7月参院選で何が問われているのか④

ジェンダー、人種、国籍、移民などを理由とした差別に反対し、多様性で自由に生きられる社会を実現しよう

政治の役割は人権の保障だ

 岸田首相は、3月8日の「三・八国際女性デー」で「ジェンダーギャップ指数が世界第120位に表れているように、我が国は、諸外国に比べて大きく遅れている。男女間の賃金格差や固定的な性別役割分担意識など、構造的な問題がある。対応の鍵は『女性の経済的自立』だと考えています」と発言した。だが岸田政権は、歴代政権による新自由主義路線を継承し、差別と分断、弱肉強食と強搾取を柱にした諸政策を打ち出し民衆の生活破壊へと踏み出している。コロナ危機下におけるジェンダー差別と格差拡大、構造的な家父長的性別役割分業、深刻な人権侵害、女性労働者や非正規労働者、外国人労働者の貧困に切り込むのではなく、従来の「成長戦略」にしがみつき、男女共同参画政策と女性活躍推進法を踏襲し、資本が要求する搾取を構造的に支えるものとなっている。
 以下のような民衆の生命・生活・人権防衛のための過渡的諸課題の取り組みを通して反撃していこう。

(1)ジェンダーを理由とする差別、格差拡大政策を許さない

 資本は、「新時代の『日本的経営』」(1995/日経連)路線にもとづいて労働法制の規制緩和をすすめ、家父長的性別役割分担を温存しながら低賃金、非正規雇用を増やしてきた。政府の「骨太方針2021年」では、「女性のキャリアアップ支援の強化を通じ、男女の賃金格差を解消」などと言っているが、具体的な法的規制強化への取り組みがないのが実情だ。
 その結果として、コロナ危機下において非正規労働者、女性労働者に対する不当解雇、雇止め、派遣切りが増大し、低賃金、長時間労働も強いられているのが現状だ。だからこそ緊急課題として以下のような法的規制が求められている。

 ①男女賃金格差の固定化を許さないために労働基準法など関係法令に、間接差別の禁止(転勤、長時間労働、就業規則)、同一価値労働同一賃金の原則の明記、男女雇用機会均等法第6条の差別禁止事項に「賃金」を加える。
 ②前提条件として国・企業に男女別平均賃金の公表、格差是正計画の策定・公表の義務付けが必要だ。
 ③労基法の「1日の労働時間(休憩時間を除く)の上限を8時間、1週間で40時間」、残業時間の上限を「週15時間、月45時間、年360時間」を厳守させなければならない。同時に、長時間労働を強要する労働基準法第36条に基づく労使協定(36(サブロク)協定)違反・濫用規制や裁量労働制の規制を強化する法的制定が求められている。
 ④育児・介護休業法の改正─休業期間の延長・給与保障を手厚く配分するべきだ。
 ⑤医療・介護・福祉・保育労働者の賃上げ、雇用の正規化、長時間労働の是正、均等待遇、派遣労働者保護法などの法的規制も強化しなければならない。ケア労働者などの社会的労働、公共サービスの拡大を要求していこう。
 ⑥生活を維持するために全国一律最低賃金1500円の引き上げを法的に制定すべきだ。
 ⑦セクハラ、マタハラ、パワハラ、SOGI(ソジ)ハラなどの人権侵害に対して明確にハラスメント禁止法を制定し、行政・雇用主の努力義務ではなく、告発者防衛を前提とした処罰化を法的に明確化すべきだ。

(2)人権抑圧の家父長主義反対! 異性愛強制社会反対! セクシュアルマイノリティーの権利防衛と諸要求の実現を

 ①自己決定権を優先し、結婚制度は廃止すべきだ

 すでに天皇制家父長主義を支える家制度は廃止されているが、その残存として戸籍制度があり、男系の氏の継承がある。女性差別撤廃条約は、同一の個人的権利を保障することを締約国に求めている。つまりカップルのあり方は自由であり、事実婚など自己決定権を優先した自由な生活のあり方を大切にすべきだ。そのプロセスの一環として選択的夫婦別姓制度、夫婦別性がある。「夫婦別姓を認めない民法や戸籍法の規定は憲法違反」だとする各種訴訟を支援、連帯していこう。

 ②異性愛強制社会を許さず、同性婚を認める民法改正を勝ち取ろう

 札幌地方裁判所は、同性婚否定は違憲であるとする国賠訴訟に対して婚姻の自由を定めた憲法24条、幸福追求権を定める13条に違反しないと判断(2021年3月17日)し、原告の請求を棄却した。
 だが同時に法の下の平等を定めた憲法14条の観点から同性婚の否定は婚姻の自由の侵害であり、法の下の平等に違反すると判断した。つまり、性的指向に基づく差別も性別による差別に含めるべきであり、同性婚の否定は差別的な取り扱いだとした。
 この司法の新たな判断をステップに異性愛強制社会による人権侵害の告発を受け止め、同性婚民法改正を推し進めよう。

 ③セクシュアルマイノリティーに対する人権侵害を許さない

 セクシュアルマイノリティーに対する性的指向・性自認に対する深刻なハラスメントが横行している。また、不当な労働待遇、解雇、雇止めが繰り返されている。異性愛強制社会、家父長主義、性別役割分担の構造そのものを変革しなければ本質的な克服はできないし、再生産されてしまう。人権侵害の歯止めとして、差別禁止の根拠法となるLGBT差別解消法案の制定は実現しなければならない。
 すでに改正労働施策総合推進法(20年6月施行)は、パワーハラスメント防止義務の指針(20年1月)にSOGIハラとアウティングもパワーハラスメントであることを明記し、防止を義務付けている。
 改正労働施策総合推進法の成果を打ち固めていくためにも、セクシュアルマイノリティーに対する人権侵害を許さない取り組みを広げていこう。

(3)外国人の人権を防衛しよう!


 ①差別・排外主義の入管法の抜本的改正の実現を

 外国人の人権を防衛するために①在留資格を失った外国人をすべて施設に収容する「全件収容主義」の廃止②収容期限に上限を設定③仮放免制度導入④人権重視の難民認定審査・保護・生活支援が必要だ。非正規滞在者の追放をねらう入管法改悪を許さない。
 岸田政権は、ロシアのウクライナ侵略によって日本へ避難してきた民衆を「避難民」として受け入れ、一年間の「特定活動」の在留資格を認めた。「難民条約」の締約国である日本政府は、『武力紛争および暴力の発生する状況を背景とした難民申請』に関して難民として保護すべき対象だ。
 すでにアジア、中東など多くの仲間たちの日本への難民認定申請が行われている。だが差別・排外主義に貫かれた二重基準によって難民認定していない。「戦争や紛争から逃れた人は含まない」、排外主義的な「難民条約に該当しない」という態度をやめ、条約義務を履行せよ。
 
 ②外国人労働者としての諸権利を認めさせよう

 政府は、資本の要請によって改定入管法(201
9年4月施行)を制定し、外国人技能実習生の移行を前提にした新たな在留資格「特定技能」による外国人労働者の受入れを可能とし、単純労働力として外国人労働者の受入れを拡大した。制度が外国人労働者に対する人権無視・侵害を拡大し続けている。
 「外国人技能実習制度」「特定技能」制度の廃止、労働法に認められた労働者として外国人労働者の権利の保障と生活支援制度を導入すべきである。

 ③定住外国人の政治・社会活動の保障を

 外国人の人権を防衛する一環として政治活動の自由と権利のための法的な根拠が必要である。しかし、日本の差別・排外主義によって制約されたものでしかない。その突破口としてあるのが、定住外国人の地方選挙権である。
 すでに43自治体は、定住外国人に住民投票の投票権を認める条例を制定している。さらに28自治体は、永住外国人に限定し、13自治体は、「国内で在留資格を持ってから3年以上」(川崎市)の定住外国人の投票権を認めている。
 定住外国人に都道府県・市区町村の首長・議会議員についての選挙権、直接請求権、首長・議員リコールなどの住民投票権を保障すべきである。社会に参加するための政治的社会的諸権利を保障せよ。

(4)性暴力を許さない社会に向けて


 性暴力が繰り返され、巧妙・悪質化しつつある。この流れをストップさせるために性暴力禁止法・性暴力被害者支援法の制定、DV防止法の改正が必要だ。

 支援団体「Spring」は、法務省法制審議会の刑法性犯罪規定改正の議論に対して「積み残された課題」として①時効の撤廃または一定期間の停止②暴行・脅迫の要件の見直し③地位や関係性を利用した行為を処罰する法律の創設④性行為への同意を判断できるとみなす年齢を16歳以上に引き上げることを求めている。
 とりわけ、強制性交などの構成要件の見直しでは、暴行などがなくても被害者の同意がない性行為を処罰の対象とすべきである。相手の意に反した性的行為を一律に処罰する「不同意性交罪」の制定が必要だ。
 さらにDV防止法は、配偶者やパートナーによる精神的暴力、性的暴力なども含めた保護対象の拡大が必要だ。相談・シェルター・生活支援制度の充実化も必要だ。

(5)マイノリティー差別などを許さない包括的差別禁止法の制定を

 部落解放・人権研究所は「すべての人の無差別平等の実現に関する法律(案)」(包括的差別禁止法案/2022年3月に)を発表した。国際人権基準の観点から多様なマイノリティーに対する差別を禁じ、教育、相談体制の充実なども提起している。
 すでに日本には、障害者差別解消法(2016年)、部落差別解消法(2016年)、ヘイトスピーチ解消法(2016年)、アイヌ施策推進法(2019年)、が制定されている。表現の自由を侵害する恐れがあるとして禁止規定や罰則はない。
 現在でもヘイトクライムやネット上で誹謗・中傷が悪化している。とりわけ日本政府の「朝鮮高校無償化適用排除」などの在日朝鮮人差別を続けていることを背景として悪質化している。川崎市は、「川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例」を制定(2019・12)し、罰則規定を盛り込んだ(市の勧告や命令に従わず、差別的な言動を3度繰り返した場合、最大50万円の罰金を科す)。だが、あいかわらず差別・排外主義者たちのヘイトスピーチ、いやがらせが続いている。
 このような日本社会の根深いマイノリティー差別を許さない取り組みの一環として包括的差別禁止法の制定が求められている。
(遠山裕樹)

ジェンダーによる差別をやめさせよう!

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