金もうけが破壊する公共医療

コロナ対策から見えてくる日本資本主義の姿
労働者・市民の未来を共に切り開こう
健康な生活は私たちの権利だ

 11月11日に発見された新たなオミクロン株は、瞬く間に世界中に広がった。オミクロン株の病原性については現時点では不明な点が多い。しかし日本でのオミクロン株の感染拡大は時間の問題であり、昨夏のような医療崩壊を避ける対策が急務である。12月7日、厚労省は第6波に備え、各都道府県が定めた「保健・医療提供体制確保計画」を公表した。計画は昨夏のような医療崩壊を避けることができるのだろうか。

まずは6波抑え込みを


 現在の政府の対策では6波が来た時には医療崩壊を避けることはできないだろう。5波の時のように感染が拡大し、新規感染者が1日当たり3万人を超えてしまえば、公衆衛生を支える保健所、中小民間病院が中心の医療体制は衝撃を受け止めきれず瞬く間に機能不全・崩壊となるだろう。
 例えば、東京都では、5波のピーク時と同規模の6891床、うち重症者用病床1468床しか確保されない。5波では、2万6千人が在宅「療養」を強制され、8月の1カ月で44人が在宅で亡くなった。これでは、同規模の6波が来れば同様な悲劇が繰り返されることになる。しかし早急に病床を積み増しして確保するのは、一般医療を制限することになり不可能である。したがって、6波に備えて医療供給体制を見直すことは重要だが、それ以前に次の感染拡大を引き起こさない対策を徹底して行うことが、対策としては何より重要になる。
 原因はよくわからないが、幸い日本の感染状況は現在落ち着いている。この時期に、徹底した感染の封じ込め、水際での対策を徹底し海外からの流入を阻止し6波を防がなければならない。しかし、政府の現在の対策はこれと真逆なものになっている。
 感染封じ込めのためには、徹底的なPCR検査の拡充が必要である。現在、日本で行われているのは、症状が出現した人の検査である。感染封じ込めのためには、大規模に無症状の人を検査し感染拡大のごく初期の兆候をいち早くつかむことが重要である。また封じ込めるためには、経済活動の制限の必要が出てくるので同時に補償を行う必要がある。シフトワーカーなど不安定雇用の労働者は、いくら検査を呼びかけられても、陽性になれば出勤できなくなりその期間の収入がなくなってしまう。このような状態では検査拡充は不可能である。
 つまり新型コロナ感染初期から言われていた、徹底的な検査、自粛と補償はセットこそが今必要なのである。感染者が少数でも継続していれば、感染が急拡大する火種になりうる。東京はすでに10月17日以降、新規陽性者が50人以下となっているが、この好機を政府と都はみすみす逃そうとしている。
 水際対策も全く不十分なままである。相変わらず感度において問題のある抗原検査を実施しており、入国後の隔離も徹底されていない。現在、オミクロン株の脅威が迫っている。12月11日、4日に成田空港から入国した岐阜県の男性がオミクロン株国内13人目の陽性者であることが発表された。成田空港での抗原検査では陰性だったためにこのようなことが生じたのである。検疫をPCR検査に切り替えなければ、入国者の隔離を徹底しなければ今後もこのような事態は繰り返され、感染拡大に直結するだろう。
 だから私たちは、大規模検査、自粛と補償はセットを何度でも繰り返し訴えていかなければならない。

リストラされた保健所の再建を

 公衆衛生の基盤は保健所と検査・研究などで保健所を支える衛生研究所である。保健所はコロナ対策における司令塔の役割を果たす。しかし全国の保健所は94年に制定された地域保健法で、従来は人口10万人に1カ所と定められていた基準が緩和された。これにより全国に852カ所あった保健所は469カ所(20年4月現在)まで削減された。これを最も徹底的に行ったのが大阪の維新である。
 人口270万人の大阪市。以前は24区すべてに保健所がおかれていたが、現在は1カ所のみである。その結果、保健師1人当たり1万人を超す地域住民を担当しなければならなくなっている。これでは感染が急拡大したときに対応できるわけがない。大阪のコロナ死亡率が東京などに比べて高いことが指摘されている。人口10万人あたりでのコロナ陽性者に占める死亡者の割合が、大阪は1・51%に対して、東京は0・83%である。新型コロナウイルスのハイリスク・ケースでは血管を傷害し血栓を作り、暴走した免疫が肺を壊してしまう。したがって初期から血栓に対する治療、免疫を抑える治療が必要になる。治療開始がおくれればダメージは深刻化する。大阪のコロナ死亡率が高い原因には、保健所の機能不全により治療開始が遅れたことが間違いなく関係している。
 また維新は、衛生研究所のリストラも行っている。大阪では、府立、市立の衛生研究所が活動していたが、17年4月に二重行政として統廃合され地方独立行政法人化された。衛生研究所は地域住民の健康を守るために運営される。維新はそれを独立採算の運営方式に変えてしまったのである。地道な検査・研究機関をリストラした維新を象徴するのが、うがい薬でコロナに対応できる、大阪発のワクチンなど吉村の一連の無責任な発言である。
 新規陽性者の感染経路の特定、リスクの判定と速やかな保護。医療施設とのコーディネート。現行ではこれらがすべて保健所の業務である。この最初の部分で詰まりが生じてしまえば、自宅に大量の感染者が放置されることになる。第5波で大都市を中心にして起きたことである。大阪の例からも明らかなように、医療崩壊に先立って保健所での業務が崩壊していたのである。対策としては、保健所の設置基準を以前のように人口10万人当たり1カ所とし、そこで働く保健師をはじめとする専門職を養成していく必要があり、公衆衛生活動にかかわる公務員を増員することが必要である。病床や療養施設を拡充しても最初の段階で詰まりが生じてしまえば効果を発揮することはできない。公衆衛生の基盤を再建するために地域における野党共闘の協議の場に保健所の新設・拡充を地域住民の要求として出していくことが重要である。

公立病院の拡充を


 日本の医療の特徴を一言で表すなら、それは安上がりである。日本の医療は、ICUなど重装備な公的医療体制が乏しく、医療従事者が少ない脆弱な医療体制である。
 安上がりな日本の医療を支えるのは、中小民間病院である。ところが中小民間病院ではコロナへの対応は困難なのである。第3波までを総括した厚労省のデータでは、急性期病床を有する病院では200床未満の民間中小病院が44%を占める。そのうちコロナ患者を受け入れることができたのは100床以上200床未満では24%。これが100床未満では9%まで低下する。一方200床以上400床未満では51%、400床以上では81%が受け入れることができている。一方公立病院では、200床以上400床未満では86%、400床以上では97%の病院がコロナ患者を受け入れている。つまり中小民間病院では、コロナ患者とそのほかの患者が接触しないように動線を分けたり、感染症や人工呼吸療法の専門スタッフがいなかったりするので受け入れができないケースが多い。つまり日本のコロナ医療は200床以上のある程度の規模を持つ公立・公的病院を中心に担われているのである。
 コロナ医療を強化するには、この公立・公的病院に大きくテコ入れするしかない。ところが政府はここでも真逆の政策をとっている。政府は昨夏の医療崩壊を経験したにもかかわらず、医療費抑制のために病床を削減する方針を変更していない。21年度も地域医療構想に基づき病床削減のために消費税を財源に195億円の予算が計上され1万床の病床削減が計画されている。また同構想に基づく436公立・公的病院の統廃合計画も撤回されていない。先ほどふれたように日本のコロナ医療は公立・公的病院が担っている。ここを統廃合してしまえば、日本のコロナ医療は大きな後退を強いられるだろう。
 また東京都では、都内のコロナ病床の3割を担った都立・公社病院の地方独立行政法人化が強行されようとしている。慶応大学の濱岡教授による都道府県のコロナ対応評価でワースト1は大阪、2は東京だった。しかし東京の死亡率が大阪を下回ることになったのは都立・公社病院を中心に迅速にコロナ病床を確保できたことが影響していることは確実だ。それをあえて独法化しようとするのは都民の命よりも大企業優先の「稼ぐ東京」のために予算を振り向けたい、そして国が強行しようとしている公立・公的病院潰しを率先して行う小池都政の本質が表れている。

医師・看護師の増員を

 医療は人が人に対して提供するサービスである。ベッドがあり医療機器が整備されても、そこに医師や看護師など医療従事者がいなければ医療は提供されない。病床の点でも国の政策は真逆を行くものだが医療人材の点でも国の政策は真逆をいっている。
 昨年5月、東京のコロナ医療の拠点である都立駒込病院の感染症科医師が最大月327時間もの超過勤務を行っていることが明らかになった。過労死ラインの4倍を超える超過勤務である。日本は医師、看護師などの医療従事者が諸外国に比べて極めて少ない。感染症医など専門医も少ない。日本感染症学会が20年7月に政府と知事会あてに出した「感染症診療体制充実と人材育成に関する要望書」によると、第二種感染症指定医療機関(二類感染症に対応する。新型コロナも二類感染症)でも感染症専門医が勤務するのはわずか28・5%である。
 5波のさなか、尾身会長が理事長を務める旧厚生年金病院など57病院を経営する地方独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO)で、コロナ病床として届けているにもかかわらず、3割から5割が空床だったことが報道された。この背景にあるのは看護師不足である。
 大阪では府立病院を独法化し労働条件を切り下げたため看護師の離職が相次いだ。そのためスキルを持った看護師を育成することに失敗し、コロナ重症化センターを作ったはいいが、勤務する看護師を確保できなかった。結果、月給50万で近隣からベテラン看護師を引き抜いた。
 医師・看護師といった専門職は、必要になったからと言ってすぐに確保できるわけではない。長期的な計画をもとに育成していかなければならない。人口10万人当たりの医師数は日本246・7人に対してOECD平均は350人。圧倒的に不足しているのである。しかし国は23年度より段階的に医学部定員を削減するとしている。
 看護師の場合は養成数よりも、労働条件が劣悪で退職者が多いことが問題である。20年度の離職率は11・5%。一般労働者の離職率11・4%に比べて高くないという評価もあるが、国家資格の職種としては高すぎるというべきだろう。労働条件の大幅な改善がされなければ、大阪のように人工呼吸器は揃えたがそれを扱える看護師がいないということになりかねない。岸田首相は、保育士などとともに看護師の賃上げにも言及したが、月4000円である。これで看護師を過酷な現場につなぎとめておけると思っているのだろうか。

ケアする社会へ

 医師、看護師の増員。医学部定員を大幅に増加させること、医療従事者の労働条件を抜本的に改善することが急務である。
 政府の新型コロナ対策を公衆衛生・医療に絞って評価してみた。すべての政策が、科学的根拠がなく真逆のものとなっている。昨夏の5波が明らかにしたように政策が誤っていれば失わなくてもよい命が失われる。命に係わる公衆衛生・医療政策は「なんでも民間がやればよい」というような政治的信念で決定されてはいけない。データと科学的根拠に基づいて決められる必要がある。しかし日本のコロナ対策から見えてくるのは、短期的利益にとらわれ新たなことに挑戦することのできない、硬直し柔軟に自らの誤りを正すことができない、見たくないものはなかったことにする、臆病な二流資本主義国家日本の姿である。科学技術立国などと言っていたが、TSMCの国内誘致などから見えてくるのは、これからも安いものを大量生産して海外に売っていくことしか戦略の持てない資本の姿である。
 また、この間の連合の態度からは、その資本に追従して何とか生き延びようとする道しかないと思い込んでいる労働組合官僚の姿が見える。新興感染症や気候危機の時代を、臆病な資本家と、それにすがって生き延びようとする組合官僚に任せておくわけにはいかない。このままでは貧困は深刻化し、環境への負荷はさらに高まり、それらの矛盾を覆い隠そうとする、排外主義とポピュリズムに依拠した、労働者階級と女性が今まで獲得してきた権利への攻撃が高まるだろう。
 環境に負荷をかけることにしかならない工業製品の大量生産で景気を浮揚させることに未来はないし、そもそもそのような戦略では景気の浮揚も実現できないだろう。持続可能な低炭素社会のビジョン、それはケアである。医療、保育、教育、介護といったケア産業に大きく舵を切っていく必要がある。これらケア産業は女性が多く、そのため低賃金で劣悪な労働条件だった。介護などではアジアからの労働者も増えている。これらケア労働者の労働条件の抜本的改善を要求してこれらを産業として大きく育てていくことが必要だ。ケアは多くの雇用を生み出すことができ、土木産業よりもすそ野が広く、しかも低炭素である。
 時代を切り拓く新しい運動を、ケア労働の現場から創り出していこう。新型コロナウイルスの脅威から、気候危機から、そして失業や長時間労働やハラスメントなど資本の直接的な暴力から、命を守る運動を開始・継続しよう。キーワードは、エコロジー社会主義とフェミニズムである。
 (矢野薫)

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