参院選結果分析(その1)

改憲潮流が2/3の議席を確保
改憲をめぐる攻防に向けて大衆運動の構築が急務

社民党の2%突破、沖縄での勝利など反撃の手がかりも右派ポピュリズム政党の伸長は何を意味するのか

はじめに

 7月10日に投開票がおこなわれた参院選(第26回参議院議員通常選挙)では、自民党が改選125議席の過半数(63議席)を獲得し、非改選議席と合わせて119議席(選挙前から8議席増)となり、同じ与党の公明党(1議席減)、および維新の会と国民民主党を合わせた改憲4党で改憲発議に必要な3分の2を超える結果となった。その結果、次の国政選挙が実施される予定の3年後に向けて、憲法改悪をめぐる攻防の中で、改憲阻止の大衆運動の再構築が切迫した大きな課題として、われわれの前に提起されている。また、自民党の「右」に位置づけられる参政党とNHK党が、あわせると300万票を超える得票を得て、それぞれ議席と政党要件を獲得した。同時に、維新の会をも含めた右派ポピュリズム政党の基盤が大衆的に形成されていることが改めて示され、そのことが持つ意味をどのように考えるかを突きつけている。
 野党の側を見れば、立憲民主党や共産党が議席を減らす一方で、社民党が2%を超える比例票を獲得して議席と政党要件を確保することに成功したことや、沖縄で「辺野古新基地建設反対」を掲げる伊波候補が再選をかちとったことは、今後の運動にとっての大きな足がかりを残したという意味で大きな意義を持っている。また、維新の会の全国政党化をある程度まで阻止できたことも、決して小さくない成果といえよう。
 こうした選挙結果について、われわれはどのように考えればよいのか、選挙結果が示すものを、とりわけ比例票の動向を軸にして分析してみたい。

右派ポピュリズム政党の「躍進」


 まず注目すべきなのは、自民党の「右」に位置する参政党やNHK党といった右派(極右)ポピュリズム政党の得票数が300万票を超えたことである。これは、2014年の総選挙で、当時の「日本維新の会」の解党によって石原慎太郎らを中心に結成された「次世代の党」が得た比例票、約141万の2倍を超えるものである。しかも「次世代の党」が比例で議席を取れなかったのに比べ、衆院選と参院選の違いはあるものの、参政党やNHK党はともに1議席を獲得し、政党要件もクリアした。これは、自民党の「右」に位置する政治潮流が初めて国政の中で位置を占めたことを意味する。
 今回の参院選にあたって、NHK党はこの「次世代の党」を意識して、立花党首が「核兵器保有や原発再稼働などを発信することで、次世代の党などの消滅で不在となった『自民党の右側にいる保守政党』であることを打ち出した」(産経新聞)とインタビューで答え、自らのスタンスを明確にした。これは、「NHKのスクランブル放送化」を掲げたワンイシュー政党として選挙活動をおこなった従前の2回の国政選挙とは、はっきりと異なる点である。もちろん、その右翼的性格はさまざまな面から指摘されてはいたし、有力な在特会メンバーがNHK党から地方議員に当選しているという事実も明らかにされてはいた。しかし、今回はまさに自らスタンスを明確にして選挙戦を戦い、過去最高の得票数を記録したのである。NHK党は、選挙区定員一杯の候補者を立てた上で、個々の候補者がそれぞれ、想い想いの政策や考え方を訴えることを認めていたと言われ、街頭演説ではNHK問題を別にすれば多様な分野での訴えが聞かれた。それらへの支持を全体としてのNHK党支持へと結びつけ、さらにSNSやYouTubeを駆使した選挙戦術で選挙区でも2%超えを実現させたのである。
 また、選挙を通じて、マスメディアからも大きな注目を浴びるようになった参政党は、その綱領の中に「天皇を中心に一つにまとまる平和な国」「日本国の自立と繁栄を追求」「日本の精神と伝統を活かし」と明記するとともに、三つの重要政策の一つに「国のまもり」を掲げて、右派政党としての性格を自ら隠そうとしなかった。それは、各政策の中で「国や地域、伝統を大切に思える自尊史観の教育」「外国資本による企業買収や土地買収が困難になる法律の制定」「外国人労働者の増加を抑制し、外国人参政権を認めない」などを打ち出していることからもわかる。参政党は、神谷事務局長の街頭演説を支持者がユーチューブなどで配信し、それを見た人々が支持者になっていくという形で支持を拡大し、7万人以上の党員・サポーター、5億円ものクラウドファンディングを集めたと言われている。
 しかし、参政党の性格を特徴づけるもう一つの側面は、オーガニック信仰ともいうべき政策を突出して主張している点にある。重要政策の二番目に掲げられているのは「食と健康、環境保全」なのである。具体的には「有機農業」「食品添加物の拒否」などから、反コロナワクチンへと至る主張である。神谷事務局長と一時期仕事を一緒にしたことがあるという古谷経衡さんによれば、参政党は「オーガニック信仰にネット保守の要素を合体させた『オーガニック右翼(保守・右派)』という、私自身、この規模で展開されているのを初めて目撃した国政政党」であるという。そして、「参政党が一貫して主張しているのは不純物のない、『混じりけのない純粋なる何か』であり、それが有機農法、食品添加物禁忌へとダイレクトにつながっている。・・・『混じりけのない純粋なる何か』をそのまま延長していくと、『日本は純血の日本民族だけが独占する、混じりけのない国民国家であるべきだ』という結論に行きつく」と参政党の性格を描き出している。
 古谷さんによれば、「参政党の演説や集会の内容を仔細に点検していくと」「いかにも保守色の強烈な、いかにもネット保守が好みそうな言説は、『主・従』でいうと明らかに『従』で」あり、「参政党の実際の街頭や講演会等での内容は、圧倒的にオーガニック信仰である」とのことである。そして、「参政党支持者の大きな部分は、政治的免疫が絶無の無党派層を中心とし、さらにその中でも消費者意識の高い、中産・富裕層を中心としたオーガニック信仰によるものである」として、「『混じりけのない純粋なる何か』の延長としての純血主義、国粋主義」という「従の部分の保守的要素は、主の部分であるオーガニック信仰さえ受け入れられれば、まずすんなりと受容される」と分析している(引用はすべて、古谷経衡「参政党とは何か?『オーガニック信仰』が生んだ異形の右派政党」による)。
 これはかなりの程度、的を射た分析だと思えるし、ある意味ではNHK党にも当てはまる部分がある。古谷さんは政党名を出さずに、かつてヨーロッパにも似たような政党があったと指摘しているが、それは明らかにドイツのナチスを指している。ナチスと第三帝国が、有機農業礼賛と民族浄化思想とを結合させ、自然環境を破壊する異民族には生きる価値はないとして、その絶滅をめざしたホロコーストの実行へと向かっていったという歴史的事実は忘れてはならないだろう。
 こうした二つの右派ポピュリズム政党の他に、いくつかの極右政党も立候補しており、それらの得票数を合わせると比例では340万票を超える。この結果は、自民党の「右」に位置する政治勢力、言い換えれば極右勢力が一定の地歩を築いたことを示すものである。そして、それらが多くの人々の抱える不満や閉塞感を巧みにすくい上げ、反グローバリズムを掲げながら、街頭演説やSNSを通じて既成政党やメディアを批判するという、ヨーロッパやアメリカの極右の手法と共通している点に注目する必要がある。
 こうした事態は、自民党が超保守派(極右)政治家を抱え込むという従前のあり方(旧統一教会はこうした自民党内の超保守派を支援してきた)が限界を露呈したことの表現だと私には思える。つまり、ヨーロッパやアメリカですでに進行していた極右の公然たる登場と政治勢力としての伸長という状況が、ようやく日本でも現実となってきたものと言えるのではないか。もちろん現在あるNHK党や参政党がそのまま、ヨーロッパにおける極右政党のような勢力になるかは不明だし、その可能性は少ないかもしれない。しかし、既存の政治システムへの異議申し立てが極右を通じて表現されるというルートができたことの意味は決して過小評価できるものではない。
 言い換えると、一方では新自由主義的グローバリゼーションを推進しながら(規制緩和や民営化など)、もう一方では党内で「選択的夫婦別姓」にすら反対し、伝統的な家族観や教育観に固執する超保守的政治家に大きな影響力を持たせてきたという、自民党の従前の政治システムの「矛盾」が、情勢の進展とともに、(維新をも含めた)右派ポピュリズム政党の台頭を許しているのである。旧統一教会の分派である「サンクチュアリ教会」が参政党を支援していたと報じられているのは、その一つの象徴的な現象かもしれない。

野党の「迷走」に助けられた与党


 与党である自民党・公明党の票数は比例では決して増えていない。むしろ公明党は続落傾向に歯止めがかかっておらず、比例票が618万票にまで減少し、比例での議席を減らしたことに見られるように、昨年総選挙での踏ん張りが一時的だったことが明らかとなった。
 選挙最終盤で起きた安倍元首相殺害事件は、得票数から見る限り、少なくとも比例では大きな影響を与えていないと言える。しかし、報道によれば、選挙区では様相が異なっていたようだ。東京では、「景色が変わりました。ビラを配っていて、有権者の方が『安倍さんの分まで頑張って』『安倍さんのためにも』とこちらを励ましてくれます。見知らぬ方からこれだけ応援されるのははじめての経験です。情勢調査で生稲候補は順位を下げていたので危機感を持っていましたが、手応えを感じています」(Friday電子版の記事)という自民党関係者の実感が伝えられ、接戦と言われた他の選挙区でも、殺害事件の後で自民党候補の優位が鮮明になったと報じられていたからである。
 また、岸田自民党の「シニア・シフト」を指摘する報道も見られる。「自民の比率が最も高いのは70歳以上の40・8%で、19年の出口調査から1・5ポイント上昇した。50歳代は3・5ポイント伸ばして39・6%、60歳代は2・4ポイント高い38・2%で、支持の広がりがみられた。安倍政権のもとでの3回の参院選は若年層ほど自民に入れる傾向が出ていた。今回は20歳代が19年比で3・5ポイント下がって37・6%、30歳代が同1・6ポイント低い39・0%だった。岸田政権下での自民支持層の「シニアシフト」が浮かぶ」(日本経済新聞)。
 そして、上述したように公明党の比例票は減り続けており、6年前の参院選からは139万票、3年前と比べても35万票以上減らしている。明らかに創価学会信者の中での活動家層の高齢化によって、活動量の低下は否めなくなっている。私の住んでいる新興住宅地でも、公明党のポスターを掲示している家の数は群を抜いて多いのだが、創価学会信者以外への広がり(いわゆるF票)が感じられないのだ。岡山選挙区において、公明党の推薦を拒否して大勝した自民党候補は、ある意味、そうした状況を見透かしていたのかもしれない。
 その結果、与党である自公両党を合わせた得票数も、3年前の前回選挙とほぼ同数、昨年の総選挙と比較すると240万票の減となっている。それにもかかわらず、自民党が議席を増やしたのは、選挙区での野党共闘がごく一部でしか実現しなかったことに端的に表現される野党の「迷走」のおかげであり、それに投票日直前の安倍殺害事件の影響が加わったためであった。この点については、野党の項で改めて分析したい。
 このようにして、維新・国民民主と合わせた改憲4党で、憲法改正発議に必要な3分の2を衆参両院で確保した自公政権だが、その前途が安定しているかと言えば、決してそうは言えない。今回の参院選では、民衆の持つ不満や閉塞感、あるいは既成の政治システムそれ自体への不信感は、とりあえず投票行動としては、維新をも含めた右派ポピュリズム政党に吸収されるか、半数近い棄権という形で収まり、自公政権に直接の大きな打撃を与えるには至らなかった。しかし、世界の地政学的な危機の構図、人類の存続そのものを脅かす気候危機、ウクライナ侵略を契機にしたグローバル資本主義の矛盾の露呈、日本資本主義の深い構造的危機など、いつ大衆的な不満に火をつけるかわからない状況にある。
 世界的に見れば、そのことは、フランス総選挙における左派連合の一定の前進、スリランカにおけるラジャパクサ一族支配への大規模な反乱などを見ても明らかであろう。現在の状況は、大衆的な不満があくまで中間的な段階にとどまっていることの表現であるが、さらに危機が深刻化すれば、「社会主義か、バーバリズムか」というローザ・ルクセンブルグのことばが現実化する事態に陥るだろう。そこで問われているのは、まさに左翼なのである。

「全国政党化」を阻まれた維新の会


 維新の会は、昨年衆議院選挙での「躍進」と安倍・菅政権の退場を受けて、表向き自民党との「対決」姿勢を打ち出しながら、次回総選挙で「野党」第一党を目指すための足がかりを作ろうとしていた。具体的には、比例で立憲民主党を大きく上回り、選挙区でも議席を新たに獲得して「全国政党化」を図ろうとしていた。というのは、昨年の総選挙で「躍進」したとはいえ、小選挙区で勝利したのは発祥の地である大阪府がほとんどだったからである。参院選において、最低目標としていた12議席は獲得したものの、松井代表が厳しい表情で「われわれは力不足。負けを認めざるを得ない」と語ったように、目標としていた全国政党化を阻まれる結果となった。
 選挙区では、現職以外の当選者はなく、比例でも昨年の総選挙での比例票を下回り、しかも得票数の3分の1が近畿、18%強が大阪での得票だったのである。さらに、重点選挙区として必勝を期していた東京と京都では、れいわの山本太郎候補に最下位当選の席を奪われ(東京)、国民民主の前原誠司代表代行とタッグを組んだにもかかわらず、立憲民主の福山哲郎前幹事長の議席を奪うことはできなかった(京都)のである。つまり、「野党」第一党を目指しながら、その野党に敗れる結果となったのだ。
 しかし、昨年の総選挙での比例票にはわずかに足らなかったとはいえ、3年前の参院選と比べると比例票を約300万票近く増やしているのも事実である。「元祖」右派ポピュリズム政党としてその勢力を維持しており、左派・リベラル政治潮流の「迷走」が続けば、再び支持を拡大する可能性を持っていることを肝に銘じる必要がある。その一方で、お互いに強力な盟友関係にあった安倍元首相と松井代表が2人とも政治の表舞台から姿を消すことによって、維新の政治的立ち位置が揺らぐことも考えられる。
 さらに「ベーシックインカム」や減税などをめぐって党内での対立があることも事実であり、すでに地域における権力機構と一体となっている大阪維新の会は別にして、松井代表辞任後に党としての一体性を確保できるか疑問視する報道も多く見られた。大阪でも、参院選前に展開された「カジノ住民投票条例」の制定を目指す直接請求の署名運動が法定数を超えたことに見られるように、カジノ誘致をめぐる攻防の中で、新たな芽が生まれつつあることに注目すべきであろう。        (続く)

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