成田空港の滑走路暫定案を白紙に戻すよう訴えます
「平行滑走路の2000年度完成」の破綻に追い込まれた運輸省と空港公団は、今年5月、反対派地権者の土地を避けた「暫定滑走路」を2002年までに完成させるという「案」を発表した。それは、反対派農民の頭上わずか40メートルの超低空を大型ジェット機が離着陸するその爆音と事故の恐怖で、文字どおり暴力的に追い出そうとする、悪らつきわまりない計画である。声明への賛同を広げる運動に取り組もう。
運輸省は、さる5月に成田空港の平行滑走路について、現行案の2500メートルから2200メートルに短縮し、しかも北側にずらすという暫定案を発表しました。千葉県もこれを基本的に了解したことから、サッカーのワールドカップ開催の2002年完成を目指して急浮上したこの暫定案は、にわかに現実味を帯びてきました。そうすることで、反対派地権者の土地を滑走路からはずすことができ、政府と空港公団は、反対派農家を無視して、暗礁に乗り上げていた平行滑走路建設を強行できると判断したからです。
しかし、私たちはこのような政府のやり方に、大きな危惧を覚えます。ここに深い憂慮を表明すると共に、政府運輸省にこの暫定案を白紙に戻し、この間政府も認めた、「強制手段を用いたことを反省し地元で生活する人びとの意思を尊重することの上に立つ空港問題の解決」という原点に戻るよう強く要請します。
率直に言って、私たちの間にも、成田空港問題の受け止め方やこれまでのかかわりにおいて、様々なスタンスの違いがあります。しかし、今回の暫定案の出され方とそれが「最後の選択肢」として押しつけられようとするやり方は、私たちの生活と社会のあり方の根本に係わる重大な問題として、私たちは以下の点で、互いの違いを超えて深い憂慮の気持ちを共有するものです。
第一に、これまでの長い苦渋の歴史の反省を踏まえ、運輸省は「あらゆる意味で強制的手段を用いず、あくまでも話し合いにより空港問題を解決する」ことを約束してきたはずです。この「強制手段を用いない、話し合いによる解決」の原則は、河口堰、干拓、原発などの開発計画に関係して、広く全国の住民が歓迎するところでした。
ところが実際の進行を見ると、暫定案ではそれによって最も影響を受ける地元住民への何の事前の相談もなく、2002年6月という期限を限っての建設が打ち出されています。これは、「話し合い」の基本的前提を運輸省自らが崩したもので、自らの原則に反しています。この暫定滑走路の南端には、3世帯11人が住み、農地と鶏舎、野菜の出荷場、漬け物工場などがあります。滑走路が完成すれば、着陸機はこれら多くの人の頭上40メートルという、文字どおり殺人的な近さを飛ぶことになり、住民や出荷場は移転せざるを得ず、農業を営むことも不可能になるでしょう。つまり、これは、予定地域からの強制的住民追い出し案に等しく、まるで30年も前の歴史がくり返されるのを見る思いです。
私たちが関心をもつ、第二の重要な点は、滑走路予定地のほとんどの畑は、基本的に長い間の有機農業によって、豊かに育てられてきたかけがえのない農地だということです。平行滑走路用地内で有機農業を営む石井紀子さんは、次のように訴えています。「うちの畑で言えば、20数年、農薬も化学肥料も一切使わず土中の微生物を増やすことを心掛けてきました。様々な有機物、良い働きをする多くの菌、虫や虫の糞、そういったものが構成する『有機土』によって初めて、いい有機野菜は作られるのです。……この土を手放してはもう有機農業はできないのです。……空港が大きな公共性を持つように、人の命と暮らしに係わる環境を守っていく有機農業も、同じ重さの公共性を持つのだと思います。」(「三里塚ワンパック野菜」の便りより)。
この訴えに、私たちは深い共感を覚えます。特に、毎日のように環境ホルモンやダイオキシンの汚染が報道され、私たちや子どもたちの命が脅かされていると多くの人が感じているなかで、石井さんのような有機農業の営みが営々と続けられ更に広がっていくことにこそ、今最も大切にされなくてはならない公共性があるのではないでしょうか。
更にこのことは、未来を自然環境の保全によって安心して暮らせる地域に求めるか、開発や土建事業による「地域振興」に求めるかという、日本各地ばかりでなく全世界で広く争点になっていることにもつながります。そして、このような地球の未来がかかった重要な問題だからこそ、「あらゆる意味で強制のない」自由な雰囲気のもとで、地域の未来が納得づくで議論されていくことの必要性が今こそ強調されねばならないと、私たちは考えます。
私たちは、この訴えを、国際空港を利用する海外の人々にも届けたいと願っています。ワールドカップを楽しみにしている人たちの間にも、背景にある問題の広がりに思いを致すならば、2002年という期限を口実に問答無用式に暫定滑走路が作られていくのを、好ましく思わない人も多いと確信します。
くり返しますが、決して「地元」の問題にとどまらない、民主主義の根本や地球の未来にまで関連した、自分たちの問題として、今回の成田空港の暫定滑走路案に私たちは重大な関心を持っています。そして、運輸省に対し、暫定案を白紙に戻し、地元で農業を営む人びとの声と思いを尊重することの上に立った空港問題の解決という原点に戻るよう要請します。
1999年8月
呼びかけ人
弥永健一(数学者) 上坂喜美 大木雅史(真宗大谷派僧侶) 大島孝一 大沼淳一(海上の森の万博やめよう愛知県民会議) 大野和興(農業ジャーナリスト) 尾瀬あきら(漫画家) 尾関葉子 金子美登(埼玉県小川町・農民) 鎌田慧 玉光順正(真宗大谷派僧侶) 熊岡路矢(日本国際ボランティアセンター) 佐高信 佐藤真(映画監督) 澤地久枝 庄幸司郎(平和憲法を世界に拡げる会・代表世話人) 白川真澄 高木仁三郎 田島征三(日の出町・画家) 中村尚司(経済学者) 花崎晶(アジア太平洋資料センター) 林光 藤川泰志(調布市・八百屋) 藤原信(森林学) 前田裕晤(協同センター・労働情報代表) 水原博子(日本消費者連盟) 山口幸夫(くらしをつくる会) 吉川勇一(市民の意見30の会・東京) ロバート・リケット(研究者)
声明への賛同のお願い
運輸省は、今年5月に、成田空港の平行滑走路の建設を2002年のサッカーのワールドカップ開催に間に合うように、現行案を北側にずらした2200メートルの暫定滑走路の形で進めるという案を突如として発表しました。
政府のこうしたやり方は、政府も認めた「強制的手段を用いたことを反省し地元で生活する人びとの意思を尊重することの上に立つ空港問題の解決」という原則を破るものです。また、滑走路予定地で営まれている有機農業とその大事な公共的な意味を踏みにじり、未来のために自然環境を保全する立場から大型の開発や公共事業を見直す声と流れに逆らうものです。
私たちは、とりあえず、この問題に対して緊急に市民の意思を表明するため、運輸省に対して成田空港の滑走路を白紙に戻すよう求める声明を出すことが必要であると思い立ちました。 多くの人びとの賛同を得て、別紙のような声明を発表し、また国際空港を利用する海外の人びとにも広く訴えていきたいと考えています。
なにとぞ、趣旨をご理解くださり、この声明に賛同してくださるようお願いいたします。賛同は、個人でも団体でも結構です。できれば、まわりの方々にもお声をかけてください。なお、事態が緊急性を要しますので、賛同の締め切りを、とりあえず九月十日とさせていただきます。また、声明を出すための準備作業にそれなりの費用がかかりますので、同封の振替用紙でカンパを寄せていただけると助かります。額は問いません。
呼びかけ人一同
連絡先
▼みさと屋(郵便戻り先) 東京都調布市布田2―2―6調布マンション103 TEL0424-87-1714/FAX0424-81-9770
▼アジア太平洋資料センター/花崎TEL03-3291-5901 /FAX03-3292-2437
▼大野和興 TEL/FAX0494-25-4781
▼協同センター・労働情報 TEL03-3288-2193/FAX03-3288-3809
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