プールで泳ぐ鴨
かけはしコラム
先回、私はこの欄で、「デイ・サービス」の(下)を書くと約束しましたが、今回はその約束を反故にします。(下)で書こうと思ったのは、デイ・サービスで圧倒的人気の「カラオケ」についてでしたが、「緊急事態宣言下」では老人介護施設での「カラオケ」は都や区の指示で禁止となり、音楽さえ流すことはできなくなります。したがって緊急宣言が解除されるまで(下)は棚上げにしてもらいたいと思います。今回はウイルス禍でもほっこりする課題にさせて下さい。
私の住んでいる部屋の西側の窓の下には、人工芝の小学校の校庭と25㍍プールがあります。プールは夏休みの子どもたちの水泳に使用されたあとは翌年の夏(6月)まで、水を張ったまま放置されます。そのためプールの水は11月を過ぎると緑色に変色し、校庭のケヤキやエノキの大木が紅葉し落葉すると沈んだ葉っぱのせいで夏には美しく見えたプール底に引かれたラインも見えなくなり、年が替わると沼の水と変わらない濃い緑色になってしまいます。
3月になると(私がこの部屋に引っ越してから3年間)毎年一対の鴨がこのプールに飛来します。どうもカップルのようです。充分にここに慣れているようで、午前中2時間、午後2時間プールを泳ぎ、子どもたちがプールの横を通る登校時と下校時はプールにいません。かつて子どもたちに驚かされたのを記憶していると思われるし、真昼に太陽が降り注ぐ時間帯に取り囲んでいるフェンスとプールの段差によってできる日陰を利用し、直射日光を避ける行動を取ります。
近所の人の話では、この鴨は直線距離で3~400㍍先にある公園の池に住んでおり、早朝と夕方は池でエサを捕り、昼に釣竿を持って押し寄せる人やボートの客を避けてプールに来るのだという。近くの違う小学校のプールに飛んでいくのもいるという。5月の連休の頃になると池の中にいる鴨たちは一斉に産卵のため巣作りを始めるのでプールには来なくなるという。
5月の連休まではあと1週間、気に掛かるので友人に車椅子を押してもらい昨日、池まで行ってみた。どこにでもある都会の公園だが、池は直径百㍍くらいあり、すり鉢の底に位置し、まわりの台地で湧いている水が池に流入していた。池のまわりには20人を超す釣り人、ボートも10艘程水に浮かび、真ん中に小さな樹木が繁った島がある。そのまわりを鴨などの水鳥が泳ぎ、岸辺の岩の上には大きな亀が何匹も甲羅干しをしていて限りなくのどかであった。
ボート小屋のおやじによると6月になると水鳥の子どもを狙うカモメやカラスが公園にやって来、1年で一番にぎわしくなるという。その時は商売のボート小屋ではなく「管理人」になるとおやじは笑っていた。 (武)