「女性差別との闘いの義務」と
「組織のフェミニズム化」の検証に向けて
かけはし2021年1月1日号
遠山裕樹
はじめに
「共同コミュニケ 第四インターナショナル日本支部としての活動再開にあたって 日本革命的共産主義者同盟(JRCL) 国際主義労働者全国協議会(NCIW)」(「かけはし」2020年12月7日号)は、第四インター第13回世界大会(1991・2)で旧日本支部に対して「すべての男性メンバーに責任ある重大な組織内女性差別という理由から、支部資格の剥奪とすべての男性メンバーの資格剥奪」の決定から第2サイクルへの踏み込みを確認した。新たな第四インターナショナル日本協議会(日本支部)の建設に向けて、JRCLの組織内女性差別問題の取り組みの弱さについていくつか点検してみたい。
どこから、どこへいこうとするのか。
JRCLは、組織内女性差別問題の克服に向けた闘いを通して、その一つの集約点として第17回大会(1996・4)で「組織内女性差別問題についての同盟の経過と問題点」、「総括と課題」、JRCL規約内に「女性差別との闘いの義務」を確認した。関連して「積極的行動と女性のあいだでの党建設」(1988年、FI国際執行委員会採択)を重要論文として位置づけた(いずれも「かけはしHP」の「わたしたちの主張」欄に掲載)。
さらに遠山論文「第17回大会文書「総括と課題」をめぐって」(「かけはし」(1998・1・1)で中間総括的に問題提起してきた。以下、そのポイントをあらためて浮き彫りにすることによって、第二サイクルの前提の共有化を行っていきたい。
組織内女性差別問題とは何か
三里塚労農合宿所強かん事件(1982年8月)を契機としたJRCLと日本共産青年同盟(JCY)の組織内女性差別問題の取り組みは、どうだったのか。一つは、男性主導の機関および男性同盟員は、強かんに対する明確な判断基準を持てず、組織防衛を優先した組織対策的対応を行うことを通して、三里塚労農合宿所での強かん犯罪を告発したAさん、女性たち、女性メンバーに対する敵対を繰り返し続けていった。つまり、女性差別問題とは「差別される側」の問題ではなく「差別する側」の男たちの問題であるという認識の一致さえもかちとれなかった。
このデッドロックの根拠の一つとして、強かんに対するとらえかたの幅があったことだ。強かんとは、女性が望まない性的関係全体であり、それを強制する社会的、経済的、政治的、文化的「権力」が問題なのである。だが、多くの男性メンバーは、強かん犯罪に対してブルジョア社会通念、すなわち強かんにまつわる「神話」を、そのまま自らの認識として疑わず、そのレベルで対応したのだ。
このことを村田文枝(「労働者の階級的統一めざし女性解放をつらぬく党を」〈「世界革命」1984年11月19日号〉)は、次のように批判した。
「強かんとして告発された同志は『ヤバイ行為であったが強かんだとは思っていなかった』と語り、同盟内でも行為に対する合意の有無や行為の程度で犯罪の度合いを判定しようとする傾向が存在した。それはまた、わが同盟が当初、三里塚労農合宿所における強かん犯罪に対して『酒の上の不祥事』ととらえたり、『性衝動』によるものと捉えるなどの誤りを犯したことと一体であった」。「強かんについてのブルジョア的規定を無自覚に受け入れている傾向は、暗黙のうちに『強かんは犯罪だが、それ以外は一時の誤り』的とらえ方と結びついていた」。
当時の第四インター・女性解放グループ(「世界革命」1987年9月21日号)は、「女たちの告発・糾弾がまず直面したのは、『それだけでは差別かどうかわからない』『何が差別かわかるように言ってくれ』という男たちの声であった。それは多く、『それは差別ではない、強かんではない、告発は不当だ』という認識から発せられたものであった。……『イヤならイヤとなぜ言わなかったのか』『なぜ拒否しなかったのか』と。拒否できない力関係のなかに追い込まれた女の側の事実、拒否しなければならないような行為をしかけられていること自身の不当さは無視された。いや無視されるだけではなく、『おまえにも責任があるんじゃないか』として責められたのである」と批判した。
このように強かんに対する男性メンバーの捉え方は、家父長制と男主義的価値観、女性差別主義に貫かれたところから告発者、女性メンバーに対して敵対していった。
あらためて強かんの捉え方を確認しておきたい。女性が望まない性行為はすべて強かんであるという認識のうえで、①強かんとは、性欲に基づく性犯罪一般ではなく、社会的女性差別を背景とし、弱者への支配と従属の欲求から生み出される政治的犯罪の一つである ②強かんは、支配する性としての男の自己確認であり、性を通して女性に人間的・精神的深い打撃を与える ③強かんによる打撃の深さは、それを受けた主体にしかわからない。
だからこの認識土台がないまま男性多数の機関は、組織が強かんか否かを判断するのは当然だという対応で告発者に敵対した。つまり、告発者を防衛し、自己回復のための環境を作ろうとするところに重点をおかず、組織の対応は実行犯の自己批判をかちとり、更生させたいところに比重をかけた。告発者、女性たちを孤立させ、絶望と疲弊に追い込み、排除へと到達するのであった。
このプロセスにおける自己批判的総括および集約として、「女性差別との闘いの義務」をJRCL第17回大会(1996年4月)で採択し、以下のように確認している。「女性から『告発・糾弾』があった場合、組織はただちに調査し、当該女性の『人権回復』のための活動に取り組まなければならない。そのさい、組織は当該女性のプライバシーを尊重し、人格を傷つけないよう最大の配慮をする義務を持つ。当該女性が『告発・糾弾』したことによって、再度性的攻撃にさらされたと感じるようなことは絶対にあってはならない」と規約で明確化したのである。
ここに到達するには、「女性差別は差別する側である男の問題だ」のうえで長期にわたる組織内女性差別問題の事実確認、経過の突き合せ、告発者に対する対応のレベルなどの検証など組織内女性差別問題克服会議の積み上げなどを行ってきた。新たな出発の決意を込めて「女性差別と闘う義務」条項の確認と同時に継続した取り組み、その緊張感を持続させていくことが意識化されなければならないと確認してきた。
「組織のフェミニズム化」について
JRCLは、これまでの組織的あり方、つまりJRCL型レーニン主義に対して①組織の目的意識性を強調することによって逆に政治的論争をぬきにした組織防衛主義へと向かうベクトルを作り出した ②分派の自由を承認する民主集中制を組織原則としていたが、その実態は路線上の違いや対立を政治論争として展開することのない「官僚主義的集中制」へと切り縮められていったと結果現象的に再把握してきた。
また、組織内女性差別問題を通して、組織の性別役割分担に迫りつつも、各自の実生活まで切開していないことが明らかになっていくのであった。ようやく17回大会において「『男も女もない団結』と言うならば、それは最低限の『男も女もない平等な家事、育児の負担、構成比率』についてアプローチし、家父長制と男主義的価値観、女性差別主義に貫かれたJRCL型レーニン主義的団結に対して批判していくのであった。
第四インターナショナル第14回世界大会(1995年6月)は、「今日のインターナショナル建設」において「民主主義的複数主義」を掲げ、組織の「フェミニズム化」を次のように提起した。
「フェミニズム化の強調は、たんに組織内における女性の数字上の状況を改善しようとするものではない。われわれすべてのメンバーによる貢献とさまざまな部門の経験を単一の組織に統合し、積極的に評価しようとする組織内における新しい伝統と方法を導入することを学んだし、このことは以前の世代の組織モデルとは違うものである」。
「複数主義の理解をこのような広い意味において豊富化しつづけることが、現在の新しい世代のあいだでわれわれの隊列を刷新するという緊急の課題にとって決定的に重要である」。
つまり、官僚的集中制の組織観の放棄、および組織建設上の柔軟性を経験主義的に豊富化していこうということだ。FI「積極的行動と女性のあいだでの党建設」がその指針として集約した。
第四インターナショナル第17回世界大会(2018年2月)は、FI「積極的行動と女性のあいだでの党建設」を継承し、「役割と任務に関する文書のために」で新たな組織建設について提起している。
とりわけ「抑圧され搾取された人びととの闘いと反攻の中で輩出する『新しい』諸問題を扱うことの重要性(特に、フェミニズム、エコロジー、LGBTQI、その他)」および「党は、参加する女性を励ますだけでなく、指導部における女性の積極的なビジョンを内部的に打ち立てるために、(組織の)内と外でフェミニスト的プロフィールを打ち立てようとする」と強調している。
第17回世界大会の提起を受け止めながらJRCLに引きつければ、主体的な協働実践として検証できる一つは、「週刊かけはし」紙面だろう。どれだけ「フェミニズム化」に接近しようとしてきたかを点検することができる。この2年間の「かけはし」紙上を見れば、国際面を除いて日本の女性運動、フェミニズム問題の取り上げ方がきわめて限られていることだ。それは「かけはし」年間総目次で「国際連帯・人権・反差別」という項目でくくっているように、独立して「女性運動、フェミニズム」の項目として集約するほど掲載していない現状に現れている。
2019年は、③3・8ウィメンズマーチ(3月25日号) ④女たちの戦争と平和資料館第16回特別展オープニング・トーク (4月8日号) ⑤旧優生保護法被害者訴訟/同判決文に対する声明 斉藤浩二( 6月10日号) ⑥「女性活躍推進法等改正」批判 遠山裕樹(6月17日号) ⑦朝鮮植民地支配・「慰安婦」の苦痛・戦時強制労働 被害者への謝罪・補償を行え! 高松竜二(7月15日号)などの記事を掲載している。
だが2020年は①投稿:「すべての馬鹿げた革命に抗して」を読んで/向井三千夫(20年11月30日号)
②岡村隆史発言が見せつけた買春容認に怒ろう 岡村発言から買春社会を考える(20年11月9日号) ③読書案内「マスコミ・セクハラ白書」遠山裕樹(20年7月6日号)だけだ。まさに「フェミニズム化」への遠心化が現在進行中なのである。女性運動、フェミニズムへの接近とアプローチなどの持続的格闘、緊張関係からの後退を根拠に紙面に見事に表現されている事態に陥っている。
この間だけでも日本における#MeToo運動、フラワーデモ、強かん・セカンドレイプ・DV・セクハラ・マタハラ問題、女性労働者に対する差別待遇・不当解雇などの分析、家族・育児、女性差別と貧困、フェミニズム文献などが紙面に反映されなければならなかった。組織内女性差別問題克服の闘いとフェミニズム運動に参加していくことは一体的に展開していかなければならない。やはり結果現象的な経過の後追い、総括切開のあいまいな状態の現れとして現在がある。
「被害者中心主義」と「2次加害禁止」
このような傾向に抗して「かけはし」の「韓国はいま」欄では、20年に入って社会変革労働者党社会運動委員会女性事業チームによる系統的なフェミニズムの闘いが展開され、それらを意識的に取り上げてきた。
具体的には、2020年だけでも①「2019年を熱くした女性の闘争 チ・ス―社会運動委員会」(1月27日号/4月6日号)を皮切りに、社会運動委員会女性事業チームの闘いを土台にして、 ②「家父長制と融合した資本主義に立ち向かう 社会主義フェミニズム 女性解放の鍵を探る ソン・ジヒョン(忠清北道)」(9月21日号) ③「何よりも女性が主体の確認を さらに拡張しなければならない権利 「再生産の権利」 ナレ(社会運動委員会女性事業チーム)」 ④「誰が彼に力を与えた 繰り返される性暴力 イェジン(変革党・社会運動委員会女性事業チーム)」/10月12日号)などが紹介されている。
この闘いの集約点として11月16日号の「韓国はいま」欄に「『被害者中心主義』を必要としない性平等な世界のために」というメインタイトルで「否定と攻撃を受けている 被害者中心主義」の現状を分析し、「被害者中心主義は不可欠な起点」だと結論づけている。
つまり「社会変革労働者党が結党してから5年にしかならないが、党内で決して少なくない性的暴力やセクハラ提訴事件などが発生している。最近でも党員がセクハラ2次加害で提訴され、対策委員会が構成された。変革党3号党規に制定された『性差別・性暴力根絶および予防に関する規定』に基づいて提訴事件を解決している。この党規は『被害者中心主義』と『2次加害禁止』の概念を適用している。 キム・テヨン(社会変革労働者党代表)」と明らかにした。
「韓国はいま」欄スタッフは、社会変革労働者党の「性差別・性暴力根絶および予防に関する規定」「2次加害禁止」の紹介を準備している。われわれにとってJRCL型レーニン主義から「フェミニズム化」に向かって重要な示唆を示してくれるだろう。
LGBTQIの闘い
第四インターナショナル第15回世界大会(2003年2月)は、規約前文の中で「レズビアンとゲイに対する抑圧とあらゆる性的抑圧に対する反対」を確認している。
さらに第四インターナショナル第17回世界大会でも「LGBTQI」(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー・クエスチョニング)の取り組みの重要性を強調しているように、JRCLがどのように受け止め、政治的立場、実践的な取り組みをしていくのかとして問われている。JRCLと「かけはし」に求められることは、家父長的資本主義社会のヘテロセクシズム(異性愛中心主義)による日常生活までふくめた抑圧構造に対しして系統的に「LGBTQI」の仲間たちの抗議や批判、政治分析を取り上げていくことだ。新たな第四インターナショナル日本協議会(日本支部)の建設は、「LGBTQI」の問題提起、テーマを避けてはならない。
すでに第四インターナショナル第15回世界大会において「レズビアン/ゲイ解放について」(報告決定集)を採択している。この文書は、「①革命的マルクス主義者がレズビアン/ゲイ解放を支持する基礎を定義し、②いくつかの主要な課題についての第四インターナショナルの立場を整理し、③レズビアン/ゲイ解放が、いかにしてわれわれの組織の公的あり方と内部生活の中に反映されるのか、またされるべきなのか」を提示している。この延長において第四インターナショナル第17回世界大会は、「社会的激動、反撃、オルタナティブ」の中で「8 LGBTプラスの闘い」で権利を発展させる闘いの前進を確認し、「インターセクショナリティの問題や抑圧に反対するすべての闘いの間に絆を作る必要性を提起」し、その具体化を求めている。JRCLの今後の課題として「LGBTQI」の仲間たちとの合流も含めた規約の改正、政治的立場の確定が必要だ。
以上のようにJRCLの弱さを見てきた。何度も確認しょう。「組織内女性差別問題」克服の闘いは続いている。第2サイクルに向けて、論議を深め、諸課題を上げ、フェミニズム運動などへの参加と「かけはし」紙面への反映を共に行っていこうではないか。
The KAKEHASHI
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