インドネシア パーム油産業の闇

大企業利権防衛の犠牲
サウィダティハヤア・アフラ/ヤッサル・アウリア

 以下では、インドネシアでパーム油を原料とする調理用の油の不足が大きな問題になっていること、それがパーム油生産大企業による輸出優先に起因していることが論じられている。パーム油の大輸入国である日本も無関係とは言えない問題であり、紹介する(「かけはし」編集部)。
 以下の指名(貿易相への)を多くの者は、真剣な危機対処の手段ではなく、その代わりに、ウィドド(現大統領のジョコー・ウィドド:訳者)による単なる政治的基盤固めの戦略と見ている。ツルキフリは、先頃ウィドドの大与党連合に加わった諸々の大政党のひとつである国民信託党(PAN)の著名な指導者だ。元々の意図が何であれツルキフリは疑いなく、その職務にとっての資格ある人物からはほど遠い。
新貿易相の
数々の疑惑
 彼は指名から僅か2日後、調理油危機の背後にはいかなる「マフィア」もいない、と言明した。彼は意図的に、4月に司法長官が、未精製パーム油輸出承認に関係する汚職事件で4人の容疑者の名前を上げた、という事実を無視したのだ。
 言われるところでは、貿易省の高官が、ウィルマル・ナバティ・インドネシア、ペルマタ・ヒジャウ・グループ、さらにムシム・マスの別々の個人から賄賂を受け取り、事前の国内市場義務遵守を条件付けることなく輸出許可を認可した。貿易省規制にしたがえば、パーム油企業は輸出許可を得るために、未精製パーム油総生産の30%をインドネシア国内市場の需要向けに取っておくことを求められる。
 上記3社はインドネシアの主要パーム油生産者に数えられ、政府から繰り返し特別扱いを受けてきた。特にそれは、巨額の奨励金や補助金という形を取っている。
  以下のことに注目することも重要だ。つまりツルキフリは、2009年から2014年の森林相として、164万ヘクタールもの森林を油ヤシプランテーションに転換し、そうすることでパーム油大企業の利益に貢献するという実績を残した、ということだ。特に懸念されることは、調理油危機の原因がインドネシアにおけるパーム油産業の操業のあり方から発しているということを、この現貿易相が公式には認めないだろう、との予想だ。この省には、上記産業の利益を満たしてきたという実績もある。

パーム油産業の
長い腐敗の歴史
 インドネシアにおけるパーム油産業に対する誤った管理には、汚職およびパーム油オリガルヒと政府の共謀で歪められた長い歴史がある。識者の語るところでは、油ヤシプランテーションの広がりは農業経済としての優越性や生産性が理由ではなく、政治的支援によっていた。つまり、政治的経済、政治的テクノロジー、さらにインドネシアの政治的環境を特徴づける責任を問われない体制、を通じてということだ。
 その点でわれわれは、調理油危機が主に政府自身が生み出したものである以上、その危機を十分に解決するという政府を信用できない。この危機に火を着けた調理油の全国的な欠乏は、単なる欠陥ではなくインドネシアのパーム油における売り手独占の表現だった。この売り手独占は部分的に、ウィドドの「新発展主義」イデオロギーを通して維持されている。そしてそのイデオロギーは、パーム油管理を含むあらゆる公的部門を統治する正面に、規制を解かれた資本主義を置くのだ。
 2010年、インドネシア事業競争監視委員会(KPPU)は、20社の調理油生産者がカルテル行為に関与し、政府による監督の弱さのおかげでその生産の90%を輸出した、と断定した。しかしながら、インドネシアの「政治的テクノロジー」は最高裁でKPPUを敗北させることに成功し、インドネシアの調理油サプライチェーンに対する管理と統制を改善する点での失敗に導いた。

「新発展主義」
こそ問題の根源
 政府による補助金制度を通じて、彼らの未精製パーム油をバイオジーゼル燃料に振り向けているパーム油企業は、十分な補償を受けるだろう。同じ制度は、未精製油が調理油目的に振り向けられる場合は利用できない。これが次いで、調理用未精製パーム油割り当てを減少させ、利用できる在庫を低め、こうして現在の危機の引き金を引いている。
 法律論的に言えば、この補助金制度――2016年開始――はそれが実行された時、適切な法的基礎をもっていなかった。関係法は、バイオジーゼル燃料への動機付けとして政府がパーム油基金を転用できるか否かを特定していない。しかしながら、その後の実施規制(省令および大統領令)がそれを容認したのだ。これは、実施規制は高位の法が明示的に述べていないものごとを規制できない、という法の階層制という司法制度に反している。この法的にうさんくさい条項は先頃、物議を醸した職創出に関する法――民衆からの意味ある参加という見せかけも一切なく、密室の中で作り上げられた――の中で固く補強された。この法の作成過程は後で憲法裁判所によって、インドネシア憲法に違反していると思われた。
 調理油危機に真剣に向き合うことが意味することは、パーム油オリガルヒの支配的影響力を維持している複雑な網の目を解きほぐす、ということだ。この網の目は、サプライチェーン監視の最小化、政府とパーム油産業による腐敗のはびこり、利益のためにあらゆるものを犠牲にする新自由主義イデオロギーのデタラメな適用、をもたらしている。そしてその犠牲の中には、公衆の福祉と環境の持続可能性が含まれている。われわれは、全員にとっての公正と公平を可能にするように、インドネシアの政治システムと経済システムを再モデル化することを必要としている。

▼ヤッサル・アウリアは、政治腐敗部局でインドネシア腐敗監視(ICW)を担当している。彼の活動は、民主主義後退、オリガルヒ、腐敗に焦点を当てている。
▼サウィダティハヤア・アフラは、政策調査提言研究所の提言担当者。彼女の研究は主に、ビジネスと人権問題に関係している。彼女はまた、宗教と信仰を実践する自由を支持する主張も行っている。(「インターナショナルビューポイント」2022年7月9日) 

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