コロナ災害―医療労働者切り捨て許すな

現場の労働条件改善は緊急課題
東京女子医大のケースから考える

経営危機の負担を労働者に

 東京女子医大病院が、コロナ対応による赤字を理由に全職員の夏のボーナスを全額カットした。それをきっかけに四〇〇人の看護師が退職を希望しているという。共産党の小池晃議員が国会で取り上げたことがきっかけに多く知られることになったこの問題には、日本の医療制度の矛盾が象徴的にあらわれている。
 なぜ病院が赤字になってしまうのか、という点から話を始めたい。保険診療としての医療はすべて公定価格である。全国どこの病院で治療を受けても、同じ薬剤を使った治療であれば診療報酬に定められた金額だけが病院に入ってくる。
 患者側から見れば、全国どこで治療を受けても同じ治療内容であれば治療費は同じと言うことになる。医療を受ける権利を平等に保障するという点では、国民皆保険制度と共に非常に優れた制度である。ところが、この二つの制度が、医療費抑制のため国の負担を引き下げ、患者負担を上げるという運用面での改悪が続いたため軋みをあげている。
 コロナ災害が来る前から病院経営はギリギリだった。その理由は、診療報酬のマイナス改定が続けられてきたからである。診療報酬は二年に一回見直されることになっている。今年は見直しの年だったが、マイナス〇・四六%の引き下げだった。マイナス改定はこれで四回連続である。つまりこの八年間、全国の病院は同じ治療を提供していても収入が減り続けていたということである。
 一方でこの間消費税が増税され物価は上昇している。保険診療は消費税非課税となっている。したがって患者が窓口で医療費を支払う時に消費税を取られることはない。しかし病院が治療のために使用する様々な物品には消費税がかけられている。
 したがって消費税増税分は病院が被ることになる。本来消費税増税分は診療報酬の改定で補填されることになっている。ところがこの補填が少なすぎるのである。昨年一〇月の消費税増税では、診療所より一般病院、一般病院よりも高度・専門的な医療を提供する特定機能病院が不利になるような改定が行われた。診療所の補填率は一〇八%に比べ、一般病院八五・四%、特定機能病院に至っては六一・七%でしかなかった。つまり四回連続の診療報酬マイナス改定と、消費税増税で経営体力を奪われていた病院を今回コロナ災害が襲ったのである。
 五月に発表された日本病院協会等の調査、七月に発表された日本医労連の調査でも受診抑制の影響で、コロナ患者の受け入れに関係なくすべての医療機関で減収になったこと、コロナ受け入れ病院の方がより減収幅が多かったことが明らかにされた。そのためコロナ患者を受け入れ地域医療に貢献した病院ほど経営状態が悪化するという異常な事態になっている。
 そのため東京女子医大ばかりでなく多くの病院でボーナスの減額などが行われている。日本医労連の調査では回答した三三八医療機関の約三割に当たる一一五医療機関でボーナスの減額が行われている。

労働条件の改善は必須


 七月一六日、全国の感染者が六〇〇人を超え東京の感染者は二八六人に上っている。全国的な医療体制の整備・拡充が急務である。しかし現状のような、現場の医療労働者の犠牲の上に成り立つような医療体制では、今後患者の急増と労働条件悪化による離職が同時進行すれば感染拡大に対応しきれないだろう。空床があってもそこで働く看護師がいなければ患者を受け入れることはできない。今年四月から五月にかけて北海道札幌の介護老人保健施設では入院を断られ医療を受けることなく一二人の高齢者が亡くなっていた。今のままでは全国でこのような悲惨な事例が繰り返されることになりかねない。
 「医療提供体制は確保されている」は事実ではない。京都大医学部付属病院では、新型コロナ肺炎の治療に使用する陰圧室整備等のために三〇〇〇万円をクラウドファンディングで集めることを公表した。診療に必須の設備を募金で整備するしかないほどに病院経営は経済的に追い詰められている。
 国は小中高の一斉休校、アベノマスクに続く愚策、GO TOキャンペーンを今すぐ中止し、一・七兆円の予算は医療機関のてこ入れ、とりわけ医療労働者の労働条件改善に振り向けるべきである。
 東京女子医大病院では看護師の五人に一人に当たる四〇〇人以上もの看護師が退職を希望している。コロナ患者に対応した労働者に支払われるはずの一日当たり三〇〇〇円の手当も職員には支払われていない。団体交渉で病院側は、現在は病床稼働率が落ちているので四〇〇人が辞めてもやっていける、やめた分は補充すればいいと答えて労働者の怒りを買っている。
 実は女子医大は、例年大量の退職を生み出している悪質な病院である。日本看護協会の調査では、ただ働きが多い病院ほど看護師の退職が多いことが明らかになっている。
 来年度女子医大は三三〇人の採用を予定していた。女子医大病院の経営陣にとっては三〇〇人程度の退職はコロナがなくても織り込み済みだったのである。若い看護師を数年で使い捨てる劣悪な労働環境を女子医大の経営陣は「人材を輩出してきた」と嘯いている。
 今回の女子医大の事態は、私たちに二つの問題を明らかにした。一つは医療現場の労働条件の劣悪さである。資格職である医療労働者は好条件のように思われるかもしれないが実態は違う。医師以外の医療労働者の賃金は低い。医師は高賃金であるかもしれないが、全国で医師の過労死が頻発しておりその働き方は過酷である。この背景にあるのは先に触れたように医療費抑制のために診療報酬が低く抑え込まれてきたからである。
 第二の問題点は企業が、今回は病院だが、経営危機に直面した時に、そこで働く労働者につけを回して経営は一切責任を取らなくても批判されないという日本の風潮である。バブル崩壊以降の長期不況下、資本は労働者に負担の一切を押し付けることで生き延びてきた。そのことに対して、年越し派遣村のような取り組みは行われたが、社会的反撃はなされてこなかった。今回、多くの病院でボーナスカットが行われたが、それに対して社会的な批判の声は大きくはない。労働組合が声を上げれば、ボーナスカットは大変かもしれないが、毎月の給料があるだけいいじゃないか、という声が聞こえてくる。今後、医療労働者の闘いが広がれば、必ずこのような批判がマスメディアを通じて行われるだろう。「もっと悲惨な人がいるんだから黙れ!」というわけである。
 これは「呪いの言葉」である。虐げられた者の権利主張を黙らせる「呪いの言葉」から抜け出さなくてはいけない。

軍事費削って医療に


 今回の医療労働者の労働条件切り下げは、住民の命を守るためにリスクを引き受けた結果、労働条件が切り下げられたのであるからその構造上「自己責任」という「呪いの言葉」は入り込める余地がない。
 バブル崩壊以降、「自己責任」や「下には下がいる」といった労働者にかけられた「呪いの言葉」から抜け出し、文字通り生存のための闘いを開始しなくてはならない。#GO TO予算を医療にまわせ、を拡散させよう。経営難の病院をこのまま放置すれば、それこそ倒産する病院が出てくるだろう。医療崩壊を防ぐために国は医療機関の前年度からの減収分を今すぐ補填するべきである。そして低すぎる診療報酬を臨時改定してコロナ受け入れ病院が赤字になる構造を修正するべきである。
 診療報酬を上げろという声には、「窓口負担が増えてもいいのか」、「健保組合が赤字になる」等の医療労働者との連帯に分断を持ちこもうとしてくるだろう。しかし感染拡大を前に医療崩壊を起こしてしまえば、多くの命が失われてしまう。医療は人権であり国が補償すべきである。フランスでは、医療・介護労働者が月平均二・二万円の「歴史的」賃上げを勝ち取った。コロナ災害の資本主義の下で生き延びることはできない。コロナ災害の被害を労働者に押し付けるな! コロナ災害の被害を連帯と団結で資本にこそ支払わせよう! 命を守ることができるのは軍事力ではなく医療の拡充である。#軍事費削って医療にまわせ
        (矢野薫)
 追記 七月一七日、女子医大当局がボーナスを支給する方向で調整に入ったことが報じられた。まずは一歩前進。

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