気候危機と脱原発から考える

若者の言い分と「ジェネレーションレフト

共に行動するために必要なこと

はじめに

 厚労省の人口動態調査をざっくり読むと、2011年から20年までの出生数は967万人、死亡数は1310万人で、この10年間で約1割の世代交代が起きている。ちなみに、1971年から20年の50年間では、出生7296万人に対して死亡6058万人で、50年間で6~7割の世代が入れ替わった。「全共闘の時代」をリアルに体験した、あるいは見聞きした世代を60才以上だとすると、この世代は全世代の3分の1程になっている。
 「さようなら原発1000万人アクション」は2011年6月にスタートした「さようなら原発一千万署名 市民の会」の9人が呼びかける脱原発アクションだ。13年に辻井喬さん、15年に鶴見俊輔さんが亡くなり、内橋克人さんと瀬戸内寂聴さんが今年亡くなった。10月3日の毎日新聞によれば、存命の5人のうち大江健三郎さんは「健康上の理由で(略)16年を最後に公の場に姿を見せておらず」、澤地久枝さんは「3回の心臓手術を経て、04年には不整脈をコントロールするためペースメーカーを埋め込んだ。今夏、腰の痛みがひどく病院に行くと、折れた骨がつながっていないと診察された」という。坂本龍一さんは04年の中咽頭がんに続き、今年は大腸がんがみつかり療養に専念。鎌田慧さんと落合恵子さんの2人に市民の会の活動が集中している。
 市民の会の9人の多くは、憲法改悪に反対し04年に発足した「九条の会」と重なる。「九条」呼びかけ人は7人が亡くなり、存命は大江さんと澤地さんの2人だ。
 市民の会は今秋、「私たちは、静かに怒りを燃やす東北の鬼です」と11年秋に明治公園で発言した福島原発告訴団団長の武藤類子さんが加わった。コロナ禍で地方組織の参加が困難なため、行動は縮小や中止も続いたが、今秋からオンラインを活用した行動や学習会が始められている。
 新しくはじまった行動などへ〝参加〟して感じたことなどから、「世代」について考察してみた。

板ばさみとなる若者世代


 2011年の福島原発事故をきっかけに、各種の世論調査では原発に「反対」が「賛成」を逆転、13年から14年あたりをピークにし、以降は「反対」が徐々に減じていく。同じ設問で経年的に比較できるデータは、残念ながら原子力文化振興財団のアンケートしかない。同財団は14年11月から「原子力に関する世論調査」を行い、最新は昨年10月の調査で、今年に3月に発表された。継続した調査に「今後日本は、原子力発電をどのように利用していけばよいと思いますか」という問いに、①増加、②維持、③徐々に廃止、④即時廃止、⑤その他、⑥わからない、⑦あてはまるものはないの7つから1つを選択する設問がある。最新の「20年度版」に掲載された14年調査と20年調査結果を比較していく。
 ①と②の原発容認は10・5%から10・2%と変化が小さい。③と④の否定意見は64・0%から56・4%と約12ポイント減で、④の即時廃止に限ると16・2%から8%とほぼ半減だ。減った数字はどの意見にあるのか。⑥のわからないが、20・6%から28・2%に増加しており、半減の数字とほぼ一致する。
 最新の調査結果から④と⑥を年代別でみてみよう。年代の集計は4つに分類されている。
 ④の即時廃止は、10代が0%、20と30代が4・8%、40と50代が6・6%、60と70代が15・1%と、年齢を重ねるほど増える。⑥のわからないは、10代が39・2%、20と30代が36・%、40と50代が27・0%、60と70代が19・8%と、年齢を重ねるほど判断する知識が増えてはじめて、はっきり答えることができるようになった、このような見立てをすべきだろう。
 年代をめぐった「錯覚」は、原子力調査に限ったことではない。この錯覚は、設問と答えの設定によって大きく左右される。内閣府が毎年行う死刑制度についての世論調査では、中間的な回答などを設けることで、存置派が多数だという印象操作が行われる。国政政党に対する印象調査で、「最も革新が維新の会、保守が共産党」という調査結果では、「若者の保守化」という印象が先行する。維新は結党が新しくメディア露出が劇場型で記憶に残りやすい。共産党は22年に結党100年を迎え党組織と「しんぶん赤旗」が基本で、接する機会が限られている。そもそも国政政党を「保革」の2つに分ける時代は去って久しく、「や・ゆ・よ」などと新表現も現れた。
 この調査結果が原子力で問題になるのは2つあるだろう。1つは、原発回帰勢力による学校教育などへの介入だ。2つは、若者ほど原子力を容認しているという誤解だ。後者での特徴は、原発即時廃止の立場から「若い世代は地球温暖化を防ぐために原発を容認している」という誤解だ。目に見えるかたちで気候正義の行動をとる若者は、化石燃料維持勢力と原発回帰勢力との板挟みどころか、世代の「誤解」や「家父長制」の圧迫で四面楚歌ともなることもある。

さようなら原発の行動では…

 本紙11月10日号の「10・23さようなら原発集会+シンポ」には、気候正義の行動をとる若者のひとり、東北大4年の益子実香さんの発言を紹介した。一部を再掲する。
 「震災後に、皆さんが時間と勇気を振り絞って作り上げてくれた反原発運動と同じくらいの力をこめ、私たちと一緒に行動をしていただきたい」「国会前に20万人を集めた反原発デモのような自発的な力で、人類最大といえる気候危機という脅威に立ち向かいましょう」。
 12月3日、さようなら原発連続講座の第2回がオンライン開催された。まず、司会を兼ねた原子力資料情報室の片岡遼平さんが、「気候危機と脱原発」と題したプレゼンを行い、第6次エネルギー基本計画の内容と国内の原発の状況から、「原発が温暖化対策にならない理由」を説明した。原発は計画から稼働まで20年以上の期間が必要で、気候危機回避には間に合わないことなどを説明した。
 益子さんが「戸惑いと希望の狭間で~見えない怖さと気候危機に晒されて生きる~」と題したスライドを用意し、10・23集会に続いて登壇した。益子さんは栃木県那須町出身、18年にグレタ・トゥーンベリさんの行動を知ってFridays For Future Nasu を発起させて東北大でスクール・ストライキ。現在は19年の台風19号による被害を受けた宮城県丸森町の筆甫(ひっぽ)地区に移住し、住民出資の「ひっぽ電力」で働き、50年60年先のバイオマス・エネルギーに希望をもって林業にもたずさわっている。
 続いて、環境NGO FoE Japan 気候変動担当の高橋英恵さん「Climate Justice(気候正義/筆者付記)の実現に向けて」というテーマで、COP26 の参加報告を行った。
 戻って益子さんの発言を紹介する。「活動している若者はエラいね、と上の世代の人は言うのですが、本来は活動しなくてもいいはずで、ふつうの楽しい学校生活を送れないその時間を活動に割いている」「大人は未来を描けというけど、こんな状況では未来は描けないでしょうというのが正直なところ」「活動していると、SNS上からも親からも批判にさらされている。上の世代が排出してきた分を自分たちの未来がなくなるからと、言葉は悪いですが尻拭いをさせられているという思いで活動していることを知ってほしい」と話した。
 この発言が「世代」を書くことを後押しした。益子さんの発言をはじめ、さようなら原発のオンライン集会と学習会はホームページ(http://sayonara-nukes.org/)から視聴できる。本稿の一部はこれを視聴し、動画サイトの字幕機能を利用して書き起こした。スマホでも視聴できる。

COP26と国内アクション

 Fridays For Future(未来のための金曜日)は、18年8月にグレタ・トゥーンベリが、気候変動に対する行動の欠如に抗議するために、一人でスウェーデンの国会前に座り込みをしたことをきっかけに始まった運動。日本では19年2月から始まり、徐々に全国各地に活動が広がる。
 世界中の Fridays For Futureは、年に数回、世界気候アクションを開催している。COP26(第26回気候変動枠組条約締約国会議/10月31日~11月12日開催)に合わせた開催がよびかけられ、日本では11月6日に開催した。JR新宿駅南口のバスタ新宿前を中心に、北海道や宮城、愛知や滋賀、そしてグラスゴーをオンラインで結び、各地の活動報告や映像などの紹介が行われた。複数の発言者からは、バングラデシュで日本政府と住友商事などが進めているマタバリ石炭火力についての学習を重ねていたことが分かった。「世界気候アクション」をキーワードにWeb検索すると動画が視聴できる。
 Fridays For Futureは、経産省が主管の第6次エネルギー基本計画案の審議がはじまると、審議会場前などでスタンディングでアピール行動をはじめた。審議会は公開で行われているが、開催日時の発表が直前となることが増え、FFFの行動の場を奪う上の世代が奪ったのだろう。このころ、小泉環境大臣は、自公政府の政策も信じる若者グループと首相官邸で対話を行うなど、菅政権の浮揚を図っていた。気候正義の立場から、各地のFFFは日本政府の政策チェックを深めたものと評価すべきだろう。

おわりに


 この夏、左派系の雑誌で「青年たち」や「気候危機」の特集が掲載された。
 1968年創刊の「情況」は、「DON’T TRUST OVER40─若者たちは糾弾する」という特集を2021夏号に掲載し、気候危機に限らず、10を超える対談や投稿記事を掲載した。NPO現代の理論・社会フォーラムが発行する季刊「現代の理論2021秋号」は特集1「気候危機に立ち向かう若者アクション」は、若者と、若者と連携する大人の投稿を5つ掲載した。雑誌「現代の理論」は1959年に創刊し、休刊をはさみ2014年にデジタル版が発刊されている。NPO現代の理論・社会フォーラムの「現代の理論」はこれとは異なる。
 雑誌「POSSE」は今年8月発行の通巻48号で、特集「ジェネレーション・レフトの衝撃」で8つの投稿や対談が掲載されている。特集のトップは経済思想家の斎藤幸平さんの「ジェネレーション・レフトになるために」という解説。「POSSE」の発売元の堀之内出版が発行した書籍『ジェネレーション・レフト』に掲載する予定の「日本語版への解説」を先行掲載したもので、同書も8月に発売されている。斎藤さんは岩波「世界」の20年11月号や、現在再放送中の「100分de名著-マルクス『資本論』」のテキストでもジェネレーション・レフトに触れている。
 これらの著作物から日本の気候正義の行動の評価の違いなどを見分けること、世代間に横たわる課題を整理し、運動の勝利にむけた道筋をつくることが2022年に早急にかつていねいに取り組む課題になっている。反原発運動内に根付く温暖化懐疑論や原発回帰の流れに抗しながら、同様に抗しながら進む若い世代とともにあるために必須な作業となるだろう。
    (12月13日 KJ)
*本紙11月4日号で紹介した映画「グレタ─たったひとりの挑戦」のテレビ放映版がNHK主催の日本賞でグランプリに選ばれ、来年1月にEテレで放送される予定と報じられている。

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