「対話」以外に解決の道なし
9.28「領土問題」の悪循環を止めよう
市民アピール、相次ぐ共感の署名
排外主義の
波に抗して
九月二八日、参院議員会館で「『領土問題』の悪循環を止めよう!――日本市民のアピール――」に関する記者会見と院内集会が開催された。
「尖閣(釣魚諸島)」と「竹島(独島)」の領有問題をめぐって、日中・日韓関係が一挙に緊張している。とりわけ「日中国交回復」四〇年の今年、日中関係は最悪の段階に直面している。いま日本の国内では、各政党が「領土防衛」の強硬な姿勢を競い合い、中国各地で吹き荒れた「反日暴動」ともあいまって、マスメディアも例外なく「尖閣」「竹島」への日本の「主権」の「正当性」を何の歴史的検証もないまま断定的に主張し、中国・韓国の反論を一方的に切り捨てて、反中・反韓の排外主義的ナショナリズムを煽っている。
こうした危機的状況の中で、九月二九日の日中共同声明四〇年記念日を前にして、「反中・反韓」の流れに憂慮する市民運動の中から、今回の市民の共同アピールを準備するための活動が進められた。「呼びかけ」がネット上で発信されてから一週間足らずで、賛同個人は一四〇〇人近くに達し、その数はさらに増え続けている。この声明は中国語、ハングル、英語でも同時に発表された。
根本にある
のは歴史問題
ピースボートの野平晋作さんの司会で進められた記者会見・院内集会では、今回のアピール準備に尽力した、岡本厚さん(『世界』前編集長)、高田健さん(許すな!憲法改悪・市民連絡会)、内田雅敏さん(弁護士)、小田川興さん(早稲田大学アジア研究機構日韓未来構築フォーラム)が、経過説明と発言を行った。
岡本さんはアピールの内容を説明し、政府やマスメディアの「挙国一致的」ナショナリズムではない市民の別の声の存在を、とりわけ中国・台湾・韓国の人びとに伝えることが重要である、と語った。岡本さんは、「尖閣」「竹島」の問題がたんなる「領土」問題ではなく、日本のアジアに対する侵略の総括という歴史問題でもあることを強調し、野田政権の「尖閣」国有化方針が七月七日の盧溝橋事件勃発の日に発表されるという挑発的行為を厳しく批判した。
高田さんは、当初の予想をはるかに超えて賛同者が続々と集まっており、とりわけ在外日本人や、沖縄からの賛同者が目立っている、と報告した。高田さんは寄せられた声の中から、晴れた日には海の向こうに台湾の高峰が見えることもあるという八重山からの賛同者の「平和の海へ」という訴えを紹介した。
内田さんは、無責任きわまる「ハーメルンの笛吹き男」=石原慎太郎東京都知事の吹く笛の音に誘われた政治家、メディア、世論の動きに警鐘を乱打し、中国人強制連行被害者裁判の弁護人としての経験から、民衆による平和の実現への希望を語った。
小田川さんは朝日新聞ソウル支局の記者として在韓被爆者の悲痛な声に接したことを契機に「在韓被爆者問題市民会議」の活動を進めている、と語り「次世紀の子どもたちにどのような東アジアを作るのかが課題だ」と提起した。
日本のメディア
の関心は低いが
この記者会見には韓国や中国のメディアから多数の人が参加したが、日本のマスメディアの関心は低かった。国会議員として参加したのは消費税増税に反対し「党員権停止中」だという民主党の橋本勉衆院議員(比例東海選出)ただ一人。橋本議員は、野田内閣の「尖閣国有化」決定が非常に大きな間違いだった、と指摘した。
会場からの意見では「時期にかなった勇気ある呼びかけ」として感謝する意見が多かった。また国会議員の役割が重大だ、という意見もあった。「領土」問題を沖縄へのオスプレイ配備の正当化につなげる主張に反対する声も上がった。
なおアピールへの賛同署名は一〇月一七日まで継続し、一〇月一八日には首相官邸前での行動も計画されている(時間未定)。
挙国一致的な「領土防衛」ナショナリズム、「反中」「反韓」排外主義に抗して、東アジア民衆の連帯による平和を実現しよう。「中国の脅威」を口実にした沖縄へのオスプレイ配備や、自衛隊の「離島防衛」作戦に反対しよう。
まずは日本の側で「領土問題」が存在することを明確にし、日中・日韓両国の対立を平和的に相互の合意で解決する意思を示すことが出発点なのである。(K)
「領土問題」の悪循環を止めよう!
――日本の市民のアピール
2012年9月28日
1、 「尖閣」「竹島」をめぐって、一連の問題が起き、日本周辺で緊張が高まっている。2009年に東アジア重視と対等な日米関係を打ち出した民主党政権の誕生、また2011年3月11日の東日本大震災の後、日本に同情と共感を寄せ、被災地に温家宝、李明博両首脳が入り、被災者を励ましたことなどを思い起こせば、現在の状況はまことに残念であり、悲しむべき事態であるといわざるを得ない。韓国、中国ともに日本にとって重要な友邦であり、ともに地域で平和と繁栄を築いていくパートナーである。経済的にも切っても切れない関係が築かれており、将来その関係の重要性は増していくことはあれ、減じることはありえない。私たち日本の市民は、現状を深く憂慮し、以下のように声明する。
2、 現在の問題は「領土」をめぐる葛藤といわれるが、双方とも「歴史」(近代における日本のアジア侵略の歴史)問題を背景にしていることを忘れるわけにはいかない。李大統領の竹島(独島)訪問は、その背景に日本軍元「慰安婦」問題がある。昨年夏に韓国の憲法裁判所で出された判決に基づいて、昨年末、京都での首脳会談で李大統領が元「慰安婦」問題についての協議をもちかけたにもかかわらず、野田首相が正面から応えようとしなかったことが要因といわれる。李大統領は竹島(独島)訪問後の8月15日の光復節演説でも、日本に対し日本軍元「慰安婦」問題の「責任ある措置」を求めている。
日本の竹島(独島)編入は日露戦争中の1905年2月、韓国(当時大韓帝国)の植民地化を進め、すでに外交権も奪いつつあった中でのものであった。韓国民にとっては、単なる「島」ではなく、侵略と植民地支配の起点であり、その象徴である。そのことを日本人は理解しなければならない。
また尖閣諸島(「釣魚島」=中国名・「釣魚台」=台湾名)も日清戦争の帰趨が見えた1895年1月に日本領土に組み入れられ、その3カ月後の下関条約で台湾、澎湖島が日本の植民地となった。いずれも、韓国、中国(当時清)が、もっとも弱く、外交的主張が不可能であった中での領有であった。
3、 日中関係でいえば、今年は国交正常化40年であり、多くの友好行事が計画・準備されていた。友好を紛争に転じた原因は、石原都知事の尖閣購入宣言とそれを契機とした日本政府の国有化方針にある。これは、中国にとってみると、国交正常化以来の、領土問題を「棚上げする」という暗黙の「合意」に違反した、いわば「挑発」と映っても不思議ではない。この都知事の行動への日本国内の批判は弱かったといわざるをえない。(なお、野田政権が国有化方針を発表したのは7月7日であった。この日は、日本が中国侵略を本格化した盧溝橋事件(1937年)の日であり、中国では「7.7事変」と呼び、人々が決して忘れることのできない日付であることを想起すべきである)
4、 領土問題はどの国のナショナリズムをも揺り動かす。国内の矛盾のはけ口として、権力者によって利用されるのはそのためである。一方の行動が、他方の行動を誘発し、それが次々にエスカレートして、やがて武力衝突などコントロール不能な事態に発展する危険性も否定できない。私たちはいかなる暴力の行使にも反対し、平和的な対話による問題の解決を主張する。それぞれの国の政治とメディアは、自国のナショナリズムを抑制し、冷静に対処する責任がある。悪循環に陥りつつあるときこそ、それを止め、歴史を振り返り、冷静さを呼びかけるメディアの役割は、いよいよ重要になる。
5、 「領土」に関しては、「協議」「対話」を行なう以外にない。そのために、日本は「(尖閣諸島に)領土問題は存在しない」といった虚構の認識を改めるべきである。誰の目にも、「領土問題」「領土紛争」は存在している。この存在を認めなければ協議、交渉に入ることもできない。また「固有の領土」という概念も、いずれの側にとっても、本来ありえない概念といわなければならない。
6、 少なくとも協議、交渉の間は、現状は維持されるべきであり、互いに挑発的な行動を抑制することが必要である。この問題にかかわる基本的なルール、行動規範を作るべきである。台湾の馬英九総統は、8月5日、「東シナ海平和イニシアティブ」を発表した。自らを抑制して対立をエスカレートしない、争いを棚上げして、対話のチャンネルを放棄しない、コンセンサスを求め、東シナ海における行動基準を定める――など、きわめて冷静で合理的な提案である。こうした声をもっと広げ、強めるべきである。
7、 尖閣諸島とその周辺海域は、古来、台湾と沖縄など周辺漁民たちが漁をし、交流してきた生活の場であり、生産の海である。台湾と沖縄の漁民たちは、尖閣諸島が国家間の争いの焦点になることを望んでいない。私たちは、これら生活者の声を尊重すべきである。
8、 日本は、自らの歴史問題(近代における近隣諸国への侵略)について認識し、反省し、それを誠実に表明することが何より重要である。これまで近隣諸国との間で結ばれた「日中共同声明」(1972)「日中平和友好条約」(1978)、あるいは「日韓パートナーシップ宣言」(1998)、「日朝平壌宣言」(2002)などを尊重し、また歴史認識をめぐって自ら発した「河野官房長官談話」(1993)「村山首相談話」(1995)「菅首相談話」(2010)などを再確認し、近隣との和解、友好、協力に向けた方向をより深めていく姿勢を示すべきである。また日韓、日中の政府間、あるいは民間で行われた歴史共同研究の成果や、日韓関係については、1910年の「韓国併合条約」の無効を訴えた「日韓知識人共同声明」(2010)も、改めて確認される必要がある。
9、 こうした争いのある「領土」周辺の資源については、共同開発、共同利用以外にはありえない。主権は分割出来ないが、漁業を含む資源については共同で開発し管理し分配することが出来る。主権をめぐって衝突するのではなく、資源を分かち合い、利益を共有するための対話、協議をすべきである。私たちは、領土ナショナリズムを引き起こす紛争の種を、地域協力の核に転じなければならない。
10、こうした近隣諸国との葛藤を口実にした日米安保の強化、新垂直離着陸輸送機オスプレイ配備など、沖縄へのさらなる負担の増加をすべきでない。
11、 最後に、私たちは「領土」をめぐり、政府間だけでなく、日・中・韓・沖・台の民間レベルで、互いに誠意と信義を重んじる未来志向の対話の仕組みを作ることを提案する。
The KAKEHASHI
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