自民党総裁選と総選挙情勢 ③

今こそ自公政権打倒を
社会的弱者のための政府樹立を
生活を守り憲法破壊の政治を変えよう

 いよいよ長期にわたる自公政権を倒す総選挙へのシナリオが明らかになろうとしている。コロナ危機の中で、自公の改憲政治を打ちやぷり、労働者・市民の生活と権利を守り、発展させ、沖縄の人びとと共に東アジアの平和を作り出そうとする政治への根本的転換に踏み出そう。

「河野なら勝てるかも」?

 自民党の次期総裁をめぐる選挙ショーが、列島を縦断する台風ニュースに負けないくらいの勢いで連日マスコミをにぎわしている。9月17日の告示日には前日までに出馬を表明していた4人が正式に立候補した。党内極右の代表として安倍晋三が後押しする高市早苗が、現在の党内派閥関係の現状維持派として岸田文雄が、脱原発などを主張してきた党内異端派として河野太郎が、そして党内リベラル派として多様性を認める保守を主張する野田聖子の4人である。
 菅義偉政権の不人気で内閣支持率を30%以下にまで落としてしまった自民党にとっては、この4人のキャラクターによる「論戦」は総裁選挙ショーを盛り立てるのにはもってこいなのではないだろうか。しかしこの総裁選挙ショーは、11月に実施される総選挙を意識しながらも、まぎれもない権力闘争なのである。1回目の投票(国会議員票382票と全国党員票382票)で過半数を獲得して河野太郎が勝つのか、それとも決選投票(国会議員票382票と全国党員票47票)に持ち込んで岸田文雄が逆転勝利するのか、まさにそのような展開になっていくことだろう。
 河野陣営には勝利が見込めないと立候補を断念した石破茂と、小泉進次郎そして菅義偉首相が付いた。この大衆人気の高い3人のブロックのことを、マスコミは「小石河」連合と呼んでいるようだが、自民党の各派閥の重鎮らから河野は、異端児として相当に警戒されている。安倍も麻生も「口先だけの目立ちたがり屋で、責任も取らない河野はダメだ」と評価している。もともとは河野洋平(太郎の父)が作った河野派が母体となっている麻生派は、自派から立候補した河野と岸田を派閥の支持対象としたが、高市を支持しても黙認するとしている。河野がどれだけ麻生に嫌われているのかということがわかる。また河野が首相になれば、エネルギー問題や家族制度問題、LGBTなどの問題で党内対立が激化して、来年7月の参院選まで自民党が持たないのではないかと懸念する声も上がっている。
 河野太郎が嫌われる理由はそういったことからだけではない。祖父である一郎と父親である洋平が果たせなかった権力の頂点に立つということを、河野家として一身に背負ってきた野心を隠さないからでもある。要するに太郎にとって河野家は、自民党よりも上に位置しているのである。
 河野洋平は田中角栄首相が逮捕されたロッキード事件の後、自民党を離党して1976年に新自由クラブを結成して党首となり、86年に解党してから自民党に復党して、93年には自民党総裁に就任している。しかしその当時は自民・社会・さきがけの3党連立で多数派政権を組んだこともあり、首相は社会党から村山富市を出したために洋平は自民党総裁でありながら、副総理兼外相の地位にとどまったのであった。また洋平は93年の「河野談話」として知られているように「軍隊慰安婦への強制性があった」ことを認めて、当時の韓国ノ・テウ政権に謝罪している。このことも安倍をはじめとする自民党内極右にとっては「河野家を許せない」理由なのである。
 しかしその一方で、パッとしなくて頼りなく、地元の広島での河合夫妻選挙違反事件の後始末も付けていないのが岸田だ。政治とカネの問題もあり「岸田で次の選挙を戦えるのか」という不安も付きまとっているのである。そういうこともあって岸田派以外の6派閥は支持を一本化できずにいる。そしてそうした不安は、比較的選挙地盤が弱い中堅・若手議員の中で渦巻いている。選挙で落選すれば「タダの人」になってしまうからだ。こうした中で、各派閥を超えて約90人が参加する「党風一新の会」は9月14日、二階幹事長に対して「派閥の一任ではなく自分の判断で投票できる環境を作ってほしい」と要請している。それは裏を返せば「河野なら選挙に勝てるかもしれない」と考えているということだ。
 河野太郎が1回目の投票で勝利するためには、国会議員票の4割(153)以上と全国党員票の6割(230)以上を獲得しなければならない。派閥の締め付けが強まる決選投票になれば、相当数の派閥造反者が出ない限り河野の勝ちはないだろう。9月29日、自民党はどのような選択をするのだろうか。党内派閥体制の安定のために岸田を選択するのか、それとも河野選択という博打に出るのか。どちらにせよ私たちは、野党共闘をテコにして労働者と市民の総力で自公政権を倒しに行くしかないのだ。

市民連合と4野党合意

 11月にも実施されようとしている総選挙に向けて、野党共闘を支援する「市民連合」と立憲、共産、社民、れいわの野党4党は9月8日、6つの項目として整理された「命を守るために政治の転換を―衆議院総選挙における野党共通政策の提言」で合意した。
 合意した提言は
 ①「憲法に基づく政治の回復」では、安保法制、特定秘密保護法、共謀罪法などの法律の違憲部分の廃止と憲法改悪反対・アジアでの外交努力による平和創出・核兵器禁止条約の批准・辺野古新基地建設の中止。 
 ②「科学的知見に基づく新型コロナウイルス対策の強化」では、医療費削減政策を転換して医療、公衆衛生の整備と拡充・医療従事者などへの待遇改善・万全の財政による救済支援。  ③「格差と貧困を是正する」では、最低賃金の引き上げ・ワーキングプアをなくす・住宅、教育、医療、保育、介護への公的支援の拡充・子育て世代や若者への社会的投資の充実・税制および社会保険料負担の見直し・消費税の減税・カネ持ち増税で公平な税制の実現。
 ④「地球環境を守るエネルギー転換と地域分散型経済システムへの移行」では、再生可能エネルギーの拡充・石炭火力からの脱却・原発のない脱炭素社会の実現・エネルギー転換による新たな産業の育成・自然災害から命とくらしを守る政治の実現・農林水産業支援で食料安全保障の確保。  ⑤「ジェンダー視点に基づいた自由で公平な社会の実現」では、あらゆる差別を許さないために、選択的夫婦別姓制度やLGBT平等法などの成立・性暴力根絶のための法整備・家族制度、雇用制度の法律見直し・議員間男女同数化の推進。
 ⑥「権力の私物化を許さず、公平で透明な行政を実現する」では、森友、加計問題、桜を見る会疑惑などの真相究明・日本学術会議の6人の会員任命・内閣人事局の見直し。
 以上のような骨子からなっている。
 今回の会合に4野党からは、立憲の枝野幸男代表、福山哲郎幹事長、共産の志位和夫委員長、小池晃書記局長、社民の福島瑞穂党首、服部良一幹事長、れいわ新選組の山本太郎代表が参加した。市民連合からは、福山真劫、山口二郎、川原茂雄、磯貝潤子、町田ひろみ、高田健、中野晃一、広瀬清吾ら運営委員が参加した。

消費税減税飲めるのか


 野党と市民の共闘は、安保法制などの戦争と弾圧のための立法に反対する「反安倍」共闘として成立し、その闘いのメインは「9条改憲阻止」に置かれてきた。そしてその後の共闘関係を通して、様々な課題を共有しながら維持され発展してきた。昨年の年初以降は、新型コロナパンデミックという厳しい状況のなかで、運動と結集の広がりを作るうえでの困難に直面してきた。
 今回の野党共闘には山本れいわが初参加している。れいわは昨年の1月31日に選挙方針を発表していた。それによると「次期衆院選で他の野党と消費税5%への減税を共通政策にできない場合、独自で100~131選挙区(首都圏を中心)に候補を擁立する」「減税を共通政策にできた場合は、野党と共闘して選挙に挑み、政権交代をめざす」としていた。そして昨年7月に実施された東京都知事選においても、山本は立憲から野党統一候補としての出馬を要請されたが、共闘条件としてきた「消費税の5%減税」を立憲が飲まなかったことを理由に統一候補としての出馬を拒否している。
 前回の参院選では重度の障がい者2名を当選させて注目を集めたり、独自に出馬した都知事選でも10・7%得票してきた山本れいわの勢いは現在、完全に陰りを見せている。今年の7月に実施された都議会議員選挙では、れいわはまったくパッとしない存在となってしまった。れいわは人民主義的なポピュリズム政党であり、「組織」のようなものは作らない。そして「消費税の廃止」を最大の目玉とし、「時給1500円」も重要なテーマとして主張している。また共産党は19年の9月に、山本れいわと政策協定を結んでいる。その合意内容は、①両党が野党連合政権をつくるために協力する②安倍9条改憲に反対する③消費税廃止を目標にするなどだ。
 それでは今回の野党共闘は「消費税の5%減税」が本当に4野党にとっての「共通政策」になっているのだろうか。共産党は以前からこのスローガンを掲げてきた。社民党は8月25日に発表した選挙公約の原案では、「消費税3年間ゼロ」を突き出そうとしている。立憲民主党はどうなのだろうか。
 気にかかることは9月14日に立憲が「アベノミクス」を検証する委員会を設置したことである。「格差や貧困を拡大させた問題点を選挙で争点化する」「検証結果を報告して党独自の経済対策に反映される」として、金子勝の講演会を実施している。果たしてこの流れの中から「消費税の5%減税」という結論が出てくるのか疑わしいのだ。立憲は旧民主党政権であった12年に、野田政権として消費税を当時の5%から8%に引き上げることを決定している。それを自民・公明との合意を理由としていたが、それがどれだけ「格差と貧困と不平等を拡大させた」のかということも、合わせて検証する必要があるのではないだろうか。

「消費税の廃止」実現へ

 2020年度の税収は、コロナ事態にもかかわらず過去最大の60・8兆円を記録した。その内訳は消費税が21兆円。所得税が19・2兆円。法人税が11・2兆円だった。19年10月に消費税率が10%に引き上げられたこともあって、消費税が初めて税収のトップとなった。そしてその増加額は、所得税と法人税の増加額を合わせた6倍である。
 また政府の20年度の一般会計歳出は、コロナ対策で膨らみ過去最大の175兆円だった。新規国債発行は112兆円に達している。東京オリ・パラに投じられた税金は、政府と都を合わせて3兆円を超える。
 その一方で、政府によるコロナに関わる医療費の支出は、患者の窓口支払いと医療保険負担分だけだが、1200億円程度しか支出されていない。これは次期戦闘機F35の購入費の10機分にも満たないのである。ここには購入代金が明らかにされていないワクチンとその接種費用は含まれていないが、自公政府がコロナ感染患者と医療現場に対してどれだけ冷ややかだったのかということを物語っている。
 ここで問題になるのは税制が歳入も歳出も含めて、公正に行われているのかどうなのかということである。弱者を切り捨てるような「自助」を強調する政治の下で実施されてきた税制が、社会に深くはびこる不平等を克服することはできない。コロナ事態はそうした「不平等と格差・貧困」の現実を浮き彫りにしたと言わなければならない。
 「消費税とは、いわば人間の生存それ自体を課税の対象としており、絶対に逃れることはできません。まさに『悪魔の仕組み』だといえるでしょう。…税を徴収する政府から見れば…消費税はまさに『打出の小槌』であり、『金の成る木』なのです。…税とは本来、それぞれの人の能力に応じて負担するという、『応能負担原理』に即して課すべきものです。しかし消費税は、本来、税の負担者であってはならない子どもや、収入の少ない生活者からもむしり取るわけですから、税の論理からすれば邪悪そのものと言えるのです」「勤労所得には増税し、不労所得の優遇措置は温存して格差を拡大させている現行の税制は、まさにいまのゆがんだ社会の風潮を映し出しています」(『消費税が国を亡ぼす』富岡幸雄著 文春新書)。
 消費税は「5%減税」を超えて、1日でも早く廃止されなければならない。これまで消費税は「社会保障を担う柱」として使われてきたわけではない。その実態は「法人税と所得税減税分の穴埋め」として使われてきたのである。税金は金持ちと莫大な内部留保金をため込んできた大企業からむしり取らなければならない。また現在、一律20%となっていて、所得格差拡大の最大の原因として指摘されている株などの金融所得税率も全面的に見直されなければならないだろう。合わせて税金を食い物にしている「タックス・イーター」と、それと結託する政治も一掃されなければならない。
 「消費税の減税と廃止」の要求は、「最賃時給、全国一律1500円」のための闘いと合わせて、次期総選挙の重要なテーマとしていく必要がある。社会的な弱者のための政治への転換が求められている。
       (高松竜二)

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