前面にワクチン・アパルトヘイト
かけはし 第2654号 2021年2月22日
ワクチン パンデミック対処の中
医療のあり方に根源的問いかけ
シャロン・ラーナー
ボランティア
に感謝しても
ファイザー社のアルバート・ブーラ最高経営責任者(CEO)は最近、「私たちの試験に参加するために無欲で手を挙げてくれた4万4000人近い人々」を称賛した。
ブーラは、アルゼンチン、南アフリカ、ブラジル、ドイツ、トルコ、米国で実施されたファイザー社の新型コロナウイルスのワクチン研究に参加したボランティアに宛てた公開書簡の中で、「あなた方一人一人が、この壊滅的なパンデミックと戦う可能性を秘めたワクチンという私たちの共通の目標に、世界を一歩近づけるために貢献してくれた」と書いた。彼の書簡は11月9日に発表された。その同じ日に、ファイザーはそのワクチンが90%以上の予防効果があると発表した。ブーラはこの大きな成果を医療ボランティアに捧げたのだ。「あなた方は真の英雄であり、全世界はあなた方に多大な感謝の念を抱いている」と。
しかし、アルゼンチン、南アフリカ、ブラジル、トルコは、ファイザーの感謝の気持ちで満足しなければならないだろう。というのは、(世界のほとんどの国と同様に)国民に接種するのに十分なワクチンを受け取れないだろうからである。
一方、米国とドイツは、カナダや欧州連合(EU)の他の国々とともに、自国民に何回も接種するのに十分な量のさまざまな新型コロナウイルスワクチンを契約済みである。米国はワクチンの投入計画に苦労している――これまでのところ一回目の接種を受けたのは300万人未満にとどまっている――が、十分な供給量が最終的には利用可能になるはずである。米国は[昨年]夏にファイザーのワクチンを19億5000万ドルで1億回投与分を事前購入した(そしてさらに1億回投与分を確保する機会を逃したと報じられている)。
先週、保健福祉省は、2021年7月までにさらに1億回投与分のワクチンを購入する契約を発表し、政府はさらに4億回投与分を購入するオプションを持っている。米国はまた、新型コロナウイルスに対して非常に有効なモデナ社のワクチンの2億回投与分をも購入している。これらのワクチンは2021年の第2四半期までに接種が予定されており、政府はさらに3億回投与分まで購入する可能性がある。また、米国ではオロギー、サノフィ、ノババックス、ジョンソン&ジョンソンと追加のワクチンを契約しており、これらの製薬会社は開発の初期段階にある。
ワクチン開発は
途上諸国に依存
製薬会社や経営陣は、すでに薬品開発で大儲けしている。公開書簡を送った同じ日に、ブーラ(彼の純資産は2600万ドル以上と推定される)は、ファイザー社の株式を500万ドル以上売却した。モルガン・スタンレーによると、ファイザー社は今年すでにワクチンで推定9億7500万ドルの収益を上げており、2021年にはさらに190億ドルの収益を上げると予想されている。ファイザー社のワクチンの利益率は60~80%と見積もられている。モデナ社は来年、そのワクチンで100億ドル以上の収益を上げると予測されている。
欧州連合は、英国と米国がすでに数万本のワクチンを投与しており、中国とロシアが独自のワクチン開発を開始しているため、ワクチンの承認を求める強い圧力に直面している。欧州連合は、2020年末までにファイザー・バイオンテック社製ワクチンの接種を開始する予定である。
新型コロナウイルスワクチンがもたらす売上高が1000億ドルと推定されていることは、明らかに製薬会社がワクチン研究に惹かれる理由の一部であった。その研究に参加した人々にとっては、計算式は異なっている。発展途上国では「医療を受けておらず、必死になって医療を受けようとしている人々がいて、医薬品研究にわらをもつかむ気持ちになっている」と医療倫理学者・著述家のハリエット・ワシントンは述べている。
ワシントンによると、その懸命な気持ちは、製薬会社があまり裕福でない国で大多数の研究をしている理由の一部に過ぎない。彼女は、製薬会社がこれらの国に引き寄せられる理由として、それに付け加えて、相対的に見て監督がおこなわれていないことや運営コストがより低いことを指摘している。南アフリカ、アルゼンチン、ブラジル、トルコの新型コロナウイルスワクチン研究参加者は「米国やドイツの人々よりも安いお金で働くだろう」と彼女は言う。
このことが生み出す倫理的な問題は、開発途上国の人々がその開発を可能にするリスクを不釣り合いなほど負担しているにもかかわらず、開発された医薬品へのアクセスはより少ないということだが、それはコロナウイルスのパンデミックよりもずっと以前から起きている。ワシントンは「どのような流行でも本質的な不公平が繰り返されている。これは一貫したパターンであり、さかのぼってみればどの時代にもある」と述べている。
明らかな差別下
のワクチン確保
医薬品研究に参加しているかどうかにかかわらず、中低所得国の人々は、救命のために開発された医薬品にアクセスできないことが多く、価格が手の届かない場合もある。C型肝炎治療薬ソフォスブビルの特許を保有するジレアド社は、このような状況がいかに致命的なものであるかを明確かつ悲劇的に示している。2019年6月の時点で、ブラジルで同社の救命薬を必要としていた人々は、およそ7人に1人しか入手できていなかった。非営利団体「メイク・メドソン・アフォーダブル」によると、ブラジルだけでも数千人が治療可能な病気で死亡している。多くの薬が最終的には利用可能になるが、発展途上国の人々にとっては薬へのアクセスはしばしば遅れている。それはHIV救命薬の事例でも同様で、世界中の約1500万人の感染者はいまだに利用できないでいる。いくつかの貧困国では、使用できるようになったのは、より富裕な国で使用されてから10年以上たってからのことだった。
「新薬であれ医療機器であれ、世界のほとんどすべての介入において遅れが生じている」とデューク大学グローバルヘルス・イノベーションセンターの創設ディレクターであるクリシュナ・ウダヤクマル博士は述べる。「低所得国や中所得国には、製品が市場に届くほどの資金がない」。その結果、世界の多くの国では、開発された救命薬へのアクセスが援助国からの資金提供に依存していることが多く、「それは常に必要な額よりも少ない」と彼は言う。
新型コロナウイルスワクチンへのアクセスの遅れがもたらす致命的な結果は、来年には明らかになるだろう。2021年に世界でワクチンを接種される人の数は、可能性のある他のワクチン候補が成功しているかどうか、さらに接種を1回にするか2回にするかに部分的には左右されるだろう。しかし、大多数の国では十分な量が得られず、富裕国ではワクチンの供給をため込んでいることがすでに明らかになっている。
ワクチンへの公平なアクセスを確保するための国際的なとりくみである「COVAX」は、官民連携によるGAVIワクチンアライアンスによって運営されており、2021年末までに参加国の人口の20%にワクチンを提供することを目標としている。しかし、最良のシナリオであっても、この目標は人口の大部分がワクチン接種されないことを意味し、同グループのウェブサイトで明らかにされているように、それは「資金調達が可能かどうかにかかっている」。
国際的な医療活動家の中には、GAVIに不満を抱いている人もいる。「英国で最初のワクチン接種がおこなわれたまさにその日に、発展途上国でもワクチン接種が始められるべきだった。発展途上国で、いつになったらそのような接種が期待できるのか、全く予測できない」と国境なき医師団のワクチン政策シニアアドバイザーであるケイト・エルダーは述べている。
エルダーは、平等なアクセスを提供するという謳い文句にもかかわらず、国際的なワクチン配布の努力は力と富の世界的な不均衡によって妨げられていると指摘した。「GAVIは決してワクチンナショナリズムを叫ぶことはないだろう。その最大の援助国――たとえば英国政府――が、GAVI理事会でもっとも力を持つメンバーだからだ」と彼女は言う。
達成すべきは
ノウハウ公開
世界銀行はワクチン配布のために追加の援助を提供しているが、それは融資という形態をとっていて、貧困国はそれを返済する必要がある。遅延の結果、低所得国の多くの人々が2023年か24年までワクチン接種を受けられず、いまだかつてない数の死者が出ることになるだろう。
「パブリック・シチズン」の法律・政策研究者であるザイン・リズヴィは、「私たちは世界的なワクチンのアパルトヘイトに直面している」と述べ、ワクチンへのアクセスの遅れは「悲惨なものになるだろう」と予測している。
「パブリック・シチズン」は、米国がワクチンへのアクセスを拡大するためのいくつかの方法を提案している。一方、ケニア、インド、南アフリカは、ワクチンを含むコロナウイルス関連製品の知的財産権の一部を放棄する措置を世界貿易機関(WTO)に提案した。この提案は99カ国の支持を得たが、米国、EU加盟国、日本、英国、オーストラリアなどの富裕国の反対によっていまだに成立していない。
しかし、特許の放棄はワクチンへの世界的なアクセスを確保するための第一歩に過ぎない。非営利のアドボカシー団体「ナレッジ・エコロジー・インターナショナル」を率いるジェームズ・ラブは、「短期的には特許権よりもノウハウの方が大きな問題だ」と語る。ラブは、連邦政府から資金提供を受けているワクチンメーカーであるモデナ社がすでにワクチンの特許を行使しないと約束していることを指摘する。「しかし、彼らがどのようにしてワクチンを作ったのかがわからない限り、まだワクチンを作ることはできない」とラブは言う。「ノウハウを持っている人たちにノウハウを共有するよう強制する必要がある。クソみたいなパンデミックなんだから」。
米国政府とワクチン製造のために米国政府が資金を提供した企業は、パンデミックの終息に向けてすでに評価を得ているが、ラブはそのサクセスストーリーに大きな穴があることを指摘している。すなわち、納税者は世界的なアクセスを制限する取引に税金を支払うことになるからである。
「一部の人たちは、これは大成功だと言うだろう。しかし、実際には政府はわれわれの金を取り上げて、それを企業に渡し、ひどい契約書を書いたことによって、われわれが金を出した発明品に対して、われわれはほとんど権利を持たないということになっている」とラブは言う。
ラブによれば、この問題は完全に回避可能だったという。「政府はそれぞれの契約にノウハウの共有を義務付けることができたのだから、ワクチンが臨床試験に入ったらすぐに技術移転を開始することができたはずだ。しかし、それは実現しなかった。そして、こうした情報暴露の結果の一つは、ワクチンへのアクセスが遅れているとして発展途上国を非難していることである」。
トランプ政権は製薬業界に特に寛大で、契約の一部から標準的な保護措置を削除し、パンデミックと戦うために資源をプールしようとする国際的なとりくみを回避してきた。しかし、米国が軌道修正するのに遅すぎるということはない。
「バイデン次期大統領はそれを変える力を持っている」と「パブリックシチズン」のリズヴィは言う。「彼はもっと大きなことを考え、ワクチンの製造方法を共有し、ワクチンの供給を迅速に拡大するために、生産・製造能力の増強を支援することができる」。
ワシントンによると、何年も自国へはワクチンの供給がないかもしれない国で、新型コロナウイルスワクチンの研究をおこなうことによって提起された倫理的ジレンマも修正可能だという。彼女によれば「不公平に対処するのは簡単だ。途上国の人々を他の誰とも同じように扱えばいいだけ」だからである。
2020年12月31日
(『インターナショナル・ビューポイント』2021年1月8日、もともとはアメリカのインターネットメディアである『インターセプト』に昨年末に掲載された)(シャロン・ラーナーは、医療・環境問題を担当する『インターセプト』の調査レポーター)
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