緊急事態宣言の矛盾
コラム「架橋」
世界的なコロナ禍のまっただ中、矛盾に満ちた安全・安心をキャッチフレーズに掲げた東京オリンピック2020が閉幕したと思ったとたん5度目の緊急事態宣言が発令された。その範囲は、東京を中心とした首都圏から、しだいに全国に広がり大阪、京都など関西圏、そして東海3県、北海道などが政府に再度の緊急事態宣言発令を要請するほどコロナ禍の波は全国的に拡大の一途をたどっている。
こうしてコラムを書いている8月24日現在の全国感染者数は、厚生労働省の発表によれば132万人を突破し、死亡者数も1万5000人を数えるに至った。しかし、政府と小池都知事は、「オリンピック開催とコラナ感染者増加との因果関係はみとめられない。何よりもそれは無観客での開催中、テレビ観戦視聴率が高かったことからも明らかである」と開き直った。
先日からパラリンピックが始まったが、子どもたちに勇気を与えるために学校単位で保護者の同意を得た上で観戦させるというから緊急事態宣言の意味するところと明らかに矛盾していると考えるのはボクだけではあるまい。まして全国知事会ではリモートによる会議で、政府にロックダウンを検討するべきだと要請したほどコロナ禍による医療体制は日に日に悪化していることは誰が見ても明らかだ。若年層のコロナ感染が日増しに増える中、このパラリンピック観戦は、国威高揚を図るご都合主義の学徒動員的な発想だと言い切れる。
また、不要不急の自粛を市民に強く求める東京都や政府と相反して丸川オリンピック担当大臣は、オリンピック閉幕の翌日、銀ブラを楽しんだIOCバッハ会長の行動を「不要不急は自分で決めること」という妄言を吐いた。
そんな中、緊急事態宣言や蔓延防止措置によっていま一番の被害者は飲食店、酒類を扱う卸業者や小売店ではなかろうか。酒類の提供自粛がコロナ拡大を抑える要だと政府は考えている節がある。はじめはパチンコ店がコロナの温床になるとやり玉に挙げられたが、そこから一度もクラスターが発生したことは耳にしていない。なかには感染者もいただろうが、タバコの煙を排煙する強力な設備や、誰とも話をせず黙々と台と対峙し玉を打つ愛好者から集団感染のリスクは、カラオケや接待を伴う密室型の飲食店よりも少なかったのだと思われる。
つい先日、和歌山県の新宮市を訪れた際は、蔓延防止措置もとられていないのにも関わらず、その数日前にスナックからクラスターが発生したことから12日から16日までの5日間、ほぼ市内の飲食店が自主的に休業している場面に出くわした。政府や自治体が飲食店に休業、酒類提供自粛を要請するなら、卸業者や小売店も含めてまず十分な補償を行うべきである。酒類メーカーや大手卸売業者、大手チェーン店を除けば、そのほとんどが零細な個人事業主である。明日のことを考えると眠れない事業主がどれだけいることかわからない。
政府はオリンピック開催とコロナ拡大は無関係というが、オリンピックという国際的な一大イベントを強行したことにより、不要不急な外出、人流抑制は絵空事になった。つまり、丸川大臣が発言したとおり、すべては自分で決めるという雰囲気が市民の間に広まったのだ。
ボクの住んでいる地方では、次期衆議院選挙への出馬を狙う自民党の県会議員が、支持者らとスナックで呑みながらカラオケを興じクラスターを発生させているから笑い話にもならない。
緊急事態宣言と蔓延防止措置を繰り返すのは、それこそ政府の無策の現れそのものである。(雨)