中国海軍による「レーダー照射」問題

あらゆる軍事挑発外交反対
その時「ゆうだち」は何をしていた?

武力衝突、一歩手前?


  「艦と艦の間の三キロという距離は、人が一・五メートルぐらいの距離で刃物を向けられたようなもの」(自衛隊幹部)。そのような至近距離にまで近づいて、護衛艦「ゆうだち」は何をしていたのか。
 防衛省は、一月三〇日に東シナ海で中国人民解放軍海軍のフリゲート艦が、約三キロ離れた「ゆうだち」に対して射撃用に使われる火器管制レーダーを数分間照射していたことを発表した。火器管制レーダーは射撃前に目標に照準を合わせて追尾するシステムで、小野寺五典防衛相は「大変異常なことで、一歩間違うと危険な状況に陥る。極めて特異な事例だ」とコメントした。
 国会やメディアでは「中国の挑発」という大合唱のもと、その情報が六日後の二月五日になって首相や防衛大臣に知らされたことを批判する主張が蔓延している。
 昨日の国会では民主党の原口一博の「場所はどこですか」という質問に対し、小野寺防衛大臣が「日中東シナ海の公海上、日中中間線の日本側」と答弁したことから、メディアでは排他的経済水域(EEZ)の日中中間線の日本側と大きく報道され、尖閣をめぐる領有権争いにおける中国側の強硬姿勢を想像させた。小野寺防衛大臣はレーダー照射が武力攻撃にあたるのではないか検討すべきという見解を示し、安倍晋三首相は、自衛隊の交戦規定の見直しに言及した。

ケビン・メアの発言


 今回のレーダー照射は、拡張する中国海軍の軍事力に対して諜報活動を続けていた海上自衛隊に対する限定的な威嚇であり、中国海軍にとってはまたとない実戦的訓練の一環であったといえる。
 照射事件がおこった場所は尖閣諸島から北側におよそ一八〇キロ離れた海域である。そこが公海上であろうと、日本の主張するEEZの中間線の日本側であろうと軍艦を含むあらゆる船舶の航行は認められており、レーダー照射の事実とは全く関係のないことである。センセーショナルな報道に終始するメディアの姿勢は厳しく問われなければならない。
 元米国務省日本部長で沖縄民衆に対する差別発言(「沖縄は日本政府に対するごまかしとゆすりの名人」等)を繰り返し、全沖縄民衆の怒りを買ってきたケビン・メアは国会内での講演で「米軍であれば、(自らへの)攻撃と判断して反撃する」と述べた。事実、米軍はそのように行動している。湾岸戦争後に設定された飛行禁止区域を警戒飛行していた米軍機に対して、イラク軍がレーダー照射を行い、それを攻撃と見なして爆撃をした。つまり敗戦国にはほんのわずかの抵抗も許さないという侵略軍の横暴を如実に示したのがレーダー照射に対する反撃の前例であり、軍政時代の高等弁務官意識丸出しの侵略者であるメアのような人物がその行為を正当化しているのである。このような不当な前例を持ち出して武力行使の是非を議論すること自体が問題である。

エスカレートする偵察合戦

 昨年一一月末に中国海軍東海艦隊の主力艦五隻からなる艦艇編隊が宮古海峡を通過して西太平洋で遠洋訓練を行ったさいにも、海上自衛隊は同艦隊に対する偵察を執拗におこなったと中国側の報道でも確認されている。当然その際には双方でレーダー照射を含むさまざまな神経戦が繰り広げられたことは想像に難くなく、中国側のほうでも威嚇への対抗として、レーダー照射は当然のことだとしている。
 偵察能力が露呈することから、具体的にどのような電波を傍受したのかをすべて明らかにすることはないが、今回公表されたレーダー照射以外にも、双方でさまざまな偵察合戦が行われていたと考えるのがごく自然なことである。中国国防省は日本大使館に対し「日本側が対外公表した内容は事実に合致しない」と伝えているが、中国の東海艦隊は、尖閣諸島のみならず、沖縄の在日米軍を軍事対象とする偵察や抑止を主要任務のひとつとする部隊であることから、軍事機密の一端を進んで明らかにするような事実の伝達はありえないだろう。
 ある自衛隊幹部は「艦と艦の間の三キロという距離は、人が一・五メートルぐらいの距離で刃物を向けられたようなもの」(毎日新聞二〇一三年二月七日)と証言している。つまりそれほどの至近距離で情報収集合戦が行われていたということである。当然だが、突然三キロ先に他国の軍艦の出現に気がついた、というマンガのような事態は想定できない。緊張が走る海域である東シナ海は自衛隊のみならず米軍も二四時間三六五日監視を続けている。
 佐世保を定係港とする「ゆうだち」は当然、尖閣諸島の北一八〇キロの海域にいたるかなり以前から、中国艦船の存在を捕捉していただろうし、むしろそれを目標として巡航していたと考えるほうが自然である。もしかりに海自護衛艦が執拗に中国艦船を追尾していたのであれば、追尾に対抗するために火器管制レーダーを照射したとしてもおかしくはないだろう。今回は中国艦船の砲身は向けられていなかったが、さらに緊張が高まった場合は、砲身を向け、発射装置のロックを解除するという事態(臨戦状態)にもなりかねない。
 この事件のあった翌日の一月三一日には、海自の護衛艦「ありあけ」「やまぎり」と哨戒機P3Cが、宮古島の北東約一一〇キロの公海を中国艦船が太平洋側へ南東に通過するのを確認し、発表している。中国海軍艦艇による南西諸島通過は、二〇一二年一年間で計七回あり、その都度ごとに熾烈な諜報戦が展開されている。

東アジア人民の連帯を

 中国政府は事件発覚以降、レーダー照射の有無についての明言を避け、国内報道もすべて「日本のメディアによると」という但し書きを付けて報道してきたが、二月八日になって一転し「日本の言い方は完全に捏造である。日本が虚偽の状況を計画的にまき散らして中国のイメージに泥を塗り、中国脅威論を宣伝して緊張をつくり出しながら国際世論を誤った方向に導こうとしている」と批判した。
 中国共産党、軍、政府内での情報共有と日本側の出方を総合的に判断した上での反論であり、この立場を容易に変更させることは難しいだろう。しかし、一方でレーダー照射の事実自体を否定したことは、中国政府の関与を否定し、今後はそのような事態を繰り返さないようにするという暗示でもある。日本政府がレーダー照射を発表した二月五日以降現在まで、尖閣諸島周辺海域での中国公船の動きは収まっていることからも、この問題がさらにエスカレートするかどうか不明である。
 昨年一一月末、中国艦隊が西南諸島を通過して西太平洋で訓練を実施した際、中国政府は大々的にその模様を報道しただけでなく、報道の数時間後には、呉勝利海軍司令官(中央軍事委員)がメイバス米海軍長官と会談し、中国初の空母「遼寧」の試験航行の状況について自ら説明するなど、積極姿勢をアピールした。その翌日の中国政府系メディアの新華網日本語版は「中国海軍は自信を深めている」という記事の最後を次のような言葉で締めくくっている。
 「中国海軍は世界の他の国々の海軍と同様、国際的、戦略的、総合的な部隊であり、将来的に現代化、正規化、情報化に沿って発展し、国の海洋権益を守る最も象徴的で強大なパワーとなる」。
 この「他の国々の海軍と同様・・・」という姿に「人民の解放軍」の片鱗をみることはできない。

東アジア人民の平和と連帯を踏みにじる軍事挑発外交反対!
沖縄へのオスプレイ配備をやめろ!

二〇一三年二月九日
        早野 一

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