大阪府知事・大阪市長選、府議選・大阪市議選・堺市議選の結果から何が見えてくるのか?
維新に対峙する大衆運動に基礎を置く左翼の再建を
統一自治体選挙の前半、道府県知事・議員選挙、政令指定都市の市長・議員選挙の投票が4月9日におこなわれ、その焦点の一つであった大阪での4つの選挙は大阪維新の会の完勝に終わった。維新は大阪だけではなく、奈良県知事選での勝利、兵庫・奈良県議選での躍進など近畿圏を中心に、大きく議席を伸ばした。大阪での選挙が維新勝利に終わった直後の14日、選挙の争点の一つであった夢洲カジノ・IRの事業計画が「カジノ・IRは民意を得た」(吉村知事)として政府に認定された。この大阪での選挙結果をどのように考えるのか、新自由主義的な都市開発路線とポピュリズム的政策を併用する維新政治とどのように対峙していくのか、われわれも含めた左派の課題は何か、について考えてみたい。
大阪府知事選・大阪
市長選での維新圧勝
大阪でおこなわれた府知事選、大阪市長選、府議選、大阪市議選、堺市議選のうち、堺市議選を除く4つの選挙で大阪維新の会はほぼ完勝を収めた。知事選、市長選ではダブルスコア以上の差をつけて、現職の吉村知事(244万票)と候補者「公募」で選ばれた横山元府議(65・6万票)が当選した。
一方で、知事選、市長選の反維新・非維新候補の得票数は前回選挙に遠く及ばないものだった。知事選では、連合などでつくる「アップデートおおさか」が擁立した谷口候補が43・8万票、共産党などが推薦した辰巳候補が26・3万票(前回の小西候補は125・4万票)、市長選でも、「アップデートおおさか」が擁立した北野候補(自民党を離党して立候補)は26・8万票(前回の柳本候補は47・6万票)に終わった。
投票率は、知事選が46・98%、市長選が48・33%で、いずれも5割を切り、特に大阪市長選は維新が立候補者を出し始めてから、反維新陣営が選挙をボイコットした2014年選挙を除くと最低の数字だった。大阪市内に限って言えば、市長選の投票率と2回の都構想住民投票の投票率(1回目が66・83%、2回目が62・35%)とを比較すると、24〜28%も低くなっている。
この都構想住民投票においては、都構想「反対」が「賛成」を上回り、維新の看板政策であった大阪都構想は挫折を余儀なくされた。今回の選挙でも、維新は都構想については一切触れなかった。その住民投票と大阪市長選の得票数比較では、維新候補が得た得票数と住民投票での「賛成」票はプラスマイナス5万票の範囲でほぼ一定であることがわかる。しかし、反維新候補の得票数は住民投票での「反対」票を大きく下回っている。これは、「大阪市をなくすかどうか」というワン・イシューの住民投票では投票に行って「反対」票を投じた人が選挙の時には投票に行っていないことを示している。
反維新側が最大の争点として取り上げた「カジノ・IR」をめぐっても同様の問題を指摘できる。選挙前の世論調査では「カジノ・IR」反対が賛成を上回っていた(読売新聞の世論長では反対44%、賛成38%)が、投票所の出口調査では賛成が反対よりも多かった(同じ読売の出口調査では、賛成57%、反対41%)。このことは、カジノ反対と考えている有権者の相当部分が投票しなかった、あるいは特に知事選ではカジノに反対であっても維新の吉村候補に投票したことを示している。つまり、維新が「カジノ・IR誘致は決定済み」として意識的にカジノ問題を争点から外した影響があるにしても、「カジノだけでは選挙に勝てない」ということが明らかとなったのである。この点は中野雅司さん(大阪・市民交流会)が、2月21日の市民集会で強く訴えられていたことでもあり、その指摘は当を得ていたと考える。
大阪市会でも過半
数を獲得した維新
大阪府議選では維新主導で定員が9議席減らされた中、前回選挙から4議席増の55議席を獲得して、全議席(定員79)の7割を占めることとなった。これまで過半数をわずかに切っていた大阪市議選でも、選挙前から6議席増の46議席(定員81)を得て過半数を超え、公明党の協力なしに市議会運営が可能となった。
大阪府議選についてもう少し詳しくみていくと、維新は1人区では全勝し、落選者はわずか1人という圧勝ぶりで、「定員削減は多数党に有利」という定式をまさに立証する結果となった。定員が削減された9つの選挙区では東大阪市で共産党が議席を失ったのを除けば、自民党が落選、ないしは不戦敗となった。吹田市、高槻市及び三島郡、堺市堺区、堺市北区、箕面市及び豊能郡で自民党現職が落選し、八尾市、泉大津市・高石市及び泉北郡では自民党が候補者を擁立できず、大阪市住吉区でも維新との一騎打ちで敗れたのである。その結果、府議会自民党は選挙前の16議席から半減以下の7議席へと激減した(このうち、カジノ・IR誘致に反対して別会派を作っていた3人のうち、茨木市では前回より約5千票伸ばして当選したが、堺市堺区では維新に敗れて落選)。また、公明党は15人全員当選し(自民党と公明党は競合しない場合はお互いに推薦を出し合っていた)、いわゆる立憲野党系は共産党が吹田市で唯一の議席を獲得し、立憲民主系は現職2人が当選を果たすことで野党全滅はかろうじて回避された。参議院議員に繰り上げ当選が決まった大椿ゆうこさんに代わって、茨木市から立候補した社民党の長崎由美子さんは、告示日直前の候補者交代にもかかわらず健闘したが、当選には及ばなかった。
一方、吉村知事が過半数を取れなければ大阪維新の会代表を辞任すると公言していた大阪市議選では、維新が4議席増の46議席を得て、初めて過半数を確保することに成功した。その結果、これまでのように公明党の協力が必要でなくなったため、維新の馬場伸幸代表は次期衆院選での公明党との関係を「リセットする」と明言し、吉村洋文共同代表も公明党現職がいる選挙区に候補を擁立する可能性について言及している。これにより、大阪での公明党の維新への屈服はますます進むことになるだろう。公明党にとって、府政・市政与党から降りるという選択肢はあり得ないからである。また、自民党は市議団幹事長の落選を含め3減の11議席、共産党は2減の2議席となり、立憲民主、れいわは当選者を出せなかった。
このように、大阪府議会、大阪市会ともに、自民党は「政党としての体を成していない」と自嘲する議員もいると言われるほどの惨敗を喫し、議会内での存在の周縁化がますます進行した。また、いわゆる立憲野党系は全滅は免れたものの、さらに後退を強いられる結果となった。
維新が勢力を伸ばせ
なかった堺市議選
大阪府内でのもう一つの政令指定都市である堺市では、2019年の市長選(不祥事での現職辞任を受けての選挙)で市長を維新が奪ったが、市議会では維新は第1党ではあるものの過半数からは遠い状況だった。今回の市議選でも、維新は得票を少し減らし議席数を増やすことができず、公明とともに現状維持となった(維新18、公明11)。逆に、共産党が1増の5議席となり、無所属市民派(3議席)立憲(1議席)も議席を守った。こうした結果となった大きな要因として、2019年市長選を契機に結成された「市政を刷新し清潔な堺市政を取り戻す市民1000人委員会」の活動が持続的に展開されてきたことが挙げられる。6月には堺市長選が控えており、前回選挙で惜敗した野村友昭さんが「1000人委員会」をバックに再度立候補する予定であり、維新から市長を奪還する可能性を秘めている。
大阪での選挙結果を
どのように考えるか
維新は大阪だけでなく、奈良県知事選では自民分裂に乗じて当選を果たし、県議選でも大幅に議席を増やし(11増の14議席)、その影響もあって自民・立憲民主・共産がいずれも議席を大きく減らした。また、兵庫県議選では4議席から21議席に、京都府議選では3議席から9議席に増やし、滋賀でも初めて議席を獲得した(3議席)。全国的に見れば、道府県議選では、維新が獲得した124議席(前回は67議席)のうち、8割(102議席)が近畿地方で占められている。近畿以外でも神奈川県では、県議会と横浜、川崎、相模原の3政令市議会で、選挙前の計2議席から25議席まで増やし、4議会すべてで代表質問ができる「交渉会派」になった。同党幹部は「神奈川を関東での勢力拡大の足場にしたい」と語っている。一方、愛知県では名古屋市議選で、河村名古屋市長の「減税日本」が9選挙区で維新候補と直接対決し7勝1敗(1選挙区は両党とも落選)と圧勝。自民党が最大勢力を維持した。
国政レベルでも、維新は「公明との関係のリセット」を表明し、小西参院議員の「サル」発言を利用して立憲民主党への圧力を強めるなど新たな政治再編への布石を打っている。それは中長期的には、自公立維4党体制に向けたイニシアチブを握ろうとする動きと見ることができる。維新にとって、そうした動きを支える「根拠地」が大阪なのである。
われわれは選挙前の関西地方委声明で「保守を含む共闘を否定するものではないが、左翼の弱さによって余儀なくされた選択でもあることを意識しておくべきであり、これを一般化・固定化するべきではない」と指摘した。そうした左派の弱さが「労働者の闘いを基礎として、労働者民衆の要求実現のために闘う候補者を持っていないという状況」を生み出しているし、逆に「保守を含む(反維新の)共闘」をも不十分で、妥協的なものにしている。堺市の例が部分的にではあれ示しているのは、「市民1000人委員会」に結集した市民的運動と活動家による持続的とりくみによって「保守を含む共闘」が維持されてきたという事実である。そして、連合がそうした役割を担い得ないことも今回の選挙で、再度明らかとなった。おそらくは連合の組合員の多くは、全国的には自民党に、大阪では維新に票を投じている現実がある。そして、社民党公認候補者には推薦を出さない、共産党とは絶対に一緒にやらないというセクト的対応をとる限り、反維新共闘の軸にはなり得ないだろう。
維新による新自由主義的な都市開発路線とポピュリズム的政策との併用は、住民の中に深刻な分断をもたらしたが、同時にそのことで利益を得る層をも作り出した。その結果、何があっても維新に投票するコアな支持層が存在する一方で、個々人に分断され、政治への無関心、諦めを余儀なくされている広範な人々をも生み出した。このため、多くの地方議員と首長、コアな支持層に支えられた組織的選挙によって、維新は連戦連勝を続けることが可能となっている。
こうした状況を突破し、維新と真の意味で対峙するためには、さまざまな戦術的対応に終始するのではなく、維新的な政治・経済・社会のあり方と根本的に異なるオルタナティブを提起するとともに、維新政治のもたらす諸矛盾を徹底的に暴露して、それに対峙する大衆的な運動を持続的に展開していくしかない。その意味では、その道筋がいかに迂遠に見えるとしても原則的な労働組合運動、社会運動、市民運動の大きな流れを作り出すことが重要なのであり、そうした取り組みの中から左翼自らの再建を目指していくことがわれわれを含む左翼にとっての課題である。
THE YOUTH FRONT(青年戦線)
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