日米安保体制の現段階
在日米軍と自衛隊との統合めざす米国
米国の要求をと
りあえずクリア
昨年の12月に閣議決定された安保関連3文書(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画)後、初となる2023年防衛白書が7月28日に公表された。内容は3文書で示されている当面する27年度までの安保・国防戦略、方針を総まとめするようなものではあるが、そこで示された方針をその後より具体的にどのように実現するのかという段階にあると言わなければならない。
日本政府と防衛省にとって米国政府との関係で最重要だったのは、中国の中距離弾道ミサイル(射程500~2500km)に対抗する中距離弾道ミサイルの日本への配備を受け入れること(敵基地攻撃能力の獲得)であり、軍事費の増強(27年度にGDP比2%)であった。
防衛省はすでに陸自の地上発射型「12式弾道ミサイル」の改良型開発(射程1000km超)に着手しており、また米国政府は巡航ミサイル・トマホーク(射程1600km以上)の日本売却を許可している(英、豪に次ぐ3国目)。さらに8月28日の米国務省の発表によると、空対地ミサイル「JASSM─ER」(射程900km)50発の日本への売却を承認している。自衛隊はこれを「敵基地攻撃能力の一翼」としてF15に搭載する予定だ。その他にも長射程の潜対艦弾道ミサイルの開発にも着手している。
一方、政府は23~27年度5年間の軍事費の総額を43兆円としたが、それまでの5年間の総額が26兆円ほどなので、5年間で17兆円を増税するなどして確保しなければならないことになる。とりあえず23年度分は税以外の収入として、国家資産の売却、為替介入資金、コロナ対策余剰金、決算余剰金などから「防衛力強化資金」の名目で3・4兆円を確保したとしているが、その後の財源の見通しが立っているわけではない。政府としては27年度から毎年1兆円強を増税で確保することを決めているが、自民党税制調査会は7月13日に、法人税、所得税、たばこ税3税の増税時期を25年以降とすると発表している。これは国政選挙を意識しているからにほかならない。
そうした状況のなかで8月31日に防衛省は24年度の概算要求を発表した。それは23年度の当初予算を17・2%上回る7兆7385億円である。各種迎撃ミサイルだけではなく、トマホークも搭載可能な最新鋭のイージス搭載艦は1隻の取得経費が約4000億円。8月18日の日米首脳会談で合意している極超音速兵器(M5以上で飛行)迎撃のための新型ミサイル共同開発費として750億円を計上するなど、まさにてんこ盛りの予算要求である。
しかし世界的な物価上昇と円安の影響で軍事関連装備も軒並み値上がりしており、すでに調達したくてもしきれないのではないかという声が上がっている。軍備の国産化も推し進めようとしているようだが、技術開発能力や特許の問題などもありそう簡単にクリアできるものではない。
「武器輸出三原則]
とウクライナ支援
自民党の「装備移転推進に関する議員連盟」(小野寺五典会長)は6月20日、14年に安倍政権によって策定された現行の「防衛装備移転三原則」でも明記されている5分野(救難、輸送、警戒、監視、掃海)を撤回して「日本の安全保障に資する場合」という観点から装備移転の可否を判断するよう求める提言を岸田首相に提出した。現行の「三原則」は「日本が締結した条約に違反、国連安保理決議違反」への移転禁止と、「平和貢献・国際協力」そして「日本の安全保障に資する場合」に装備移転を認めると定義している。
しかしその後に輸出された完成装備は、フィリピンへの防空レーダー1件だけだ。ただ単に安いから、性能がいいからというだけで軍備の輸入先が判断されるわけではない。日本が米国から言い値で爆買いしているのは、政治・軍事的には日米安全保障条約があるからであり、経済的には日米貿易不均等があるからである。原発の輸入過程でも同様の判断が働いたはずだ。
日本の軍需産業が復活したのは朝鮮戦争特需からであり、その後もアジア諸国や米国に砲弾や銃弾などを輸出してきた。「武器輸出三原則」を最初に表明したのは67年の自民党の佐藤栄作首相であり、その中身は①共産圏②国連安保理決議違反③国際紛争当事国には武器輸出を禁止するというものであった。その後76年になって自民党の三木武夫首相が「三原則対象以外にも武器輸出を慎む」という政府見解を示したことで、実質上の「武器輸出禁止」が確立されたのであった。これは「非核三原則」(持たない、作らない、持ち込ませない)と同様の政策ではあるが、例外措置による抜け道を阻む強制力はない。
現行の「装備の定義」には、殺傷能力のある武器ばかりではなく、軍用ヘルメットや防弾チョッキなども含まれている。ロシアの侵略戦争に抵抗するウクライナ軍と抵抗組織に対してもこの「定義」を忠実に当てはめるべきなのであろうか。戦場でも使われる薬や野戦用の毛布などと同様に、ウクライナの人々の命を守るための最低限の支援(ヘルメット、防弾チョッキ、靴など)は積極的に実施されるべきである。これを否定する「左翼」はどうしようもないズブズブの「一国平和主義者」であり、世界革命とは無縁の存在だと言わなければならない。
また現在、日・英・伊3カ国による次期戦闘機の共同開発が計画されている。そのための共同企業体(JV)を24年後半までに発足するとしている。日本側の窓口は「準国営企業」の三菱重工だ。空自はF2の英・伊はユーロファイターの次世代機として35年の配備をめざしている。たぶん無人戦闘機になるのではないかとみている。
空自はすでに22年12月から無人機専門の部隊を発足させており、青森県の三沢基地で大型の無人偵察機グローバルホークの運用を開始している。海自もまた無人機の導入を進めていて、青森県の八戸航空基地で無人警戒監視機シーガーディアンを5月から試験運用している。同基地では22年秋から海上保安庁が無人機の運用を始めていて、海自との共用となる。こうした動きも防衛省と海保との共同実動訓練の一環である。6月22日には防衛省と海保による初の海上共同実動訓練が伊豆大島東方沖で300人規模で実施されている。
日本を戦闘に加
わらせるために
「日本と米国の安全保障協力の次のステップとして『指揮統制』統合強化に関する議論が米国内で加速している」「自衛隊が2024年度末までに一元的な部隊運用を担う統合司令部の新設を進める一方、米軍も24年10月までにインド太平洋軍の管轄地域で新たな統合作戦司令部を創設するよう米議会がもとめている」(毎日新聞9月4日)。これは7月に米国連邦議会で上院、下院それぞれで「国防権限法案」を可決し、特に上院案では「国防総省に在日米軍の指揮系統の見直しや自衛隊との統合強化を求める条項が入った」(同)ことを報じたものだ。
こうした米国の動きの背景にあるのは、もしも台湾をめぐって中国との紛争が起こった場合「日本は戦闘に加わるのか」ということに関する米国の日本に対する不信があるからだ。それならば「どうすれば日本を戦闘に加わらせることができるのか」と、米国政府と議会は考えるのである。
現在、在日米軍(約5万4000人の部隊が駐留)部隊の運用と作戦指揮権は、ハワイにあるインド太平洋軍司令部が握っている。そのため在日米軍司令部としての独自の権限はほとんどなく、また在日米軍として陸・海・空・海兵隊それぞれの部隊の横の連携も希薄なのである。「日本を戦闘に加わらせる」ためには、自衛隊の間近に存在する在日米軍司令部に在日米軍の指揮統制機能を持たせて、統合司令部の新設で一元化される自衛隊との統合強化を図ろうと考えるのはごく自然な発想だと言えよう。
どこまでどのような統合強化となるのかは未定だが、日米両国それぞれの思惑による綱引きが続きそうだ。そんななかでも米国が「使える」と考えているのが「台湾有事は日本有事」とまで叫んでいた安倍晋三の置き土産となった「安全保障関連法」である。日本は憲法で戦争を放棄しているものの、日本の存立が危機にさらされた場合、軍事出動は可能だということになるからだ。「日本の存立危機」とは在日米軍基地を含む日本の領土に、弾道ミサイルなどが大量に打ち込まれる事態ということになるだろう。
しかし中国は先制攻撃でもされない限り、そのような戦術は絶対に取らないだろう。それは台湾と日本・沖縄にとっても同様で各国領土と周辺海域での戦闘は、米国だけを利することになるからにほかならない。
中国が万が一の「有事」の際に取る戦術は、台湾に対する封鎖作戦である。台湾もそれを想定して潜水艦部隊などを強化して、台湾南部のバシー海峡で中国軍の前進を阻止し、東部からの日米による支援を待つ戦略を立てている。しかし中国との戦力差は圧倒的で、潜水艦だけでも中国56隻に対して台湾は3隻(将来的には10隻態勢)である。台湾としては「有事」という事態は絶対に避けたいのである。
「台湾有事」を煽っている張本人は米中覇権争いに周辺・関係諸国を巻き込んで、中国に対する包囲網を形成しながら米国製の武器売却を進める米国政府である。台湾は民進党の蔡英文政権成立後の7年間で総額約3兆円の武器を米国か購入している。日本もこれまで購入してきたステルス戦闘機「F35」147機に加えて、トマホークを始めとした各種ミサイルなどを今後も購入し続けることになるのだろう。
沖縄に戦争の
重圧押しつけ
ウォーマス米陸軍長官は6月6日、「マルチドメイン・タスクフォース(MDTF多領域任務部隊)」の日本配備について「沖縄に25年までに配備される米海兵沿岸連隊を補完できる」と発言した。MDTFは地上発射型の中距離ミサイルやサイバー・宇宙領域電子戦の作戦能力を兼ね備えた新部隊で、現在3部隊(ワシントン州、ハワイ州、ドイツ)が配備されており、28年までにさらに2部隊配備するとされている。沖縄に配備されれば中国沿岸部が射程に入ることになるという。7月14日には浜田防衛相が昨年4月に与那国島に正式配備された空自の移動式警戒管制レーダー(車載型)を、沖縄県の北大東島に「早期配備をめざす」方針だと明らかにした。
こうして沖縄・奄美の島々の軍備強化が次々と進められようとしている。16年3月の与那国島への陸自駐屯地の設置と沿岸監視隊の配備から始まった陸自の駐屯地開設とミサイル部隊の配備は、19年に奄美大島と宮古島、23年に石垣島、さらに与那国島に電子線部隊を追加配備し、訓練場・火薬庫の設置とミサイル部隊の配備まで計画されている。
さらに防衛省は相浦(あいのうら)駐屯地(佐世保)に拠点を置く「日本版海兵隊」とも言われている陸自の「水陸機動団」を、24年3月に2400人から3000人体制に増強し、現在木更津駐屯地に暫定配備されているオスプレイ17機を工事中の佐賀駐屯地に25年7月までに正式配備して、海上や離島などに常時展開させる方針を明らかにしている。輸送機オスプレイは輸送ヘリの2倍の速度と3倍の航続距離能力があるとされているが、墜落を含めた故障のリスクも高いことが指摘されてきた。もし墜落するようなことになれば、水陸機動団兵士らばかりではなく、沖縄・奄美の島々の住民らの命も危険にさらされることになる。
9月には普天間基地に配備されている米軍オスプレイの緊急着陸が報じられている。14日に奄美空港と新石垣空港にそれぞれ2機が、16日には大分空港に1機が緊急着陸している。そんななかでも陸自は10月14~31日に実施される米海兵隊との実動訓練で、陸自オスプレイの新石垣空港使用を予定している。沖縄への初飛来となるが、県は自粛を要請している。
ほとんどありもしない「台湾有事」を演出して、米軍と一体となった自衛隊の実戦部隊化と、さらなる軍拡を推し進めようとしている岸田自公政権らを許してはならない。そして沖縄・奄美の島々や台湾の人々に対して、戦争への重圧を押し付けてはならない。憲法第9条は現在でも戦争への抑止力となっていることは明らかだ。9条改憲を許さず、辺野古新基地建設反対をはじめとする沖縄民衆の反戦・反基地運動と連帯する闘いを粘り強く推し進めよう。 (高松竜二)
The KAKEHASHI
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