プーチンはウクライナ侵攻をやめろ ウクライナ危機 人びとを血の海に沈めてはならない
命と暮らしをもてあそぶな
戦争の危機が迫っている
民衆の連帯こそ平和の保障だ
プーチンがNATO
に要求していること
15万を超えるロシア地上軍が東と北側のウクライナ国境線に集結している。ウクライナ南の黒海には約30隻のロシア艦隊が待機している。ロシア軍によるウクライナへの軍事侵攻は、北京オリンピック終了直後にも開始されようとしている。プーチンは本気である。バイデンは「ロシアが侵攻しても、ウクライナに米軍を派遣しない」と明言していることから、ロシア軍のウクライナ侵攻が第3次世界大戦の幕開けになるわけではないし、また核兵器が使用されるわけでもない。
プーチンの軍事目標は、ウクライナ軍の撃滅とゼレンスキー政権の打倒である。そして軍事占領は東部の2州に限らず、首都キエフを含みクリミア半島の西に流れ出るドニエプル川東岸全域ということになるだろう。戦闘は弾道ミサイルと空爆によるウクライナ軍拠点へのピンポイント攻撃から始まり、続いて戦車部隊と歩兵による地上制圧といった流れになるだろう。
ロシア大統領府の発表によると、プーチンのNATO(北大西洋条約機構)加盟国に対する要求は2点である。①NATOの東方拡大を排除する信頼ある法的に定められた保証。②ウクライナのNATO非加盟要求に加え、攻撃兵器をロシアの隣接地域に配備しないことも保証に盛ることである。バイデンはこの要求をきっぱりと拒否するのと同時に、米欧諸国などはウクライナへの武器供与と財政支援を強化している。あわせて東欧諸国などに米軍が増派されている。
プーチンによるこの要求は唐突に出されたものではない。東欧諸国のなかで最初にNATOに加盟したのは97年3月のポーランドなど3カ国であった。この加盟にあたって同年5月にロシアとNATO加盟国は、「新規加盟国には戦闘部隊を常駐させない」という「基本議定書」に調印している。その後04年3月には、バルト3国など7カ国がNATOに加盟している。91年12月のソ連邦崩壊後、政治・軍事的、経済的な力関係を背景にして、NATOはエストニア・ラトビアでロシア本土と、ポーランド・リトアニアでロシア領土飛地のカリーニングラード州と緩衝地帯なく接することになったのである。ロシアが以前から強く批判していたのは、ルーマニアとポーランドへのイージス・アショア配備である。迎撃ミサイルだけでなく、トマホーク型の巡航ミサイルの発射も可能だと指摘している。
プーチンがウクライナ
政権に要求していること
ソ連邦崩壊後、ロシア軍による最初の軍事介入は08年8月、ロシア南部で国境を接するグルジア(ジョージア)であった。ジョージアでは03年に、ソ連邦最後の外相であったシュワルナゼ大統領が追放される政変があり、新政権はEUとNATOへの加盟を目標としていた。またNATOも08年4月にジョージアとウクライナの「将来的な加盟」を決めた。これに対してロシアはジョージアからのワイン輸入禁止や送金の禁止などの制裁を加えるのと同時に、ジョージアからの独立を要求する元々親ロ派住民が多かった南オセチアに軍事介入したのであった。
またロシアは14年3月には、ウクライナ領であるクリミア半島の軍事的併合と、その後のロシアと国境を接するウクライナ東部2州(ルガンスク、ドネツク)の一部を親ロ派勢力に実効支配させた。しかしこれはウクライナの領土保全を約束した94年の「ブタペスト覚書」に対する完全な違反である。だがプーチンはその後も、ウクライナへの軍事侵攻に向けた準備を着々と進めてきたのである。
プーチンがウクライナのゼレンスキー政権に要求していることは、15年2月に独・仏の仲介で停戦合意した「ミンスク合意」の履行である。これに対して1月31日、ウクライナ国家安全保障国防会議のダニロフ書記は「履行は不可能。世論が合意を受け入れず、国内状況は非常に困難になる。ロシアはそれを狙っている」と明らかにしている。支持率低迷に苦しむゼレンスキー政権の本質は、反ロシア感情を利用してウクライナ民族主義を高揚させ、自己の権力基盤を強化しようとするポピュリズムである。東部2州の親ロシア派武装勢力を一掃して、国家統合を実現しようとしていることは明らかだ。
しかし親ロ派が実効支配している地域の住民はロシア語を常用し、これまで「自分がロシア人なのかウクライナ人なのか」ということを深く考えることはなかった。しかも60~70万人がロシア国籍を取得しており、19年からはロシア国内パスポートが発給されている(ロシアでは14歳以上に国内パスポートが発給される)し、ロシアの選挙権もある。プーチンはこうして「自国民保護」の大義名分を準備してきたのである。だがこの地域の経済は危機的な状態のようだ。まともな仕事もほとんどないなか、ロシアに移住する人が増えているという。残っている人の半分は年金生活者で、若者は戦闘員として「就職」している者もいるようだ。
NATOはプーチン
の要求を受け入れろ
当初の米国の情報機関による分析によると、ロシア軍は17万5千人まで増員して22年1月にウクライナ侵攻を計画しているとしていた。しかし北京オリンピックへの影響など配慮したのだろう。2月4日には北京で中ロ首脳会談が行われている。米国はトランプ政権以降、対中対抗路線を最優先としてきたが、天然資源に大きく依存した経済復興と軍備強化を押し進めてきた対ロ政策の練り直しを迫られている。現在の米国にこの「2正面」軍事戦略を担う力はない。NATO加盟国と日韓豪などとの共同した軍事力強化を、これまで以上に強く要求してくることになるだろう。また一方では、ロシアも中国もアジアでの対立と欧州での対立にそれぞれ巻き込まれたくないと考えているのも確かである。
バイデンはロシア軍の侵攻に対して、「強力な経済制裁の最終手段」として国際銀行間通信協会(SWIFI)からロシアを排除すると脅している。米軍による偽情報に基づいたイラクへの軍事介入と大量殺りくという事実は、もうすっかり忘れ去られてしまっているかのようである。またバイデンにはウクライナのNATO加盟の障害にもなっていた「ウクライナ汚職問題」に絡む、個人的スキャンダルがある。バイデンの次男(ハンター)は、汚職の問題企業として指摘されていたウクライナの天然ガス企業「ブリスマ」の役員に就任して、14年5月から19年まで5万ドル(575万円)の月給を受け取っていたのである。
またロシアに対する経済制裁といっても一筋縄にはいかない。EUは天然ガス輸入の46%をロシアに依存しているからだ(ノルウェー20%、アゼルバイジャン、米国、カタールなどから数%)。ドイツは輸入の半分以上がロシアからだ。この間、天然ガスは需要の伸びもありただでさえ価格が高騰している。企業活動ばかりではなく、まだまだ寒い時期にガスが手に入らないような事態にでもなれば、ヨーロッパ中がパニックに陥ることになるだろう。そんなことはプーチンも計算ずくである。すでにハンガリーのオルバン政権はプーチンへの屈服を選択している。プーチンは強気である。
2月18日、ウクライナ東部の親ロ派勢力は「ウクライナ軍の進攻の恐れがある」として、住民に「ロシアへの避難」を呼びかけている。いよいよロシア軍によるウクライナ侵攻は秒読み段階に入った。情況は完全にプーチンに握られている。スラブ民族主義のプーチンは、本気でウクライナを取り戻そうとしている。ウクライナで起ころうとしている数万の大量殺りくをくい止めるには、NATOとして「ウクライナの加盟を受け入れる用意がないこと」と「イージス・アショアの撤去」をロシアに対して確約する以外にない。それ以外の選択はウクライナの人々を見殺しにするということである。軍事専門家によると、2日で首都キエフは陥落するだろうと言われている。NATOはソ連邦崩壊後、冷戦時代とは逆に東欧諸国をロシアに対する緩衝地帯・タテとして位置づけて、ほしいままにしてきたことは明らかである。そういった者たちに、ウクライナの人々の命とくらしをもてあそぶ権利などない。
(2月20日 高松竜二)
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