2022年の新年アピール
大衆運動の復権を通して新たな「左派」結集に挑戦しよう
収束しないコロナパンデミック
2019年11月に中国の武漢で発生した新型コロナウイルスは、瞬く間に全世界に感染拡大するパンデミック(世界的流行)となった。21年11月末現在、発表されている世界の感染者の累計は2億6150万人超で、死亡者は約520万人とされている。これは世界の人口を77億人とすると、感染率は約3・4%であり、感染者の死亡率は約2%ということになる。しかしこの数字はあくまでも各国政府や医療機関を通して公式的に集約できた数である。10月14日に公表されたWHO(世界保健機関)の推計によると、人口13億人のアフリカでのPCR検査件数は累計で7000万回より少なく、感染者数は報告されている人数の約7倍、死亡者数も約3倍になるだろうとしている。日本の感染者の累計は172・8万人で感染率は人口の1・4%で、死亡者数は1万8367人で感染者の死亡率は1・1%である。
パンデミックは収まるどころか、その見通しもまったく立ってはいない。各国政府は経済活動の再開にあせっているが、感染症対策を緩めると感染拡大が再発生するという「イタチごっこ」を繰り返すばかりだ。感染症対策の専門家らは、感染力の強い「デルタ株」がパンデミックの「最終株」になるだろうと予想していたようだが、オミクロン株という新しい変異株が世界的にまん延し始めている。もはや解決不可能かと思わせるほどの気候危機と生態系・環境危機を作り上げてしまった人類は、はたしてこのコロナ危機を乗り切ることができるのであろうか。
コロナ危機は日本資本主義の没落を加速させた
浮き彫りにした現代資本主義の姿
新自由主義・グローバル資本主義は、金融・産業資本による「弱肉強食」という論理に基づいた利益強奪競争の世界化であった。大量に印刷された各国通貨は、国債の発行などを通して金融市場に流れ、低賃金労働による高搾取、株や地価高騰による利益獲得などによって、瞬く間に1%の富者の懐に収まる。世界の10億ドル長者2153人分の富は、下位46億人の富の合計よりも多い。そうした現象は日本でも同じである。純金融資産保有額が1億円以上の富裕層は、13年以降の日銀による大規模な金融緩和などによる株高で潤った。富裕層は11年に81万世帯(総資産188兆円)だったが、19年には132・7万世帯(同333兆円)にまで膨らんでいる。
貧富の格差はコロナ危機の中でより鮮明になった。そもそもまともな医療体制すら整っていないアフリカの諸国では、資金と医療スタッフの不足によってPCR検査はもとより、コロナワクチン接種も進めることができず接種率は今だに5%ほどである。支援のワクチンが送られてきても、接種を実施する人も体制も整わないまま廃棄せざるを得ない事態まで発生している。そして特に、ワクチンに対するデマのまん延もまた接種を阻んでいる。こうした事態はレベルの差こそあれ、多くの国々で発生していることだ。経済的格差・医療の格差は、国家間の格差の現実が人々の「命の格差」となって鮮明化した。
そして富める国と貧困国との間で「ワクチン不平等」が顕著になっている。mRNAワクチンの特許を独占しているのはファイザーとモデルナで、富める国々によるワクチン争奪の激化によって、1回分の原価が1・2ドル(約140円)のワクチンが原価の24倍で取引されている。貧困国対策を進めるコバックスに対しても2社は原価の5倍で売り付けており、すでに売上総額は10兆円を超えている。ウイルスを「エサ」に増殖する巨大製薬会社。ここにこそ新自由主義・グローバル資本主義の真の姿を見てとることができる。国連開発計画によると、21年12月1日時点で1回以上ワクチン接種したのは、富める国で65%、貧しい国では8%である。また製薬会社の特許をめぐっては、英・独・スイスなどが解除に強く反対しているが、日本も積極的な賛成の立場をとっているわけではない。
非正規職と女性を直撃した
日本においてもコロナ危機は、不安定雇用と低賃金という状況に置かれてきた非正規職や女性たちを直撃した。女性正規職の賃金は男性の74・3%(19年6月現在)で、これは生涯賃金の格差として年金にも影響してくる。また20年の自殺者は約2・1万人(前年比912人増)で、女性が935人増加している。小中高生の自殺も過去最多を更新している(415人―前年比98人増)。失業と将来への絶望感、家庭内でのDV(相談件数は過去最多で子供への虐待が6割)などが原因とされている。またひとり親世帯の65・6%が前年よりも収入を減らしている。
日本における賃金減少の大きな要因として、非正規職の増加を上げることができる。1997年には23%ほどだった非正規職は、第2次安倍政権が始まった12年12月に35・2%で、19年末には38・3%にまで上昇している。その間、就業者数が497万人増加しているが、そのうち非正規職が約350万人増加している。増加分の約7割が非正規職だったのである。女性の貧困が際立っているが、それは就労者に占める非正規の割合が女性は54%で、男性の22%を大きく上回っていることを反映している。コロナ関連の解雇者数は10万人を超えている。このうち1000万円以上の負債で倒産した約2000件では、わかっている従業員は約2万5000人であり、解雇された労働者の約75%が非正規職や零細企業の倒産、廃業や人減らしによる犠牲者だったということができる。ちなみに東日本大震災関連の倒産(1000万円以上の負債)は、10年間の累計で1979件だった。また東京商工リサーチによると、20年に零細企業を中心に休廃業・解散した企業数は4万9698件(前年比14・6%増)で、調査開始以来過去最高であった。
また20年度の月別平均休業者数は、261万人でこれは前年比で80万人増加している。有効求人倍率も月平均で1・10倍(前年比で0・45ポイント減少)で、減少幅は1974年の石油危機以来の規模であった。平均失業率も2・9%(同0・6%増)で、これも11年ぶりの悪化であった。
この項目の最後に日本の少子高齢化問題について触れておく必要があるだろう。日本の高齢化率(65歳以上が全人口に占める割合)は20年に28・7%で、これは世界的にダントツである。20年の出生数は84・1万人で、過去最少を更新した。また21年上半期の出生数は速報値(速報値には在日外国人、在外日本人を含んでおり、確定値は日本在住者のみと言うことになるので速報値よりも少なくなる)で約40・5万人で、前年を約2・57万人下回っている。21年は80万人以下の可能性が濃厚となった。これまでの推計では、年間出生者数が80万人割れするのは30年と予想してきたので9年早まったということになる。少子化の最大の要因は未婚化と晩婚化である。その社会的原因は若年層の不安定雇用と低賃金である。40年には団塊ジュニア世代が高齢化入りし、日本の高齢化率は35%まで上がるとされているが、少子化が加速すれば当然その比率も上昇する。ちなみに19年のひとり暮らし世帯は28・8%だった。家庭や家族による「自助」も消えて、ただ「自己責任」だけが己を縛り付ける。「親が死んだらホームレス」、そんな絶望的な未来しか見えてこない若年層が増えているようだ。
少子高齢化問題は韓国や中国でも深刻化してきている。大財閥が社会を支配する韓国では日本以上の格差社会と雇用危機、そして社会保障制度の不備などを反映して、20年の出生率は0・82にまで低下している(日本は約1・3)。多くの若年層にとって社会も未来も「お先真っ暗」なのだろう。それは日本の将来を先取りしているだけなのかもしれないが。
成長できなくなった日本資本主義
20年度の実質経済成長率は戦後最悪のマイナス4・6%を記録した。11年ぶりのマイナス成長である。個人消費と設備投資が大きくマイナスとなる一方で、製造業は大企業が外需の回復に救われている。そしてGDPも、第二次安倍政権発足から初の500兆円割れとなった。またコロナ対策などで歳出が膨らんだ20年度の政府一般会計も、過去最大の175兆円を超え、新規国債発行額も過去最大の112兆円を記録したのである。こうして国と地方の債務残高は20年12月末で1212・5兆円で、GDP比で256%に達している。ちなみに1999年の国債発行残高は332兆円だった。先日の補正予算決定発表によると、21年度の一般会計歳出総額は142兆円で、新規国債発行額は65兆円になるようだ。これによって政府の国債発行残高は1000兆円を超える見通しとなった。債務残高が200%を超えたのは、第二次大戦末期と今日だけである。ちなみに20年末時点での債務残高は、GDP比でドイツ70%、米国132%、イタリア157%であった。
アベノミクスの最大の目的は、超低金利政策の影響で1997年以降GDPが下がり続けているデフレ状態から脱却するために「2%の官製インフレ」を作り出すことだった。そして日銀は13年4月から国債の大量購入を始めた。日銀総裁の黒田は「デフレは貨幣的現象だから、ベースマネー(市場資金供給量)を増やせば物価は上がる」「ベースマネーを260兆円増やして2倍にすれば、インフレが起こり2%目標は2年ほどで達成できる」と考えたのである。
こうして20年3月末までに日銀が保有する国債は、GDPに迫る499兆円にまで膨れ上がった。これは国債発行残高の44・2%を占める。これに20年度からのコロナ対策として発行されてきた分を加えると、国債発行残高の半分以上が日銀保有となっているだろう。10年前の日銀保有率は8・82%に過ぎなかったのである。財政法では日銀が政府から直接国債を購入する「財政ファイナンス」を禁じているが、日銀は政府から市場に売られた国債に1%の上乗せをして購入するという手口で法を逃れてきた。しかし、湯水のようにベースマネーを増やし続けたにもかかわらず、日本の実質経済成長率は年平均1%程度に留まり、2%の官製インフレによる「デフレからの脱却」策は失敗する。増やしたベースマネーが賃金の上昇や企業設備投資に向かえばいくらかインフレに貢献できたのであろうが、市場に出たマネーは株バブルと約40%の円安加速による輸出企業の収益拡大に貢献しただけであった。株価は安倍政権発足時から2・8倍にまで上昇し、企業の内部留保金は12年の304兆円から20年には484兆円にまで増加している。このうち、大企業分は242兆円であり約半分を占めている。企業の内部留保金はこの10年間で1・6倍になった。
それではなぜ日本資本主義は成長できなくなってしまったのであろうか。ひとつは超低金利によって企業の資金借り入れコストが低くなったために、企業や小売業が低価格競争を継続できる経済環境が生み出されたためである。また政策金利が下がると家計に行く利子が消えて、逆に企業の借入金利が下がるために所得は家計から企業に流れる。さらに個人で借り入れできるのも中高所得者層に限られてくるために、家計部門でも格差が拡大するのである。日本は欧米などの諸国よりも早い時期から超低金利政策を続けてきた。20年以上にわたって日本の企業はぬるま湯につかってきたのである。それはまさにインフレにシフトしない構造になったということである。また法人税も14年の34・62%から、18年以降は27・74%まで引き下げられている。
ふたつ目にバブル崩壊やリーマン危機、度重なる大地震や原発事故などの災害、そして現在のコロナ感染症危機を経験してきた企業・個人ともに、将来の危機に備えて、あるいは自助・自己責任社会といった圧力に対する不安と恐怖のために、消費を抑えてきたということを挙げることができる。しかしコロナ危機は消費を抑えるレベルを超えて、消費そのものができない社会的弱者を増産した。まさに生存の危機が現実化しているのである。現在、日本の預金総額は2000兆円を超えている。これを1億で割ると2000万円である。一方で約3割の人が貯金ゼロであり、これだけでも日本社会の格差の度合いが鮮明になる。
最後にこうした日本資本主義の構造的な危機と対決する「当たり前の労働組合運動」の実質的な不在である。資本は労働運動の無風環境に助けられて、労働分配率を低下させながら資金を貯め込んできた。安倍政権の最初の5年間だけでも、企業の経常利益は73%増加し、株主への支払配当金も66%増加している。一方で、労働者の実質賃金指数は低下している。これでは個人消費が伸びるわけがないのである。国税庁の調査によると、20年の労働者の平均年収は433万円まで低下し、300万円以下が全体の37・7%を占めている。この割合は非正規職の割合と重なる。ちなみに男性の平均賃金は532万円で、女性は293万円(男性の55%)だった。また非正規労働者の平均賃金は176万円(労働者平均年収の41%)だった。給与がピークだった1997年の平均賃金は467万円だった。97年の賃金を100とすると、20年の賃金は92・7まで減少していることになる。不安定労働の解消と最低賃金の大幅な増額を実現する「当たり前の労働運動」の復権が、労働者と社会的弱者の「生存権」のために求められている。
労働分配率は12年に72・3%だったが、18年には66・3%にまで下がっている。先日の日本商工会議所の発表によると、労働分配率は大企業が45%、中小企業が72%、小規模企業が86%で大企業の搾取率の高さを見てとることができる。
「官製株価」と低賃金・円安
結局「デフレからの脱却」を最大目標としてきたアベノミクスは破綻した。それはGDPの約6割を占める個人消費をはじめとした内需の拡大に失敗したということを意味している。その結果「円安と株高」を維持することが至上課題となった。経済成長を輸出による外需に依存するためには、国内での低賃金労働環境を維持しなければならないし、一方ではより安い賃金環境を求めて中国や東南アジアなどへの生産拠点の移転によって、国内産業の空洞化が加速された。こうして国内では製造業を中心に非正規職化と技能実習生など外国人労働者の大量雇用が進められ、飲食・小売業などでの労働時間契約もあいまいな「シフト制」と呼ばれるより不安定な雇用形態が幅を利かせるようになったのである。こうした雇用によって雇用主との契約関係があいまい化されて、コロナ事態のなかで多くの非正規労働者がまともな雇用・賃金保障を受けることもできなかったのである。
また株高は完全な「官製相場」によって支えられている。日銀は20年度末までに年金積立管理運用独立行政法人(GPIF)を追い抜いて、日本の企業にとっての「最大の株主」になった。日銀は10年の12月から、様々な銘柄の株をひとまとめにした上場投資信託(ETF)を年間の上限を4500億円として購入し始めた。それは黒田になってからこの上限が1兆、3兆、6兆と引き上げられて、20年3月には12兆円まで拡大された。21年3月末時点の日銀のETF保有時価は51兆円(国内ETF市場の7割超)であり、これは株式時価総額の約7%にあたる。日銀はこれまでETFを売却していない。日銀が10%以上の株式を保有している企業は70社で、5%以上が389社になる。こうして株式市場は完全な「日銀中毒」になっているのだ。しかも主要国の中央銀行でETFを購入しているのは日銀だけである。
日本資本主義は過去20数年間、政府も企業も日銀と年金法人(GPIF)に依存しながら、超低金利政策という経済環境の中で国債の乱発と「官製株価」、そして円安を維持するための低賃金社会を作り出すことによって生き延びてきたのである。アベノミクスはそうした資本優遇のぬるま湯的な経済環境への依存性をさらに深めさせたのであった。岸田新政権は「新しい資本主義」を提唱してはいるが、この「ぬるま湯」から抜け出すのは容易ではない。すべてが根深く構造的に連動しているからである。
しかしコロナ事態のなかで、日本政策金融公庫や地銀などの民間金融機関による緊急融資によって、銀行は「不良債権」という巨大なリスクを背負わされている。実質無利子となる期間は3年で、元金返済の猶予据え置き期間は最大5年である。コロナ感染状況によっては無利子と返済期限の延長措置もありうるが、伸ばしたからと言って背負ったリスクが減るわけではない。政府が地銀再編に乗り出しているのもこうした背景があるからだ。20年11月には地銀の合併を促進するために「独禁法の特例法」を施行して、金融庁は自己資本率8%以上を要求している。また昨年の7月には「改正金融機能強化法」を施行(申請期間は26年3月末まで)して、地銀のシステム統合などを促している。
コロナ事態の拡大と長期化は、日本ばかりではなく世界的な債務残高の増加を加速化させている。21年2月の国際金融協会(IIF)の発表によると、20年12月現在の世界全体の債務残高は281兆5000億ドル=2京9800兆円(前年比9・4%増)で、これは世界全体のGDP比の355%にあたる。日本ばかりではなく世界中が抜け出しがたい「債務地獄」にはまっていることがわかる。これこそが新自由主義とグローバル資本主義が作り上げた現実なのである。
グリーン資本主義に未来はない
気候危機、人類は崖っぷちに
COP26(国連気候変動枠組み条約第26回締結国会議)が英国で開かれた。11月5日に実施された大規模デモでグレタさんは「世界のリーダーたちは積極的に抜け穴を作って、利益を得るための枠組み作りをしている。美辞麗句を並べたり、格好のいい目標を並べたりするPRイベントに成り下がっている。見せかけのグリーン祭りだ」と、痛烈に批判した。事実として現在提出されている排出削減目標が完全に実施されたとしても、2030年の排出量は10年比で13・7%増えるだろうとする分析結果が公表されている。現在の削減水準では、今世紀末までに世界の平均気温は産業革命前から2・7度以上上昇するという報告書があげられている。COPが目標として定めている1・5度には到底およばないのである。
こうした一方で、コロナ危機からの経済回復過程のなかで、エネルギー不足による化石燃料の高騰とそれにともなった物価上昇・インフレが引き起こされている。コロナ危機による世界的な経済活動の停滞によって、エネルギー需要が停滞して化石燃料供給国は深刻なダメージを受けた。そのためにOPEC(石油輸出国機構)やロシアなどが減産による価格の維持を図ったが、それが今も継続されていることが主要因だが、米国のシェールガス生産の減少と欧州の風事情(風車が回らない)も影響しているようだ。また気候危機対策の一環として新たな油田・ガス田開発は抑制されていて、開発投資も大きく減少している。そうした中で産油国などは今のうちに化石燃料で稼ぎたいという思惑もある。
報道によると、スペインやドイツなどでは電気料金が3~4倍に跳ね上がっている。原因は発電のために使用する天然ガスの価格高騰だ。年初と比べて6倍高騰しているという。英国ではガス小売業者の経営破綻が相次いでいる。業界70社は年末までに10社ほどまで淘汰されるとしている。スペインは電力税の軽減を表明し、フランスやイタリアも低所得世帯への現金給付を決めた。温暖化対策として石炭火力発電からLNGへの転換がガス料金を高騰させて、そのことによってまた石炭や石油に舞い戻ることでそれぞれの価格も高騰するという悪循環が発生しているのである。
しかし問題の本質は、持続可能なエネルギーへの転換過程にあるのではない。コロナ危機からの社会・経済活動の回復過程で、再び資本主義的なエネルギー浪費社会が復活されたからである。持続可能なエネルギー社会は徹底した省エネ社会としてしか実現できないのである。すなわち資本主義と手を切らない限り、持続可能な社会は実現できないし、その結果として人類は滅亡に向かう坂を転がり続けなければならないのである。こうしたことに少なくとも50年前にでも人類は気がつくべきであった。ちょうど世界的な原発建設が開始されようとしていた時期である。残された時間はもうない。やれるべきことを徹底的にやらねばならない崖っぷちに人類は立たされている。
オーストラリアや米国西海岸などでの干ばつと山火事、巨大台風や豪雨の頻発による洪水や高波災害、北極海の氷の融解やグリーンランドを始めとした北極圏で顕著な気温上昇と氷解による海面上昇、永久凍土の消滅にともなったメタンガスの大量発生、氷河消滅にともなった自然災害と水資源の枯渇、東アフリカから中東・インドでのバッタの大量発生と穀物被害の発生など、気候危機に由来すると考えられる危機と災害は上げればきりがないほどだ。
また有害化学物質による生態系への悪影響も深刻である。有害化学物質摂取の強弱や社会環境の影響などにも左右されるのだろうが、生殖能力の減退をはじめ生態系破壊によって数多くの生物が絶滅の危機に向かっていることが指摘されている。そして人類もその一部なのだ。
引き戻ることができなくなる前に、自然・環境・生態系と共存することが不可能で、その破壊者である現在の資本主義システムを終わらせなければならない。そしてより平等で分かち合い、できうる限り自然と共存しながら幸福を追求できる自由な社会を、誰もが「明日を心配しなくてもよい」社会を創り出さなければならないだろう。それこそが私たちがめざすエコロジー社会主義のゴールである。
脱炭素の覇権をめざすEU
COP26はグレタさんが指摘するように、各国と資本の利益を基準にすえた完全な茶番だった。そうした状況を最も演出したのが議長国である英国のジョンソンの振る舞いであった。ジョンソンは議長国として初めて独自の合意案を提案している。緑の保存・EV(電気自動車)への転換・石炭火力の廃止そして途上国融資についてだ。どの課題についても英国にとってほとんど影響しないものばかりだ。日本を含めて各国から出される目標数字も、これといった計画もないまま単なる数合わせの域を出ていない。
それでも15年12月の「パリ協定」の採択を受けてから、不十分ではあったとしてもいち早く対策に乗り出したのがEUであった。EUでは再エネへの転換を通して、シーメンスやヴェスタスに代表される洋上風力発電事業と、そのサプライチェーン(供給網)を着実に造り上げてきた。こうして洋上風力発電市場はEUの独占状態となったのである(太陽光パネルのシェアは、中国が75%と独占状態になっている)。19年12月にEU委員会は50年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを目標とする「欧州グリーンディール」の法制化を発表し、グリーン資本主義の推進を新たな成長戦略とすることを明らかにした。18年まででも持続可能な環境関連分野(その分類には相当怪しいものもあるが)には、3000兆円が投資されている。最新の情報によると、今後30年間で投資額は1京1000兆円ほどになるだろうとされている。主要政府による金融緩和と補助金などの財政出動と、金融市場のカネ余りを背景として、グリーン市場に大量のカネが流入しているからだ。コロナ危機はこうした動きを加速させている。
再エネ電力生産で先頭を走ってきたEUは、脱炭素のグローバルな覇権を構築しようとしていることは明らかである。現在、極めて曖昧なESG(環境・社会・企業統治)投資に対して、それをEU主導の分類基準を一般化することによって、莫大な投資をEUに有利なように誘導しようとしている。さらにEU委員会は20年5月に、新型コロナウイルス対策として総額90兆円の復興基金歳出を決めて、その内の30%を「経済復興のための公共投資は、環境に害をおよぼさない」とする「次世代EU」基金と位置付けた。そして7月には、大規模な洋上風力発電の電力を利用して水素を大量製造する「水素戦略」を発表している。
こうしてEUは再エネ電力生産のための大規模プロジェクトや水素製造などを通して、莫大な資金を何とかして自国の資本に引き込もうとする構図が浮き彫りになっている。しかもグリーンはあくまでも建前にすぎず、本音はどれだけ利益を引き出せるのかということなのである。その典型が原発を「グリーンエネルギー」に組み入れようとしているフランス政府の策略である。いずれにせよIT分野で世界制覇したGAFAなどに続いて、グリーン分野で世界制覇しようとしているEU資本の野望が露骨化している。
いずれにせよEUばかりではなく、資本は莫大なグリーン投資に群がって利益を生みだそうとしている。そして再エネ電力や水素製造の世界でも大量生産・大量消費の資本主義システムを作り上げようとしている。しかし現在の過剰投資によるグリーンバブルが弾けて、資金の流入が止まり、そこから利益が上げられなくなれば、資本はすぐにでも撤退するだろう。それは現在の原発を見れば明らかだろう。1970年代に「石油はあと30年で枯渇する」というデマを世界中に拡散させて、地域住民や労働者・市民による反対運動を押しつぶして次々と世界中で作られてきたのが原発である。この時期は「持続可能な自然エネルギーへの転換」に向かわせるチャンスでもあったが、全体としての主要論理は「原発の危険性」の域を出ることができなかった。
核燃料サイクルはすでに破綻している。日本ではそれぞれに数兆円をつぎ込んできたが、高速増殖炉のもんじゅは廃炉になり、再処理工場はピクリとも稼働しない。また廃炉作業は大量の放射性廃棄物と労働者被ばく以外の何も生み出さない。そしてあげくの果てに、数十万年も毒性が残る核汚染物質を地中に埋めて、福島原発の汚染水も海に廃棄して「何もなかったこと」にしようとしているのである。カネの集まるところに群がって、利益を生みだせなくなったら投げ捨てる。まさにこれが資本の論理なのだ。資本主義は地球や環境を守るために再エネを推し進めているのではない。当座の利益のために資金に群がっているだけなのだ。グリーン資本主義に未来はない。問われているのは誰が電力を含めたエネルギーを支配して管理、運営するのかということである。
置いてけぼりの日本資本主義
岸田政府は昨年の10月22日、「エネルギー基本計画」を3年ぶりに改定して閣議決定した。その中で2030年度の新たな電源構成目標として、再生可能エネルギーの割合を36~38%(19年度18・1%)、原発を20~22%(同6・2%)、火力を41%(同75・7%)、水素とアンモニアを1%(同0%)とした。この決定は菅義偉政権の再エネ目標50~60%、原発・火力とCCUS(CO2の回収・備蓄)30~40%としてきたことからの明らかな後退である。しかも石炭火力を19%温存するとしている。その上で13年度比で温室効果ガスの排出を46%削減するとして、部門別に産業38%、オフィス51%、家庭66%、運輸35%を削減目標としている。
ここから見えてくることは、石炭火力を2050年まで使い続けようとしていることと、いつでも原発に依存できる電力環境を維持するということである。ここには何よりも安倍政権が原発と石炭火力発電の輸出を成長戦略としてきた負の遺産が覆いかぶさっている。EUから完全に1周どころか2周遅れになっている。また自国企業による太陽光や風力発電開発と生産のための芽を摘んでしまったので、産業転換により利益を生み出すシステム構築も見通しが立っていないのである。日本資本主義は完全に置いてけぼりになっているのだ。
岸田政権に立ち向かうために
岸田政権の「政治カラー」は現時点ではっきりとしたものとはなっていない。富の「分配」をキーワードにしようとしているようだが、そのための根本的な政策を打ち出せずに迷走している。当面7月の参院選までは、税金のバラマキ政治で乗り切ろうとしていることは明らかだ。それでも安倍に代表される党内極右派に配慮しながらも、岸田・茂木派による主導権を確立しようとしている。岸田にとって最大の問題は、「新しい資本主義」として漠然と提起されているが、アベノミクスからの脱却である。それは超低金利と官製株価と低賃金・円安維持に明け暮れて、マイナス成長に埋没してきた日本資本主義の長期低落からの脱出策をひねり出すことだ。しかしそのための最大の問題は、富裕層と貧困層のどちらから「収奪」するのかということである。
OECD(経済協力開発機構)は「日本は財政赤字を削減するために消費税の税率を20~26%に引き上げるべきだ」と要求している。これを実行したならば税収総額に占める消費税の割合は、60~70%にまで跳ね上がることになる。税を徴収する政府にしてみれば、消費税はまさに「打出の小槌」なのである。
総選挙の結果、改憲勢力は344議席となった(自民261、公明32、維新41、国民11)。維新と国民民主は「改憲」に向けた動きを作り出そうとしているし、自民党内極右派も安倍を先頭に動きを表面化しようとしている。こうした中で特に注意しなければならないのが、今回の総選挙で大阪ばかりではなく全国で支持率を拡大させた日本維新の会の動向である。維新の政治手法は欧州の極右ポピュリズムと同様に、公務員や移民などを「敵」としてでっち上げて、自らをあたかも「改革者」として登場させるデマゴギー政治に他ならない。こうした維新の正体を徹底的に暴露しなければならないだろう。
また連合と資本・自民党との関係再編問題や、立憲民主党の泉新執行部の評価、今後の「野党共闘」の動向と共産党、れいわ新選組の評価なども合わせて議論しなければならないだろう。そして何よりも労働者・民衆による大衆運動の復権過程を通して、新たな左派結集に挑戦することが最大の課題である。それは憲法9条を始めとした改憲と、ジェンダー平等などを中軸とした攻防としてすでに始まっている。
闘いのスローガン
以下、当面する闘いの課題を提起する。
①改憲阻止し、反戦・平和のための闘いを推し進めよう
安保法制、特定秘密保護法、共謀罪などの戦争と治安弾圧のための法律の廃止をめざす。人民への管理強化のためのデジタル庁の設置とマイナンバーカード普及に反対する。9条改憲や天皇制の強化をもくろむ自民党の改憲草案に反対し、現憲法の主権在民、生存権、基本的人権保障、平和主義などからなる民主主義的な精神を支持し、貧困層や難民救済・在日外国人への人権強化などこれらの精神を徹底させるために闘う。天皇制の廃止をめざす。
アジアにおける平和創出のために、何よりも日米安全保障条約の破棄をめざす。アフガニスタンやイラクで顕著だったように、アジアにおける戦争の危機を作り出しているのは米軍の存在が最大の原因だ。米軍をアジアから叩き出すために、すべてのアジア人民と連帯して闘う。米日豪印4カ国の軍事同盟であるクアッドからの脱退を要求する。軍事予算の拡大に反対して、軍隊としての自衛隊の解体を要求する。
全世界から核兵器を無条件に一掃するために闘う。日本の核武装化に反対し、核兵器禁止条約を速やかに批准することを要求する。沖縄の辺野古新基地建設をただちに中止させて、自然環境の回復を要求する。米軍を沖縄から叩き出すために沖縄民衆と連帯して闘う。馬毛島から与那国島に至る対中国の軍事基地化に反対する。
イージス・アショア配備を撤回させた秋田における草の根の反戦・反基地運動の勝利を教訓化する。
②公的医療・公衆衛生、感染症対策の強化と充実をめざそう
新型コロナウイルス感染は日本の医療・公衆衛生態勢の脆弱性を明らかにした。特に感染症対策にとって、公的な医療・公衆衛生を充実させることが重要であることも明らかになった。資本主義が推し進めてきた生態系と環境の破壊によって、今後も数年おきに新たな有害ウイルスの発生による感染拡大が予想されている。一時的ではなく、長期的な視点に立った感染症対策を要求していこう。
東京都は都立8病院、都保健医療公社6病院と都がん検診センターの地方独立行政法人「都立病院機構」への移行を決めた。公的な医療・公衆衛生の充実化に反する東京都の決定の撤回を要求する。
大学医学部定員の拡充など感染医療、超高齢化社会に対応できる態勢を強化し、研修医の無給労働を廃止するなど、医療従事者の待遇改善を要求する。医学部入学審査での女性・浪人生差別の禁止を要求する。公的医療の無償化を要求する。
コロナの影響で解雇され失業した労働者や女性、学生、高齢者、障がい者などの生存権は十分に保障されなければならない。十分な財政支援と雇用保障を要求する。
2回のワクチン接種と不織布マスク着用による感染症対策の継続を支持する。3回目のワクチン接種は接種者枠を限定して、政府が保有するワクチンのできるだけ多くを貧困国支援に回すことを要求する。製薬会社にワクチン特許の放棄を要求する。PCR検査の無料実施を要求する。コロナ感染者への差別と、ワクチン非接種者やマスク非着用者への差別・排除・敵対に反対する。
③富裕層と大企業からの収奪で貧困と格差社会を是正しよう
貧困と格差の是正のためには、労働者の賃金と税制度が中心的な問題となる。それと合わせて生活困窮者・家庭や外国人移住労働者、貧困学生などの生存権と人権が十分に保障されなければならない。
最低賃金を全国一律で時給1500円とすることを要求する。非正規雇用の労働者が正規職雇用を要求すればそれを受け入れるよう要求する。入管体制の解体と、大学授業料の無償化を要求する。
消費税を廃止するなど、不公正税制の抜本的な見直しを要求する。所得税の最高税率、法人税の基本税率を大幅に引き上げて、金融所得税率も所得税並みに引き上げることを要求する。タックスヘイブンを含めた脱税行為に対しては、その全額を国家が没収し、税金の使われ方を行政と市民が監視して、タックスイーターと政治家らの不正を厳重に処罰することを要求する。
大都市部への人口集中と、無政府的な都市部の乱開発に反対する。雇用と生活の場を計画的に全国に分散させて、持続可能な完全電化の無料で快適な公的住宅と教育、医療、保育、介護を充実させて、誰もが安心して暮らせる社会をめざす。公務員の大幅な拡充を要求する。
④生態系・自然と共存するエコ社会主義をめざそう
気候危機に対処するために、化石燃料から持続可能なエネルギーへの早急な転換が求められている。同時に地震の巣の上に作られてきた原発を今すぐに停止して、廃炉としなければならない。原発は持続可能ではない。第2の福島事故は日本を滅亡させるだろう。気候危機との闘いと合わせて、原発反対の運動を再構築しよう。そして被害を受けた福島の人々の命と健康、生活は全面的に補償されるよう要求し続けなければならない。東北と北海道を核のゴミ捨て場にしてはならない。
エネルギー転換は巨額の投資に群がる電力独占や大企業に丸投げするのではなく、各自治体を中心として地域住民が十分にかかわっていけるものとする必要がある。何よりもまず省エネを徹底させて、現在の利益を生み出す手段としてのエネルギー浪費社会を終わらせることが重要である。エコ社会の実現は単にエネルギー生産に関わる問題だけではない。食糧生産と消費や輸送ロスの問題、交通など移動手段の問題、超リサイクル社会構築の問題、住宅の耐用年数の問題、仕事の転換と雇用・労働時間の問題、気候難民受け入れの問題、そしてエコ教育の問題など課題は山ほどある。大量の電力を消費し、工事事故が多発するなど問題だらけのリニア計画の白紙撤回を要求する。
地震・津波、台風、豪雨などによる自然災害対策は、急を要する課題ではあるが多額の資金と時間がかかる問題だ。優先されるべきなのは何よりも命を守ることだ。安全な避難場所の確保と整備、居住地の移転など自治体と住民による避難体制の確立から始めなければならないだろう。
農林水産業への支援は、現在40%以下にまで落ち込んでいる食料自給率を上げて、自然環境の保全と治水事業などにとっても重要な課題だ。農村の過疎化と高齢化による消滅の危機、コメ食需要の減少、家畜の飼育や高級魚の養殖をめぐる問題、遺伝子操作野菜と魚の生産、乱獲と海水面温度の上昇による不漁と異変など、克服しなければならない課題が山積している。また一方では、オーガニック食品の生産拡大や、間伐材や廃材を利用したバイオマスとしてのペレットの生産と利用といった雇用につながる新しい要素も出てきている。
自然環境を破壊する乱開発に反対する。三里塚空港を廃港にして、緑の大地を取り戻そう。
⑤あらゆる差別と排外主義に反対してジェンダー平等の社会を作ろう
人種、民族、国籍、女性、性的少数者、障がい者、被差別部落などに対するあらゆる差別と排外主義を許さない。極右勢力らによる敵対を退けて、共に団結して差別のない平等な社会を実現しよう。選択的夫婦別姓制度やLGBT平等法などの成立を要求して、性暴力根絶のために闘う。ジェンダー平等の立場から、家族制度や雇用制度、学校入学制度などに関する法律と慣習の見直しを要求する。家事、育児、介護などとかく女性に負担が押し付けられているケア労働の性平等化と社会化をめざす。国会議員に限らずすべての自治体で、議員の男女同数化(パリテ)の義務化を要求する。
組織内女性差別問題の克服と性的少数者の組織内人権保障を確立する。そのための定期的な学習・討論を義務化する。ジェンダー平等や差別に反対する集会や行動に積極的に参加する。
⑥権力の私物化と官邸独裁政治を許さない
森友・加計問題、桜を見る会など、安倍政権で権力の私物化によって引き起こされた疑惑の徹底的な真相究明を要求する。日本学術会議で菅義偉首相によって任命を拒否された6人の任命を要求する。首相官邸と行政権力による独裁政治の温床である内閣人事局の解体を要求する。




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