岸田政権の経済「骨太方針」を批判する
「新しい日本型資本主義」の正体を暴く
軍拡・民衆生活破壊に反対の闘いを
「人への投資」という嘘
岸田政権は、6月7日、「経済財政運営と改革の基本方針2022 新しい資本主義へ~課題解決を成長のエンジンに変え、持続可能な経済を実現」(骨太方針)を決定した。
骨太方針は、年末の予算編成に向けた政策を提示し、8月ごろに各省庁が予算概算要求を出し、年末に政府予算案を決定する。各省庁の予算取りになるため官僚らの要求予算をほぼ詰め込んだ「作文」となっている。
従来とは違うのは「第3章 内外の環境変化への対応」で「外交・安全保障の強化」を設定し、「国際社会では、米中競争、国家間競争の時代に本格的に突入する中、ロシアがウクライナを侵略し、国際秩序の根幹を揺るがすとともに、インド太平洋地域においても、力による一方的な現状変更やその試みが生じており、安全保障環境は一層厳しさを増していることから、外交・安全保障双方の大幅な強化が求められている」という認識のうえで軍拡予算を強行していくことを宣言していることである。
さらに中国のグローバル経済市場とのストレートな緊張を避ける姿勢をとりながらも、あえて中国と明記せずに覇権主義的展開に対抗していくアプローチとして初めて注釈扱いで「台湾」を取り上げ、「2022年5月23日の日米首脳会談において両首脳は、日米同盟を強化することを改めて確認したほか、台湾に関する両国の基本的立場に変更はないことを確認し、国際社会の安全と反映に不可欠な要素である台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促した」と強調し、「台湾有事」を煽りながら日米安保体制を基軸とした共同軍事態勢のレベルを高めていくことを公然化した。
当初、政府側官僚らは、「台湾」明記は中国を刺激するとしてあいまい表現で乗り切ろうとしていたが、自民党軍拡派の佐藤正久外交部長らが圧力をかけて明記させた。佐藤は、「100点ではないが、台湾が骨太に初めて記載された意味は大きい」(産経/6・8)と大喜びだ。
軍事費GDP2%
このように自民党軍拡派と防衛省は、米国の「国家安全保障戦略の暫定的な指針」(3月5日)の一環である対中シフト構築にむけて新たな踏み込みを開始したのである。すでに日米政府は、日米安全保障協議委員会(2+2/1月7日)で対中国、対北朝鮮共同軍事作戦態勢に合意している。具体的には①敵基地攻撃能力の確保②「台湾有事」への共同軍事対処、南西諸島での自衛隊の態勢を強化し日米の施設の共同使用(米海軍・米空軍+自衛隊の共同軍事作戦、自衛隊の南西諸島〔琉球弧〕配備)を推し進めている。セットで米軍を軸にして「同盟国と連携して抑止力」を高めるために日米安保の多国間安保化構想を押し進め、日米豪英共同軍事演習の頻度を高めている。
この軍拡のエスカレートの既成事実を追認する形で骨太方針は、「『自由で開かれたインド太平洋』の実現に向け、日米同盟を基軸としつつ、豪印、ASEAN、欧州、太平洋島しょ国等の国・地域との協力を深化させ」ながら、「前述の情勢認識を踏まえ、新たな国家安全保障戦略等の検討を加速し、国家安全保障の最終的な担保となる防衛力を5年以内に抜本的に強化する」と具体的に掲げ、自民党軍拡派と防衛省を財政的にもバックアップしていくことを明記したのである。
しかも軍事費の巨額化に向けて、わざわざ骨太方針で「NATO諸国においては、国防予算を対GDP比2%以上とする基準を満たすという誓約へのコミットメントを果たすための努力を加速することと防衛力強化について改めて合意がなされた」ことを浮彫りにしながら日本も軍事費を対GDP比2%以上にしろという脅迫だ。
民衆生活の破壊だ
これだけではない。「年末に改定する『国家安全保障戦略』及び『防衛計画の大綱』を踏まえて策定される新たな『中期防衛力整備計画』の初年度に当たる令和5年度予算については、同計画に係る議論を経て結論を得る必要があることから予算編成過程において検討し、必要な措置を講ずる」と恫喝する一文も挿入されている。さらにダメ押しで「第5章 当面の経済財政運営と令和5年度予算編成に向けた考え方」で「ただし、重要な政策の選択肢をせばめることがあってはならない」と強調し、軍拡予算優遇派に対する財務省官僚らの抵抗派に対するまわし蹴りまでしているほどだ。岸田政権の日米安保体制下における対中国シフトに向けた軍拡へのエスカレートは、単なる危機アジリではなく、財政的担保にもとづいて着実に積み上げていくことの現れなのである。
安倍晋三元首相は、軍事費増額を強硬に主張し、骨太方針に明記することを実現させたが、財政的根拠は「国債で対応すればいい」などと無責任な立場を貫いている。安倍がこのような発言を平気でいうのは、骨太方針の「中長期の経済財政運営」で「危機に対する必要な財政支出は躊躇なく行い、万全を期す。経済あっての財政であり、順番を間違えてはならない。経済をしっかり立て直す。そして、財政健全化に向けて取り組む」の一言で終わっていることに示されている。
つまり、これまで国と地方の基礎的財政収支(PB、プライマリーバランス)の黒字化目標を25年度としてきたが、目標年限を削除させたからである。財政再建派の「財政健全化推進本部」(岸田首相直轄)と、積極財政派の「財政政策検討本部」(安倍晋三顧問)の妥協の産物として目標年限を削除させたのである。
基礎的財政収支は、政策経費を借金に頼らず税金で賄えるための指標だ。あくまでも政府のデタラメな財政運営をごまかすための装置であり、いつも目標を達成できず先送りにしてきたいいかげんな指標を温存してきた。ついにこのインチキな基礎的財政収支の目標さえも吹っ飛ばしてしまった。すでに国債と借入金、政府短期証券の残高を合計した「国の借金」は、3月末時点で1241兆3074億円であり、民衆1人あたりの借金は1011万円以上に膨らんでいるのだ。
軍拡による無駄で、必要もない借金を増額させ、民衆にそのツケを押し付ける狙いだ。これ以上のアナーキーな財政運営を放置することはできない。民衆の生活を破壊する軍拡予算を許してはならない。
治安弾圧体制の強化
日本帝国主義国家の暴力装置の飛躍は、自衛隊だけにかぎらない。治安弾圧機関の高度化に向けて骨太方針は、経済安全保障推進法の制定をバネに「国家安全保障局を司令塔とした、関係府省庁を含めた経済安全保障の推進体制の強化を図るとともに、内閣府に経済安全保障推進室(仮称)を速やかに設置し、情勢の変化に柔軟かつ機動的に対応する観点から関係省庁の事務の調整を行う枠組みを整備する。インテリジェンス能力を強化するため、情報の収集・分析等に必要な体制を整備する」と国家支配装置の柱にインテリジェンスを設置すると明記した。
連動して自民党の高市早苗政調会長は、フジテレビ日曜報道(6月12日)で「(経済安全保障推進法が成立して)残る課題はセキュリティクリアランス(秘密取扱適性確認)だ」「スパイ防止法に近い物を入れ込んで行くことが大事だ」と述べた。自民党軍拡派のかつてからの念願であったスパイ防止法を経済安全保障推進法に組み込むという形で実質的な制定の実現をねらっている。つまり、民衆監視と弾圧強化に向けて公安政治警察、公安調査庁、内閣情報調査室、自衛隊情報保全隊の連携を強め、権限を拡大させようというのだ。骨太方針を担保にして関連セクションに関する予算額増額は必至だ。民衆弾圧・監視の強化を許さない。ただちに廃止せよ。
「人への投資」は資本のため
骨太方針は、「新しい資本主義」と称して「成長と分配をともに高める『人への投資』を始め、科学技術・イノベーションへの投資、スタートアップへの投資、グリーントランスフォーメーション(GX)、デジタルトランスフォーメーション(DX)への投資を柱とする重点投資分野についての官民連携投資の基本方針を示す」などと参院選を前にして大資本・財界のために金儲けを優遇した政策をなんら具体的な根拠を掲げることもできず成長戦略にしがみついた投資という博打によって延命させていくという決意表明の羅列だ。
岸田は、当初、「新しい日本型資本主義」を掲げ、「成長と分配の好循環」「分配なくして次の成長なし」などとウソを吹きまくり、金融所得課税の強化まで言っていた。後に「成長も分配も」と修正し、結局、「投資による資産所得倍増」などと本性をさらけ出す始末だ。資本・財界・投資マフィアのご機嫌をとりながら、民衆の生活を破壊し、金儲けを優先した「新しい日本型資本主義」のために貢献していくことをデッチ上げ、「作文」としてまとめあげたのが、「第2章 新しい資本主義に向けた改革」なのである。
自民党のアベノミクス継承の積極財政派は、破産したトリクルダウン(大資本が儲かればそのおこぼれが低所得層に落ちていく)の発想にこだわり、市場軽視だと岸田政権に圧力をかけていたが、軍拡予算と同様に骨太方針に「ただし、重要な政策の選択肢をせばめることがあってはならない」と適応させ、その内実が歳出改革・削減ではないことを認めさせ自民党内論議をまとめた。
「人への投資と分配」では、「働く人への分配を強化する賃上げを推進する」「男女の賃金格差の是正に向けて企業の開示ルールの見直し」「同一労働同一賃金の徹底」「非正規雇用労働者の処遇改善や正規化に取り組む」などと掛け声だけは列挙しているが、いずれも法的に制定していく根拠に裏打ちされた諸政策を提示していない。
不真面目な姿勢は、例えば、骨太方針には「できるかぎり早期に最低賃金の全国加重平均が1000円以上となることを目指し、引き上げに取り組む」と触れているが、全国の労働者の要求は、全国一律最低賃金1500円への引き上げであり、法的に制定すべきだ。
労働者の賃上げを優先すべきなのに、資本に対して「賃上げ促進税制の活用促進、賃上げを行った企業からの優先的な政府調達等に取り組み、地域の中小企業も含めた賃上げを推進する」などと言う。大資本を優遇したうえで中小企業対策を行うにすぎない。すでに大資本は優遇税制を利用しながら内部留保(20年/466兆円)にまわしてしまっているのが実情だ。内部留保税の制定、法人税と累進課税の引き上げの強化を通して民衆生活への配分を広げていくという政策的発想はどこにも見当たらない。
骨太方針が「人への投資」と提示するなら、金儲けのための強搾取政策の推進ではなく、労働基準法など関係法令に、間接差別の禁止(転勤、長時間労働、就業規則)、「職務」にもとづく同一価値労働同一賃金の原則を明記、男女雇用機会均等法第6条の差別禁止事項に「賃金」を加えることだ。セットで長時間労働を強要する労働基準法第36条に基づく労使協定(36〔サブロク〕協定)違反・濫用規制や裁量労働制の規制を強化する法的制定も行え。
そして緊急、切実な要求として、①育児・介護休業法の改正─休業期間の延長・給与保障の手厚い配分。②医療・介護・福祉・保育労働者の賃上げ、雇用の正規化。③長時間労働の是正、均等待遇、派遣労働者保護法などの法的規制の強化。③ハラスメント禁止法を制定し、行政・雇用主の努力義務ではなく、告発者防衛を前提とした処罰化を法的に制定せよ。
政府予算案に反対を
岸田は、「政策の順番が大事だ。まずは人への投資、賃金(上昇)を最優先に考えていく」などと言っているが、骨太方針の一体どこにそのことを証明する具体的政策があるというのか。コロナ対策の強化に向けた医療体制の充実ではなく合理化の推進、原発・再稼働の推進、地球温暖化を促進するエネルギー政策、負担増大を強要する社会保障改悪など民衆生活を破壊していくための設計図だらけだ。軍拡・資本・金融マフィアを手厚く保護し、労働者を搾取しやすくしていくシステムづくりのための提言でしかない。骨太方針に反対し、各省庁による手前勝手な予算概算要求から年末の政府予算案作りを厳しく監視し、反対していこう。
(遠山裕樹)
週刊かけはし
《開封》1部:3ヶ月5,064円、6ヶ月 10,128円 ※3部以上は送料当社負担
《密封》1部:3ヶ月6,088円
《手渡》1部:1ヶ月 1,520円、3ヶ月 4,560円
《購読料・新時代社直送》
振替口座 00860-4-156009 新時代社