東京都議選の結果と課題 18歳からの都議会議員選挙

18歳からの都議会議員選挙 なぜ6割の人が投票に行かないのか?
新自由主義に代わる新しい社会のビジョンを
都立・公社病院の独法化をストップさせよう

あまりにも低かった投票率

 選挙後の7月8日。東京都での感染の急拡大を受け、菅首相は4回目となる緊急事態宣言を東京都に出すことを表明しました。宣言発出に伴い一都三県、福島、北海道は無観客開催となりました。宣言期間は8月22日までとなり、宣言下での五輪という異常事態です。
 都議選の結果はどうだったのでしょうか。マスコミでは、選挙前の予測より自民党が伸びなかったこと、都ファの議席減が予想ほどでなかったことから「勝者のない選挙」と言われています。政権与党の自公が過半数を取れなかったのは、菅政権に対する一定の批判です。しかし自公と都ファで過半数の87議席を占め、共に五輪強行で、都立・公社病院独法化推進です。ですから、命を守る政治への転換という点では不十分な結果でした。しかし今回の都議選の特徴はそんなところにはありません。
 42・39%。あまりにも低いこの投票率が今回の都議選の特徴です。なぜなのでしょうか。命のかかった選挙、というような切迫感は多くの都民に共有されることはなかったのでしょうか。何しろ6割の有権者が投票を棄権したのです。都民の多くはコロナ禍の五輪強行に危機意識をもっていなかったのでしょうか。

政治に対する無力感


 私たちが投票を呼び掛けた、五輪中止を公約として掲げた共産党は18から19議席になりました。立憲民主党は7議席から15議席へと議席を伸ばしました。共産と立憲の議席を足すと臨時議会の招集を請求できる4分の1を越しています。これは、都議会を開かず専決処分を乱発する小池都知事に対して一定の抑止力になる可能性があります。
 共産党の「しんぶん赤旗」は7月7日付で「『五輪ノー』の民意は鮮明」と論評しました。確かに毎日新聞等が行った投票を終えた有権者へのアンケートでは、五輪反対が56%。賛成の37%を大きく引き離しています。ただし「投票を終えた」というところがポイントです。投票率が42・39%ですから、五輪反対を投票行動で示したのは有権者のおおよそ24%ということになります。それ以前の世論調査では、五輪中止が40%程度ありました。つまり共産党が言うように「『五輪ノー』の民意は鮮明」なのですが、それを選挙権の行使で主張した人は半分程度しかいなかったということになります。ここが、今回の都議選を振り返る大きなポイントです。つまり、感染下での五輪強行という命に関わる問題にも関わらず、有権者の半数が「清き一票」の力を行使しようと思わなかったのです。このような有権者の選挙離れのような事態の原因は、「野党がだらしないからだ」という意見があります。都政に不満を持っていても、その不満を託せる先がないから投票しない人が増えるというわけです。
 100パーセント一致していなくても、とにかく五輪に反対する政党に投票しようと過半数の人は考えなかったのです。では、私たちの望みを託せるような政党が、ある日突然現れるのでしょうか。そんなことはありません。今回、投票に行かなかった6割の人の気分は、「気に入った候補者がなかったから」という感じなんでしょう。まるで、気に入ったTシャツがなかったから何も買わずに帰ってきたというみたいに。これは、政治に対する姿勢が有権者ではなく、与えられた商品から気に入ったものを選ばされる消費者なのです。だから「白票も意思表示」みたいな、意見が一定支持されてしまいます。つまり「白票」は商品に対する不買運動です。しかし選挙は商品ではなく、不買運動は無効です。政治に対して有権者、「かけはし」的に言えば労働者階級として、臨むのではなく、消費者として臨んだ結果が今回の42・39%の投票率です。今回の都議選で、多くの都民は受動的な消費者として選挙に臨み、気に入った商品(候補者)がなかったから何も買わなかった(投票しなかった)のです。政治に対する圧倒的な無力感がそこにはあります。

新自由主義を終らせよう

 「気に入った投票先もないしどうせ変わらない」という、労働者階級の無力感は、80年代から世界的レベルで始まった新自由主義との闘いに負けた結果です。以降、新自由主義に代わるビジョンを労働者階級が共有できない状態が続いています。
 新自由主義は、緊縮財政、民営化、規制緩和をスローガンに、国や自治体が提供していた公共サービスを次々と民営化しました。その過程で、人々が共同して行動することを徹底的に貶めてきました。ですがここで批判され、ないがしろにされたのは、資本家階級の共同行動ではなく、労働者階級の共同行動でした。その結果、労働組合は弱体化し、自己責任論を強制され労働者はバラバラにされ、労働者階級の利益を代表するはずの政党は没落・変質してしまいました。
 日本でも、国鉄が分割民営化されJRとなり、郵政民営化により郵便局が民営化され労働組合は大きく力を落としました。この過程で社会党という労働組合に依拠していた労働者政党が分解してしまいました。その結果、日本では労働者階級の運動・文化が非常に弱体化しました。マスコミに出てくるコメンテーターで、労働者階級の声を代弁する人はほとんどいません。とりわけ、女性労働者の声は全く取り上げられません。
 自粛の影響でサービス業が大打撃を受けるなか、女性の自殺者が12カ月連続で増え続けています。6月、全国で自殺した人は1745人、昨年の同じ月に比べて11%もの増です、男性は7・4%の増でしたが、女性の増加率は18・4%にも至っています。マスコミは、自殺予防に取り組んでいるNPOの連絡先を紹介しています。
 しかし急上昇している女性の自殺の背景には、女性労働者の55・5%が不安定な非正規であること、男性労働者の給与水準を100としたとき、女性労働者の給与水準は73・4しかないこと、権利であるはずの生活保護が機能していないことなどは報道されないのです。つまり労働者がバラバラにされてしまった結果が、女性の自殺の増加なのです。
 しかし日本では未だに新自由主義の勢いが止まる気配がありません。世界中で失敗が続いているにもかかわらず宮城県では水道の民営化が決定されてしまいました。コロナ禍で明らかなように日本でも新自由主義の政治は完全に行き詰っています。しかし行き詰っていたとしても、誰かが退場させないと新自由主義の潮流は、いつまでも政治の真ん中に居座り続けるのです。
 慶応大学の濱岡教授は、自治体のコロナ対策を科学的に評価した論文を公表しました。ワースト1は大阪、2が東京です。しかし、小池都知事は今回の都議選で評価を上げ、都民ファは一定の評価を有権者から受けました。どんなに間違った、命を粗末にする政治を行っても、誰かが退場を宣告しなければ新自由主義の政治は終わらないのです。
 都民ファや自公を退場させるのは誰か。それは労働者階級の運動しかありません。今は瀕死の労働者階級の運動ですが、その秘められた力は、皆さん青年世代の中に必ずあるのです。その力を覚醒させるのは、新自由主義に代わる新しい社会のビジョンです。
 新しい社会のビジョンは、現在の新自由主義的資本主義の改良、「よりまし資本主義」ではありません。毎年ひどくなる気候の壊れ方を見れば、現実的に見える小手先の改良や「市場ベースでの解決策」ではうまくいかないことは明らかです。抜本的な変革が必要です。五輪を強行するのは、感染を拡大させたのは、女性労働者を低賃金でこき使うのは、気候を壊しているのは、同じ新自由主義の政治で、これらの危機はつながっています。ですから、運動の側もつながっていかなければなりません。
 つながるキーワードはSDGsなどではありません。それは、エコロジー、フェミニズムそして社会主義です。例えば一部の民間保育園では、安い保育を追求したために深刻な問題が起きています。これも規制緩和の結果です。だからもう一度規制をかけましょう。
 ただし規制は労働者階級の立場から掛けるのです。まず保育士の賃金を引き上げて、労働時間の上限も決めて、保育士の定数配置も引き上げるように規制をかけ、そして保育園も増設しましょう。そのための資金は富裕層や大企業からの増税で賄いましょう。富裕層や大企業がたくさんの富を蓄えているのは、労働者の取り分から不当にかすめ取ってきたからです。その分を累進課税の強化で払ってもらいましょう。
 給食を地元の農家の無農薬野菜で賄えばどうでしょう。子どもたちが手にするおもちゃや絵本も必要です。それを地元の商店から購入するのはどうでしょう。こうして、保育が産業として盛り上がれば沢山の雇用が生まれます。
 しかも保育が急成長したからといって、二酸化炭素の排出量が急増するようなことはありません。ケア産業は低炭素なのです。社会全般にわたってこのような新しいビジョンが必要とされています。そしてこのようなビジョンは労働者階級の運動からしか生まれませんし、富裕層や大企業に税負担を強制できるのも労働者階級だけなのです。

9月都議会に向けて

 流行の第5波が始まっています。無観客でも開催が強行されれば、関係者等の人流増は避けられません。このままでは、医療崩壊に陥り命が失われます。ですから開催が強行されたとしても、私たちはブレーキをかけるため声を上げ続けましょう。選挙だけで、その後4年間の都政が決まるわけではありません。都議会の論戦に注目しましょう。9月都議会には、都立・公社病院の独法化条例が提出されます。デモに参加しデモを呼びかけること、SNSで発信することを続けよう。      (矢野薫)

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