新自由主義を終わらせ命を守る公共取り戻せ

かけはし 第2647・2648合併号 2021年1月1日

止まらぬ新型コロナウイルス感染

新自由主義の下では感染拡大は止められない 

 新型コロナウイルスの感染は、連日新規陽性者数を更新し拡大を続けている。感染拡大を止める手立てを何も講じず、逆に感染拡大に拍車をかけ自助を強制することばかりを「新型コロナ対策」として行っているのだから当然の結果と言える。しかし、この破たんした政策のつけを払わされるのは、当然ながら政策決定者ではなく市井の民衆であり、より弱い立場に置かれた、女性であり、高齢者であり、非正規労働者である。私たちは、「命を守る公共をとり戻そう」(かけはし11月2日号)で女性の自殺者が急増してることに対し警鐘を鳴らした。それから1カ月が過ぎた現在、医療崩壊としてより多くの民衆に政策破たんのつけが押し付けられようとしている。
「GO TO事業」のような、いたずらに感染を拡大させる政策を直ちに中止し、危機が迫る地域医療の供給体制について抜本的なテコ入れを早急に行う。
このような何一つまともな政策を実行することができていないのは、新自由主義政策の限界である。私たちは新自由主義の下では生き延びることはできない。

クラスターは飲食店ではなく介護・医療施設で発生している

「マスク会食」や「オンラインでの忘年会」など信じられないほど実効性のない対策とも言えない対策が連日報道されている。東京等の自治体が行った酒類を提供する店舗の営業時間の短縮要請とともに、これらは飲食店が感染拡大の震源地であるような印象を与えている。
しかし今現在、最もクラスターが発生しているのは介護・医療施設である。介護施設でのクラスターを抑え込まなければ高齢者の、そして医療施設でのクラスターを抑え込まなければ高齢者ばかりでなく、ありとあらゆる人に命の危機が迫ることになる。
20年の春以降、ほとんどの介護・医療施設では面会を制限してきた。したがってこれら施設でのクラスターの発生原因は、そこで働く無症状の感染者によってもたらされた可能性が非常に高い。したがって介護・医療施設の労働者に定期的にPCR検査を行うことが必要である。しかし国も自治体もこのような対策を取ろうとしていない。
定期的にPCR検査を行い陽性になった労働者と同じ職場の濃厚接触者を2週間、賃金を保障し休業させる。この当たり前の対策を行えば、現場は瞬く間に崩壊する。休業した労働者の穴を埋める余力など各施設にはないからだ。それほどまでに日本の介護・医療施設はギリギリの人員で運営されている。

看護師不足から医療崩壊に

 旭川市の吉田病院のクラスターが、東京都の永寿総合病院で発生したクラスターの規模を上回った。重症者受け入れ病床がひっ迫した大阪では、急遽開設されたコロナ重症者センターが看護師不足でフルオープンできない事態になり、旭川市と大阪府に自衛隊の看護師が派遣されることになった。しかしその人数はそれぞれ10人と7人である。
この人数を派遣するに際しても自衛隊内では「看護官が潤沢にいるわけではない」という声があることが報道されている。30年近く続いた医療費抑制策として、医師養成数を抑制し、医師・看護師の劣悪な労働条件を改善することを怠ってきた。その結果医師数は増えず、看護師の退職は後を絶たない。そのため日本の病院には医師・看護師の人的ゆとりはない。自治体立などの公的な病院でもそれは同じである。
まして大阪のコロナ重症者センターで勤務できるような技術と経験を持った看護師は限られており、一朝一夕で育成できるわけではない。大阪府は近隣自治体からも看護師を集めたようだが、これは大阪周辺地域の医療を支える貴重な人材を引き抜いたことを意味する。施設や医療機器は突貫工事で整備できるかもしれないが、そこで働く人材はそのようなわけにはいかない。
大阪コロナ重症者センターでは、月額50万の給与で看護師を募集して話題になった。しかし大阪の看護師不足をつくりだしたのは維新である。橋下府知事時代に府立病院を地方独立行政法人化させ看護師の労働条件を大きく切り下げ看護師の離職を拡大させて来た。そして今現在、50万円で看護師を近隣から引き抜きぬく一方で、大阪最大の看護専門学校を補助金廃止により廃校に追い込んでいるのである。支離滅裂に見える維新の政策は、医療を削減し、命の問題を個人責任にすり替える点では終始一貫している。

放置されてきた貧困な療養環境

 医療・介護施設でクラスターが相次ぐのは、療養環境があまりにも貧困だからだ。「3密を避ける」ことが言われながら、介護・医療施設では、未だに大部屋が基本であり、大部屋で多数の利用者を少ない人数の労働者で対応する体制が放置されている。飲食店のテーブルがアクリル板で仕切られている時に、介護・医療施設ではカーテン1枚で仕切られた空間で24時間過ごしているのである。
ここに対策を講じるには、6人、4人部屋を1~2人で使用する、介護・医療労働者の担当人数を少数に制限することが必要である。「GO TOトラベル」を利用して旅行に行った人がホテルの個室でくつろぐ時に、介護・医療施設では狭い大部屋に利用者が詰め込まれている。これは支離滅裂なコロナ対策を象徴する様相だ。

医療・介護分野の労働条件改善

 新型コロナウイルス感染拡大がもたらした危機から、自分だけ助かろうとすることはできない。この危機は新自由主義がもたらした災害であり、解決するのは社会体制の抜本的変革が求められている。
とりわけ差し迫った医療危機を回避しなければならない。医師、看護師、介護士等の人材育成には時間がかかる。そのため今現在、働いている労働者の離職をまず止めなければならない。赤字に陥った医療機関を援助し、労働者の待遇を改善することが急務である。
コロナにより疲弊した医療現場の労働者に対して一時金の減額など労働条件の切り下げが行われている。このままでは、労働条件の切り下げによる大量退職により医療崩壊に陥る可能性がある。それは他の産業と比べて構造的な低賃金で働く介護労働者も同様である。労働による感染のリスクがある時に、誰が低賃金で働き続けることができるだろう。そうでなくても介護・医療労働者の勤続年数は他の産業と比べて短いのである。

命を守る公共を取り戻そう

 新型コロナウイルス感染拡大は、30年続く医療費削減政策の下でこの国の医療供給体制が極めて脆弱なものであること、この医療費抑制政策を大胆に転換させなければ、感染拡大から命を守ることができないことを明らかにした。しかし来年4月の診療報酬改定に向けた議論では、医療崩壊の危機に対して相も変わらないさらなる医療費抑制に向けた議論が進められている。
多くの人に介護・医療体制の脆弱さが明らかになった今こそ、医療費削減政策からの転換を求めて声をあげよう。それは「命を守る公共を取り戻す」闘いの一翼であり、医療の充実はその闘いの共通のスローガンである。    (矢野薫)

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