軽石と赤潮

コラム「架橋」

 琉球諸島・奄美諸島の沿岸に大量の軽石が次々と押し寄せている。小笠原諸島の南にある火山列島の海底火山(福徳岡ノ場)が8月に大噴火して、その時に噴出した大量の軽石が海流に乗って1300㎞流されてきたのである。漁港は厚さ20㎝ほどの軽石に覆われて、漁はおろか船を出すこともできなくなっている。離島を結ぶフェリーも出航できなくなっている。そして軽石は沖合に帯状に広がって、次々と押し寄せている。専門家の推計によると、今回の噴火で噴出した軽石の量は東京ドーム数10杯分だという。
 軽石災害は始まったばかりだと言わなければならない。沿岸部海底への太陽光の遮断、波によって粉砕された軽石の沈殿による生態系破壊の影響で、サンゴ・海藻類は壊滅し、稚魚・貝・甲殻類なども甚大な被害を避けられない。要するに土壌が大量に流入することによって発生する「磯焼け」と同様の状態が作り出されるということである。海面温度の上昇による影響を排除したとしても、元の美ら海に戻すのには少なくとも数年はかかるであろう。また漁業ばかりではなく、島の人々や生活物資の移動、観光など経済活動への影響も心配される。
 今後、軽石は黒潮(時速4㎞)に乗って北上し、九州南部に到達してから四国沖で蛇行して、11月末にも関東沿岸に漂着すると予想されている。
 時同じくして、北海道東部から日高地方の太平洋沿岸部約500㎞にわたって赤潮による災害が発生した。今回大量発生した「カレニア・セルフォルミス」という植物プランクトンが水中の酸欠状態を作り出した影響で、ウニ・魚・貝・タコなどが大量死したのである。被害は甚大である。
 今回大発生したプランクトンは、水温が低くても増殖できるという特徴がある。昨年の秋にカムチャツカ半島沿岸でも同プランクトンによる大規模な被害が確認されていたが、日本国内で赤潮被害の原因となったのは今回が初めてだ。専門家によると今回の赤潮の発生は、千島海流(親潮)が影響しているという。終息の見通しは立っていない。
 ここ数年、サンマ・スルメイカ・サケなどの不漁が続いている。乱獲による影響はもちろんのこと、海面(海面下30m)温度の上昇による「異変」も顕著である。サケは水温が12度以下にならないと河川のそ上に入れない。サケ漁の網に漁場にはいないはずの大量のブリが入る。スーパーの魚売り場には高級魚となった1本350円のサンマと、2切れ500円の脂ののった北海道産天然ブリが並ぶ。
 対馬海流に乗った巨大なエチゼンクラゲが大発生して、日本海沿岸漁業に甚大な被害をもたらしたのは何年前のことだったろうか。いま思えば、あのあたりから海の生態系は相当おかしなことになっていたのだろう。コメと野菜を自給して、魚が取れれば日本では餓死することはないだろうと思っていたが、それも怪しくなってきたのかもしれない。 (星)

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