ロシア10月革命90周年にあたって(下)

グローバル資本主義の現実と新しい社会主義革命の可能性

社会生活の全領域の商品化

 二十一世紀に入ってわれわれが直面している世界の現実は、新自由主義的なグローバル資本主義の制覇と、先制的な「対テロ」戦争の拡大による暴力の泥沼的連鎖である。ソ連・東欧のスターリニスト官僚独裁体制崩壊=米ソの二極的対立構造の終焉によるアメリカ帝国主義の唯一のグローバル覇権国家としての登場が、今日の世界のあり方を規定している。
 サッチャー元英首相が「オルタナティブなど存在しない」と語った「ワシントン・コンセンサス」に示される新自由主義的グローバリゼーションは、アメリカの超国籍企業のイニシアティブによる世界の隅々、人間生活と自然のすべての領域にわたる市場化と商品化であり、市場競争の一元的原理による、国家的・社会的規制の「緩和」と民営化の強制、多国籍資本の収奪と搾取のための市場「開放」である。
 強制された債務の返済の圧力の中で債務国に課された「構造調整政策」は住民への教育・医療・住宅などの補助金支出を切り捨て、私的企業と市場の論理に委ねる。第三世界諸国における医療品、種子などの独自の工夫・技術とその低価格での開発は「知的所有権」を口実にして禁止される。「輸出用作物」に特化したモノカルチャーの強制により、自然環境は破壊され、農民は世界市場の下での商品価格の暴落に翻弄される。その結果として、貧しい人びとの最低限の生活の維持までも不可能になり、住民はそれまでの労働と生活の基盤を奪われ、離散・流浪を余儀なくされる。
 全世界の飢餓人口は、第三世界を中心に今や八億五千万人に達している。しかもこの絶対的貧困は一九九〇年以後さらに加速度的に拡大しており、エイズに加えてマラリア、結核などの「古典的」疾病が猛威を振るっている。その最大の被害者は女性と子どもたちである。環境破壊による地球温暖化の影響は、干ばつなどを通じて、飢餓、疾病を蔓延させ絶対的貧困化を加速させている。
 「北」の先進資本主義諸国と「南」の「第三世界」との格差が広がる一方で、ごく少数の富裕層と圧倒的な貧困層との格差は、「南」の問題だけではなく全地球的規模でも広がった。
 新自由主義的なグローバル資本主義の民営化と規制緩和プランは、「先進資本主義諸国」においても「福祉国家」的な規制を撤廃させ、労働者や市民が営々たる闘いの中で築き上げてきた賃金・雇用・労働条件や、年金・教育・住宅・医療などの権利としての社会保障を解体してきた。労働者や中小企業経営者、農民は、「弱肉強食」の市場原理による「底辺への競争」にさらされている。その最大の被害者はここでも女性、高齢者、青年・子どもである。まさに「生存」それ自身が困難なほどの「貧困」の問題が全世界を覆っている。
 そして金融資本の国境を超えた投機活動の展開は、グローバルな市場の不安定さを恒常的なものにし、労働者・市民の生存の危機に深刻な影響を与えている。一九七〇年には貿易と国際投資の約二倍にすぎなかった為替取引総額は、アジア通貨危機がロシア、ブラジルなどに波及した一九九八年には貿易と国際投資の五十倍にも達した。アメリカのサブプライムローン問題に端を発した世界同時株安の連続的波及は、グローバル資本主義の下での金融市場の不安定さを改めて印象づけた。その中で、「貯蓄から投資」へのかけ声により、一般の人びとのささやかな貯蓄も、金融資本の投機資金として収奪の対象にさらされている。

「バーバリズム」の衝突

 資本の新自由主義的グローバリゼーションは、米帝国主義のグローバルな覇権のための先制的な戦争の論理と表裏一体の関係にある。超国籍資本の支配は、それを支える帝国主義国家権力、とりわけ米帝国主義の主導する「世界秩序」によってこそ支えられている。
 超国籍企業の支配は帝国主義国家の「階級権力」の強化、トップダウン的な階層的支配の再確立と強権化に裏打ちされており、この国際的・国内的な支配の再編成と確立は、「秩序」を脅かすと想定された勢力を軍事的に排除・絶滅する力学を解き放つ。資本の新自由主義的支配は、民主主義・自由と人権への攻撃、先制的戦争の論理と不可分なのである。
 「アメリカン・スタンダード」の市場競争原理は、米国の支配階級の「自由と民主主義」の理念を全世界に普遍化して強制していくことが米国の「天命」だとする「アメリカニズム」に支えられており、その最も露骨な体現者こそジョージ・W・ブッシュ大統領の体制であった。
 二〇〇一年の「9・11」同時テロを契機にしたブッシュの「対テロ戦争」は、アフガニスタンからイラクへと侵略戦争を拡大するとともに、その必然的な泥沼と破綻に直面することになった。占領が継続しているアフガニスタンとイラクでは、数十万人に上る住民が殺戮され、数百万人の人びとが「難民」として離散させられた。米軍の侵略は、「テロリスト」に擬された多くの人びとへの戦時国際法や国際人道法を無視した虐殺・拷問・人権じゅうりんを蔓延させた。アブグレイブ、グアンタナモの収容所における米軍の犯罪はそのことを端的に物語っている。
 新自由主義的グローバリゼーションを背景にした「テロとの闘い」は、テロリズムと戦争の論理を地球全体に拡大し、アメリカ帝国主義は「永続的戦争国家」としての道をさらに突き進んでいる。アメリカ帝国主義は東アフリカ、中東、南アジアから東アジアへと至る「不安定の弧」に焦点を定めたグローバルな「対テロ戦争」に駆り立てられている。そしてその最前線に動員されようとしているのが日本帝国主義であり、日本の自衛隊はアメリカの軍事戦略に従属しつつ、その前線に登場させられようとしている。米軍再編から憲法改悪へと通じる道筋は、この新しい「世界戦争」に対応したものであることは言うまでもない。
 ソ連・東欧のスターリニスト体制の崩壊によってもたらされたものは「歴史の終焉」ではなかった。それは、二十世紀の歴史を逆行させた、金融的投機を背景にむきだしの搾取と収奪が横行する資本主義の新たな段階であり、それをめぐってさまざまな衣装をつけた宗教的・民族的原理主義の衝突が浮上する「バーバリズムの衝突」とも言うべき反動であった。

WSFプロセスの展開

 他方、このグローバル資本主義と新しい戦争に対決する労働者・市民の運動が、国境を超えて大規模に登場してきた。一九九九年十一月~十二月にシアトルで開催されたWTO閣僚会議を流会に追い込んだ「もう一つの世界」をめざすグローバル・ジャスティス運動(反グローバリゼーション運動)の登場は、二〇〇一年から開催された世界社会フォーラム(WSF)プロセスへとつながった。
 「世界社会フォーラム」は新自由主義的グローバル化に対する労働者、市民、農民、都市貧困階層、専従民族、女性、性的マイノリティーらの独自の抵抗運動をネットワーク的に結びつけ、交流と討論のスペースを生み出し、「もう一つの世界」へのプロジェクトを運動自身の中から浮かび上がらせるダイナミズムを登場させた。イラク侵略戦争を目前にした二〇〇三年二月十五日には、全世界で一千万人を超える人びとが反戦デモで街頭を埋めつくし、「もう一つのスーパーパワー」と称されるほどの力を印象づけた。
 新自由主義と戦争に対する闘いの力学は、当然にも全世界で異なった現れ方をしており、その社会的浸透度も各国の条件に規定されきわめて不均等である。そして「もうひとつの世界」というスローガンは、今日のあからさまな新自由主義的市場原理主義とブッシュの「対テロ」戦争の論理を批判するものだとはいえ、明確な「反資本主義」戦略へと凝縮されているわけではない。しかし分散していた社会運動の合流が開始されたという事実そのものが重要なのであり、われわれはこの「諸闘争の合流」のダイナミズムをどのように発展させていくのか、というところに意識的な焦点を据える必要がある。
 二〇〇三年にに開催された第四インターナショナル第15回世界大会は、この合流のプロセスを強化する「綱領的基軸」を以下のように設定した。
 「(1)今日の資本主義の新しい特徴である不平等と貧困の増大に抗して、社会的平等という目標が再確認されなければならない。男性と女性の平等がこの領域における試金石になる。最低賃金をはじめとする普遍的権利の保証が、すべての社会的進歩が依拠しなければならない現実的土台である」。
 「(2)世界経済は合理的な基礎のうえで再編成されなければならない。自由貿易の無条件の追求をやめ、各国が世界経済への参加を自ら決定し、地域的協力を組織する権利を再確認しなければならない。債務――その数倍の値がすでに支払われている――は帳消しにされなければならず、他方、帝国主義諸国は持続可能な発展のために必要な技術の移転を通じてエコロジー上の債務を弁済しなければならない」。
 「(3)……資本主義は技術進歩の潜在的可能性を自己の目的のために利用し、重要な社会的選択やエコロジー上の選択を狭苦しい収益性に従属させる。そうではなく、生産性の新たな向上は社会化された形で再利用されるべきである。週労働時間の短縮が、新たな完全雇用への復帰、余暇時間の拡充、そして生産効率主義を排する発展への転換のための最も簡単な方法である。社会的保護の拡大と実際に利用する人々と密接に結びついたメカニズムによる公共サービスの管理が、非市場的な方法で社会的必要性に応える手段である」。
 「(4)資本主義の生産組織と勝手気ままな金融部門は、技術進歩を社会的ならびにエコロジー的惨禍にする。別の基準と他の志向性が、市場の自然発生的な機能を統制しなければならない。しかし、それは所有の問題を提起することになるし、現在、この問題を人々の現実の経験にもとづいて具体的に取り上げることができる」(『社会主義へ、新しい挑戦 第四インターナショナル第15回世界大会報告決定集』)。
 グローバル・ジャスティス運動の中に内在する、「もうひとつの世界」をめざすこうした闘いの基盤を意識的に発展させていくことは、「反資本主義」=オルタナティブな社会主義のための綱領を作り上げていく作業でもある。新資本主義と「対テロ」グローバル戦争が人類と地球にもたらす破壊作用(バーバリズム=文明破壊)への抵抗の論理は、二十世紀の幕開けにローザ・ルクセンブルクやトロツキーなどが提起した「社会主義かバーバリズムか」のスローガンを再度現実化させている。
 軍事的独裁と新自由主義とが結びついた悲劇を、いち早く経験したラテンアメリカにおいては、労働者、土地を持たない農民、都市スラムの住民、先住民族などの抵抗の拡大を土台にして、左派政権が相次いで登場した。ベネズエラのチャベス政権は、自らの革命過程を十九世紀の独立運動の指導者シモン・ボリバールの名をとってボリバール主義運動と称した。ベネズエラ、ボリビア、エクアドルへと広がるこの「ボリバール主義」運動の中で、チャベスは自らの目標を「二十一世紀の社会主義」と提示した。
 ここには、一方ではトップダウンの権威主義、他方では新自由主義の国際的圧力に飲み込まれる危険性が含まれていることも事実である。しかし、とりわけ先進資本主義国の労働者階級の間では徹底的に信頼性を喪失してきた「希望」としての「社会主義」に向かう萌芽も登場している。
 この「萌芽」を若木へと成長させていくための闘いは、まさに国際的な規模で、そしてわれわれ自身の任務として、「スターリニズムの負の遺産」を克服していく闘いと一体のものである。「民主主義・人権・公正」について曇りなく明確な社会こそ、そのための最低限の条件となるだろう。

反資本主義左翼の形成へ

 日本では、小泉政権の新自由主義的「構造改革」路線を通じた民営化・「規制緩和」の諸結果や、改憲・「戦争国家」化、社会的差別、環境破壊に対するさまざまな抵抗が、ようやく具体的な形を取って現れ始めている。七月参院選の結果は、民主党の大勝という形でそれが表現された。「格差社会」と「絶対的貧困」がメディアの注目を集め、無権利・低賃金の「ワーキング・プワー」問題への取り組みが現実の運動として開始された。
 しかし同時に、「社会主義」や「革命」という言葉は、労働運動や社会運動の中においても依然として遠ざけられた存在である。共産党や社民党から「新左翼」に至る「左派」勢力の衰退は、動かしがたい現実である。
 われわれは一方で、いまだささやかなものではあれ具体的な表現をとった新自由主義的グローバリゼーションの無慈悲な結果や、改憲・「戦争国家」体制に対する批判と抵抗に内在して、その運動としての発展に全力を傾注すると共に「反資本主義オルタナティブ」のためのイデオロギー的な闘いを強化していかなければならない。その闘いには、徹底した国際主義的な視点が必要とされる。
 「反資本主義的オルタナティブ」=「新しい社会主義」のための闘いは、グローバル資本主義のシステムに風穴をあけ、その転換をめざす「革命」によってこそ勝利する。われわれが現代における「革命」を問題とする時、長期にわたる一つひとつの制度的改良、労働者・市民の生活と労働現場での自治能力の獲得、メディアや学校などのイデオロギー的変革――総じて民主主義と人権と公正を社会の全領域において拡大し、環境破壊を食い止め、「平和」を作りだすための闘いを通じた社会的連帯のプロセスを必要とする。しかし「革命」は、資本主義の政治・経済・社会的システムからの「飛躍」と「断絶」であり、その「飛躍」と「断絶」は、労働者・市民の真に大衆的な動員の圧力なしには成立しえない。
 「断絶」と「飛躍」のダイナミズムは、必然的に「国家権力」の問題を提起する。「権力」の組織化・行使とその統制という難問を回避して社会変革を語ることは不可能である。
 そしてそこにおいてこそ、トロツキーの言う「ピストンつきのシリンダー」としての「指導組織」の問題が必然的に提起される。この「指導組織」としての「党」は、まさに「前衛」としての役割を果たさなければならないのである。
 われわれはこの間、反資本主義的左翼潮流の建設に向けた新しい左翼統合という課題を提起してきた。今日の「党」の問題は、国際的な革命運動の歴史に発するイデオロギー的相違を超えた共同の努力を必要とするからである。この点においてわれわれはあらゆるセクト主義を克服した誠実な挑戦を引き受けなければならない。
 ロシア革命の総括と教訓の継承をめぐる見解の相違は、当然にもこうした複数主義的な新しい社会主義左翼の創出にとって障害となるものではない。しかし、ロシア革命の教訓の検証と現代的継承は、「二十一世紀の社会主義」にとって小さくない意義を有していることをわれわれは確信している。   (平井純一)

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