終わりのないコロナウィルス危機
今までの無策を正当化する
全数把握見直しと5類への変更論
医療の崩壊は
さらに深刻化
岸田首相は医療機関の負担を軽減するために、新型コロナウイルス感染の全数把握の見直しを都道府県の判断で行うと8月24日に発表したが、26日には全国一律に実施すると修正した。朝令暮改の変更は、岸田政権のコロナ対策が科学的根拠に基づいていないということを明らかにした。
今まで新型コロナウイルスを診断した医師は、保健所に発生届を提出。保健所はその中からハイリスク患者を抽出し入院調整を行い医療につなげるという体制がとられているはずだった。岸田首相が見直しを宣言するまでもなく、全国で全数把握方針は破綻していた。ものの10分ほどで発熱外来の1日分の予約が埋まってしまい、発熱しているにもかかわらず診察を受けることがそもそもできない。
コロナ陽性と診断されても、ほとんどは自宅「療養」を強制される。心臓や呼吸器に持病のある人、高齢者などハイリスクに該当する人には保健所から健康観察の連絡があり、容態に変化があればすぐに入院調整がされるはずだった。しかしハイリスクであっても保健所からの連絡はない。その間に呼吸困難感などの症状が悪化し救急要請を行っても受け入れ病院が見つからず、救急車内で数時間の待機。はなはだしい場合は、苦しくて救急車を呼んだのにもかかわらず、それを取り下げてもらい自宅に戻す。コロナ受け入れ病院はどこも満床状態。職員にも感染者、濃厚接触者が相次ぎ、病床が空いたとしても人手が足りず患者を受け入れられない。やむなく一般の救急を中止してコロナ患者を受け入れる。すると今度は一般の救急患者が行き場を失う。皆保険制度があるにもかかわらず診察を受けることもできずに自宅療養を強制され受診に至らず命を落とす。普段なら救命できる病状なのに救急体制が機能不全で医療を受けることができず命を落とす。まさに医療崩壊であり、これが7波の日本で起こっていることである。
検査・医療体制
の建て直しを!
全数把握の見直しとは、感染がどの地域に、どのような年代を中心に、どのように広がっていったかを調査しないということである。当たり前だが、全数把握を止めてもウイルスが消失するわけではない。したがって、全数把握という感染対策の基礎データを調査するのを止めてしまえば、感染の全体像は不明となり対策など立てられなくなってしまう。全数把握の見直しを「統計よりも命が大事」などと正当化する主張があるが、見直しの結果は感染のさらなる拡大につながり、多くの命が失われることになるだろう。
全数把握の見直しは、破綻した現在の政策を正当化し失政を隠すための方策でしかない。今必要なのは、検査・医療体制の建て直しである。
まず発熱外来など最初に診断をつける医療機関に対する財政的支援である。調査が医療機関、とりわけ現場の医師にとって負担になっているのは、検査から書類の作成・入力まですべてが医師の仕事になっているからである。医療機関が、PCRの検体採取、問診や報告書類の作成・入力を専門に行えるスタッフを雇用できるように財政援助を行うべきである。絶対的な医師不足があるのに、医師以外でもできる仕事も医師に押し付けて、現場の医師を疲弊させている。このような準備は5波を経験した段階で整備されるべきだったにもかかわらず、政府は全くの無策のまま6波、そして7波を迎えてしまった。
次いで、自治体リストラで疲弊した保健所機能の建て直しが急務である。とにかくリストラにより人員が足りていない。保健師を中心に大幅で早急な人員増が必要である。現状でも保健所からの健康観察が追い付かず在宅死が出てしまっている。全数把握の見直しは、これら在宅死の実態を見えないものとしてしまう。
そして入院を受け入れる医療機関では、基準を超えて人員を配置し感染拡大や災害時など一定数の急な欠勤が出ても医療提供を維持できる体制を取っている病院を認定し、診療報酬上の加算をつけるなどの対策が必要だ。平時から全力疾走しているような状態では、危機的事態が発生したときに対応できるはずがない。
新自由主義と
の決別が必要
2類感染症から5類感染症に変更すれば、コロナを受け入れる医療機関が増えるという主張がある。これも間違いである。コロナを受け入れる医療機関が少ないのは、施設的に感染者と非感染者の隔離ができないことが最大の原因である。5類(季節性インフルエンザなどと同等)にすれば、厳密な隔離を実施できない診療所でもコロナ患者を診療することになる。これも診療所や病院からの感染拡大を招くだけである
新型コロナウイルス感染症は、ただの風邪ではない。死亡率は季節性インフルエンザより高く、深刻な後遺症が残る場合がある。とりわけ後遺症は、倦怠感、呼吸困難感ばかりでなく抑うつ、健忘など多彩な症状が出る場合がある。全数調査の見直しはどのような後遺症が、どの程度出るのかもわからなくしてしまう。
また5類への変更は、コロナ診療やワクチン接種に自己負担が導入されることになる。これだけ貧困が拡大している時に、ワクチン接種や診療に自己負担が発生すれば、経済負担から医療機関受診を忌避する人が発生し、感染拡大に拍車をかけるだけだろう。
新型コロナウイルスの感染拡大は、新自由主義により脆弱にされた公衆衛生、医療を直撃した。「一人も取り残さない」これが感染症対策の基本である。一人でも取り残される人がいれば、そこから感染は広がっていく。つまり人を切り捨てることで自ら生き延びてきた新自由主義は、感染症を克服することはできない。公衆衛生や医療の充実という、新自由主義と決別する政策こそがコロナを克服する道である。すでに広がっている惨状を見ないで済まそうとする全数把握の見直しや、5類への変更は、なんら対策にはないどころか、感染を拡大・長期化するだけである。
(矢野薫)
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