総選挙結果をどう考えるか? 分析のための視点(下)

闘いの中から対抗左翼への挑戦を
改憲阻止は待ったなしの課題
大森敏三

比例票から見る左派の壁

 これまで、国政選挙での比例票を通じた各党の分析、および維新「躍進」の分析をおこなってきたが、いわゆる左派政党全体として見た場合には、今回の総選挙結果をどのように考えればいいだろうか? 前々号で掲載したここ10年間の国政選挙での比例得票数の政党別推移から何かが読み取れるだろうか? まず指摘しなければならないのは、いわゆる左派政党の得票数は、全体としては800万票を一度も超えていないということである。
 ここで私が左派政党というのは、旧民主党ないしは立憲民主党よりも政策的に「左」にあると考えられる政党を指す。具体的に言えば、社民党・共産党、そしてれいわ新選組(2013年参院選では、緑の党も)である。この区分には異論もあるだろうし、たとえば、れいわ新選組は厳密に言うと果たして「左」なのかという議論もあると思う。しかし、投票に行った人々が、中道左派政党としての旧民主党(民進党)・立憲民主党よりも、政策的にも気分としても「左」の選択肢を探せば、結局はこうした政党に投票することになる(われわれも、比例では共産・社民への投票を呼びかけていた)。
 これら左派政党の得票数は、2012総選挙が511万、2013参院選が687万(緑の党を含めて)、2014総選挙は735万、2016参院選は755万、2017総選挙は535万、2019参院選は781万(れいわ新選組を含めて)、そして今回の総選挙が740万(同上)(1万以下四捨五入)だった。これは投票者数の8・3%から15・1%にあたり、有権者数比で見ると4・9%から7・4%にあたる。
 もちろん、自公政権に対する反対の意思を示すために、政策的には物足りなさを感じてはいても、あえて野党第1党である旧民主党や立憲民主党に投票しているという人々も少なからずいるだろう。あるいは、たとえば社民党支持であっても、比例での死票を避けるために他の政党に入れたという人々もいると思われる(事実、社民党支持者の6割弱しか、比例で社民党に投票していないという調査結果もあった)。しかし、それでも一定の傾向は読み取れる。
 このように、いわゆる左派政党の合計得票数は、ここ10年間、一度も800万を超えていない。しかも、共産党や社民党に投票する人々の年齢層は、高齢者になるほど多くなる、言い換えれば年齢層が下がるほど少なくなる傾向にある。この二つの「壁」(得票数の頭打ちとジリ貧傾向)をどのように考え、乗り越えていくのか? それは、反資本主義を掲げた新たな左翼の形成を目指すわれわれにとっても無関係ではありえない。なぜなら、反資本主義を掲げた新たな左翼の形成は、広い意味での左派層の拡大とセットに進めていかなければならないからである。そして、その両方の課題にとっては、草の根からはじまる大きな社会運動の高揚と地域における先駆的なとりくみの拡大が前提条件となるだろう。その意味では、ボールは再びわれわれの側に投げ返されていると言える。

野党共闘の成果と限界

 立憲民主党・共産党・社会民主党・れいわ新選組は、市民連合と6項目の政策協定を結ぶことを通じて野党共闘の関係を構築した。国民民主党は、この政策協定には参加しなかった。また、立憲民主党と共産党は、立憲民主党を中心とする政権が樹立された場合には、共産党が「市民連合との政策協定の範囲内で」閣外協力するという二党間の党首合意が結ばれた。その結果、共産党が候補者を降ろす形で、小選挙区での候補者調整が一定進められることになり、小選挙区289の7割以上に当たる213選挙区で野党統一候補が実現した。
 その小選挙区では、野党は71議席を獲得した。内訳は、立憲民主党57、国民民主党6、共産党1、社民党1、野党系無所属6だった。これは、前回総選挙の小選挙区での野党当選者(立憲民主党18、希望の党18、共産党1、社民党1、野党系無所属21)と比べると、12議席増である。さらに、小選挙区での接戦区も前回と比べて増えている。「5ポイント差以内の得票率差となった選挙区が計22選挙区増えている。5ポイント以上野党候補が与党候補を引き離した選挙区も増えている。こうした接戦区の増加は、野党共闘によってもたらされたものである」「野党側が候補者を調整することによって、多くの選挙区で与党との差を詰め、一部では議席増につなげたことは確かである」(菅原琢さんの分析による)。そして、こうした野党統一候補の実現は、主として、比例での票数減を覚悟した上で共産党が候補者を下ろしたおかげだった。
 しかし、実際に小選挙区で立憲民主党ではない野党統一候補(大阪9区の社民党・大椿ゆうこさん)の選挙活動を担った実感も含めて言うならば、立憲民主党が自党以外の野党統一候補を積極的に支援し、支持者に働きかけた形跡はほとんど見られなかったというのが正直なところである。私の周辺では、献身的に活動してくれた立憲支持者の友人もいて、本当に頭の下がる思いだったが、大阪9区全体では、あるいは全国の小選挙区では、そういう印象をもたざるをえない状況だった。とりわけ連合傘下の組合は、立憲以外の野党統一候補の支援には消極的(ないしは無視するか、拒否する)だったのではないだろうか。実際のところ、連合は、共産党が野党統一候補になった小選挙区では、むしろ自民党や公明党を支持していた節がある(そう公言していた小選挙区もあった)。
 こうした事情は、私の居住地での開票結果にも如実に反映されていた。比例票を社民・共産・れいわに入れた人たちは、おそらく大椿さんに投票してくれたと思われるので、その得票数から考えると、(比例で立憲に入れた)立憲支持者の半数近くは維新あるいは自民の候補者に投票したと推測できる結果だった。逆に、共産党は野党統一候補の当選のために積極的に活動し、支持者への票固めもおこなっていた。私の居住地でも、駅頭での朝立ちには議員をはじめとして党員が参加し(共産党の参加者の方が多いほどだった)、その中では小選挙区での大椿さんへの投票を呼びかけ、その合間に「比例は共産党へ」と控えめに訴えていた。また、大椿さんの街頭演説の予定を支持者に告知し、参加を呼びかけていた。
 しかし、こうした共産党の「片思い」的野党共闘では、限定的な効果しかなかったことも事実である。その意味では、立憲民主党の枝野代表は、自党を全面的な野党共闘へと動員できなかった責任をとって辞任すべきだったのかもしれない。それとともに、最大のナショナルセンターである連合の政治的立ち位置がこれほど明確になった選挙ははじめてだろう。連合の芳野会長は、立憲民主党が共産党との選挙協力に踏み切り、「共産党の閣外協力」を容認したことに「ありえない」と強く反発していた。連合内の有力労組である全トヨタ労連は、連続当選中の組織内候補をあえて立候補を取り下げさせ、自民党との協調姿勢を名実ともに宣言した。さらに選挙後には、国民民主党が野党国対から離脱し、維新との改憲共闘を模索しているのは、明らかに連合の容認ないしは画策によるものである。

争点としての「ジェンダー平等」

 総選挙の結果を受けて、作家の北原みのりさんは「フェミ色の薄い維新の圧勝だった」と題する論評(「AERA」連載の「おんなの話はありがたい」から)で、「大きな声で威勢のいいことを言う、フェミ色の最も薄いマッチョな政党というイメージも強い」維新が圧勝し、「ジェンダー主流化も、人権を掲げる政治も、これまでになく大きな声で訴えられたが、結果に結びつかなかった。立憲民主党は候補者に女性を優遇させることなく、がんばってきた女性候補者を何人も落選させた。結果、『女性はいくらでもうそをつける』『LGBTには生産性がない』と言った杉田水脈氏や、『セクハラ罪という罪はない』と言った麻生太郎氏は当選するが、ジェンダー主流化を訴え、性暴力問題や選択的夫婦別姓を大きく訴えていた候補者たちが苦戦した。立憲民主党の顔である辻元清美さんは維新の新人に負けた。LGBTの権利を訴えてきた立憲民主党の尾辻かな子さん、労働者の権利を訴えた社民党の大椿ゆうこさんも維新の男性候補者に負けた。東京にも維新の波はきた。性搾取問題に取り組んできた日本共産党の池内沙織さんは、当初、公明党候補者と大接戦と報じられていたが敗れ、維新の新人にも追いつかなかった。無戸籍問題に取り組み、子育て改革をうたった野党共闘の立憲候補の井戸まさえさんは、維新の票にのまれた」ことについて、「私が一番恐れているのは、自分たちの人生、自由、権利を求める女性たちの声を『うっとうしい』と思うような、フェミ嫌いの社会の空気が維新の票に反映された面もあるのではないか」と指摘している。私が読んだ選挙総括の中で、一番考えさせられたのは、実はこの文章だった。
 総選挙と「ジェンダー平等」について書かれた論評は他にもいくつかある。たとえば、『毎日新聞』が11月18日朝刊の「記者の目」でこの問題を取り上げている。その女性記者が書いたこの記事では、この総選挙が「ジェンダー(社会的性差)が争点として大きく取り上げられた初の国政選挙」で、「政党に男女同数の候補者擁立を促す政治分野の男女共同参画推進法の18年施行後初となる衆院選だったが、女性当選者は45人と全体の1割を切った。そもそも女性候補の割合は17・7%」でしかなく、しかも「野党第1党の立憲はジェンダー平等を掲げたが、本気度を疑うことがあった。……実態的にはメインの政策ではなく、付け足しで扱っていたのではないかと思った」との思いが書かれていた。
 この記事の最後には、「ジェンダー問題は今後の社会を担う若者に特に関心が高い」とあるが、実際にハフポスト日本版と「NO YOUTH NO JAPAN」が選挙前に実施した、候補者・政党に対して「特に積極的に取り組んでほしい社会課題」を問うたアンケートでも、30歳未満で最も多かったのは「ジェンダー平等」だった。自由記述欄でも、「ジェンダー平等」については、「選択的夫婦別姓制度の導入を求める声、男女の賃金格差の是正を求める意見」が多く寄せられたとのことである。そうした声はまだ運動という形で大きく広がってはいないが、その可能性を感じさせるものだ。その意味では、重点施策である「四つのチェンジ」の中に「ジェンダー平等の日本へのチェンジ」を取り入れた共産党や、政党の中で唯一女性候補が多数を占めた社民党のとりくみは、今回の選挙の中でもっとも評価できるものだったと思う。
 大椿ゆうこさんは、「ジェンダー平等」の内容として、女性に圧倒的に多い非正規労働の解消を常に正面から訴えていた。その主張に共感する女性からの支持は確かに増えていたと感じる。実際の選挙活動の中でも、ジェンダーの問題への関心が高かったという報告があったし、その内容もどちらかというと選択的夫婦別姓制度などよりは、賃金格差、非正規労働への不安を訴えるものが多かったという。社民党が分裂の組織的痛手にもかかわらず、前回以上の比例票を獲得したのも、女性からのそうした期待があったのではないか。
 われわれがフェミニズム社会主義をめざすというとき、それは社会主義になればジェンダー問題が解決されるという意味ではない。社会主義の中身として、そしてそこに至る闘いの全過程においてフェミニズムの観点が貫かれなければならないということであり、家父長主義的な社会のあり方を変える運動を現在、この場所で展開する必要があるということである。その意味では、エコロジー社会主義という主張が、将来のユートピアとしての「エコ社会主義社会」をめざす闘いとともに、現実の気候危機に対する具体的な闘いを展開しなければならないことをも意味しているのとよく似ている。

新しい大衆運動構築へ
 この小論では、これまでいくつかの観点から、今回の総選挙結果について分析を試みてきた。これはあくまでも一つの試論であって、さらに多くの議論を経て、深められ、変更されていくべきものである。ここでは触れられなかった視点も多いが、その中でもとくに検討すべきだと思われるのは、野党による「政権交代」のスローガンの中身の問題である。とりわけ、総選挙に向けて岸田首相が「新しい資本主義」構想を打ち出したこととの関係で、どのような政権をめざすのか、あるいはどのような社会のあり方をめざすのか、ということが問われなければならなかったはずだった。しかし、この点は総選挙が近づき、始まるとともに、次第に争点から外されていった。このあたりの分析は、いずれ稿を改めて考えてみたい。
 総選挙の結果、憲法改正に賛成の議員が、衆議院ではついに4分の3を超える事態となった。「躍進」を遂げた維新の松井代表は、「来年の参議院選挙と同時に、憲法改正の国民投票をすべき」と憲法改悪の先鋒隊を務める決意を明らかにしている。憲法改悪を阻止するという意味では、来年の参議院選挙までのプロセス、そして参議院選挙そのものが決定的な重要性をもつことになる。今回の総選挙で明らかになったことを踏まえて、自公政権と維新に明確に対決できる政治勢力の再結集をどのように進めるのか、その中で左の極としてのエコロジー的・フェミニズム的な反資本主義左翼の形成をどのように展望するのか、そして憲法改悪の動きと真っ向から対決する大衆的運動をどのように作り上げるのか、われわれの前にある課題はきわめて大きなものである。さまざまな人々との共同の営みとして、こうした課題への挑戦をただちに始めなければならない。 (おわり)

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