東京都議選の結果と課題

野党共闘と大衆運動の力で自民党政治と対決
する鮮明なオルタナティブを打ち立てよう
コロナ五輪を中止しろ!

自民惨敗と都民フの善戦

 7月4日に実施された東京都議会議員選挙(定数127)の結果は「自民党の惨敗と都民ファーストの会の善戦」と言ってもいいだろう。今回の選挙で都議会の勢力は、都民フ31(選挙前45)、自民33(25)、公明23(23)、共産19(18)、立憲15(8)、維新1(1)、ネット1(1)、無所属4(5)となった。自民、公明を合わせても56議席にとどまり、当初は確実と言われていた過半数の64議席に大きく届かなかった。公明党は候補者全員の当選を果たしたが、自民党は候補者60人を立てたがその半数近くが落選している。
 数字の上では自民党は25議席から33議席に伸ばしてはいるが、前回の選挙(17年)では都民ファーストの会に多くの票が流れたことで、13年に獲得した59議席から23議席にまで激減させるという歴史的な大敗北を喫していたのである。今回の33議席は、前回に次ぐ史上2番目に低い獲得議席なのだ(09年の選挙では民主党の大躍進によって大敗北しているが、それでも自民党は38議席を獲得している)。
 今回の投票率は42・39%で、これは97年の40・80%に次ぐ過去2番目の低さだった。コロナ感染を憂慮して、投票所に行けなかった高齢者なども少なくなかったと思われる。そして投票率が下がれば、比較的安定的な組織票のある自民、公明、共産が有利だといわれてきたが、自民党にはその作用が働かなかったのである。それにはいくつかのことが考えられる。ひとつは、これまでの自民党支持者が投票に向かわなかったこと。2つめは、1~2人区で荒川区を除いて候補者を立てていない公明党支持者が、自民党に投票していないか、投票そのものをしていないこと。3つめは、無党派層の浮動票が自民党に流れなかったことだ。
 主要各政党の得票率は、自民25・69%(前回22・53)、都民フ22・28%(33・68)、公明13・58%(ほぼ同)、共産13・57%(ほぼ同)、立憲12・34%(民進で6・90)だった。また投票した有権者1万7千人余りを対象にしたインターネット調査によると、無党派層は全体の約3分の1でその内、投票した政党は都民フ27%、自民18%、立憲15%、共産14%の順だった。そして自民票の67%は支持層からで、都民フへの5割強は都民フ支持ではない層からのものだった。さらに東京オリ・パラ賛成は全体の37%で、そのうち自民に投票したのが41%。反対は全体は56%で、投票先は都民フ23%、自民18%、共産18%、立憲17%…の順であった。
 次に各選挙区の状況を見てみることにしよう。まずは7つの1人区だ。自民党の特等席となってきた島部を除く6選挙区では、自民が獲得したのは中央区の1議席にとどまった。残りは都民フが3、野党共闘派が2(武蔵野市・立憲、小金井市・漢人明子さん・無所属)だった。1人区が世論を最もストレートに表現するといわれている。まさに1人区の結果は自民党惨敗の縮図となった。
 14ある2人区では、11の選挙区で野党共闘が成立し、その内の7選挙区で当選している(共産が文京・日野市・北多摩4、立憲が渋谷・立川市・三鷹市、ネットが北多摩2)。野党共闘が成立しなかった港・西東京市・南多摩では共産と立憲の票を単純に合計すれば当選しているのだが共倒れしている。7つある3人区では、4つの選挙区で野党共闘が成立し、中野(立憲)、豊島・北(共産)で当選した。また野党共闘が成立しなかった目黒では立憲が、北多摩1では共産が当選者を出している。今回の選挙で野党共闘が成立した20の選挙区の内、12選挙区で当選している。
 主要5政党のつばぜり合いとなる5つの4人区では、品川を除く4つの選挙区で立憲が落選している。立憲は5人区の江戸川、6人区の足立でも落選しているが、最大8人区の世田谷では2人が当選している。7人区、練馬の池尻成二候補(無所属)は、残念ながら次点に終わった。

菅義偉の命運はつきた

 それぞれの地域においてはどぶ板的な課題も多々あるだろうが、今回の都議会選における最大の焦点は、菅義偉政権と東京都のコロナ感染症対策に対する評価と、コロナパンデミックの下で開催されようとしている東京オリ・パラへの態度表明だった。そして11月までには実施しなければならない総選挙(10月21日、任期満了)に向けた菅政権の腹の内は、有権者に完全に見透かされていた。「東京五輪をできうる限り盛り上げて、メダルラッシュで国民の心を奪い、ワクチン接種の拡大で安心させれば総選挙は勝てる」というのが、政権の楽観主義的なシナリオだった。しかし最大の問題は、そうしたシナリオを描く菅義偉政権を国民の多くが、もはや信頼していないということだった。菅義偉首相が「安全・安心」と何十回繰り返しても、それを真に受けて信用する人は皆無なのである。
 子供たちが楽しみにしていた運動会や修学旅行などが次々と中止されるなかで、なぜ東京オリ・パラだけは実施されるのか。コロナパンデミックが治まるめども立たないうちに、従来株の2倍の感染力を持つインド株の拡大が問題視されている中で、どうして国民を危険にさらそうとするのか。ワクチン接種がオリ・パラ開催までに間に合わないことは多くの人々がわかっているし、若い人たちはそれこそいつ順番が回ってくるのかさえ見えていない。「1回打っておけば安心」という嘘は、今や小学生にもバレバレだ。そしてその頼みの綱のワクチンも、在庫がつきて「玉切れ」の大混乱を引き起こしている。こうして「愚民政治家」菅義偉の命運はもはやつきているのである。
 東京五輪を何としてもごり押しするために「私は前回の東京五輪で女子バレーとアベベに感動しました」などと言い始める一国の指導者であるべき首相を目にしたとき、多くの国民はあきれ顔でこう思ったに違いない。「こんな奴に命とくらしを預けるわけにはいかない」「こんな奴に殺されてたまるか」「こんな奴に未来を託すわけにはいかない」と。

政府と専門家との対立

 今回の都議選で菅政権のコロナ感染症対策と東京オリ・パラ強行開催に対する反発の受け皿となったのが都民ファーストの会だった。小池都知事は今回の都議選を前にして、都民フへの支持をあいまいにしたまま、6月25日の告示を直前に控えた6月22日に「過労のため」と緊急入院している。そして投票日の前日には都民フ陣営の20カ所を回って候補者を応援するという、小池お得意の「劇場型パフォーマンス」を行っている。都民フに票が流れたのは「小池への同情票」「小池効果」などとも言われているが、果たしてそれだけだったのだろうか。
 当初、6月20日までとされていた東京圏での緊急事態宣言とまん延防止措置は、東京圏で顕著になった感染者の増加を理由に、7月11日まで延期されることになった。5月中旬ごろから本格的に実施され始めた高齢者を対象としたワクチン接種は、菅首相の「1日100万回」の号令を受けて、ある種無政府的に接種会場が増やされることで、それまでの各自治体を単位とした計画的な接種という方針はなし崩しにされた。ここには菅義偉の安易な思惑があった。それは、五輪と総選挙までにワクチン接種は終われないのだから、高齢者にだけでなく、あらゆる年齢の人も接種可能だという「安心効果をパフォーマンス」するというものであった。「ワクチンあるからもう大丈夫。国民の皆さん!安心してください」…そしてこのワクチン至上主義・ワクチン「一本勝負」が、東京圏での感染者再拡大の引き金となったのである。
 そして東京オリ・パラのタイムリミットが近づくなかで、6月2日の国会での尾身発言は、コロナ感染症対策をめぐって初めての政府と感染症専門家との対立関係を作り出すことになった。「新型コロナウイルス感染症対策分科会」の尾身茂会長の「コロナパンデミックで五輪をやるのは普通はない」とする発言は、感染症専門家のまさに本音であった。その後6月18日になってから、政府に提出された尾身ら有志による提言では、大会の是非には触れずに「無観客開催が最もリスクが少ない」とする内容だった。しかし菅政権はこの専門家の提言を無視して、6月21日に開かれた5者協議で観客上限(定員の50%以内で最大1万人)を決定し、さらに「学校連携観戦チケット」とIOCなどの「関係者」は「別枠」としたのであった。五輪をごり押しする政府と専門家との対立が、五輪開催を直前にして初めて鮮明になったのであった。そしてこの対立が、そのまま世論に反映されることになったのである。
 6月19日に毎日新聞と社会調査研究センターによって実施された全国世論調査では、「政府案は妥当」が22%、「無観客」が31%、「再延期」が12%、「中止」が30%だった。今回の都議選で「中止」を主張したのが共産、ネット、れいわで、立憲の態度は曖昧だった。そして開催を前提に「無観客」を主張したのが都民フであった。「尾身さんら専門家がそういってるじゃないですか」という訴えは、現実的な説得力を持ったのである。
 まさに、目先の利益しか見ようとせず、国民などいくらでもだませると思い込んできた菅義偉という無能な「愚民政治家」の失政と失策によって、都民ファーストの会の善戦がもたらされたのである。そしてそこに昨年夏に実施された都知事選で、歴代2位となる366万票を獲得した「小池人気」がミックスされたのであった。

菅愚民政治を倒そう


 今回の都議選からいくつかの教訓と課題が明らかになった。まずは7つの1人区と14ある2人区のトップ当選者を見てみると、自民が5、都民フが6、野党共闘が8、公明が1、無所属が1だった。小池人気と都民フという特殊な選挙事情はあるものの、立憲と共産を基軸とする選挙戦術としての野党共闘の有効性が立証されたのである。しかしこうした傾向は、今回の都議会選に限ったことではない。菅政権になってから自民党は主要選挙で野党共闘候補に全敗しているからだ(1月の山形知事選、3月の千葉知事選、4月の3つの区の国会議員補選、6月の静岡知事選)。
 自民党の中では「菅で総選挙を戦えるのか」という声は当然のように上がっている。しかし次のこれといった顔が定まっているわけではない。そうなると当面は、五輪でのメダルラッシュとワクチン接種の拡大によってどの程度、内閣と党の支持率を上げられるのか見極める以外にない。いずれにせよ解散権は首相である菅義偉が握っている。そして愚民政治家の菅義偉は「ワクチン一本勝負」に賭けている。
 小池都知事の動向も気になるところだ。小池は4年前の都議選で都民ファーストの会を旗揚げして、選挙に圧勝している。そしてその後、民進党の解体とセットで「希望の党」を旗揚げして国政に乗り出したが失敗している。秋の総選挙で考えられることは、かつて大阪維新の会がそうしたように、都民ファーストの会として東京選挙区に自身を含めた候補者を立てるというシナリオだ。もちろん国会では過半数に届かない自公と連立して、首相の座を狙ってくることになるだろう。
 しかし最大の課題は、労働者・市民と社会的弱者によって支えられた野党共闘の力で、無能で無責任な菅義偉愚民政権を本気で倒せるのかどうなのかということである。内閣支持率が下がっても立憲・共産などの野党支持率が上がらないのは、野党、あるいは野党共闘に自民党政治に対するオルタナティブを感じないからである。09年の総選挙で政権を奪取した民主党は、当時「コンクリートから人」の政治を打ち出して、「本当に政治が変わるのかもしれない」という期待を集めた。
 私たちは残念ながら、ペテンと言い訳の山を築いた安倍前政権を倒すことができなかった。しかしコロナパンデミックという厳しい状況ではあるが、自民党支持者からも見捨てられようとしている菅愚民政権を倒せずして、何を倒せるといえるのだろうか。エコ社会の実現も、消費税廃止など不公平税制の改革も、難民や移民に対する人権保障も、性平等の実現も、弱者にやさしい政治も、そして平和なアジアの実現も、菅義偉愚民政権を倒さなければ始まらないのである。鮮明なオルタナティブを打ち立てよう。  (高松竜二)

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