のウソと真実。なぜ、制裁できないのか。国軍との関係で権益を持っているからだ。国軍側は日本の足元を見透かしている。日本は新規のODAは停止し、既存のものは継続するとしている。マスコミはクーデターは批判しても、日本と国軍とのゆ着関係に触れていない。
 もう一つの独自パイプは、2013年から始められた国軍と自衛隊の将官級交流だ。10人程の幹部たちの交流。そしてミンアウンフラインは3回にわたって日本に来ている。負の関係をなぜ日本で見据えられなかったのか。

 民主化運動。ミャンマーは初期仏教を重んじる。行動の原点としての仏教。仏教の民主化運動との関係。2007年の「サフラン革命」。ヤンゴンに10万人の僧侶が集結し行進した。この時は軍政打倒ではなく、慈しみを説き、経文を叫んだ。物質的な豊かさではなく、心の豊かさが必要だ。
 問われる日本。日本の経済的利益というとき、ミャンマー人の血の匂いがしないか。人間の尊厳を原点とした「ミャンマーの未来に投資する」。憲法前文の精神で、国境を超えた市民連帯へ。

軍政の総選挙
  を認めるな
 質疑応答で、永井さんが語ったこと。「1995年、毎日新聞がスーチーさんからの手紙を連載した。日本政府は停止を申し入れてきた。在日ミャンマー大使からも言ってきた。言論の自由を奪われた人からの発信で到底受け入れられるものではなかった。とんでもないことを平気で日本政府はやってきた。日本とミャンマー、中国との関係を損なうというものだ。軍政との関係を思い、国民のことは何もない。ミャンマーの後ろ盾の中国との関係を悪化させたくないというものだ。この時は『建設的関与』だと言っていた」。
 スーチーさんの非暴力とPDFの武力抵抗闘争について。「私の知っている日本人ビジネスマンの運転手がPDFに入ってしまった。そこまで、軍政との戦いがあるということだろうと思う。そして、来年8月にも軍政は総選挙をやると言っているが、民主派が認めていない総選挙の結果を受けて、その政府を日本政府が認めるようなことをしてはならない」。
 連続したミャンマー連帯の講座を続けている立川の「ミャンマー問題を考える会」の活動の報告があった。日本人の側からの持続的なミャンマー連帯活動を続けよう。       (M)

日本政府・財界のミャンマー軍と深い関係を鋭く批判する永井さん

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