自民党総裁選と総選挙情勢 ②(9月13日号)

本気で「権力」を取りに行く野党共闘を準備しよう
自公政権を今こそ倒そう!

 自民党総裁選での「菅続投」の可能性は消された。この状況の中で、自民党内の抗争・混乱に「高みの見物」を決め込んでいる野党の無責任を超えて、労働者・市民は今こそ自公政権を倒す闘いに踏み込まなければならない。長期に及ぶ自公政権を打倒するために労働者・市民の総力を上げよう。

「悪いのはすべてコロナだ」

 自民党総裁選の告示を2週間後に控えた9月3日午後、菅義偉首相は急きょ記者会見を開き、「次期総裁選に出馬しない」と退陣を表明した。菅義偉首相は退陣表明の直前まで、総裁選告示前の衆院解散・総選挙の実施や、二階幹事長の解任を目玉とする内閣人事の刷新などをぶち上げたが、自民党内の反発はさらに強まるばかりであった。そして万策つきた菅義偉は、ついに白旗を上げるしかなかったのであった。昨年の9月にコロナ感染症対策と首相官邸の空洞化によって政権を投げ出した安倍晋三からバトンを受けた菅義偉政権は、1年間の短命政権として幕を下ろすこととなった。
 1年前の自民党総裁選では岸田と石破を相手にして、最大派閥の細田派、麻生派、竹下派、二階派、そして石原派の支持を受けて圧勝した菅義偉だったが、その後の1年は最初から最後までコロナに翻弄され続けることになった。「コロナに打ち勝つ」どころか、この見えない敵は思っていたよりもしたたかな奴で、鎮静化させたのかと思っていても次から次へと感染力を強めて襲いかかってくる。人類の側からゲームオーバーができない以上、いつ終わるとも分からないゲームをやり続けなければならないのである。人類の側は「最終兵器」としてのワクチンをもって対抗しているが、これがどこまで通用するのかも分からないのだ。
 菅義偉首相は自民党政権として決して誤った政策を実施してきたわけではなかった。自民党の方針は、第1に、コロナ感染症対策と経済循環政策を合わせて実施することをめざしていた。その典型と言えるのが菅義偉が官房長官の時に打ち出したGoToトラベルだった。緊急事態宣言なども極力控えて、飲食業や交通・旅行関係業、デパートや小売業などに与える打撃を抑えようとした。第2に、安倍政権のレガシーでもあり、1年間の延期となった東京オリ・パラを是が非でも観客動員で盛り立てて成功させることである。そしてその上で、最後の締めくくりとして9月の総選挙で勝利すること。自民党はこのようなシナリオを描いていたのである。
 菅義偉政権はまさにこれを忠実に執行しようとしただけであった。感染症対策の専門家に批判されようが、人々の冷めた視線を浴びようがである。「だって自民党の方針なんだから」と、ほとんど言い訳することなく開き直ってきたのである。自民党内からも野党からもマスコミからも、首相は「説明責任を果たしてこなかった」という批判が飛び交っている。しかし菅義偉にしてみれば、説明する必要などなかったのである。「だって自民党の方針なんだから」、誰がやったって同じようにしかならなかったのではないのか! そうだろう、たまたまそれが俺だったということ…悪いのはすべてコロナで、俺には運がなかっただけだ。「文句あるか」…。

「大衆は愚かな人々」

 7年9カ月の長きにわたった官房長官職で身につけたのかは分からないが、菅義偉は官僚や政治家に対して人事権を振りかざして支配するという手法にどっぷりとはまり込んできた。首相就任早々、最初にバッサリとやられたのが日本学術会議だった。日本学術会議は「定員プラス数人」の名簿提出を要求していた菅官房長官に逆らって、「定員分」のみの名簿を提出していた。しかし当時の安倍首相は政治問題化することを避けようとして、学術会議に対する処分に「待った」をかけて、棚上げにしていたのだろう。菅義偉は首相に就任するやいなやこの封印を解いて、「6人の任命拒否」という弾圧処分を実施したのであった。これは官房長官として残していた宿題を片付けるのと同時に、首相になっても変わることなく人事権を行使しますよと、霞が関と自民党内ににらみを利かせようとするものであった。菅義偉にとっては「やるべきことをやっただけ」であり、説明も釈明も不要であり、それには何の意味も持たないのである。
 しかしこうした手法が菅義偉政権の最大の弱みとなったのも確かである。菅義偉は就任してから常に次期総裁選での再任を念頭に置いてきた。そしてその視線は一貫して自民党派閥の動静や幹部に、そして霞が関官僚に向けられてきたのである。コロナ感染症によって命と健康を脅かされて、暮らしもままならなくなっている民・大衆の方に向かって、菅義偉の視線が向けられることはなかったのだ。
 その端的な例が、官僚から手渡された原稿の棒読みであり、「安全・安心」と何の根拠もないまま繰り返したり、原稿の飛ばし読みも気づかなかったり…挙げればキリがないほどである。菅義偉にとっての民・大衆は、横浜時代から自民党政治をいやというほど見てきて、カネまみれで私利私欲のどうしようもない政治家に群がる愚かな人々として見えていたのかもしれない。だからプレミア付きのGoToトラベルや携帯電話料金の値下げなど、「エサ」を撒けば何とでもなると考えてきたのだろう。しかし自分自身もまた「私利私欲のどうしようもない政治家」になっていることには気がついていないようだ。それが致命的なのである。

菅の顔は消えたが

 「菅では選挙は戦えない」。菅義偉政権にとって総選挙を控えた7月の東京都議選と、地元での横浜市長選の敗北は決定的であった。安倍晋三は森・加計問題や桜を見る会の問題で、「政権の私物化だ」と野党やマスコミから攻め立てられながらも、見え透いたウソと言い訳で煙に巻いて選挙も乗り切ってきた。しかしコロナ事態は、ウソと言い訳でどうこうなるという問題ではない。何よりも人々の命と健康と生活と未来に大きな影響を与える事態だからだ。菅義偉政権の失敗も、今後どのように推移するのかすら見通せないコロナ事態を、あまりにもご都合主義的に楽観視してきたからに他ならない。党首の顔だけ変えさえすれば、どうこうなるという問題ではないのだ。問われているのは人々の命と生活を守るための具体的で即効的な方針であり、合わせて中・長期的な感染症対策と生活支援のための方針を練り上げることなのである。
 多くの自民党員が望んでいたように、菅義偉の顔は総裁選レースから消えた。しかし一方で、安倍と麻生が担ぎ上げた岸田の顔が一気に薄らぎだしている。岸田はもともと「頼りない」と言われてきた人物だし、19年7月の参院選広島選挙区での大規模買収事件(河合夫妻選挙違反事件)のカネ(1億5000万円)の流れが明らかにされているわけでもない。広島県議ら100人が現金を受領しているが、一律で不起訴になっている。自民党は相変わらず「政治とカネ」の問題を甘く見ているのだろうか。そして当の岸田も出だしからその頼りなさをさらけ出している。岸田が主張しているのは「感染症対策庁の設立と飲み薬の開発」のようだ。問われていることがまったく分かっていない。庁を作ることではなく方針の中身が問われているのであり、インフルエンザの薬も作れない現状を全く理解していない。これが岸田の頼りなく情けない姿なのである。
 こうした岸田を目にして、「やっぱりダメか」と担ぎ上げておいて早々にはしごを外したのが安倍晋三だ。安倍は極右のお友達である高市を推し始めている。河野家として初の首相を狙うワクチン太郎は、麻生の反対を押し切って手を上げた。「自民党総裁にふさわしい政治家」の世論調査(毎日新聞)で第1位になった石破も鼻息を荒くしている。

自民党の大攻勢を前にして


 パラリンピックが終了する9月5日以降の自民党の政治日程は、マスコミをフル動員して9月29日の総裁選に人々の関心を集中させる。9月末に大量入荷が予定されているワクチン接種の選挙前ラストスパートキャンペーンを展開する。新総裁が10月上旬以降に臨時国会を召集して首相指名、その後の組閣後に衆院解散か、10月21日の任期満了に伴う総選挙ということになる。自公政府としてはできるだけワクチンを打ちまくって、コロナ感染者数を激減させて、有権者に安心感を与えたいはずなので、任期満了まで引っ張って投票日を11月21日か28日に持ってくる可能性が高い。公明党の山口代表も7月末に「なるべく遅い時期に」と注文を付けている。それはワクチン接種の拡大と感染収束に道筋を立てなければ危ういと考えているからに他ならない。また公明党の幹部からも、投票日が11月28日になっても「任期満了なのだから仕方がない」ということになるという主張も出ている。
 自民党は新総裁の下で大量のワクチンを武器に、2カ月間の大攻勢に出てこようとしている。野党と野党共闘はこの大攻勢にどのように立ち向かうことができるのだろうか。内閣支持率が落ちてもなぜ野党各党の支持率が上がらないのだろうか。自民党に対して不平・不満を吐くレベルを脱して、野党と野党共闘は本気で権力を取りに行こうとするのかどうか。この本気度を示せなければ、労働者・市民からの共感を引き出すことはできないだろうし、そうした生きた力を総結集できなければ自公政権に勝つことはできないだろう。
       (高松竜二)
 

THE YOUTH FRONT(青年戦線)

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