総選挙結果をどう考えるか? 分析のための視点 (上)

人々の投票動向はどうだったか
前回比最大の変化は維新の躍進
大森敏三

 第49回総選挙が10月31日に投開票され、新たな衆議院での議席が決まった。自民党は議席を減らしたものの単独過半数を確保し、公明とあわせると与党で293議席を獲得した。一方では、小選挙区の多くで統一候補を擁立した野党勢力は、立憲民主党、共産党ともに議席を減らした。その中で、日本維新の会が大阪での小選挙区全勝をはじめ、比例でも大きく得票数を伸ばして、3倍以上となる41議席に「躍進」した。この総選挙結果をどのように考え、次の局面を予測するのか、また独立した反資本主義的オルタナティブの形成に向けて、われわれが考えなければならないことは何か、実際に選挙戦を戦った経験を踏まえて、いくつかの視点をとりあげて分析してみたい。

投票率から見
る総選挙結果
 総選挙結果を分析するにあたって、もっとも重視されるべきは投票率と各政党の比例票の動向であろう。これまでの国政選挙でも、この考えにもとづいて何回か分析をおこなってきた。投票率の傾向によって、今日のブルジョア議会制民主主義に対する人々の信任度をある程度まで測ることができるし、上下に大きく振れた際にはどのような政治的底流の変化があったのか、社会的激変の表現なのか、などを考えなければならないからである。また、各政党の比例票の動向によって、その政党に対する支持・共感がどのように変化しているのか、人々の政治的感覚・意識の動向を部分的にではあっても読みとることができるからである。もちろん選挙結果というものは、あくまで今日の政治・社会状況の部分的反映にすぎないことに留意しつつ、まずは投票率から見ていきたい。
 今回の総選挙の投票率は55・93%だった。この数字は戦後3番目に低いものだが、前回総選挙(2017年)よりは2・25%、2019年の参議院選挙よりは7・13%上回った。しかし、最近10年間に実施された7回の国政選挙(総選挙4回、参議院選挙3回)の投票率はいずれも60%を下回っており、民主党への政権交代をもたらした2009年総選挙の69・28%を境とした全般的な低下傾向(正確に言えば、低水準での固定化)に歯止めがかかるまでには至らなかった。投票しなかった人々についての分析では、関西学院大学の冨田宏治さんの分析(9月17日、ストップ維新!住んでよかったまち大阪をつくる市民連帯集会での講演より。総選挙の前のものだが、大きな変更は必要ないと思われる)が参考になろう。冨田さんは、投票しなかった5千万人を、2割(2千万人)の大量棄権層と3割(3千万人)の無関心層に分け、前者は「2009年総選挙で民主党に投票して政権交代を実現させたが、民主党政権に失望して、その後棄権するようになった」人々、後者のうちの「何割かは、政治に関心を持つ余裕さえ奪われ、明日の暮らしに常に不安を抱いている人々」と分析している。
 それでも、投票率の2・25%上昇は、有権者数の減少を考慮すれば、約270万人の人々が前回総選挙よりも多く投票所に足を運んだ計算になり、それは決して少ない数ではない。こうした人々がどういう思いで投票に出向き、どの政党に投票したのかを知る手段はないが、比例の投票数の変化からある程度までは推測することが可能である。

比例票の動向から見る総選挙結果

① 自民党・公明党

 それでは、各政党の比例投票数を見ていこう。この表は、最近10年間の国政選挙における主要政党の得票数を一覧にしたものである。こうした政党以外にも、比例代表に立候補した政党はいくつもあり、その中には左翼あるいは「緑」の立場をとる政党の挑戦もあったが、割愛させていただいた(今回の総選挙でも、北海道で1つ、東京で3つのグループがこれ以外に立候補していた)。
 まず与党である自民党・公明党であるが、自民党は1991万票あまりを獲得し、この数字は最近十年間の国政選挙では2番目に多い得票数で、最多だった2016年参議院選挙から20万票少ないだけだった。自民党は、今回の総選挙を「体制選択選挙」と位置づけ、「与野党一騎打ちの構図によって、かえってこの選挙が『(自公の)自由民主主義政権』か『共産主義(が参加する)政権』かの体制選択選挙であることが有権者の目に鮮明となっています」(10月21日に出された甘利明幹事長・遠藤利明選挙対策委員長の連名での「急告」)と反共キャンペーンを展開し、小選挙区での野党統一候補(多くは立憲)に攻撃対象を絞って、「立憲共産党」(麻生副総裁)という言辞で揺さぶりをかけた。このことが功を奏したという見方もある。そうであるとすれば、逆に言えば、野党が「政権交代」と言う際の中味が問われたことでもある。
 公明党も700万票台を久しぶりに回復したが、これは活動家の「前回を上回る献身的な努力」(山口代表)の現れと見るべきだろう。実際に、私の居住する自治体では、自治体議会選挙が直前にあったこともあり、住宅地の角々の家の塀に山口代表とその候補者の二連ポスターが張り巡らされていた。聞くところでは、ポスターを貼れば目立つ家には公明党支持者(創価学会員)以外の家にも、「選挙までの間だけ」とポスター掲示をお願いに回っていたとのことで、比例票の減少傾向に大きな危機感を持っていたことがわかる。しかし、選挙運動を中心的に担ってきた創価学会活動家層の高齢化にともない、今後も長期低落傾向に歯止めはかからないと思われる。

② 立憲民主党・共産党

 市民連合と政策協定を結び、多くの小選挙区で統一候補を擁立した野党の比例票を次に見てみよう。まず立憲民主党だが、比例票を見ると、前回の総選挙からは40万票、2019年の参議院選挙からは350万票増やしている。小選挙区では9議席増やしたが、比例では現有議席の62議席から39議席に減らす結果となった。しかし、前回の総選挙の比例当選37議席からはむしろ増えているのである。
 もちろん前回の総選挙での「立憲民主党」と今回の選挙に臨んだ立憲民主党とは別の政党であり、その間に前回は「希望の党」で当選した旧民主党系の議員が数多く合流し、議員数では倍になってはいた。しかし、多くの人々にとって、立憲民主党は、枝野代表が小池都知事らによる民進党つぶしに抗して立ち上げたリベラル(中道左派)政党というイメージが続いていたと思われる。ある意味では「水ぶくれ」状態で選挙に突入したのであり、力量から考えると選挙戦自体は「惨敗」とは言えないのではないか。もちろん「政権交代」を掲げた選挙であった以上、それには遠く及ばなかったという意味では「敗北」には違いないのだが。そのあたりは、維新の松井代表がある意味的確に「希望の党で通った人たちが、保身から立憲に行った。その人たちが枝野さんのせいだと言うのは、ちょっと(違う)。枝野さんは(維新にとって)戦う相手であり政策や考え方も違うが、何と嫌らしい性格の悪い人たちの集まり。責任を取るという負け方をしたのかといえば、それは違う」(サンケイスポーツ、11月2日)と指摘していた。
 しかし、もう一つの問題がある。それは、自民党が「新しい資本主義」を掲げ、不人気だった菅首相を引き下ろして臨んだ「体制選択選挙」において、どういう選択肢を政策として、あるいはキャッチフレーズとして提示できたのかという問題である。それを中道左派政党と言える立憲民主党に期待するのはお門違いかもしれないが、明確なオルタナティブを積極的に提起できず、抽象的な「変えよう」という抽象的スローガンしか出せなかったのは事実である。
 加えて、個人的印象としては、比例に焦点を当てた活動を党としてあまり展開できていなかったように思える。私の居住する自治体では、立憲の政策ビラは公示前に新聞折込みで1回入れられただけで、戸別配布などは公示前に一切やられていなかった。投票日の直前になって、ようやく支持者が見かねて政策パンフレットの戸別配布を始めたが、全戸配布には遠いものだった。その結果、自治体内での立憲の比例票は前回から大きく減少してしまった。これは一部の例かもしれないが、地方議員の少ない立憲にとって、比例票の掘り起こしはなかなか難しいのかもしれない。
 共産党は、2014年総選挙と2016年参議院選挙で600万票強を獲得して以降、一貫して比例票が減少傾向にある。5年間で比例票は3分の2の水準にまで落ち込んでしまった。共産党は、野党共闘を推進すればするほど、自らの比例票を減らすというジレンマに陥っているかに見える。つまり、2014年総選挙では、ほとんどの小選挙区で候補者を立て700万票を超える得票を得た中から、比例区で600万票強を得たのだが、今回の総選挙では、小選挙区での野党統一候補実現に注力した結果、小選挙区での立候補は105人にとどまり、比例区での得票を増やすことができなかったのである。同じ傾向は2019年の参議院選挙でも見られた。これは、現在の公職選挙法の規定が小選挙区重視で、比例票を獲得するための活動に厳しい縛りをかけていることも一因ではあるが、社民党やれいわ新選組の場合(公明党もそうだが)は、小選挙区での立候補は極めて少ない中で一定の比例票を獲得しているので、主要な要因と言えないだろう。やはり共産党員の全般的な高齢化によって、その活動量が落ちていること、支持者が高齢者に偏っていることが大きな原因だと思われる。
 共産党は、今回の選挙政策で「四つのチェンジ」を掲げた。「選挙戦では共通政策と党の独自政策、四つのチェンジを訴えたい。重視してきた暮らしと平和に加え、新たな特徴は気候危機とジェンダー平等だ。自公政権による温室効果ガスの削減目標は低く、原発と石炭火力頼みという問題を抱えている。女性差別やジェンダー平等は岸田政権に取り組む姿勢がそもそもない。男女の賃金格差や選択的夫婦別姓の実現、若い人たちに響く点で大事だ」(志位委員長:共同通信の党首インタビュー)。気候危機とジェンダー平等を大きな政策の柱に掲げた点は大いに評価できる。この点については、後で考えてみたい。

③ 社民党・れいわ新選組

 社民党は、昨年末の「分裂」による打撃から十分には立ち直れない中での総選挙となった。自治労非主流派系を中心とする党員の大量離党と立憲民主党への加入、それにともなう多くの県連の解散を含む再編、こうした事態を契機とする(高齢などを理由とした)党員の離脱によって、党勢を大きく減退させた。その一方で、新たな役員体制のもと、エコロジー社民党、フェミニズム社会党に脱皮しようと模索してきた中での党の存否をかけた選挙戦だったと言えよう。結果は、沖縄2区での当選、比例での102万票近くの獲得、比例では当選者なしだった。比例票は過去2回の国政選挙とほぼ同じだったが、従来は比例で1議席を得ていた九州において、「分裂」の影響で(沖縄では1・7万票増やしたにもかかわらず)27・7万票から22・1万票に減ったため、議席を獲得することができなかった。しかし、全体としてはよく健闘し、支持者をつなぎとめることができたのではないか。問題は、新たな社民党への脱皮を支持する新たな支持者がその中にどれだけ含まれているかである。そのことは比例票で「2%」の壁を突破しないと、党の存続自体が問題となる来年の参議院選挙で追って明らかとなるだろう。参議院選挙では、社民党・新社会党・緑の党による統一名簿が模索されていると言われるが、その成否と政策に注目する必要がある。
 れいわ新選組は、221
万票あまり(2019年参議院選挙よりわずかに少ない)を得て、3議席(実際には4議席分の得票だったが、小選挙区での有効得票数の関係で、東海での1議席を公明党に譲らざるを得なかった)を獲得した。その中には、都構想反対の運動を先頭で担っていた大阪5区の大石晃子さんも含まれている。参議院選挙のときのような「風」を巻き起こすことはできなかったが、選挙活動には多くの若者を含むボランティアが駆けつけ、安定した支持者を確保したのである。

④ 日本維新の会

 今回の総選挙で唯一、前回と大きく変化したのは日本維新の会の「躍進」だった。11議席から41議席への3倍増を超える議席増を実現できたのは、大阪での小選挙区全勝と比例での大幅な得票数の増加のためである。大阪における選挙分析はあとで詳しくおこなうとして、まずは比例票の動きを見てみよう。総選挙での比例票は805万票で、前回総選挙から465万票、参議院選挙からは313万票増えている。この805万票のうち、近畿で318万票、大阪府で171万票(大阪での全投票数の41%強を占める)、さらに兵庫県でも78万票を獲得し、この2府県では自民党を上回って得票数第1位となった。
 確かに、維新は2014年総選挙でも838万票をとっているが、このときは石原慎太郎グループとの分裂、江田憲司グループ(結いの党)との合流による「維新の党」として選挙に臨んだものであり、大阪維新の会を中心とした「日本維新の会」としては最多の得票数である。
 この「躍進」について、さまざまな立場からの論評がマスメディアやネット上で展開されている。維新自身の評価は、「大阪で改革の実績を積み上げてきたことが評価された」(吉村大阪府知事・副代表)、「日本に構造改革が必要と言い続けてきたことが議席増につながった」(松井大阪市長・代表)というものだったが、開票後の記者会見では松井代表は「選挙は与党の勝利で、岸田内閣が信任された」と述べて、厳しい表情だったという。それは、「躍進ぶりとは裏腹に、国政での存在感発揮に向けて、難しい局面に立たされている」からで、「維新は衆院で単独での法案提出が可能になったものの、自民党は他党の協力なしでも安定的に国会を運営できる『絶対安定多数』を維持した」(毎日新聞、11月7日朝刊)ので、自民・公明の過半数割れでキャスティング・ボードを握り、自らの政策を実現させようとの思惑が外れたためだろう。
 報道各社の共同出口調査では、比例区で維新に投票した人の年代別は、10代1%/20代5%/30代11%/40代20%/50代21%/60代18%/70歳以上22%という結果が出ていて、この傾向は国民民主党およびれいわ新選組と共通している部分があるという(国民民主党は、10代3%/20代15%/30代15%/40代20%/50代17%/60代13%/70歳以上17%、れいわ新選組が10代2%/20代11%/30代16%/40代28%/50代22%/60代12%/70歳以上9%)(withnews、11月5日)。これは、自民・公明・立憲・共産がいずれも70歳以上がもっとも多いという結果と対照的であるとこの記事は分析している。
 上述の冨田宏治さんは、大阪における維新への強固な支持は、貧困と格差の拡大に直面する大阪の街を背景に住民の間に生じていた分断の顕在化を、くり返される選挙・住民投票を通じて組織化・固定化してきたことに起因していると指摘する。つまり、公務員や生活保護世帯などの弱者に責任を転嫁することで、中堅サラリーマン層・自営上層の「勝ち組」的気分感情をポピュリスト的にあおり、自治体議員や首長を次々と獲得することを通じて、維新をモンスター的集票マシーンへと変貌させたのだという(同上)。確かに、年代別投票者の割合を見ると、そういう面が見えてくる。
 一方、『維新支持の分析─ポピュリズムか、有権者の合理性か』の著者である、同じ関西学院大学の善教将大さんは、さまざまな調査結果をもとに、今回の総選挙で維新に投票した層を次のように分析する。「特定の層が支持しているという発想を持つ時点で見誤っているのです。特定の属性を持つ人が継続的に維新を支持しているという考えを持ち続ける限り、維新支持の実態を理解することはできません」「維新支持者の内実は多様であり、彼らや彼女たちは必ずしも強固な支持態度をもたない。弱い支持であるということは変わりやすいということでもあります。その意味で維新は薄氷の上を歩き続けているような状態です」(BuzzFeed News Japan、11月6日)。
 この2人の分析を総合すると、維新支持層の持つ二面性が明らかになってくるように思える。一方でのコアな支持層と他方でのその周りにいるフワッとしたゆるやかな支持層(選挙のたびに支持政党を変える可能性のある層)の存在である。今回は、この「ゆるやかな」支持を多く獲得したことで、比例票で「躍進」した可能性がある。
 それでは、大阪における圧倒的な得票は何を意味するのか、そして維新の「躍進」を世界的視野で、とりわけヨーロッパやアメリカにおける極右の台頭という文脈の中で、どのように考えるのか、続いて分析してみたい。 (つづく)

【訂正とお詫び】①「かけはし」(21年11月15日号/1頁)に掲載した「選挙結果速報」で「2021年総選挙」の速報が欠落していました。上記のように加えます。②「かけはし」(21年11月22日号/2頁)の下2段目の「②ヨーロッパ極右台頭の要因」を「②〜ヨーロッパ極右と維新との共通点と違い」に、(21年11月29日号/1頁)下から5段目の小見出しを「争点としての『ジェンダー平等』」に訂正します。(編集部)

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