懸念される中国経済の長期低迷

「一帯一路」から10年

不動産バブル崩壊による深刻な影響

 「一帯一路」(現代版シルクロード)を習近平体制が提唱してから10年になる。10月18日には北京で第3回目の国際フォーラムが開催された。電気自動車(EV)の開発と実用化で先行した中国は、23年上半期で日本を抜いて自動車輸出で世界1位になった。しかしそうした景気のいい話の一方で、不動産バブルの崩壊などによって中国経済は現在、混沌とした状況にあると言わなければならない。
 不動産バブルの崩壊が衝撃的に明らかになったのは、負債総額40兆円を超える恒大集団の経営危機と、その後の米国での破産申請だった。それに続き業界最大手の碧桂園(せきけいえん)も負債総額28兆円をかかえて、利払いできずに国内債券の取引を停止した。また最新の報道によれば、10月18日期限の米ドル建て社債の利払いで初の債務不履行(デフォルト)となった可能性があると報じられている。現在中国では不動産価格の下落が止まらず、事態は深刻化の一途だ。
 中国では経済成長にともなって不動産価格の上昇が続いていた。そして日本での「土地神話」同様の「不動産神話」が成立し、不動産業は中国GDPの25~30%を占めるにまで成長していた。中国では土地は国有であり、地方政府がその使用権を販売するという仕組みになっている。また住宅購入者は完成した住宅を購入するのではなく、建設計画などの段階でかなりの額の頭金を支払わなければならないというシステムになっている。そして不動産会社は集めた頭金で、また新たな土地の使用権を購入するのである。まさに雪だるま方式なのだ。こうして資金繰りにつまづけば、莫大な負債だけが残り、建設工事も何もかもがストップするという状況が生み出されるのである。
 中央政府は不動産バブルを懸念して20年の夏に不動産企業に対する融資規制と、土地取引規制を強化した。こうした規制によって不動産販売は激減し「神話」が崩壊するのである。打撃を受けたのは不動産業界だけではない。土地使用権販売を歳入の柱としてきた地方政府は、コロナ対策の経費負担も重なり財政状況が急激に悪化した。また地方政府は過去のインフラ開発での多額の返済も抱えており、約100都市が歳入の10%以上を利払いにあてており、その債務総額はGDPの約半分に当たる1200兆円といわれている。
 こうしたなか、中国人民銀行は住宅ローンなどにも連動する金利の引き下げや、MLF(中央銀行が市中銀行に融資する制度)金利を0・15%引き下げて2・50%にするなどの措置をとっているが、個人消費や民間投資は抑制され経済の長期低迷が懸念されている。さらには金融分野への波及も懸念されている。そうなると影響は中国にとどまらず、世界貿易や製造(サプライチェーン)にまで拡大することは明らかである。

若者の就職難と少子・高齢化


 「ゼロコロナ」政策によってもたらされた経済の疲弊と、不動産ばかりではなくITや教育業界への規制強化などによってホワイトカラー求人が激減し、都市部を中心に若年層(16~24歳)の就職難が深刻化している。全世代の失業率は5%代なのだが、6月の若者の失業率は21・3%で過去最悪を更新している。中国政府は8月15日、18年1月から実施してきた若者の失業率公表を停止した。中国では卒業時期が6~7月であり、相当悪い結果が出たと予想することができる。
 こうした状況のなかで人気が集中しているのが公務員である。公務員の中には党員でなければなれない職種もあり、大学生は党員になることと現代版「科挙」と称される「国考」(国家公務員試験)合格をめざすことになる。今年の「国考」の倍率は70倍であった。
 若者の失業問題と併せて深刻化しているのが「少子・高齢化」の進行である。中国の出生率は1・1ほどですでに人口減少が始まっている。長期にわたって実施されてきた「一人っ子政策」で、出産適齢期の女性がそもそも少ないということもあるが、高騰する住宅費や教育費なども少子化に影響している。
 一方で65歳以上の高齢者人口は2億人を超えた。さらに60年代のベビーブーム世代が退職期に入っており、その数は毎年2000万人と言われている。中国の定年退職は男が60歳、女が50~55歳だ。しかし社会保障を担う地方政府の財政は、コロナ対策や不動産バブルの崩壊などで極めてひっ迫しているのが現状である。こうしたなかで特に深刻なのが都市部で底辺労働を支えてきた「農民工」対策である。
 農民工は都市と農村を区別する「戸籍制度」によって、現在も社会サービスで差別的な待遇を受けている。例えば年金の場合、公務員の平均年金は月12万円であり、民間会社員が月6万円であるのに対して、農民向けの公的年金は月4000円である(保険料は年1万円ほどなのだが)。これでは食べていくことすら不可能である。しかも中国では定年退職後の再就職は極めて困難だという。

強まる米国の半導体輸出規制

 米国はトランプ前政権時から中国に対して半導体などの「戦略物資」の輸出を規制してきたが、バイデン政権になってからさらに規制を強めている。バイデン政権は14ナノ(1ナノ=1ミリの100万分の1)以下の半導体や半導体製造装置の対中輸出を全面禁止しており、7月には日本が半導体製造装置をはじめとする23品目を輸出規制対象に加え、9月にはオランダも規制強化に乗り出すなど追従させた。さらに米国は8月に入ってから新たな対中規制を発表している。それは軍事・スパイ活動に転用される可能性が高い半導体・AI・量子技術の3分野を対象に、中国企業や事業への新規投資を禁じるという内容だ。これによって製品や技術だけでなく、規制は投資にも拡大されたのである。
 現在の中国の半導体国産化比率は25%程度だろうと専門家は指摘している。この比率は数年前からほとんど変わっていない。ゼロコロナ政策や不動産バブルの崩壊などの影響で、莫大な資金が必要な半導体開発と製造に資金が流れなくなっていることが背景にあるのかもしれない。
 そんななか世界を驚かせたのは、スマホの世界シェアトップから転落していたファーウェイが販売に乗り出した最新のスマホである。7ナノの半導体が搭載されており、ファーウェイがそれを独自開発したのだろうと言われている。現在の最先端半導体は3ナノで、これを製造できるのは台湾・韓国・米国だけだ。7ナノは3世代前のものと言われているが、中国はファーウェイと同社子会社のハイシリコンそれに国内半導体最大手のSMICを使って国産化に乗り出している。
 米国などによる規制強化に対抗して中国は8月、半導体製造材料として使われる希少金属(ガリウム、ゲルマニウム)の輸出規制を発効した。また10月にはEVのリチウム電池などに使われる黒鉛(グラファイト)の輸出規制を12月1日から実施すると発表した。
 重要鉱物に占める中国の世界シェアは圧倒的で22年、リチウム65%、コバルト74%、黒鉛65%、レアアース(希土類)90%などとなっており、その市場規模もこの5年間で倍増して22年には48兆円にまで拡大している。しかしこうした重要鉱物の精製過程では大量の水が必要であり、また硫酸も大量に使用されている。その結果、精製地域での水不足や環境と低賃金で搾取されている労働者への汚染が問題になっている。
 米・中それぞれによる規制が強化されているが、その影響が米中貿易に反映されているわけではない。22年中国の対米輸出額は5817・8億ドルで、過去最高を更新している。また米商務省の統計でも22年の対中貿易総額は6905・9億ドル(前年比5・2%増)で過去最高を更新し、対中貿易赤字は3829・2億ドル(同8・3%増)だった。高インフレと労働力不足の米国にとって安価で品質も良い中!国製品は、すでになくてはならないものになっているのだろう。

変貌する「一帯一路」

 米国の世界覇権に対抗しうる中国を中心とした帝国主義的な経済・外交圏域形成に乗り出したのが「一帯一路」戦略である。22年の中国輸出品目はコンピューター・通信機器・アパレルなどであり、最近になってからこれらに加えて電気自動車(EV)が大きく伸び始めている。輸出品目の上位には半導体を大量に搭載する製品が並ぶ。米国主導による中国に対する半導体規制は、軍事転用という理由ばかりでなく米国IT資本の世界シェアの防衛と深く関係していることも見てとることができる。
 中国はこの10年間で途上国を中心に大規模なインフラ整備などに対して巨額の投資を行ってきた。13年の直接投資の累計は100億ドル以下であったが、現在は2000億ドルを超えている。しかしその一方で、スリランカなどに代表される過重債務問題や各国の対中貿易赤字拡大、そしてここ数年で顕著になった中国経済の停滞の影響で直接投資は18年にピークを付けてそれ以降は減少している。また中国の貿易総額も13年の1・6兆ドルから22年には2・8兆ドルまで拡大してきたが、対中経済依存を減らそうとする「デリスキング」の動きも強まっている。
 その影響は「中欧班列」と呼ばれている中国国内の数10都市と欧州20カ国以上を結ぶ定期貨物列車の変貌として表れている。欧州はロシアを経由する輸送を嫌って海運に切り替える一方、経済制裁で対中依存を増々強めているロシア発着分が大幅に増加しているからだ。ロシアから割安の天然資源を入手することができるとはいえ、こうした傾向は中国の世界戦略にとって決して好ましいものではない。そこで中国が考えていることは、世界的に先行してきたEVの欧州や東南アジアへの輸出攻勢である。米テスラと首位争いをする国内最大手のBYDをはじめ、長安汽車・セレスなどでの生産拡大を進めている。
 もうひとつ注目しておかなければならないのが、8月に6カ国の新規加盟を決めたBRICS(中露印南ア、ブラジルで構成する新興5カ国)拡大の動向である。計19カ国が新規加盟をめざしていたようだが、今回新規加盟が承認されたのは南米のアルゼンチン、中東のイラン・サウジ・UAE、そしてアフリカのエジプト・エチオピアである。アルゼンチンについてはブラジルが強く後押ししたとされているが、中東とアフリカは中国の意向によるものだろう。中国は今年、イランとサウジ国交正常化の仲介役を果たしてきたし、特にイランとは25年間の長期経済協定を結んでいる。サウジも対米関係を悪化させてきた。またアフリカ大陸東部は、中国から陸路でミャンマーの港を経て、海運でインド洋からアフリカ大陸を結ぶ拠点に位置している。こうして中国は米国主導のG7に対抗するための「もうひとつの」グローバルイニシアチブ形成をめざしている。
 米国バイデン政権は長期化するウクライナでの戦争に加えて、パレスチナ・ガザにおけるイスラエルの軍事侵攻という事態を前にして対中関係の安定化を模索している。習近平体制も同様に対米関係を安定化させて、混迷する国内経済の立て直しを図ろうとしている。こうした中で11月15~17日にサンフランシスコで開催されるAPEC(アジア太平洋経済協力会議)期間中に米中首脳会談を実施することで合意した。
 米国はほとんどありもしない「台湾危機」という火遊びをやっている余裕などなくなったということだ。来年1月には台湾の総統選が実施される。(高松竜二)
 
 
 
 

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