都議選・オリパラ・総選挙をめぐる情勢

命と暮らしを破壊するな
五輪やめろ 生活と権利を守れ

大坂なおみの言葉

 「今私たちがしなければいけないのはスポーツを救うことではなく、世界中の人々が人種や国境の壁を越えて数多くの命を救うのが一番大切。それこそオリンピック精神ではないでしょうか」。これは昨年3月に東京オリ・パラの延期が決定された後に、大坂なおみ(プロ・テニスプレイヤー)が発したメッセージである。彼女はその後も警察官による黒人殺しに端を発したBLM運動にも積極的に参加して、先日もプレイヤーとスポンサーとの抑圧的な関係を告発する勇気ある発言を行っている。
 しかし残念なことに、彼女が望む「オリンピック精神」は国家主義と営利主義によって既に跡形もなく破壊しつくされてしまっているのである。現在のオリンピック精神は「今私たちがしなければいけないのはIOCとスポンサーと保険会社を救うことであり、数多くの命を救うのは二の次だ」というものになっているのだ。そしてメダル争いに駆り出されている選手の多くも、そのために利用されている悲しき犠牲者たちなのである。
 新型コロナパンデミック下で強行されようとしている、人命など二の次とする日本人のための東京オリ・パラは、そうした腐れ切ったオリンピックの現状を赤裸々にした。IOCのバッハ会長も日本入りしているコーツ副会長も、そして菅義偉首相もすでにその様相は完全に「鬼」と化している。大坂なおみは東京五輪に参加すべきではない。五輪廃止の側に立って共に声を上げるべきだ。

腐敗・堕落の頭目

 オリンピックの腐敗と堕落を象徴しているのがオリンピックファミリーと呼ばれている特権貴族階級の存在である。その数はオリ・パラ合わせて約5000人といわれている。6月7日付の「毎日新聞」では、このファミリーの実態について以下のように明らかにしている。
 「ファミリーの中核はIOC委員115人と通訳などの随員、元委員、コンサルタント、国際競技団体や各国五輪委の幹部など、『運営に必要不可欠な人材』というタテマエだが、IOCが『ゲスト』と認知する名士も含まれる。
 IOCの面々を〈五輪貴族〉と名付け、1980年代から追ってきたアンドリュー・ジェニングス(英国のジャーナリスト)によれば、ファミリーは『五輪貴族とその遊び仲間である国家元首、ヨーロッパの王族、各国の外交官、政府高官、スポンサー企業の重役…』などである。
 開催都市契約の大会運営要件によれば、大会組織委は、ファミリーに5つ星または4つ星ホテルのスイートルーム(1泊数10万円から数100万円)を含む1400室を提供しなければならない。IOCの予算上限は1泊400ドル(現行ルートで4・4万円)。差額は組織委が支払う。
 ファミリーの存在はかねて知られていたが、人々は競技ドラマに熱中し、忘れていた。しかし、パンデミックが大会の簡素化を促す中、肌の色はもちろん、言語、宗教、社会的地位、財産などあらゆる差別を認めない―はずの、オリンピック憲章の精神と相いれない、異様な不平等として注目を集めている」。
 コロナパンデミックによって、職を失い住居を失い、その日食べるものにも事欠く人々が世界中に数億人も生みだされている一方で、五輪を食い物にしてきたオリンピックファミリー・五輪貴族の特権は守られようとしているのだ。。たぶん自分たちこそが、オリ・パラの主催者だとでも思っているのだろう。しかしそれは事実なのだろう。支配階級とそのお友達こそが、1984年のロス五輪以降の商業主義化されてカネ太りしてきたオリ・パラの真の主催者なのだろう。IOCはそうした支配階級の利益を保証するための「使い走り」に過ぎない。
 開会式の入場観客数をめぐって、こんなエピソードがあった。一般観客1万人とは別枠で、大会関係者1万人程度を入れるとする方針に対して「それはおかしいんじゃないのか」という反対の声が上がった。それに対して組織委の橋本聖子会長は「だってこの人たちは主催者なんですから」と、思わず叫んでしまったのである。東京大会の主催者は橋本さん!あなたが会長を務める「東京オリ・パラ組織委員会」なんじゃないんですか!

ウィルスの特質


 新型コロナウイルス陰謀論を主張するQアノンのような「陰謀論集団」はさて置いて、SNSなどで今回初めて開発されたmRNAワクチンに対する誤った情報が飛び交っているようだ。そのほとんどがウイルスとワクチンについての無知から発せられたものだ。ここで改めて「ウイルスとは何者なのか」「mRNAワクチンの効果」について簡潔におさらいをしてみる必要があるだろう。
 ウイルスはとりついた生物から拝借した細胞膜に覆われた遺伝子の塊である。そしてウイルスは細胞を持たないので、細胞分裂して自己増殖するという能力がないので、プランクトンや細菌のような「生き物」ではない。だから死滅させることはできない相手なのである。感染した人の炎症を抑える薬は作れても、ウイルスそのものを退治する薬は作れないのである。頼りになるのは免疫の獲得だけということになる。しかしその免疫もいつまで持続するのか、また変異株に対して有効に働くのかなどの問題も残る。インフルエンザがいつまでたっても無くならないのはそのためなのだ。それでも、はしかや小児麻痺を引き起こしてきたポリオなどは、ワクチンの世界的な普及による免疫獲得によって、感染をほぼ抑えられているという事例もある。
 ウイルスが増殖するメカニズムは、その遺伝子のコピー能力なのである。この世の中には遺伝子を作る基となる塩基と呼ばれるものは4種類しか存在しない。そしてすべての生き物は、その組み合わせや長さによって作られる遺伝子によって様々な種となるのである。細胞を持たないウイルスは、増殖するためには生き物の細胞の中に入り込んで、その細胞の中にある遺伝子から遺伝子情報を抜き取って、遺伝子をコピーするのである。ウイルスはそうした能力を持っており、その能力を遺伝子工学に応用したのが「クリスパー・キャス9」であり、昨年2人の女性科学者がノーベル賞を受賞している。
 コロナパンデミックによって毎日、天文学的な数の新型コロナウイルスがコピーされている。そしてコピーミスはいくらでも発生している。これが変異株(突然変異)である。変異株のほとんどは消滅するのだが、その中にはごくまれに既存株よりも増殖能力が高い変異株が発生することがあり、これが英国株やインド株なのである。そしてその都度、競争に勝ち残ったウイルス株の独壇場となるのである。
 現在、日本の国内で接種が進められているワクチンは、ファイザー社とモデルナ社製造のmRNAワクチンである。今回開発されたワクチンは、ウイルスの全体の遺伝子を鶏の有精卵の中で増殖させて、それを弱体化させたものを接種するという従来の方法によるものではなく、ウイルスが細胞の中に入り込むために使うスパイクと呼ばれる突起部分にだけ作用するものである。突起部分の遺伝子だけを接種して、これを異物だと免疫細胞に認識させ、細胞に侵入できなくなる抗体を作ろうとするものだ。
 ワクチン接種が先行した医療従事者の抗体検査によると、接種者の99%が抗体を獲得しているという。この結果はまさしく革命的な数字だといわなければならないだろう。インフルエンザワクチンなど従来の方法で作られてきたワクチンの有効率は、良くても50~60%ほどだからだ。これでは人類の100%がワクチン接種したとしても、約半数が感染するために感染は続くということを意味している。
 遺伝子操作食品など遺伝子工学に対する消費者の疑念と不信は、上げればきりがないだろう。しかし今回のmRNAワクチンの開発は遺伝子工学史上、人類に貢献する画期的なものであり、革命的なものだといわなければならない。ただし問題は、この革命的なワクチンの特許を特定の製薬会社が独占して、莫大な利益を私有化しているということだ。アフリカの1回目のワクチン接種率は2%である(6月13日現在)。はしかもポリオもそうであったように、世界的に感染を抑えきらない限り、コロナパンデミックは終息しないのである。製薬会社による特許権の独占を打ち破り、世界中のすべての人が無料でワクチン接種ができるようにしなければならない。

政府に屈する専門家

 「新型コロナウイルス感染症対策分科会」は6月18日、尾身茂会長ら26人の「有志」による提言を政府に提出した。その内容は当初検討するとされていた「五輪開催の是非」には触れず、開催を前提とするものだった。「無観客開催が最もリスクが少ない」というのが、この提言の結論である。
 尾身は6月2日の国会で「コロナパンデミックで五輪をやるのは普通はない」と発言していた。当時の世論も「中止」「再延期」が7割で、政府はこの尾身発言が世論をさらに押し上げるのではないかと警戒を強めていた。「対策分科会に五輪の是非を決める資格はない」と、必死になって火を消そうとしたのが尾身との窓口となっていた西村経済再生担当相だった。それまで「専門家がこう言っているので」とコロナ対策で利用しながら、今度はその専門家を「黙らせる」ことに専念しなければならなくなったのであった。
 そして尾身は「御用学者」の看板を下ろすことなく政府に「屈服」したのである。18日というタイミングも絶妙であった。6月16日が国会会期末だったからだ。こうして菅政権は専門家からもらった「お墨付き」の上で、7月23日開催予定の東京オリンピックに向けて準備を進めることになった。しかし政府が心配していることは、ワクチン接種が進む一方で、東京圏を中心とするコロナ感染者の再拡大である。感染対策の専門家によるシミュレーションでは、8月下旬から9月上旬をピークとする第5波が予想されている。オリンピック、夏休み、お盆と人の移動が続くからだ。そうなるとパラリンピックは最低でも「無観客」ということになるのかもしれない。政府は「中止」という選択肢を完全に捨てているからだ。
 尾身ら御用学者に対して強く反発しているのが、東京都医師会の尾崎治夫会長らである。尾身らの提言が提出された同日に、「開催条件は大会による感染拡大や医療圧迫がないこと。状況によって無観客、中止も検討すべきだ」とする意見書を、都医師会は都内の地区医師会と大学医師会の連名で、都知事、組織委、厚労相、五輪担当相に提出している。
 都医師会の尾崎会長はこれまでも「東京の感染状況がステージ2以下で、一日の感染者100人以下でなければ開催すべきではない」と発言してきた。尾崎会長は「東京は改善されておらず、リバウンドが始まっている。観客を入れれば感染者が増えて医療はひっ迫する」「五輪ありきでは自粛ムードは吹き飛び、制御がきかなくなる。困ってからまた泣きつかれる」「感染者が増えればワクチン接種にも影響が大きい。感染対策に逆行することを五輪だからと押し切ってしまうのか」(6月22日「毎日新聞」)と、菅政権の場当たり的でご都合主義的な「感染対策」を厳しく批判している。

菅自公政権を倒そう

 65歳以上という「枠」も取っ払われて、ワクチン接種が拡大している。五輪開催と都議選・総選挙の日程に押されて進められているワクチン接種なのだが、あせり過ぎて「玉切れ」を起こすことで混乱もまた拡大している。そして拡大しているのはワクチンだけではなく、東京圏を中心にしたコロナ感染の再拡大だ。新規感染者の6割強が東京圏である。自粛慣れ・自粛疲れ、緊急事態宣言の解除と酒の解禁、五輪開催と観客動員、ワクチンあれば大丈夫感…。若い人たちを中心に自粛の空気はすでに吹き飛んで、制御は効かなくなっている。専門家の試算によると、7月末には従来株の2倍ほどの感染力を持つインド株が感染者の7割を占めるだろうとみている。
 ワクチン接種も医療従事者はほぼ2回目が終了し、65歳以上では1回が50%ほどだ。「安全・安心な五輪」までに全国民の2~3割の終了というのが関の山だろう。菅政権にとってワクチンは「命綱」となっている。ワクチン至上主義で総選挙に向かうことになる。「打てば打つほど選挙は有利になる」「打った人の政府への態度が変わった」自民党幹部からはそんな言葉が漏れているようだ。そして解散・総選挙のタイミングは、第5波の感染ピークアウトと緊急事態宣言明けということになれば、10月21日の衆議院議員任期切れまで引っ張る可能性も出てきている。すでに自民党総裁選は選挙後に先送りする方針を決めている。そうなると解散から40日以内に選挙を実施しなければならないと憲法で規定されているので、総選挙は遅ければ11月21、28日ということになるのかもしれない。
 いずれにせよ、人々の命とくらしをないがしろにして東京オリ・パラ開催を最優先させる菅義偉自公政権を終わらせなければならない。東京オリ・パラ反対運動を粘り強く推し進めよう。
       (高松竜二)

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