新型肺炎問題をどう考えるべきか

すべての人に適切な医療・住まい・食事を
医療労働の現場から考える

 連日の報道のトップを占めているのは「コロナウイルス」による新型肺炎についてのニュースである。中国から始まった感染症は、今や最大の社会問題として多くの人びとの不安の的になっている。私たちは、この問題にどのように対処すべきなのか。医療現場で働く仲間からの意見を掲載する。(本紙編集部)

はじめに

 連日コロナウイルスによる新型肺炎の報道がマスコミをにぎわせている。これまでの経過で明らかになっているのは、確かに新型肺炎は糖尿病など基礎疾患を持つ人には脅威になるかもしれないが、万人に脅威になるようなものではないということである。したがってマスコミの脅威を煽るような報道を批判する必要がある。そして、これを好機ととらえて政府が出してくる可能性のある、例えば感染拡大防止のためには人権の制限もやむを得ない、緊急事態条項が必要だといった議論を批判していかなければならない。

惨事便乗政治許すな


マスコミが煽っているが、コロナウイルスによる新型肺炎は惨事をもたらすような流行にはなっていないし、なる可能性は極めて低い。症状のない人が検査で陽性になったことに明らかなように、感染しても健康状態が良好なら発症しない、その程度の毒性しかないということである。それにも関わらず、検査から漏れた人がウイルスをまき散らすかのような報道がされている。一方でパンデミックのような惨事を待ち望んでいるかのような人々がいる。
この間、自民党や日本維新の会の一部国会議員から「改憲による緊急事態条項が必要」などの発言が続いている。惨事を前に人々が呆然となっているときに一気に新自由主義的政策を強行することをジャーナリストのナオミ・クラインは惨事便乗型資本主義と呼んだが、今回の新型肺炎を前にして同様の動きが自民党や日本維新の会の一部国会議員に見られる。惨事便乗型政治である。今回の新型肺炎は惨事にはなりえないだろうが、人々の不安に付け込むという点では同じである。とりわけ悪質なのが伊吹文明元衆院議長の「緊急事態に個人の権限をどう制限するか。憲法改正の大きな実験台と考えた方がいいかもしれない」という発言である。新型肺炎への対応は現行法で十分可能である。政府が緊急に行わなければならないのは緊急事態条項を検討することではなく、すべての人に医療を保障すること、この間政府が行ってきた医療へのアクセスを制限することにより医療費を抑制する方針を転換することである。このような、やるべきことをやらず、人々の不安に付け込む惨事便乗型政治を許してはならない。

医療費抑制の転換を


今回の新型肺炎は惨事をもたらすようなパンデミックにはならないだろうが、今後もこのような新たな感染症が度々発生し国境を越えて拡大することは確実である。
そのような感染症の中には、今回の新型肺炎と異なり感染した多くの人が重症化する可能性もある。
そこで重要なのは地域医療の充実である。なぜなら地域に十分な医療資源がなく患者や感染を懸念する人たちが遠く離れた基幹病院まで移動を強いられ感染を拡大することになるからだ。その時には大都市の基幹病院に多くの人が殺到し病院は機能不全に陥るだろう。これは私たちが連日のTVで繰り返し見せられている映像だ。このような事態を招かないためにも、政府は地域医療を支える公的・公立病院の統廃合リストを撤回し地域医療の整備を早急に行う必要がある。
同時にすべての人が医療にアクセスできる体制を整備する必要がある。日本は国民皆保険制度のはずだが、あまりにも高すぎる国保料金のため無保険になっている人が多数おり、国はその数すら把握しようとしていない。またオーバーステイなどで保険証を持たない在日外国人なども含めて、医療にアクセスできない住民を皆無にしておかなければ感染症を克服することはできない。

地域医療の整備を

 地域医療の整備とは、単に施設を整備することだけにとどまらない。医療労働者を確保しなければ医療は提供できない。現在、日本の医療労働者の労働環境は劣悪である。
二月六日に日本労働弁護団が「無給医」問題の解決を厚生労働省に申し入れたことに象徴されるように医師の労働環境は劣悪である。無給医といって日本の大学病院では、未だに医師を労働者として扱わず無給、あるいは最賃以下の賃金で働かせているのである。また勤務医も働き方改革による時間外労働の上限規制適応が五年間先送りにされていることに明らかなように日常的に長時間労働にさらされている。
看護師も労働条件の過酷さから離職率が一七%と高く、一般女性労働者の離職率が一四%、公的・公立病院では慢性的な欠員状態になっている。このような疲弊した医療現場では、新たな感染症に立ち向かうことは困難だ。医療現場の労働条件改善が急務である。とりわけ深刻な医師不足を解決する必要がある。

ヘイトクライムを防げ


惨事便乗型政治と共に今回の新型肺炎を巡り私たちが注意しなければいけないのはヘイトクライムの発生である。今回、一部のメディアが、中国人すべてが感染者のような報道を行った。私たちはこのようなヘイトクライムを誘発する可能性のある報道に対して厳しく批判していかなければならない。現在日本には労働者・留学生など多数の中国人が暮らしている。現状では、危機を煽る報道の下で、それら労働者・学生が公共機関から締め出されるようなことが起こりかねない。
何しろ首都圏は明日にでも直下型地震に襲われるかもしれない。現状では、避難所からの締め出しなどが生じかねない。在留中国人の人々は命の危険を感じながらの暮らしだろう。このような中、小池都知事は東京マラソンへエントリーしていた中国在住ランナー一八〇〇人への参加自粛を要請したことを発表した。何ら条件も付けず一律中国在住者の参加を規制することは、感染予防対策には全く寄与しないばかりか、ヘイトを煽る可能性があり、無意味で危険な政策である。

貧困と過労を
なくす闘いへ
社会が感染症を克服するためには、前々号(2月3日)でも指摘したが、予防に最も重要なのは栄養と休養である。現在日本では生活保護以下の暮らしをしている世帯が一四六万世帯もある。夏休みで給食がないと子どもがやせてしまうというような社会になってしまっている。また長時間労働により日本人の睡眠時間は減り続けている。このような社会の在り方を変革していくこと抜きに、次々に発生するだろう新たな感染症を克服することはできない。私たちは、惨事便乗型政治を許さず、それらに対し本来政府が行わなくてはならない政策を対峙させていかなければならない。改憲よりも、すべての人に、医療を、食事を、住まいを!
(矢野 薫)

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