日本の「国連常任理事国入り」阻止は私たちの国際的責務だ
憲法改悪・恒常的派兵国家への道を許すな
常任理事国拡大の「国連改革」
三月二十日、アナン国連事務総長は安保理拡大をふくむ包括的な「国連改革」報告書を提出した。最も注目された安保理改革問題では、「今日の地政学的な現実をより幅広く反映するように安全保障理事会を改革する」としてその拡大方針を明らかにしている。
同報告書では、安保理拡大にあたっては「国連への財政的、軍事的、外交的な貢献を考慮する」こと、「先進国の場合には、ODAをGNP比〇・七%にするという国際的合意へ向けて相当の進展が見られることも重要な基準とされる」などの条件が提起されている。その上で、昨年十一月にハイレベル委員会が示した二つの安保理拡大案、もしくは実現可能な他の提案を考慮した上で、今年九月に開催される国連六十周年の特別首脳会合以前に決定することがうたわれている。
A、B二つの安保理拡大案はいずれも現行の安全保障理事国十五(常任五、非常任十)の枠を二十四に増やすものだが、A案は常任理事国を六カ国、非常任理事国を三カ国増やし、B案では任期四年で再選可能な準常任理事国を八カ国増やし、非常任を一カ国増やすこととなっている。いずれの案でも、現行の常任理事国(アメリカ、イギリス、ロシア、フランス、中国)が保有する拒否権を与えない。両案ともアフリカ、アジア大洋州、欧州、米州(北米と中南米)の四つの地域枠を設け、A案で増加する六つの常任理事国はアジア大洋州とアフリカを各二カ国、欧州と米州を各一カ国、B案で増加する八つの準常任理事国は各地域に二カ国ずつとなっている。
新常任理事国候補国は、地域の軍事的・経済的大国であることが条件とされ、国連の「大国談合支配」の構造は前提とされている。
海外派兵する軍事大国として
今年九月までに、安保理拡大方針を決定するというアナンの「国連改革」提案に対して、小泉政権、とりわけ外務省は勢いづいた。それは日本政府にとってまさしく「悲願」実現の時がいよいよ到来した、との期待を強めるものだったからである。
すでに昨年九月、小泉首相は、新常任理事国の候補と目されているドイツ、ブラジル、インドとの首脳会談で安保理拡大に向けて運動を強化する共同声明を発表した。また国連総会での演説ではイラクへの自衛隊派兵と五十億ドルの「復興支援」、アフガニスタン「復興支援国会議」の主催、アフリカ支援などの「実績」を並べ立て、次のように述べた。
「わが国は、平和の定着に向け取り組むため、平和構築のための復興への取り組みとともに、国連平和維持活動にも多くの資源を提供してきました。わが国の自衛隊は、東ティモール、イラクなどにおいて、人道復興支援活動を行ってきています。……こうした貢献は国際社会から高く評価されていると私は信じます」「わが国の果たしてきた役割は、安保理常任理事国となるにふさわしい確固たる基盤となるものであると信じます」。(本紙04年10月4日号、平井「小泉首相の国連演説批判――『安保理常任理事国』制度そのものの廃止をめざそう」参照)。
小泉内閣は、相次ぐ自衛隊のPKO派兵、インド洋、イラク派兵という「実績」の上に、名実ともに海外派兵する「軍事大国」としてA案による「常任理事国」の地位を獲得するためになりふりかまわぬ動きを強めてきたのである。
九月決着に米国も反対
しかし、A案での九月決着をめざしてアフリカ諸国やカリブ海の島国に「無償支援」などの誘い水で「票固め」にいそしんできた小泉内閣にとって、懸案の「常任理事国入り」に困難な状況が訪れている。
韓国、中国の世論は日本の「常任理事国入り」に反対して大きく高揚している。侵略と植民地支配を正当化し、靖国参拝を繰り返す小泉首相の排外主義的ナショナリズムの鼓吹は、竹島(独島)や尖閣諸島(釣魚諸島)への「領有権」の主張、すなわち新たな「領土拡大」への挑戦、「つくる会」教科書の検定合格などを通して、韓国、中国の「反日」意識をいっそうかきたてた。
韓国政府は三月三十一日、日本の常任理事国入りに反対する考えを表明し、韓国の金三勲国連大使は「周辺国の信頼も得られず、歴史も反省しない国に資格はない」と韓国記者団に語った。中国の王光亜国連大使も四月六日の国連総会での審議で「中国は安保理改革に関して、いかなる時間的期限を設定することにも、加盟国の意見の一致が得られないままでの投票にも賛成できない」として、アナン提案の「九月決着」に反対した。
中国では、インターネットなどを通して「日本の国連常任理事国入り反対」を訴える署名がすでに千五百万人分も集まっている。四月九日、十日と北京の日本大使館や広州の日本総領事館、さらにはジャスコなど日系のスーバーマーケットへの投石をふくむ抗議行動が大規模に展開されている。
それだけではない。米政府もまた一方では日本の常任理事国入りに支持を表明しつつも、アナン「改革」案による「常任理事国の拡大」や国連機能の強化そのものにはっきりと反対の立場をとっている。ネオコン最強硬派であるボルトンを国連大使に送り込んだブッシュ政権は、国連がアメリカ帝国主義の「予防的先制攻撃」などの単独行動主義になんらかの規制をかけようとする意図を認めようとはしないのである。
四月七日の国連総会での「国連改革」をめぐる審議で、タヒル・アリ国務長官上級顧問(国連改革担当)は、九月までに安保理拡大の結論を出そうとするアナン提案に中国と同様に反対し、「期限設定によって縛られるべきではない」との態度を打ち出した。こうしてバキスタン、イタリア、オランダ、アルゼンチンなどをふくめて、「安保理拡大九月決定」論に対する批判がいっそう強まる気配を見せ、小泉内閣・外務省の「常任理事国入り」戦略はいまや破綻の淵に追い詰められようとしている。
反日闘争拡大が意味するもの
われわれは韓国や中国の「反日」闘争の拡大が、何よりもアジア侵略と植民地化の歴史を正当化し、排外主義的愛国主義を煽って憲法改悪と海外で「戦争をする国家」に突き進む日本帝国主義に対する、民族主義的危機感の発露であるととらえなければならない。とりわけ中国政府の場合、こうした「反日」闘争を、社会的不満をそらす安全弁として利用している側面があることは否定できない。しかし、われわれは日本の帝国主義的ナショナリズムと、中国や韓国のナショナリズムを同一線上に並べて批判することはできないのである。
小泉首相のように冷たく「未来志向で仲良く」などと語ることがどうしてできようか。自ら「靖国参拝」による侵略戦争の肯定を繰り返し、天皇制イデオロギーを前面に出した「改憲草案」を準備し、アメリカ帝国主義の「対テロ」軍事戦略の実戦的一翼を構成して海外派兵体制を強化している日本帝国主義の現実のあり方こそ、新たな「反日」意識の基盤を作りだしているのである。
同時にわれわれは、「常任理事国入りをめざす日本にとって……世界の支持を取りつけるためには何をなすべきか。日本が信頼されるにはどういう振る舞いをしたらいいか。いよいよ本気で考えなければならない」(朝日新聞、3月23日社説)とか、「アジアの代表として常任理入りを目指している日本政府としては、足元からの反発という事態を真剣に受け止める必要がある」「アジアの支持を得られないようでは常任理入りの目標も色あせてしまう」(毎日新聞、4月2日社説)、といった主張に対しても、根本的な批判を突きつけていかなければならない。
「常任理事国入り」そのもの、さらにはいずれも核大国である現行の大国支配システムとしての常任理事国制度そのものが問題とされる必要がある。新常任理事国に核保有国でない国がふくまれたり、新規参入常任理事国は「拒否権」を持たないということは、決して民衆にとっての「国連改革」とはならない。
先述したようにアナン「国連改革」提案は、常任理事国入りの条件として「軍事的貢献」を当然の前提としている。またアナン提案は、「ジェノサイド、民族浄化、人道に対する罪」に対する「やむをえず、必要とあれば強制力の行使をふくむ国連憲章に基づく行動」をふくめて「保護責任」を果たすことや、安保理が「武力行使」において中心的役割を果たすことを再確認している。この「人道に対する罪」への「保護責任」=人道的軍事介入論は、ブッシュ政権に近い人びとによって「法的な裏付けを待つうちに制裁できなくなるより、手に負えるうちに対処しようという考え方は、ブッシュ政権の安全保障戦略と全く同じ」(米デューク大学・ピーター・フィーバー教授)として高く評価されるしろものなのである(朝日新聞、3月22日)。
日韓中民衆の国際的連帯を
小泉政権が昨年十二月に閣議決定した新防衛計画大綱は「国際的平和協力活動」と「多機能・弾力的」な防衛力整備という名目で、アメリカ帝国主義のグローバルな「対テロ軍事戦略」に全面的に対応した自衛隊の「海外作戦軍」化を打ち出した。それは言うまでもなく、「集団的自衛権」の発動による海外での自衛隊の侵略的戦闘行動と憲法改悪につながるものであり、国連常任理事国入りによる「軍事的責任」は、その動きとセットになったものである。
アーミテージ前国務副長官の「安保理常任理事国は、国際的利益のための軍事力を展開しなければならない。それができないならば常任理事国入りはむずかしい」という発言(04年7月)や、パウエル前国務長官の「もし、日本が常任理事国としての義務を担おうというのなら、憲法9条は吟味されなければならない」(04年8月)という発言は、「常任理事国入り」の意味をはっきりと物語っている。
反戦・平和、改憲阻止をめざす日本の労働者・市民の運動は、日本の国連常任理事国入り反対の声をはっきりと上げなければならない。ナショナリズムを超えた日本・韓国・中国の労働者・市民の国際的連帯は、そうした闘いにもとづいてのみ発展することができるのである。
(4月10日 平井純一)
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