コロナ危機の拡大と「東京五輪」

新自由主義が現実化させた破局
エコ社会主義の旗を前面に掲げよう

新たな世界的感染拡大

 新型コロナウイルスのパンデミックは、ロックダウンや緊急事態宣言などの国家権力主導による抑圧的で強権的な方法によって収めることができなかった。ワクチンの接種とその世界的な普及なくして、とりあえず現在のパンデミックを収拾することができないということが明らかになった。
 しかし世界的な国家間の貧富の格差と並行するように、露骨な医療とワクチン格差もまた同時に明らかになっている。コロナパンデミックは弱肉強食の新自由主義資本主義が過去50年間にわたって作り上げてきた世界と社会を見事に映し出すことになったのである。ノーマスクでピクニックを楽しむ欧米と、医療を受けることもできずに毎日何千人もの死者が焼かれているインドの映像は、そうした世界と社会を象徴する光景である。
 日本でもコロナ感染の第4波が治まることなく全国的に拡大している。大阪と兵庫では医療崩壊が現実化し、医療機関に受け入れられずに、または受け入れが遅れることによって連日何十人もの死亡者を記録している。そして沖縄と北海道がそれに続こうとしている。従来株(武漢株)は人口が密集する東京圏を中心にした感染拡大に留まってはいたが、現在流行している変異株(英国由来のN501Y)は感染力が従来株の1・5倍と言われており、年度末年度初めの人の移動とGWの人の移動によって感染は一気に全国に波及することになった。GW期間中の沖縄への旅行者数は昨年の7・8倍だったことを見れば明らかだろう。そしてそれは沖縄に限ったことではない。さらに現在インドをコロナ地獄と化しているインド株は、英国株のさらに1・5倍の感染力を持つといわれている。単純計算するとインド株は従来株の2・25倍の感染力を持つということになる。
 こうしてワクチン接種に後れをとっている国や取り残されている国々、そしてワクチン接種を拒んでいる人々は、強烈な感染力を持つインド株の脅威にさらされることになる。これまでコロナ対策優等国と言われてきた韓国や台湾もその例外ではないし、すでに感染拡大が始まっている。

菅政権の施策は破綻


 日本では5カ月後に迫った10月21日の衆院任期切れに向かってすでに政局となっている。政局とさせているのはコロナ感染症対策と、それに深く関連する7月23日から開催が予定されている東京オリ・パラをめぐってである。本来ならば6月16日の通常国会会期末で政局を迎えることになるのであろうが、9月5日までの東京オリ・パラとコロナ対策によって政局そのものが長期化することになるだろう。
 菅義偉政権のコロナ対策は一貫している。その最大の特徴は「専門家の意見を聞いて」というもので、対策によって生じる人的な抑制や経済的な損失のすべてを専門家に転嫁してきたことである。菅義偉の成功体験は東京湾横断道の料金引き下げとふるさと納税であり、首相になってからの携帯電話料金の値下げである。GoToトラベル・イートを復活させたいとイライラしているのが本音といったところだろう。しかし政治日程との関係で菅政権はワクチン供給対策で完全に失敗している。
 当初は医療従事者を最優先させてから65歳以上の高齢者へのワクチン接種を6月末までには終了させるとしていたが、それが大幅に遅れている。ワクチン入荷の遅れが、接種体制の遅れとなって様々な混乱をもたらしている。担当大臣の河野太郎は完全に爆発している。それでも東京オリ・パラを意識して高齢者へのワクチン接種を7月末までに終了させようと、1日100万回の接種を叫んではいるが、それはオオカミの遠吠えにもなっていない。100万回という数字は、3600万人×2回を日程で割った数字にすぎず、現状の医療体制能力を完全に無視しており、かつての悪しき「大本営発表」のやり方と同様である。現状の能力は1日30~40万回ほどに過ぎない。まだワクチン接種を終了していない医師らがワクチン接種をするという状況まで生み出している。菅義偉は相当焦っている。その表れが各自治体主導を完全に無視する自衛隊を動員したワクチン接種の強行だった。そしてこれがまた二重予約などの混乱の要因にもなっているのだ。
 「電話をいくら掛けても通じない」と、インターネットが不得手な高齢者が役所に押し寄せている。特にコロナ慣れしていない地方での危機感はパニック級になっている。現在のペースからしても高齢者のワクチン接種の終了は9月末であり、全国に感染拡大しているコロナ対策に加えて、ワクチン接種も行わなければならない医療従事者は東京オリ・パラの実施は大きなリスクになると指摘している。事前キャンプ地などを考えるとそのリスクは全国化している。そして医療現場などからは東京オリ・パラ実施への反対の声が日に日に高まっているのは当然である。
 居酒屋などでのアルコール販売禁止要請が功を奏しているのか、東京圏や大阪圏では感染はピークアウトしているようだが、依然として感染者数は高止まりしている。菅政権は緊急事態宣言を6月20日まで延期しようとしているが、すでにほとんどの人々は菅政権のコロナ対策を信頼しておらず、菅義偉本人も「ワクチン頼み」になっていることは誰もが見透かしていることだ。通常国会で念仏のように「国民の命と健康を守る」と発言を繰り返した菅義偉だが、それでも東京オリ・パラを強行実施するということがその発言といかに矛盾していることなのか当の本人も良くわかっているはずだ。
 オリ・パラのリスクを下げようと、IOCと一緒になって菅政権も策を弄しているようだ。当初はためらっていた選手へのワクチン接種の実施を決めた。選手・役員・要人・マスコミなど約8万人が世界から日本に入ることが予定されているが、PCR検査や移動制限なども実施するとしている。「無観客」という選択肢も残されているが、これまで「人体実験」として行われてきた国内スポーツイベントの実施状況を見る限り、900億円のチケット収入を無駄にすることは考えにくい。プロ野球観戦と同様に前売りチケット取得者の無制限観戦を実施することになるだろう。たとえ入国者らのリスク管理をしても、GWでもそうであったように日本のあちこちからボランティアを含めた数百万人が移動・集結するリスクは無視される。とにかくできる限り盛り上げて「日本だから実施できた」とでも言って胸を張ろうとしているのだろうか。

政治と社会の根本的変革へ

 すでに政局になっていることは通常国会での立憲民主党の動向からもうかがいとることができる。総選挙を意識して保守層への影響効果を狙って、立憲民主党はデジタル改革関連法案と国民投票法改正案に賛成している。入管法改正案はスリランカ人女性の死亡問題をめぐって世論の関心が高まったこともあり廃案となったが、残された重要法案である医療制度改革関連法案と重要土地利用規制法案に立憲民主党としてどのように対応しようとするのだろうか。
 直近の世論調査では菅政権への支持率は軒並み下落している。コロナ対策への不信がその最大の要因であることは明らかだ。しかし最近の傾向でもあるが、だからと言って野党各党が支持率を伸ばしているわけでもない。世論だけが命綱の根無し草議員政党である立憲民主党は、「連合」を仲介として国民民主党との連携に向かいながら共産党との共闘の解消に踏み出そうとしている。4月25日に実施された北海道・長野・広島での国会議員補選・再選挙では、自民党は全敗したものの野党共闘をめぐる対立も鮮明になろうとしている。
 こうした状況のなかで7月4日投開票の東京都議会選挙は、総選挙の前哨戦という位置にもあり、現在の世論の動向をはかるリトマス試験紙となるだろう。もちろん選挙戦の焦点はコロナ感染症対策と東京オリ・パラをめぐるものになる。
 現在の都議会の勢力図は、小池知事が率いる都民ファーストが55議席で、自民23、公明23、共産19、立憲5、ネット1、維新1、(欠員1)である。前回の選挙では都フと公明が選挙ブロックを組んだが、今回は自民・公明のブロックが復活している。共産と立憲は候補者調整はするものの、政策協定は結ばない。山本のれいわも擁立を予定している。
 東京オリ・パラの中止を主張しているのは共産党とれいわである。前回の選挙で台風の目となって自民・旧民主・無党派保守層から票を集めて圧勝した都フは苦戦が予想される。そうした中でポピュリストである小池が考えていることは、東京オリ・パラの「無観客」開催と、最悪「中止もある」ということを打ち出すことである。もちろん小池にはそんな気など「さらさらない」し、都としてそのようなことを決定できる権限もないことは分かりきった上でのキャンペーンである。こうした小池の動きに対して釘を刺したのが丸川五輪担当相だった。5月21日の記者会見で「都の財政規模を考えると都が負担できない事態は想定しがたい」「組織委が資金不足に陥った場合に補填するのは都」だと主張することによって小池の動きをけん制している。
 こうした茶番はさて置いて、東京オリ・パラの中止はもちろんのことだが、左派として強く主張すべきことは、コロナ感染で明らかになった医療体制と社会保障体制の根本的な見直しを要求することである。特に公的医療の強化・充実と、公衆衛生・感染症対策の再構築を要求することである。そしてそのためにはそうした部署を担当する正規職としての公務員の飛躍的な拡充と、非正規職公務員の正規職化を要求することである。具体的な焦点となるのは、新自由主義的政策として進められてきた都立病院の独立法人化の流れをくい止めることである。資本主義が自然環境と生態系を破壊し続ける限り、第2第3のコロナパンデミックは不可避である。人民の命と生活を守るためには、最低限でも以上のような要求を実現させなければならない。
 一時のワクチン接種でこのコロナ危機を克服することはできない。現在世界を支配している1%の富裕層による貪欲な利益追求のための社会を終わらせない限り、私たちが今経験しているパニックは何度でも繰り返されることになるだろう。コロナパンデミックと気候危機、世界的な超格差社会を終わらせるために、エコ社会主義の旗を高く掲げよう。   (高松竜二)


 

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