足立区「学テ」不正問題と新自由主義教育

学力テストの成績結果で予算配分を決める究極の競争主義

学校の序列化は
これからも続く

 東京都足立区教育委員会は、全都と区の学力テストでの不正問題の連続発覚をうけて、その原因と是正措置にむけて学力調査委員会を急きょ立ち上げた(7月17日)。
 委員会は、9月19日、教委が新自由主義教育改革の最先端であると自慢していた成績別学校予算配分の弊害を認め廃止を盛り込んだ報告書をまとめたが、区の「特色ある学校づくり予算」と称する傾斜配分は残すことを認めているため、実質的な学校の序列化・競争主義方針を継続していくことに変わりない。一連のドタバタは、都教委と追随してきた足立区教委方針の破産の一端であり、全国学力テストをはじめとする学力テストに依存した競争主義の行きつく先の姿を現出したのだ。

障がいを持つ
子どもを排除

 足立区は、〇一年から小中学校の学校選択制を導入してきたが、全都テストにおいて二十三区中最下位であったため、上位をめざして〇四年から区独自の学力テストを実施し、学校ごとの成績を公表してきた。教育長は、成績結果が下位の学校の校長を呼び出し指導し、今度は校長が担任や教科担当に対応策の作成を命令し、競争を煽っていく構造を積み上げてきた。管理職は権威主義的命令を繰り返し、教員たちは四人に一人が月八十時間以上の超過勤務、病欠なども増加するという異常な職場状況になっていった。
 この延長として区教委は、区立小中学校に配分する予算の一部について、〇七年度の都と区が実施する学力テストの成績結果に応じて配分するという学校序列化方針を打ち出した(06・11)。具体的には、区立の小学校(計七十二校)、中学校(三十七校)を成績上位校からA、B、C、Dの四ランクに区分し、成績が下位になるほど減額していくという究極の差別化だ。区教委は、「成績が低い学校には、別建ての学力向上予算で非常勤講師を派遣するなどで対応は可能だ」などと改悪教基法を先取りした教育の機会不平等を公然と主張し強行した。
 こんな無茶苦茶な教育方針は、教育現場で様々な歪み、矛盾として次々と発生せざるをえなかった。区の学力テストで学校の平均点を上げるために、小学校一校で三人の「障がい」がある子どもを保護者の承諾なしで、意図的に採点の対象から除外した。さらに発覚後の調査によって十三小学校で十六人、四中学校で五人の学習に遅れのある子どもの答案を全体集計から除外していたことが判明した。なんと採点対象からはずした理由が、「読解ができない」「日本語が未修得」などと自らの責任を棚上げし、高位平均点のために教育の堕落を正当化するほどだ。
 さらに、都の学力テストでは、問題用紙を区立小中学校長に事前配布(05年)していたり、区教委が禁じている前年度の試験問題をコピーし試験直前に子どもたちに反復練習を行わせたり(小学校三校、中学校一校)、小学校校長・教諭が児童に指さしして正解を誘導する不正も発覚した。
 教委学力調査委員会の報告書の公表によって逃げ切れないと判断した斎藤教育長は、9月25日の区議会本会議で、数値にもとづく順位の公表が「不適切な行為」の遠因になったことや、学校ごとの成績結果に応じた差別予算の方針を撤回することを表明した。

受験産業に流
れる個人情報

 教育現場において不正を誘発した足立区教委とともに都教委の責任も重大だ。そもそも都教委が学校選択制と学力テストの実施・公表方針を押し進め、学校間、クラス間、生徒間の競争・格差を導入し、拡大してきたのである。学力テストの成績結果で予算に差をつけることをやめることは当然の措置だ。地域・学校に競争・格差を導入せず、平等に基礎的な学力が身につけられる少人数学級の実現などが求められている。
 政府は、教育基本法を改悪し、新たにつくる「教育振興基本計画」で真っ先にやろうとしているのが全国一斉学力テストである。国家的事業として全国一斉に統一行動として蓄積していくことがねらいだ。その前段として、この四月に全国一斉学力テストを約七十七億円をかけて強行してしまった。
 四月の全国学力テストは、テストのほかに学習状況調査用紙があり、プライバシー、家庭状況に関わる質問や学習塾に関する質問までしている。この集計・分析等を小学校はベネッセコーポレーション、中学校はNTTデータが取り扱うことになっており、個人情報が受験産業に集約されてしまうシステムだ。当然、個人情報保護法の「他目的利用禁止」「目的提示」の違反の危険もある。すでにベネッセは、各学校に自社テスト売り込みのダイレクトメールを送りつけており、今回のテスト情報を基に営業・販促活動に使うことだって可能だ。
 文科省は、全国学力テストの結果の公表を十月に行うと明らかにした。あらためて諸テストに依存した学校間格差・競争主義を全国に広げることをねらっていることを暴き出していこう。国に先駆けて実施した足立区の学力テスト方針は、多くの教師、子ども、保護者を傷つけながら競争主義へと追い込んでいる実態を浮き彫りにした。新自由主義教育路線にもとづく学力テスト体制に反対していこう。

教育行政めぐる
三つ巴の抗争

 安倍首相の政権投げだし後、発足した福田政権の文科相に渡海紀三朗が就任し、山谷えり子が首相補佐官(教育再生担当)に留任した。安倍辞任によって様々な諮問会議が空中分解、解散に追い込まれているなか、かろうじて教育再生会議は継続して審議を続けようとしている。
 ところが安倍首相辞任のドタバタの間隙をぬって中教審は、自らのヘゲモニーの挽回をねらって、教育再生会議が提言していた道徳の教科化を見送り、改定作業を進めている次期学習指導要領ではこれまでと同じ位置づけにする方針をマスコミにリークしてしまった。また、再生会議は道徳を名称変更し、「徳育」とすることも求めていたが、中教審は名称変更も見送る方針であることを明らかにした。文科省官僚は、正式決定ではないとコメントを出し、火消しにひた走った。
 しかし中教審の態度は、表向きには「教科化にこだわった議論ではなく、子どもたちの道徳心を高めるための実質的な論議をしたい」と言いながら、学習指導要領に「道徳教育の充実」を明記することによって、小学校での自然体験、中学校での職業体験、高校での奉仕活動などを積極的に位置づけ愛国心・国家忠誠教育を押し進めていこうとしているのだ。
 現在において文部科学省は、副教材「心のノート」、民間の教材会社などが作成した副読本・ビデオを使った授業の徹底を指導している。戦略的に予算措置を行ってきたように、将来的には改悪教基法をバネにして道徳の教科化と教科書の配布を狙っていることは間違いない。教育再生会議のねらいと一体どこが違うというのか。教育を通したヘゲモニー争いをしているだけなのだ。
 福田政権発足後、町村官房長官は、教育再生会議について「引き続き活動していただく」とわざわざ触れ、「文科大臣を経験した私が官房長官にいるわけだから、教育問題をおろそかに扱うことはない」と強調したが、十二月にとりまとめが予定されていた教育再生会議第三次報告について「多様な議論もあるようなので、多少はずれ込む」とフォロー弁解せざるをえなかった。
 文教族利権系列を代表して就任した渡海文科相は、教育再生会議が打ち出そうとしている教育バウチャー制度(授業利用券)を取り上げ、「教育は市場原理にはなじまない。ひずみは社会の不安定を招く」などと教育再生会議を真っ向から批判した。ただちに山谷首相補佐官は「再生会議の報告はどんどん実現している。道徳の教科化が進まなければ再生会議として何らかの意見を出すことがある」と恫喝するほど対立が深まっていることを政権発足当初から表面化させてしまった。
 このような文科省、中教審、教育再生会議の三つ巴のバトルを繰り返しているのが教育行政の実態なのである。文科省、中教審、教育再生会議によるヘゲモニー争いを通した教育破壊を許すな。教育再生会議は、即刻解散せよ。新自由主義教育改革路線を撤回し、教育の機会平等の徹底、教育予算の充実、教員を増員し少人数学級の実現をかちとろう。改悪教基法の具体化を地域・教育現場のスクラムではね返していこう。(遠山裕樹)

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