アフリカの食料危機

僅かの政治的勇気で克服可能
ポール・マーシャル

 FAO(国連農業機関)は食料危機への警報を今鳴らし続けている。人道NGOはオクスファムを含め、ひとつの声明で、「10年で最悪の状況」にあると言い、国連事務総長のアントニオ・グテーレスは「飢饉のハリケーン」について語っている。
 この世界的な食料危機の中で、アフリカは依然もっとも脆弱な大陸のままにある。この危機には多くの理由があるとはいえ、それらすべてには共通のことがひとつある。つまり、住民の必要とは逆向きの政治的選択、ということだ。

価格高騰の裏
に投機が存在
 ウクライナに対するロシアの軍事侵略は西アフリカの食料危機を悪化させている。しかしそれが危機の引き金を引いたわけではなかった。戦争より先に、食糧供給を巡るいくつかの緊張があった。そしてそれは、農産物に対する世界の先導的な市場のひとつであるシカゴ取引所における、諸々の投機行為によって引き起こされた。
 過去4年にわたって、西アフリカにおける栄養不良者数は劇的に増加してきた。それは3800万人近くに達し、ほぼ4倍化した。
 この大陸は、新型コロナの健康危機から経済的に相当弱体化した姿を見せている。西側とは異なり、アフリカ諸国は刺激政策を採用する、あるいは危機緩和のための社会的方策に資金を回す、そうした財政的余地を確保できずにきた。
 アフリカでは、家計での食料への支出割合が極めて高い。たとえば、もっとも人口の多いナイジェリアではそれが59%に当たるが、他方フランスのそれは平均で13%だ。食品価格の上昇は、特にそれらが重要な場合、住民の大きな部分にとって、自らを適切に養う可能性への障害になる。ブルキナファソではソルガムが37%、キビが50%値上がりした。全体として食品価格は、およそ30ヵ国で食糧暴動があった年である2008年よりも高い。これに、この大陸で倍化した石油価格が加えられなければならない。

生産低下に
財政危機も
 農業活動は、ジハーディストとコミュニティ民兵によって引き起こされた多くの地域的武力紛争によって妨害されている。追い立てられた人々の数は、およそ670万人と見積もられている。これは、農地で働くためのマンパワー不足がある、ということを意味する。サヘルでは、穀類の収穫が2021年比で12%低下し、いくつかの国での低下はさらに大きく、マリでは15%、モーリタニアでは18%、ニジェールでは36%の低下だ。
 同時にサヘル諸国家は、安全保障上の挑戦に直面し、財政の優先度を軍に与え続けている。安全保障関係の支出は10年で、マリでは339%、ニジェールでは288%、ブルキナファソでは238%も上昇した。
 人道諸組織に関しては、ウクライナ難民向け援助の寄贈者による優先化とぶつかっている。そしてそれらもまた価格上昇に向き合わなければならない。WFP(世界食糧計画)が支払う小麦1トンあたりの額は、インドの輸出禁止公表によって、290ドルから400ドル以上に上昇した。
 西アフリカで経験された諸問題は、アフリカの角地域にも現れている。エチオピアやソマリアのような諸国は今、住民を養う点での諸困難を経験中だ。そこでも高いインフレによって、食品一式の費用は、ソマリアで36%、エチオピアで66%上昇している。

住民の必要とは
逆の政治的選択
 この状況の原因は、何らかの不運ではなく、豊かな国々の指導者たちの政策がもたらした結果だ。つまり、地球温暖化に対する必要な方策採用への拒絶、債務の重圧の下でアフリカ諸国を押し潰していること、天然資源略奪の政策を展開していること、農産物由来燃料の選好、によるものだ。
 1番目の即効的解決策は、「農産物由来燃料のために生産されたトウモロコシの量、米国での1億4000万トンを半減の8500万トンにし、失われた量を補填するためにそれらを食料市場に回し、穀物価格への圧力を引き下げる」ことだと思われる。この主張は、フランスの農業調査・国際協力組織であるCIRADの研究者が指摘したことであり、それは、週刊誌の「ラ・ポイント」で引用された。
 常識は、それが何千人ものいのちを救うだろう、と判断する。その採用には、利益追求生産モデルに反して進む僅かの政治的勇気を必要とするだけだろう。(2022年5月26日)(「インターナショナルビューポイント」2022年5月26日) 

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