熊 太 郎
コラム「架橋」
昨年の大晦日にショッピングセンターのペットショップでネザーランド・ドワーフを購入した。ネザーランド・ドワーフとは、その名前の通りオランダ原産のウサギのこと。以前、ピーター・ラビットに似た、薄茶色のミニウサギを11年間近く飼っていたことがあった。名前は、毛の色にちなんでココアと命名。病気に罹って2度ほど動物病院に連れて行き、レントゲンを撮り、注射した際、上手に飼っていますねと看護師に言われたことを思い出した。
ウサギの個体差にもよるが平均寿命は7~8年といわれていたから11歳は、人間でいえば82歳という高齢だ。最期は右腹部に腫瘍のような大きなしこりができていたが、よろけながらも歩くこともでき食欲もあった。最期の夜は、ゲージから出し、自分のベッドの横に寝かして看取った。きっと老衰だったのだろう。2016年9月8日の深夜2時過ぎのことだった。
それから5年がたち、またなんとなくウサギを飼いたくなった。前述したように、そう思いついたのは年末のこと。大晦日の雑踏の中、以前購入したペットショップに向かった。前と違っていたのは、ウサギたちを大きなゲージの中に何羽も放し飼いにしているのではなく、個別に木枠のついたプラスチックケースに入れてあったことだ。きっとコロナ禍を避けての措置だったのだろう。新しい飼い主を待つウサギの数も前より少なかった。
ボクはケースごとにウサギを見て品定めをした。できれば前と違うクロウサギが欲しかったのである。その品種によって値段もさまざま。血統書付きのウサギともなれば5万円以上の値段がついていた。ボクはなるべく安いミニウサギを探したが、クロウサギはいない。いたのは11月に生まれたというオスのネザーランド・ドワーフだった。クロウサギといってもお腹と尻尾は白毛で、大きな目の周りと鼻先も白毛の縁取りがあった。ネザーランド・ドワーフは、大きくなっても1キロ程度の小型ウサギで、小さな丸顔と短い耳がぬいぐるみのようでかわいらしい。値段は1万5000円。すぐ隣のミニウサギの倍の値段だったがこのウサギを購入することに決めた。
そして動物保護法の影響もあってか責任を持って生育するという誓約書のようなものを書き、健康状態をチェック。ゲージや餌となる牧草のチモシーやペレット、消臭シートなどを買い求め帰路についた。
さて相棒の名前である。小舎の社員にS太郎と呼ばれる愛される部下がいる。もちろん本名ではない。あだ名をつけられた理由は、あえて省略するがS太郎に因んで黒太郎と名付けた。しかしである。そのかわいい容貌から似てもにつかないほど言うことを聞かない。ネットで、その性格を調べると野性味が残り、警戒心が強く、オラオラ系のわがままである。抱かれるのも嫌いなそうだ。
飼って半年が経つ今では、食べて寝るのが日課なのでまるまる太って、重いくらいだが、朝方に行動する性格なのであたりが薄明るくなる4時ごろには活発になり、ゲージを噛み揺らし、外に出せと大きな音をたてる。そのためこの行為が、ボクにとって目覚まし代わりになりついつい早起きになってしまった。
しかし、家の中で自由にさせていると、齧歯類の性格なのかよく本をかじられてしまう。そのためブックカバーはボロボロ。大切にしていた柴田翔の『されど我らが日々』もやられてしまった。そのためもう1冊古本を注文したが、これも知らぬ間に囓られた。これにはボクもキレた。本棚にはカバーがない2冊が鎮座しているのだ。そのため早朝はベランダに出して、自由に過ごしてもらっている。
こんなことからボクは、腹毛が白いことから、黒太郎からツキノワグマになぞらえて「熊太郎」に改名した。そしてあと10年は一緒に暮らす覚悟を決めたのだ。 (雨)