投稿「アベノミクス」の検証を進めよう(下)(10月25日発行)

新自由主義批判のために
林 一朗

4 安倍晋三時代の経済と政治

 ここでは政治的な課題、特定秘密法や集団的自衛権などの問題は語らないが、安倍政権の新自由主義的、グローバルな資本主義を推進した「成果」を確認しておく。公共事業費の削減(インフラ未整備・劣化の放置)、電力・水道の自由化、働き方改革を含む労働規制の改正・緩和、競争原理に基づいた教育・大学改革(科学技術予算の削減)、漁業法や農協法の改正、種子法の廃止、国有林野管理経営法改革、外国人による土地取得の無規制、IR推進法(カジノ法案)の可決、国内労働者低賃金維持のための外国人労働者の受け入れの拡大、そして長期デフレ化での消費税の増税である。ここで一貫しているのはグローバル資本に自国の戦後政治経済政策のなかで築かれてきた「国民の社会的共通資本」を外国企業や民間に売り渡す政策であったということである。
 そして最初の1年を除いてアベノミクス第二の矢である、社会と国民への財政投融資政策は全く実施されることはなく、株式市場や銀行を対象とした金融政策だけであった。要するに金融の供給だけであり、国民の生活向上や社会的需要の喚起のための財政政策はゼロであった。
 つまり安倍政権とは内需を冷え込ませながら外需依存を高め、そのことにより多国籍企業の成長を促しながら、我々国民の間にある格差、つまり東京と地方の格差、中間層の没落と、富裕層と貧困層の格差を戦後最大に広げたのである。
 そして安倍政権は国民に対してはオリンピックの夢と、「民主党時代の悪夢」を刷り込ませ、空虚な「美しい国と素晴らしい日本人」意識を振りまき、アジアの人々を敵対視し、「軍事大国」の夢に酔いしれていたのである。
 国民はと言えば、デフレと「自己責任」に飼いならされ、これ以上の「下層に落ちていくかもしれない」という恐怖におびえながら、「何かを変えて、これ以上悪くなるなら、このままで良い」と思い込まされているのだ。こうして安倍政権にしがみつくしかないと考えさせられてきたのである。そして2項で述べたように貧困にあえぎながらも若者は自民党政権を支持し続けるのである。
 今や日本の非正規労働者は10年前に比べ350万人増え、2000万人を超え、全労働人口の約38%を占めており、年収200万円以下の貧困層も1000万人に達している。
 われわれは安倍政権の本質を単なる政治的評価、「極右政権」とだけの評価で終わらせているのではないのだろうか。2項で述べたように政治的悪夢に振り回される「政治主義の罠」からの脱却が求められているのである。

5 資本主義の限界と崩壊

 さて、日本資本主義を含めたグローバル資本主義に未来はあるのだろうか。マイケル・ハート(政治哲学者・デューク大学教授)によれば資本主義は1970年代にはすでに資本蓄積の危機に直面していた、というのである。それ故、「新自由主義」とは資本蓄積の危機を先延ばしにする、「時間稼ぎ」のための方策であった。そしてこの方策は1%の富裕層とその他の人びとの格差を益々拡大した。
 そして現代のグローバル資本主義は石油化学文明の際限のないグローバル化を推し進め、気候変動や海洋汚染の環境破壊はとどまるところを知らない。
 それではなぜこのようにグローバル資本主義は暴走するのであろうか。
 資本主義企業は歴史的な初期段階においては企業主が経営者であり、資本家であった。しかしグローバルな企業間競争の中で、他企業に対して多くの資本を集めるために企業経営者と資本提供者(株主)は分裂し、企業経営者は常に資本提供者への利益分配、それも短期利益のための「企業経営」が求められてきたのである。資本主義経理は1年ごとに決算報告がされ、現在は、さらに4半期ごとに中間報告がなされている。そのたびに株価が変動し、株主への配当金が変動する。それゆえ、株主はより多くの配当金を求め、短期的、利己的利益を求めていくのである。この世界では、例えば原発経営においては核廃棄物の処理は計算外であり、地球に負荷を与える、石油産業、シェールガス産業、レアメタル、森林伐採は止めることが出来ない状態を作りだしているのである。こうした産業は自然を略奪するだけで莫大な利益を得る事が出来るのである。
 これらは「地球からの略奪」であり、地球からの「採取(搾取)主義」である。
 この短期的利益を追求するグローバル資本は人間と自然(地球)の間に修復できないような関係を作りだしているのである。「これは資本家個々人の道徳が欠如しているがゆえに起きていることではありません。目下の利益にために行動するよう、彼らも駆り立てられている。そうしないと、他の資本家との競争に生き残ることが出来ないのです」「資本主義は利潤を追求するシステムであり、地球環境がどうなろうが、気にしません。利潤獲得と地球の持続可能性が相反するものになれば、容赦なく、持続可能性の方を犠牲にするでしょう」(未来への大分岐)。つまりグローバル化した資本主義を小手先の変革で環境との共存を可能にすることは出来ない、ということである。
 それゆえ、グローバル資本主義の利潤追求、経済成長は自然界、地球からの資源略奪と労働者からの搾取の上に成り立っており、将来世代の犠牲、途上国の抑圧と収奪に依拠していることを認識することは、われわれが次の世界を展望するときの重大な要素となる。
 つまり、利潤追求を最大目的とする資本主義においては持続可能な地球管理は不可能であるということであり、世界の人民の共有財産としての自然=地球環境〈コモン〉との共存を目指す「社会主義社会」だけが人類の生き残りのための絶対的条件なのである。
 それゆえに地球環境と共存しようとする「グリーン資本主義」の追求や、長期的に労働者、社会的弱者と資本との平和共存を目指す「ケインズ主義的福祉国家」は人類を救う手段とはなりえないのである。
 「アメリカの批評家フレデリック・ジェイムソンが、こんな風に述べたことがあります。『資本主義の終わりを想像するより世界の終わりを想像する方が簡単だ』と。資本主義ではない未来を考えようとすると、思い浮かぶのは人類の滅亡しかないという趣旨の発言です」(未来への大分岐)。
 大量生産、大量消費、大量廃棄が繰り返される現代資本主義は世界的に見ても国家の債務は拡大し、対GDP比率は異例の高水準となっている。経済成長率はどの国においても低水準にとどまっている。そして資本主義の実態は、資本保護のための過剰な金融政策に頼りながら、生産過程においては極端な低賃金と長時間労働を労働者に強いているのである。こうして破滅への道をたどりながら資本主義はかろうじて生き延びているのである。
 果たしてわれわれの社会はいつまで「資本主義の経済成長」に振り回されるのであろうか。「経済成長」の先に労働者、庶民の将来はあるのであろうか。否!である。

6 終わりに


 2020年1月頃から世界に拡大したコロナウイルスは武漢のコウモリからのウイルス拡散であるといわれている。これが事実かどうか不明であるが、人間が自然界を破壊し、森林破壊を繰り返すことにより、自然界から「類」を超えたウイルス移動があったのであろう。今のように自然破壊を繰り返していけば、歴史上何度となく自然界に潜むウイルス、菌は人間を襲うであろう。そのたびに生活の場を失った生活困窮者はより貧困化し、富める者はより富を得ることになるのである。
 2020年8月、日本全国での1カ月の自殺者は1849人であり、2019年同月より249人増加、率にして15・3%の増加であるという。失業者数が増大し、貧困と格差の拡大が生活者の命を奪うことになったのであろう。特に女性は男性の3倍であった。
 今、政府が行うことは緊急的に貧困者を救うための大胆な財政出動である。われわれにはそのための闘いが最重要課題でなくてはならない。
 今、われわれが国家とグローバル資本主義に突きつける運動は、あまりにも不平等が拡大した社会を是正するために、富の再分配を目指す「富の共有化運動」である。それは山本太郎等の言葉を借りて言えば消費税廃止などを含む、法人税の増額、高額商品への物品税復活、高額所得者への所得税増額、最低時給1500円の政府保証、奨学金徳政令、公務員の非正規職廃止と正規社員採用、公務員業務の民間委託廃止と公務員増員、等々であり、国民への大胆な財政出動である。    
 すべての生活者に十分な食事と住まい、衣服と、子供のための教育資金と医療費を与えることは国家の義務であり責任である。山本太郎の「生きさせろ!」「生きる権利がある」は最低限の叫びでもあるのだ。
 誤解を恐れずに言えば「改憲反対」「戦争反対」などの平和のためのスローガンと運動だけでは国民の支持を得ることはできない。日本の将来を見つめる余裕もなく追い詰められ、今日と明日の食事と住まいに困窮している生活者が数百万人いるのが現状なのだから。
 安倍晋三は自己の「憲法改正」という政治的野望の展望が見えなくなる中で、コロナ対策にも失敗し、森友問題、加計学園問題、桜を見る会の巨大買収問題、を追及され、ついに政権を投げ出した。形骸化したとは言え日本国憲法はかろうじて維持された。あとはその中身を大衆運動の力により取り返すことである。それは「憲法守れ運動」「民主主義守れ」運動だけではなく、「貧困者と生活者のための政治・経済の新しい民主主義樹立」のための闘いでなければならない。
 小泉純一郎や安倍晋三は常に「改革者」として国民の前に登場した。あたかも「改革者」=「善」であるかのように装いながらである。しかし彼らは常に政治的にも経済的にも国民生活を危機に追い込む「破壊者」であった。
 われわれは今こそ破壊された地球的自然社会(コモン)体制の再生と、人間が人間らしく生きられる新たな民主主義を再生する戦線につこう!
 この戦線は、必ずや悪臭に満ちた資本主義社会を根本的に滅ぼし、貧困に満ちた労働者を資本のくびきから解放する、革命的な労働者戦線となるであろう。
 2021年9月30日 

THE YOUTH FRONT(青年戦線)

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