右翼政治家・自民党政府の排外主義的居直りを許すな
中国で拡大する「反日行動」
「反日デモ」の背景と原因
中国各地で日本の常任理事国入り反対などを求める「反日デモ」が拡大している。四月二日の四川省成都市で行われた数千人規模の集会を皮切りに、三日の広東省深 市で二千人規模のデモ、九日には北京で一万人規模のデモがおこなわれ、上海や成都などでも抗議行動が確認された。十日には広州で二万人、深 で一万人、海南省海口市で一万人、江蘇省蘇州市では二千人規模のデモが行われた。
デモでは「日本の常任理事国入り反対」「日本製品ボイコット」「魚釣島を中国に返せ」などのスローガンの書かれた横断幕や中国国旗が掲げられ、抗日戦争を題材とした国歌が歌われた。九日北京での抗議デモでは、デモ隊が大使館前で警備する機動隊の部隊にせまり、ペットボトルやコンクリート片などを大使館に向かって投げつけた。また各地のデモでは日系スーパーなどが抗議行動の対象とされた。
「反日デモ」はなぜ起こったのだろうか。ことの発端は、三月二十日に国連のアナン事務総長が発表した国連改革に関する勧告についての発言である。国連改革の中で焦点となる安保理拡大について、勧告では、常任理事国六カ国増を柱としたA案と任期四年で再選可能な準常任理事国新設を柱としたB案が併記されている。アナン事務総長は、国連加盟国がA案で合意した場合、「アジア地域の割り当て二カ国のうち一つはもちろん日本に行く」と語った。その直後から日本の常任理事国入りに反対する署名が中国各地で集められた。三月二十九日には、北京吉利大学の学生が日本大使館を訪れ、学生ら五千人による常任理事国反対署名が書かれた横断幕を届けた。署名はネットでも集められ、四月四日の段階で千五百万人の署名が集まった。
その最中、アサヒビールの名誉顧問を務める中条高徳が、「新しい歴史教科書をつくる会」の会報に「靖国神社を参拝しない政治家に、政治にあたる資格はない」という趣旨の文章を発表したなどとして、中国東北部の吉林省長春市などでアサヒビールの不買運動が起こった。「抵制日貨」(日本製品ボイコット)というスローガンが日本の常任理事国入り反対運動の中に急速に広まった。「抵制日貨」というスローガンは、一九一九年、山東省のドイツの権益を日本が継承することを定めたベルサイユ条約に反対する北京学生の反対運動から急速に反政府運動として全国に拡大したいわゆる「五四運動」のなかで掲げられたスローガンである。
不信感を拡大させる日本政府
四月五日には、中国民衆の感情をさらに逆なでするかのように、日本の文部科学省が「新しい歴史教科書をつくる会」の主張に沿った扶桑社の教科書を検定に合格させた。これは独島(竹島)は日本固有の領土であり、現在は韓国によって不当に占領されている、という文部科学省の改定意見にそって改定された同社の「公民」の教科書の検定合格によって批判を強めた韓国をも巻き込み、日本政府に対する批判を拡大させた。
それだけではない。二〇〇一年八月、二〇〇二年四月、二〇〇三年一月、二〇〇四年一月に東アジア各国の要請を無視して強行された小泉首相による靖国参拝や軍隊慰安婦をはじめ戦争被害者に対する戦後補償を一貫して棚上げにしてきた。そして侵略戦争に対して真摯に反省することなく、アメリカの対テロ戦争への協力を突破口とした恒常的な海外派兵を目指す憲法九条改悪策動などによって、アジア民衆の不信感はこれまでになく高まっている。そのなかで国連常任理事国入りが浮上したことによる、起こるべくして起こった「反日デモ」なのである。
にもかかわらず、一連の「反日デモ」を報道する日本のメディアでは「中国政府 なぜ暴力を止めないのか」(4月11日「朝日」社説)、「領土問題や教科書問題などで対日圧力に利用できると考える反日デモは放置している。日本政府は、このような中国政府の対応を認めてはならない」(同「読売」社説)、「中国人も非理性的な反日運動が自国の国益を損なうことを理解してもらいたい」(同「毎日」社説)などという、まるで問題は中国政府が「暴力的デモ」を容認したことにあるかのような報道が氾濫している。
日本の政治家たちも同じような反応を示している。「破壊活動を止めなかった」(町村外相)、「貧富の差のはけ口のひとつとして、噴出している。当局もガス抜きで見過ごしている」(安倍晋三自民党幹事長代理)、「中国の一部指導者が、こういうことが日本に圧力をかけるのに良いと考えるなら大きな間違いだ」(高村正彦元外相)。政府や与党の責任ある立場の政治家は、戦後補償などに対する自らの不作為こそが今回の「反日デモ」を引き起こしたにもかかわらず、それを棚に上げて「反日デモ」を批判しているのだ。四月十日に練馬の陸上自衛隊駐屯地で行われた同駐屯地の創立記念式典に出席した石原慎太郎東京都知事は、「地方の不満が募る中、中国はその不満を自国の政府でなく日本に向けさせている」「私たちの不満はいったいだれが中国に伝えるのか」などと発言している。このような発言を許してはならない。
階級的自立性と国際主義
その一方で、今回の「反日デモ」の底流をながれるもうひとつのダイナミズムである「愛国主義」という側面を認識しなければならない。世界的で歴史的な階級闘争の後退局面における資本のグローバリゼーションは中国を資本主義化へむかわせた。中国共産党は国有資産の私有化を進める一方で「三つの代表」論を通じて、労働者階級の利害ではなく、支配的エリートとブルジョアジーの利害を代表する政党への脱却を図ってきた。社会主義を捨てた一党独裁政党の支配の正統性を担保するものは、抗日戦争であり、民族主義であり、愛国主義であった。いま中国で台頭しつつある民族主義や愛国主義は、帝国主義諸国に対する被抑圧民族のそれでもなく、周辺国のそれでもない。それは一党独裁と資本主義国家という党と国家の正統性を保証するためのものでしかない。
「グローバリゼーションの時代に民族主義や愛国主義は時代遅れだ」と考えるのは誤りである。グローバリゼーションの時代だからこそ、ブルジョアジーはより自由な資本の移動を求める一方で、自らをまもるための暴力装置を強化しようとする。軍事的にだけでなく、経済的にもそうである――WTO交渉は極めて具体的な各国の利害が反映される――。それは労働者を分断し、排外主義をあおる。
領土問題がその最たる例だ。ブルジョアジーの経済的利権という問題が、「領土問題」という没階級的なスパイスで味付けをされている。その意味で独島や魚釣島など領土・資源問題における関係各国の共同管理・開発という主張はオルタナティブたり得ないだけでなく、反動的である。それはブルジョアジーによる共同開発が前提となっていること、そしてそれが大量生産・大量浪費という人類と地球の未来を閉ざす資本主義システムの延長を前提としているからである。これは「労働者政府か資本家政府か」という教条的な提起とは無縁の、エコロジーと人類の未来に関わる主張である。人類が自然と調和のとれた生産力を維持する方法を社会的に定着させるまでは、地球資源のこれ以上の略奪を許してはならない。
グローバリゼーションの時代に問われているのは階級的自立性と国際主義である。戦争と貧困に反対する東アジアの労働者民衆は団結して日本帝国主義の策動と各国政府が進める新自由主義政策を粉砕しよう。
(4月12日 早野 一)
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