社会的連帯の力で生活保障実現させよう
かけはし 第2649号 2021年1月18日
労働者・市民の命を奪う二つの危機
自公政権は感染を押さえ込むことはできない
生命の危機が迫る
命の危機が迫っている。原因は二つある。一つは感染爆発による医療崩壊。そしてもう一つは感染拡大と緊急事態宣言による経済活動の収縮。危機を回避するためには、医療に対するテコ入れと迅速で手厚い補償が急務である。
しかし、そのような政策は全く出てはこない。出てくるのは、看護大学に学ぶ院生を医療現場に派遣要請するとか、営業時間短縮に応じない店舗名を公表する、入院に応じない感染者に対して罰則を科すなど実効性がなく社会の亀裂をより深めるようなものばかりである。
進行する医療崩壊
静かに医療崩壊が始まっている。東京では1月10日現在、感染が判明しながら入院・ホテル療養を待っている人が6930人にも上っている。感染の急拡大に伴い、療養先を調整する保健所がパンクしてしまったこと、ホテル・病床の確保が追い付かないことが原因だ。
新型コロナウイルス感染症は発症後10日ほどで急激に悪化することがある。自宅で療養していた感染者が急激な症状悪化で救急要請を行うケースも多発している。このままでは、医療につながることなく、また入院できても治療が間に合わず命を落とす人が多数出るだろう。政府は入院を拒否した人に罰則を科すことを検討しているが、入院したくてもできない人が巷にあふれているのが現実である。入院・療養先の確保に全力を尽くすのがまず政府のやるべきことである。
感染の急拡大は一般医療へも影響を及ぼしている。東京では、すでにコロナ患者受け入れのために緊急手術以外を制限する、心筋梗塞や脳血管疾患の急患を受け入れられない事態が発生している。
1月5日に発表された日本脳卒中学会の声明によると、12月14日の段階で「何らかの診療制限がかかっている施設が 18・3%であり、13施設は救急応需を 停止せざるを得ない状態でした。今回は関西地区で影響が大きい状況です」と深刻な状況を報告している。
12月の調査のために、医療崩壊に至った大阪の影響が強く出ているが、1月現在、全国が同様の状態になっていることは想像に難くない。大阪がいち早く医療崩壊に至ったのは維新府政が、府立病院の地方独立行政法人化などで地域医療や、保健所の統廃合を強行し公衆衛生の基盤をそれぞれ破壊してきたからに他ならない。
昨年12月、自宅や屋外で亡くなり警察が対応した事案のうち新型コロナウイルスの感染が確認された死者が全国で56人いたことが発表された。いわば医療につながることができず命を落としたわけで、医療だけでなく保健所や福祉事務所など地域住民へのケアシステムの総合的な破たん度を知ることができる。その数は東京36人、大阪が25人だが、人口当たりの死者数は大阪の方が多い。
同じく昨年12月の新型コロナウイルスによる死者数は東京138人に対し大阪259人、それぞれ12月の感染者は1万9245人と9726人である。単純な比較はできないが大阪のコロナの死亡率は東京の4倍である。パフォーマンスで感染を防ぐことはできない。維新の失政の責任は厳しく追及されなければならない。
医療崩壊に対して今からどのような対策を取ることができるのだろうか。建物や医療機器は何とかなるかもしれないが、そこで働く医療従事者はすぐに養成することなどはできない。しかし現場では看護師の退職に歯止めがかからない。
医療崩壊した大阪でもコロナ専門病院となった十三病院などで退職者が相次いだ。だからこそ退職に歯止めがかかるように待遇を大幅に改善する必要がある。国は新型コロナウイルス感染症受け入れ病院に対して診療報酬の加算を行っている。
しかしこれは、病院の収入を増やすものであり労働者の処遇を改善するものではない。コロナ対応にかかわらずすべての医療労働者の賃金を直接上げることが必要である。しかし、実際には真逆の事態となっている。コロナ対応などにより多くの医療機関が減収になり医療従事者の労働条件を切り下げざるを得ない状況に追い込まれている。
国は新型コロナウイルス感染症患者に対応する労働者に一日当たり4000円の手当を支給していたが、地方自治体では3000円に切り下げられ、民間医療機関に至っては支払われてさえいない。家族への感染を心配しながら働く医師や看護師の冬のボーナスを削減しているのを政府は傍観しているのだから、医療崩壊を後押ししているのと同じである。
「医療崩壊をくい止めるために医療労働者の処遇改善を」が、すべての労働組合の政府への統一した要求にならなければならない。
実効性ない緊急事態宣言
1月7日に発令された緊急事態宣言の実態は「夜の宴会禁止令」でしかない。秋以降、過半数が感染経路不明になっている。またクラスターが発生しているのは病院、介護施設、家庭内である。すでに新型コロナウイルスの感染は市中に広がってしまっており、飲食店だけを、しかも夜間だけ営業制限しても効果は極めて限定される。しかし飲食店には多くの労働者が雇用されており、飲食店に食材やおしぼり等を卸している企業などすそ野は広い。
したがって今回の緊急事態宣言は労働者の暮らしを破壊する副作用ばかりが大きく、感染を抑え込む効果が出ない可能性が大きい。新型コロナウイルスに対する特効薬がない現在、感染を抑え込むには人の動きを止めるしか手段はない。十分な補償とセットである程度人の動きを止めないと、菅が言うように1カ月程度では到底感染拡大は抑えられないだろう。
このように政府の対策が的外れなものになるのは、クラスター対策に偏向して大規模なPCR検査を行ってこなかったからである。感染がどのように広がってきたのかをクラスター分析で明らかにしようとしてきた。この方法は感染がゆっくりと拡大していく結核に対して行われてきたもので、急速に拡大していく新型コロナウイルスには無効だった。神奈川では、すでに家族以外の濃厚接触者の追跡を中止している。大規模PCR検査の実施を政府に求めていかなければならない。
年末年始に労働組合や支援団体によって取り組まれた生活相談活動によって、貧困の広がりが明らかになった。数百円の所持金しかない状態でようやく支援団体にたどり着いたケースなどが多数報告されている。現在の不十分な補償と中途半端な時短要請では貧困に突き落とされ生存権を奪われ自殺や餓死する労働者が多数発生してしまう。
例えば夜のシフトがなくなり減収になった労働者等、個人へ直接的な援助が可能になる制度の構築が求められている。しかしまずは、労働していても収入が生活保護基準を下回った場合、政府に生活保護を申請する権利があることを大々的にキャンペーンすることが必要である。自民党が繰り返してきた生活保護バッシングが社会に生活保護を忌避する空気をつくりだし、コロナ禍の今、人命を奪うような事態に陥っている。
そして新たな失業者を生み出さないためにも、労働組合の反失業闘争、雇用の補償と最低賃金の引上げが必要である。また反貧困闘争として消費税減税、財源確保のための富裕層への課税強化が必要である。そしてオリンピックを直ちに中止し、オリンピック関連の予算を医療に回すことを要求しよう。同時に軍事費の削減を要求しよう。
「反資本主義」の実践へ
深刻な貧困の広がりを前にしてベーシックインカム論が注目を集めている。ベーシックインカムは月に7万円ほどの給付で、医療や福祉に対する政府の責任を免除する制度である。
コロナ禍が明らかにしたのは、この資本主義社会では命を守る医療も商品であり、労働者は自らの労働力を商品として売ることができなければ、医療をはじめ自らの生存に必要な一切を手に入れることができないということだ。感染爆発はこの社会の医療・福祉という資本主義社会において最も脆弱な部分に深いダメージを与えた。
社会を分断することで統治してきた自公政権には新型コロナウイルス感染症を抑え込むことはできないだろう。社会的連帯による労働者の組織された自粛と生活保障、医療・公共サービスの充実こそが感染を抑え込むことができる。その運動は資本主義の廃絶を目指す運動の、再びの第一歩となるだろう。 (矢野薫)
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