岸田政権発足から100日

「自己保身」のみに貫かれた政権運営方法を批判する

最優先課題はコロナ対応

 昨年10月31日に実施された総選挙から100日。衆議院で議席の6割を上回る自公で293議席の獲得は、首相である岸田文雄にとって大きな自信となった。「岸田は頼りない」「岸田で選挙を戦えるのか」などと党内で公然とささやかれていたのだからなおさらである。しかしこの総選挙の勝利は「聞く力」をアピールした岸田の「人柄」や「新しい資本主義」なる未知の「政策」が支持されてもたらされたものではない。コロナ・デルタ株感染の急減少というウイルスの「気まぐれ」と、有権者の7割のワクチン接種普及による「安心感」という「空気」によってもたらされたのである。
 昨年7月の東京都議選と8月の横浜市長選で大敗した自民党にとっての最大の敵はコロナウイルスであり、その感染拡大による「感染症対策」の失敗が明白なものとなることであった。こうした状況は7月の参院選に向けても基本的には変わってはいない。現在猛威を振るうオミクロン株の感染者数は東京で2万人超、大阪で1万人超、全国で10万人超を記録しており、この感染者数はデルタ株感染の4倍である。岸田首相が1月17日の施政方針演説で「最優先課題は、新型コロナ対応」としているのも、コロナ感染拡大が政権支持に大きく影響することを強く意識しているからに他ならない。
 菅義偉前政権は、コロナ対策と経済循環政策を合わせて実施し、東京オリ・パラを盛り上げて成功させて、秋の総選挙で勝利するという自民党の方針を忠実に実行したことで、政権支持率を25%にまで下落させている。菅前首相は、こうしたコロナウイルスに対する御都合主義的な過小評価による楽観主義によって、辞任に追い込まれたのであった。
 デンマークや英国などでは何らのウイルス学的な根拠が示されないまま、「オミクロン株でコロナは終息する」といった超楽観論に基づいた感染症対策の緩和が進められている。しかしオミクロン株に続いて、より感染力が強いと言われているBA・2ウイルスの拡大が予想されている。また貧困国のワクチン接種率は今だに10%ほどであり、ワクチンへの耐性株を含めた新たな変異株が出現し続けることが十分に予想される。パンデミック(世界的流行)は世界的に収束されなければ収まることはないのだ。

自己保身を最優先


 オミクロン株の世界的な感染拡大に対して岸田政権が実施した最初の措置は、昨年11月末からの水際対策として「外国籍者に対する入国制限」の強化であった。そうした措置は本来であれば、水際での検疫体制を拡充するなどして「より安全に」入国される人道主義的な政策と一体のものでなければならなかった。しかし岸田政権はそうした対策を怠ったまま「とにかく入れない」という政策を継続したために、約2年間にわたって留学生や技能実習生や外国籍の家族が入国できない状態を放置したのである。これは難民や移民に対する排他的で反人道主義的な日本の入管体制の延長線上にある政策である。そしてこうした政府の政策が、武蔵野市議会における「住民投票からの外国人締め出し」の決定と時期が重なったのである。
 水際対策として一番に実施しなければならなかったのは、日米地位協定9条で「米軍は入管法の適用外」とされていることに対する「抜け穴対策」であった。岸田政権はそうした対策を怠ったために、沖縄を始めとした在日米軍基地周辺での国内最初のオミクロン株急拡大をくい止めることができなかったのである。世論調査によると「日米地位協定を見直すべきだ」が70%を超えている(毎日新聞・1月22日実施)。
 岸田政権によるもうひとつのコロナ対策は、1月24日に厚労省が発表した「条件によっては医療判断で検査せず、自ら検査した上で診断できる」として、自主的な自宅療養を認めたことである。これは1月20日に厚労省の助言組織であるアドバイザリーボード(AB)の有志提言として提出されたものを検討した結果まとめられたものだ。しかし感染症対策の基本は「医療機関で検査して感染者を隔離する」ことである。政府の決定はあまりにも非科学的であり、現代医療の否定につながるものだ。
 しかも岸田首相は諸々のコロナ感染症対策をめぐって、現政権への批判を巧みにかわそうとしている。「これまでの対策を延長・強化しただけ」「専門家のアドバイスを尊重しただけ」、まん延防止措置の適用も「自治体からの要請を受けたもので、対策の中身も知事に委ねているだけ」などと、自分自身で責任を取ろうとしていないのである。これは「聞く力」ではなく、「聞くだけ」であると言わなければならない。ここにこそ自己保身を最優先して「無難にやり過ごして、7月の参院選を乗り切ろう」とする岸田流の政権運営手法が見えてくるのである。

「大宏池会構想」

 そもそも岸田政権は、昨年9月に実施された自民党総裁選における「河野太郎を絶対に勝たせない」派閥連合による自民党内権力闘争によって誕生したのであった。総裁選で勝利したのは岸田本人というよりも、安倍と麻生だとまで言われていたのである。そして河野を支持した石破派と、自主投票とした二階派と石原派は党人事で干されたのである。
 総選挙をラッキーな状況下で乗り切った岸田首相にとって、本当の意味で実績となるのは7月の参院選である。コロナへの楽観主義によって墓穴を掘った菅義偉の二の舞だけは是が非でも避けたいと考えている。そしてもうひとつ重要なことは、党内極右派が集まる最大派閥である安倍派(94人)に対抗できる自身の党内権力基盤を作り上げることである。旧池田派(宏池会)を源流とする派閥の再結集をめざす「大宏池会構想」がそれだ。
 宏池会を源流とする派閥は岸田派(45人)、麻生派(53人)、谷垣グループ(25人)であり、岸田はそこに茂木派(53人)を加えることで強力な党内権力基盤を作ろうとしている。同時に安倍晋三と安倍派の党内影響力をはぎ取ろうともしている。安倍直結の高市早苗幹事長、萩生田光一官房長官とする人事案も蹴飛ばしているし、さらに外相に起用した林芳正は安倍と同じ山口県が地盤であり、天敵同士なのである。しかしその一方では、党内極右派「保守団結の会」に対するガス抜きも欠かせない。

再浮上した改憲問題

 「佐渡島の金山」のユネスコ世界文化遺産登録をめぐって、韓国から「強制労働問題」で反発があった。その背景には「明治日本の産業革命遺産」の登録をめぐって韓国から同様の反発があったために、「十分に説明する」と約束したのだが、極めて不十分なもので、ユネスコの委員会も日本側は「約束を完全に履行していない」とする決議を採択していた。そういう経緯もあり、外務・文科省も「登録の実現は難しい」としていたし、岸田首相もバイデン政権が期待する日韓関係の修復を考慮して先送りの方向で考えていた。しかし安倍らからの「弱腰外交」批判を受けて、1月28日に方針転換をしている。
 同様に2月1日にも5会派共同提出の「中国」という主語を外した、シンチヤンウイグル自治区や香港などの人権状況への懸念を表明する国会決議を可決している。また憲法改正については施設方針演説では最終項として数行書かれているだけである。「本国会においても、積極的な議論が行われることを心から期待します」と完全に付け足しになっている。それでも2月10日には自民・公明・維新・国民民主の4党が早期開催に慎重だった立憲民主を引き入れる形で、衆院憲法審査会の初会合が開かれた。7月の参院選に向けて、9条を始めとした改憲がひとつの攻防環として浮上してくることは間違いない。

全国で「辺野古新基地はいらない」

 さらに「保守団結の会」などが中国と朝鮮を意識して押し出している「敵基地攻撃能力」への対応だ。安倍は「台湾有事は日本有事」だと息巻いているが、これは日本が戦場になることを意味しているということを本気で分かって発言しているのだろうか。
 岸田政府は今年末をめどに外交・防衛政策の基本方針である「国家安全保障戦略」や防衛計画の大綱(防衛大綱)、中期防衛力整備計画(中期防)を改定するとしている。先日行われた日米の外務・防衛担当による安全保障協議委員会(2+2)では「共同文書」として以下のことが確認されている。
 ①日本は戦略見直しのプロセスを通じて、国家の防衛に必要なあらゆる選択肢を検討する。②日米はプロセスを通じて緊密に連携する、という内容だ。その中で最大の論点となったのが、核・ミサイル開発を続ける朝鮮に加えて、中国にどのように対応するのか。ミサイル防衛システム(MDS)で対応しきれなくなっている現実の上で、敵基地攻撃能力の保有を実現させる筋書きをどのように描こうとするのか、ということであった。
 その中で合意されたのは「新型長射程ミサイルの共同開発」であり、検討課題としたのは「台湾有事」への具体的対処と、米軍と自衛隊との役割分担についてであった。
 対中国・朝鮮の軍事的な最前線として、岩国基地から九州、奄美、沖縄諸島基地機能がさらに強化されようとしている。辺野古新基地建設に反対し、完成不可能な基地建設断念に追い込むねばり強い闘いの継続を始めとして、全国で反戦・平和・反基地の闘いを9条改憲阻止の闘いと一体のものとして推し進めていくことが求められている。
 その中でも、9月に実施される沖縄知事選で玉城デニー知事の再選を実現することが極めて重要である。5月に本土復帰50年を迎える沖縄を孤立させることなく、全国で「新基地はいらない」「玉城デニー知事がんばれ」の声を上げよう。
      (高松竜二)

THE YOUTH FRONT(青年戦線)

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