「理念なき東京五輪」
コラム「架橋」
8月8日、人民に犠牲を強制し、選手・アスリートを「人質」にした東京五輪が終了した。開会式の7月23日には1日あたりの新規コロナ感染者が4225人であったのが、8月8日には1万4472人に急増した。これでは、「コロナに打ち勝った証し」と唱和してもむなしい。その事実を隠すため五輪マフィア・IOCは閉会式の直前、日本の橋本、菅、小池の3人を「オリンピア精神の発展に貢献した」として功労賞とも呼ぶべきものを全員に授与した。これはマフィアからの「ありがとう」の返礼だ。
だが、この授与式の中で2013年の東京五輪の招致を決める条件の中に、7月9日から8月31日までという開催期間が確認されていたことが明らかになった。この開催期間の設定は、IOCの最大の収入源であるアメリカNBCなどとのテレビ放映権の存在であった。またこの時、IOCが東京五輪招致委に要求したのは、福島第一原発事故の収束要求で、特に汚染水対策をどうするかであった。
これに対する回答が、安倍の「アンダーコントロール」演説があった。さらに安倍らは「この期間は晴れる日が多く、気候も温暖である」という一筆を入れていたのである。7月9日まではサッカーのヨーロッパ選手権が行われており、アメリカでは大谷翔平が大活躍したメジャーリーグのオールスターが開催されている。9月からはアメリカではフット・ボールの試合が始まり、メジャーリーグのワールド選手権が佳境に入る。ヨーロッパではサッカーのワールドカップ予選が開始され、テレビの放映がすでに決定していた。
テレビ放映権問題が五輪期間中に再浮上した背景にあったのは、7月29の国際テニス協議会の申し入れであった。この日男子の優勝候補者の一人であるメドベージェフが「めまいがする。こんな過酷な暑さはない。身の危険を感じた」と競技のスケジュールの変更を要求し、世界ランク第1位のジョコビッチらもこれに賛同した。さらに他の競技国体へも波及し始め、あわてたIOCとJOCはテニスの準決勝と決勝の試合開始時間を変更した。
これを聞いたベースボール協会や国際サッカー連盟もスケジュール変更を要求した。テニス、サッカー、ベースボールが五輪から脱退されたら、東京五輪が崩壊しかねないと感じたIOCとJOCはすぐにスケジュール変更要求に応じた。テニスはウインブルドン、全米などの4大大会を軸に独自の力を持っており、サッカーに至っては五輪を上まわるワールドカップという国際的な興行権を有しており、ベースボールもアメリカのメジャーリーグがすべての権限を持っている。これらと対決してIOC・JOCに勝ち目はない。
現にメジャーリーグは、五輪のベースボールに対して、メジャーリーグ傘下の選手の参加を禁止しており、メジャーに多くの選手を送り込んでいるメキシコ、ドミニカ、キューバは強いチームを編成できない状況に追い込まれた。大会に参加しているアメリカンチームでもほとんどの参加メンバーはメジャーリーグの引退組、メジャーリーグから日本や韓国、台湾のプロ野球リーグに移籍した者で構成されている。サッカーの五輪選手は23歳以下の世代で構成されている2軍であり、年齢を問わないフル代表ではない。そして同じ野外スポーツでもホッケーなどはスケジュールの変更からはずされ、当初通り続行された。
ホッケーなどのマイナー競技団体は、団体の運営費など多くの財源を五輪などの分配金に依存しており、テレビの国際中継も五輪を除いてはいないのである。メジャーな競技団体にのぼりつめるには、テレビの中継は絶対なのである。ここにIOCやJOCの意向を受け入れざるを得ない根拠がある。
JOCは東京五輪の招致が決まった翌日に、日本陸運と相談し、マラソンと競歩の会場を東京から札幌に移す対策委員会を設置した。JOCの招致委員会2013年の決定段階で東京の過酷な暑さを理解していたのである。東京五輪の裏側で見せたこの事実をみるだけでオリンピックマフィアの正体は明白、「金のなる木」なのだ。 (武)