「地政学的カオス」をめぐる討論のために(下)

反資本主義のイニシアチブ東アジアからの国際的挑戦

国富建治

3 安倍政権打倒のための共同戦線と新しい国際主義のために

a 強権的統治システムへの転換

  本稿の冒頭に、私は一九九〇年代、ソ連・東欧ブロックの崩壊を受けて、新自由主義的なグローバル資本主義が、他に替わるもののない唯一の社会像として世界的な制覇を遂げた時代のイデオロギー状況を、幾つかの著作の引用で紹介した。
今日、そうした新自由主義的グローバル化にもとづく未来像が何の疑問もないままに通用していく状況にはないことは言うまでもない。一九九九年一二月シアトルWTOを中止に追い込んだ労組・NGOグループの闘いが大きな転機となった。そしてスイスのダボスで開催されてきた世界経済フォーラムに対抗して二〇〇一年から開催された世界社会フォーラム(第一回、第二回はブラジル南部のポルトアレグレで開催)は、新自由主義的グローバリゼーションがもたらす貧困・格差・失業・環境破壊・戦争に抗する「もう一つの世界は可能だ」をスローガンに、全世界から多くの活動家を結集した。ブラジルをはじめとした南米では、この「世界社会フォーラム」との深い関わりを持った左派政権が次々に誕生していった(ブラジル、ウクアドル、ボリビア、ベネズエラなど)。
しかし二〇〇八年のリーマンショック以後の世界は、資本主義諸国の支配階級が、福祉や民主主義といった階級協調的統合の統治方式をはぎ取る過程でもあった。そこでは資本の意思がストレートに貫かれ、より強権的で、国家主義的で、排外主義的な支配と結びつく傾向を生み出している。これは「同意に基づく統治」という勤労民衆へのポーズをぬぐい去る過程だった。ピエール・ルッセは、これを支配階級が「政治から解放される」という言葉で表現した。
危機の中での新自由主義は強権的政治手法と結びついた「資本の独裁」という姿をより露骨にした形で現れている。このグローバルな資本の危機と、旧来のブルジョア階級支配の不安定化の中で、「ボナパルチズム」という強権主義的国家統治の問題が改めて論議の対象にせり上がってきた。たとえば安倍政権の政治手法について「ファシスト」的という規定が押し出されたりするが、それをたんなる「反民主主義」的・「非立憲主義」的であることの形容詞としてではなく、どのような統治のあり方であるのかを多角的に分析する努力が必要だろう。
多くの論者が主張するように、安倍政権の体現するイデオロギー・統治形態は、旧来の自民党が体現していた「利害調整・統合」的な階級支配とは異質のものであり、むき出しの排他的ナショナリズムと、あからさまな大資本の階級的利益の擁護に貫かれたものであり、「敵」への憎悪を隠そうともしていない。それは明らかに深刻な危機の時代の産物である。
「企業が世界で一番活動しやすい国」というあまりにも露骨な言い方(さすがに今年二月の通常国会施政方針演説では「世界で最もイノベーションに適した国」という言い換えを行ったが)で、「岩盤規制」にドリルで穴をあけ、規制を撤廃すると公言した「アベノミクス」の戦略は、それを体現するものだ。

b 沖縄・朝鮮半島そして中国


労働者民衆の独立した運動に根付いた左翼政治勢力が長期間にわたって後退し、弱体化している中で、安倍政権の代表される極右的政権との闘いが、「保守派リベラル勢力」との部分的・戦術的連合という選択を必然化させていることをわれわれは理解する。しかし、それは単なる「妥協」なのではない。むしろそこを出発点としながら、闘い取ろうとする「社会」のイメージを獲得していく上で必要な実践教育・学習の場にしていかなければならない。
それは、むき出しの新自由主義と反民主主義的強権支配に抗する共同の闘いの中で、労働者民衆が平和・人権・平等・エコロジーに貫かれた解放の理念をつかみ、共有し、それを学び、具体化していくプロセスでもある。その実践において、われわれは何よりも国際主義の体現者でなければならない。それはできあいのイデオロギー、理論ではとうてい間に合わない、異なった挑戦の複合となるだろう。 
一方、すでに述べたように世界社会フォーラムに代表されるオルタ・グローバリゼーション運動は、「リーマン・ショック」以後、世界各地で見られた「広場占拠」運動と連携しながらも、新しいオルタナティブを生み出すための方向設定を行い得ていないことも現実である。ブラジルPT(労働者党)に示されるように、オルタ・グローバリゼーション運動と直接・間接の関係を持っていた南米左派政権も、多くの場合、「資本の強権的秩序」の論理に対抗しえてはいない。
われわれは、この中で以前にもまして、出口の見えない戦乱の危機とさらなる環境破壊の危機、そして人権と民主主義の危機を永続的にはらんだこのグローバル資本主義システムを変革するための糸口を、ともに探っていくための努力を強化していかなければならないだろう。沖縄の反基地闘争と連携し、安倍政権の戦争国家法・憲法改悪のねらいを打ち砕いていくための闘いは、グローバル資本主義秩序の「カオス」化の中で、労働者・民衆がどのような世界を築き上げていこうとするのかの問題意識に貫かれた討論を触発している。
現実の「地政学的カオス」の中から、国際的に共同した労働者民衆自身によるオルタナティブを作っていくためには、かつてのように世界を二つの陣営(帝国主義と反帝国主義など)にわけて、どちらの陣営に与するのかという思考法と決別しなければならない。たとえばアメリカ帝国主義に中東政策と対決するために、シリアのアサド政権の側に与したり、ISによる民衆に対する残虐なテロ支配を、「帝国主義に反対する勢力」として許容するようなアプローチは明確に誤りだというべきである。
われわれは、平和・尊厳・人権・公正・解放といった民衆自身の価値基準を相互につき合わせながら、危機を深めるグローバル資本主義の産物である戦乱と貧困と圧政と環境破壊を深めるこの現実の中から、国際主義的連帯の闘いを形成していきたい。それは必然的に反資本主義―新しい社会主義を目的意識的に手ぐりよせていくチャレンジでもある。
それをどこから始めていくのか。端的に言えば、それはアジアである。日本自身が危機の発信地となっているアジアがその舞台となるだろう。朝鮮半島、中国大陸、東シナ海、南シナ海に向かいあうせめぎ合いの場において、国境を越えた労働者民衆自身のオルタナティブに挑戦しよう。
基地のない沖縄をめざす「島ぐるみ」の闘いと連帯しながら、安倍政権による戦争国家体制作りと改憲プログラムを打ち破っていく共同戦線のための闘いは、そうした新たな国際連帯のための基礎づくりでもある。そうした意識性が常に求められている。(2015年6月初稿、10月再稿) 

10.12

愛知で日本軍「慰安婦」関係資料学習会

歴史修正主義のウソと歪曲を葬り去るために


 【愛知】一〇月一二日、名古屋YWCA会館で「日本軍『慰安婦』関係資料21選・学習会」が、旧日本軍による性的被害女性を支える会の主催で行われた。
 この学習会は、北海道札幌市在住で「日本軍『慰安婦』問題解決全国行動 資料集編集チーム」の一員である小林公久さんを講師に招いて行われたものである。
 小林さんは長年全国を奔走し「慰安婦」問題に証拠がないと否定する安倍政権と右派に対して、事実を示すため、資料を探し発掘。事実認定に最低限必要な二一点を選び、小林さんが中心になり日本軍「慰安婦」問題解決全国行動が作成、日本の戦争責任資料センターが監修して「日本軍『慰安婦』関係資料21選」を完成させた。
 学習会はこの資料集を元にした小林さんの講演と討論で行われた。参加者は二〇数人と少なかったが、様々な詭弁や嘘を弄して「従軍慰安婦」をなかったことにしたり、または「強制ではなかった」などと主張する安倍政権と右派勢力との闘いにおいて、これを粉砕する重要な「武器」を得た充実した学習会となった。       (越中)

資料集より

第1章・陸軍省(軍中央)が「慰安所」設置の根拠法を作り、各部隊が組織的に設置していた事を示す文書」
第2章:「慰安所」女性の徴募と国外移送を政府と軍が共同して行ったことを示す文書
第3章:慰安所で女性たちに対する強制があったことを示す文書
第4章:慰安婦女性の軍・官憲による強制連行(軍・官憲による略取・誘拐)を示す文書
第5章:日本軍「慰安婦」制度が違法なものであり政府に法的責任があることを示す文書
※この資料集をお求めになる方は、郵便払込口座 加入者名「日本軍『慰安婦』問題解決全国行動2010」口座番号02760?1?84752まで。頒価800円。

【訂正】本紙前号(10月26日付)2面横須賀抗議行動記事上から3段目右から6~7行目の「自衛隊機地」を「自衛隊基地」に、3面「戦争法案と安倍内閣打倒」論文下から2段目23行「閣僚」を「閣僚発言」に、8面最下段左から12行目の「15年9年21日」を「15年9月21日」に、本紙前々号(10月19日付)5面狭山集会報告の上から3段目左から20行目の「静岡地裁に来ため」に、「静岡地裁に来たため」に、同じく3段目左から10行目の「偏見を煽る報道がなされた」を「偏見が煽られた」に、同じく7段目右から11行目の「石川さんの白内障の」を「石川の白内障の」に訂正します。

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