岸田政権の現状と総選挙をめぐる情勢
沖縄の反戦・平和運動と連帯する
9条改憲と大軍拡に反対する大衆運動を準備しよう!
岸田政権は極めて安定している
6月の通常国会終盤ごろから解散・総選挙がいつごろになるのかと、まるで競馬の予想でもするかのようにマスコミで取りざたされている。しかし昨年の7月に実施された参院選で岸田自公政権が圧勝したついこないだまで「黄金の3年間」(25年7月の参院選まで国政選挙がない)という言葉が飛び交っていたのである。21年10月に実施された任期満了の衆院選でも自民党は単独過半数で圧勝していることを考えると、内閣支持率はどうであれ、現在の岸田政権は極めて安定していると言わなければならないのである。また岸田自身にしてみても、ギャンブルめいた解散・総選挙を実施しなければならない動機などどこにもないのである。
6月21日に閉会した通常国会では政府が提出した61法案のうち59法案が成立しており、成立率は96・7%の安定ぶりだ。しかし重要法案とされてきた、GX脱炭素電源法(原発の運転期間を60年まで延長する)、改正入管法(難民認定申請を原則2回までに制限)、LGBT理解増進法(性的少数者を犯罪予備集団とする)、防衛財源確保法(防衛費財源確保のための積立措置)など、どれもこれもが悪法ばかりである。
国会という議会政治では数の力で自民党に押し切られるのも当然なのだが、入管法改悪に反対するねばり強い闘いなども世論を大きく動かすことができなかった。
現在、解散・総選挙の理由としてあげられているのは、大軍拡と少子化対策の財源として増税が不可避であり、それらが確定される前に総選挙が実施されるのではないかという憶測だけだ。ウクライナ状況を目の当たりにした世論は、ほとんどありもしない「台湾有事」を煽られて「軍拡やむなし、増税反対」が多数だ。そうした世論に迎合するのが自民党安倍派である。国家財政再建などそっちのけの「国債乱発」で対応しようとする、彼らが得意としてきた「食い逃げ政治」という手法がそれだ。一方、岸田政府としては法人税への「付加税」上乗せと、所得税の1%増税、たばこ税の引き上げとしているが、開始時期は曖昧にしている。また少子化対策財源とされている3兆円の財源は未定のままとなっており、総選挙後にも消費税2~3%(1%で約2・3兆円の増税)の増税案がテーブルに乗るかもしれない。
要するに増税をするのかしないのか、するとしたらその中身はどうするのか、国家財政再建はどうするのかなど、これらの問題は解散・総選挙というよりも、岸田自公政府と自民党派閥政治の内部問題なのであり、解散・総選挙によって解決できるようなことではない。
内閣支持率は5月を
ピークに連続して下落
岸田内閣の支持率は5月に広島で開催されたG7の影響で45%まで回復していたが、6月には33%、そして7月には28%にまで下落している。また不支持は65%で6月の58%からさらに上回った(毎日新聞による全国世論調査)。
下落の主要因としてあげられているのは、首相秘書官に就かせていた岸田首相の長男である翔太郎の首相公邸での忘年会問題と、マイナンバーカード問題である。世論調査でのその他の質問でも「福島原発処理水放出の説明(十分24%、不十分53%)」、「殺傷能力のある武器の輸出(賛成32%、反対48%)」、「統一教会問題への関心(今もある64%、薄れた13%、ない18%)」などの結果があげられている。
特に注目すべきことは、岸田内閣が発足した21年10月以降の毎月の「内閣支持率の推移」である。発足時から安倍晋三元首相が銃撃された22年7月までは、支持が50%前後で推移し、不支持も40%前後で推移しているのだが、8月以降は支持率が20%台まで急落し、不支持も60%台まで急上昇している。これは悪徳宗教団体としての統一教会と自民党とのズブズブの癒着関係が改めて大衆的に暴露されたことと、その腐れ切った関係を世襲政治家として3代にわたって主導してきた黒幕であった安倍晋三の「国葬」強行への大衆的な反発が反映していると見るほかない。「統一教会問題への関心」が「今もある」と64%が答えていることを自民党が甘く見ていると、墓穴を掘ることになるだろう。
ただしこの内閣支持率とコロナ感染症対策への評価がどのように影響しているのか見てみると、緩やかに重なる傾向はある。確かに23年に入ってから緩やかに支持率が上昇し、同時に不支持も下降している。そして今年5月に支持45%と不支持46%で支持率は22年7月以来のピークを記すわけだが、この時には「コロナ対策」を評価するが41%で評価しないの34%を22年の7月以来上回ったのも確かである。
そして6月以降の支持率下落は、マイナンバーカード問題ばかりではなく、今通常国会で成立させた原発や入管法やLGBT法や軍拡政策などに対する世論の反発も大いに含まれていると考えられる。しかも現在、岸田政府にとって内閣支持率を上げられるような材料がほとんど見当たらないのである。「少子化対策」として子育て資金のバラマキを決めたが、そんなことが少子化対策にほとんどなっていないことは世間ばかりではなく、お金を受け取る当人らにとってもわかりきっていることだ。若い人たちが恋愛をし、結婚をし、子育てできる経済的、社会的な環境を作り上げるのと同時に、平和でエコな未来を創造できるような世の中を共に作り出していくことこそが真の少子化対策なのである。
そのためにもまずは実施されなければならないのは、最低賃金の全国一律での1500円以上の引き上げであり、不公正税制と大衆収奪の象徴である消費税の廃止である。財務省が7月3日に発表した22年度の一般会計決算によると、基幹3税(所得税、法人税、消費税)に占める消費税の割合は約39%にまで達している。税金逃れで肥え太る富裕層と大企業から徹底的に収奪する税制改革の実施が求められているのである。
岸田政権を成立させた
のは自民党の派閥力学
岸田政権について考えるときに一番に重要なことは、この政権がどのように成立したのかということをしっかりと認識することである。岸田政権を成立させたのは、21年9月に実施された自民党の総裁選挙であった。それは党内の派閥力学による権力闘争の結果でもあった。一般党員票では47都道府県中、37都道府県で第1位を獲得していた河野太郎に対抗する「河野を絶対に勝たせない」ための国会議員連合が、安倍・麻生・甘利らを中心として形成され、党内世論を完全に無視して誕生したのが岸田新総裁であり、岸田政権であった。
岸田首相にしてみてもそのことは十分すぎるほど理解しているのだから、党内の派閥動向に関しては「聞く力」を発揮してきたのである。党内最大派閥である安倍派への配慮も怠ることなく現在、松野官房長官、高木国対委員長、萩生田政調会長など党の重要ポストをあてがっている。
またその一方で、安倍派に対抗できる党内権力基盤として旧池田派を源流とする派閥再結集のための「大宏池会構想」が打ち出されている。それは岸田派、麻生派、谷垣グループに茂木派を加えた党内最大の派閥連合を形成しようとする構想である。
しかし岸田にとって最大の誤算は、安倍晋三銃撃とその後の「安倍亡き安倍派」への対応である。要するに安倍派の誰と話せばいいのか分からない派閥になってしまったからである。派閥総会を連続して流会させていた安倍派は、8月17日になってどうにか総会を開き、塩谷(しおのや)会長代理を「座長」とし、5人衆(先に上げた3人に+西村経産相、世耕参院幹事長)を中心とする「常任幹事会」の設置を決めた。
こうして「一強」と言われてきたカリスマを失うことで、安倍派はトロイカならぬ「犬ぞり集団」となってしまったのである。そして、そりも引かずに「代表決めろ」と吠え続けるのが、保守右翼の受け皿としての安倍派崩壊に危機感丸出しの下村博文である。
維新による自公政治への揺さぶり
現在、国会政治では絶対的に安定している岸田政権だが、自民党が危機感を持たざるおへないことは日本維新の会が支持率を上げていることだろう。毎日新聞が実施した7月の世論調査では、政党支持率が自民24%で維新16%であり、立憲は一桁の9%まで支持率を下落させている。維新は先の統一地方選でも議席を飛躍的に拡大しているが、7月30日に行われた仙台市議選でも候補者5人全員が当選するという「波乱」を引き起こしている。定数55で維新は0から5に、自民は候補者4人が落選して21から18に、立憲は3人が落選して12から11に議席を減らしている。まさに自民と立憲を支持してきた保守層が維新にはぎ取られたのである。維新は4月に実施された統一地方選では、東北で秋田市議1人だけの当選だったことを考えると、全国的に「地殻変動」が起こっていると言えるのかもしれない。東北では9~11月に岩手、宮城、福島での県議選が予定されており、そうした状態を見極める必要があるだろう。
また維新は、1999年から続く全国政治における自公ブロックへの揺さぶりと解体も射程に入れて乗り出している。次回衆院選から東京選挙区は5増されるわけだが、候補者をめぐり自公対立が表面化するなかで、維新はこれまで公明とすみ分けてきた大阪4、兵庫2つの選挙区に維新から候補を立てると圧力をかけているのである。公明は小選挙区で9人の当選者を出しているが、その内の6人が大阪と兵庫なのである。維新は現在東京選挙区では0であることを考えると、東京選挙区をめぐって公明とバーターする可能性も十分にありうるだろう。
さらに維新は与党入りをめざしている国民民主党と一体となって改憲の旗振り役として前面に乗り出している。こうした動きも安倍晋三不在となって以降、機能不全に陥っている安倍派への揺さぶりと同時に、全国的な保守右翼・改憲派を維新として取り込もうとする動きに他ならない。
こうした維新伸張の背景には、自民党と統一教会との癒着関係や、自民党の世襲政治とそうした政治にあぐらをかいてきた地域ボスによる後援会政治にうんざりしてきた保守有権者の自民離れも反映しているのだろう。
自民党総裁選前の解散・総選挙はない
通常国会閉会後、岸田首相は外交に明け暮れている。やらないわけにはいかないという都合もあるのだろうが、できうる限りのパフォーマンスで地に落ちた内閣支持率を少しでも上げようと躍起になっているようだ。9月以降もG20、国連総会、APEC(アジア太平洋経済協力会議)などの外交日程が入って来る。
内閣支持率が上がろうが下がろうが岸田首相が最重視していることは、24年9月に実施される自民党総裁選での再選である。したがって解散・総選挙を含めたあらゆる政治日程は、その目標に向かって組み立てられると言っても過言ではない。
ポストコロナやウクライナ戦争、そして円安を起因とする物価高騰、あるいは統一教会問題などは直接岸田政権に問題があるわけではないと開き直ることもできる。マイナンバーカードの記載ミスなどは政権に責任がないとは言えないが、その責任の一切を前回の総裁選での最大のライバルであった河野太郎デジタル担当大臣に背負わせておけば、河野人気も地に落ちる。後は安倍派に刺激を与えないようにしながら、党内派閥バランスをきちんと保てばよいということになる。対抗馬なしの信任投票、これが岸田が描く自民党総裁選の理想図であり目標である。
したがって24年9月に実施される自民党総裁選前の解散・総選挙はないと見ていいだろう。自民党にしてみても物価高騰が治まること、統一教会問題が有権者の記憶から薄まること、コロナ感染症がさらに後継化してインバウンドなどでこれまで落ち込んでいた交通、旅行関連、飲食、小売りなどが活況を取り戻し、雇用状況も好転することなどが重要なテーマのはずだ。
解散・総選挙はそうした状況と内閣支持率の動向を見計らってから実施されることになるだろう。25年7月に参院選があることを考えると、どんなに早くても解散・総選挙は第2次岸田政権組閣直後であり、遅ければ25年10月の衆院任期満了選挙ということになるだろう。
もう一つの問題は「岸田政権は改憲をどう処理しようとするのか」ということである。このテーマは自民党派閥政治バランスを考えるうえでも重要なことであるのと同時に、安倍晋三が引き付けてきた保守右翼の有権者を再結集させるという意味でも重要なことなのである。
しかし維新や国民民主もすでに改憲の旗を振っているように、もはや9条改憲は自民党の専売特許ではない。また9条改憲問題は極めてデリケートなテーマでもあることから、世論を二分して改憲反対の大衆運動に火をつけてしまう危険性もともなっているのである。
労働運動と市民運動は改憲をめぐる動向を注視しながら、改憲と大軍拡に反対する大衆運動を今からねばり強く準備しよう。沖縄の反戦・平和、反基地運動との連帯する闘いをつくり上げよう。
維新にもニコポンしながら野党共闘の再結集に乗り出している小沢一郎の政治には労働者・市民、社会的弱者の未来はない。貧困のない未来、平和でエコな未来のために連帯して闘おう。 (高松竜二)
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