「風? 気のむくままに」

コラム「架橋」

 街の台所と言われている仙台朝市商店街。客を呼び込む声もコロナ禍のせいで心なしか元気がない。シャッターに「A4」ほどの紙が貼ってあり「1月末」の閉店を告げる。いつもは店頭に「浅葱」が並び始め、春山菜のシーズン到来でよく買い物した野菜店だ。ここ1〜2年、時短営業や酒提供自粛が五月雨的に続き、取引先の「閉店」「廃業」で取引先が縮小し、高齢者の「外出自粛」とあいまって店頭売りも大きく減少してきたという。
こんな状況が続けば心も折れるだろう。そんなことを想いつつ鮮魚店を見て回ると「庶民の台所」に不釣り合いな「大間」とか「築地」とかのラベルを張った「鮪の中トロ」パックが並んでいた。
 「お客さん!安くするから中トロ買っていったら!」と進められた。「オミクロン株」の感染拡大で全国の都道府県が相次いで蔓延防止措置を取った。強力な感染力の前に不安が大きく広がり「措置延長」と「営業時間の短縮・規制」が強まっている。「この中トロ」は、いつもなら大都市圏で消費されてきたものが「消費低迷」でまわりまわって地方に流れてきたのだろう。
 しかし身の厚そうな「北海道ホタテ」の魅力に、パートナーの分も含めて「2枚」購入した。傍に「1尾100円」値札の付いた「鰺」。店の人曰く「いっぱい獲れて売らないとしょうがないから安く入った」と言う。「活きは良いよ!」とのことで200円で「鰺2匹」を買う。「中トロ買っていって。300円引き!」との声に片手を振って店を離れた。
 朝市は、庶民の生活のバロメーターである。ひしめき合い品定めする買い物客と大きな呼び込みの声。そんな活気が「朝市」の大きな魅力なのだ。庶民の生活を覆う「物価上昇の波」。原油価格の高騰で石油の値上がりが止まらない。電気・ガス料金も同じだ。輸入原材料の高騰で小麦粉、食用油、様々な食品も値上がりし経済的弱者や低所得者の生活を直撃している。この国の年金、公的扶助、最賃等の制度が物価上昇やインフレに対応する制度かと言うと「否」であり、依存度の高い層ほど大きな打撃を受けてしまう。
 ニュースで流れる住宅火災報道で、高齢者の犠牲が多いことが気になっていた。「一人暮らし」だったり「老々介護」等々困窮し孤立している高齢者の姿が浮かび上がってくる。新潟の製菓工場の火災。見えてきたのは「深夜」の「アルバイト」で生活する高齢者雇用と労働実態だ。避難訓練からも排除され避難経路すら周知されない「存在」とは何なのだろうか? 高齢者の生活の支えが低賃金の劣悪な労働環境という構図は、実は日本の社会全体の縮図なのだ。全世帯の60%強が「平均所得」以下で働き、年間所得金額が100万~400万円の所帯がその4割に上ると言う。
 美しい言葉で着飾った為政者の心の内」の言葉を信じた「御仁」もいるだろう。だが、真実は大企業利益のための法人税減税の穴埋めに使われたのだ。貧乏人から搾取し溜め込んだ「内部留保」は500兆円だ。もともと社会保障財源として搾り取った金であり「返す」のが筋と言うものだ。大資本、富裕層への内部留保課税、金融取引課税等など返させる手は幾つもある。大衆の要求実現のために、彼らの「地下金庫」を開け放つべき。
 さて、朝市から買ってきた「ホタテ」と「鰺」。コリコリとした歯ごたえと甘みの100円鰺は「極上品」だ。「冬はお前たちのものだ、しかし春は我々のものだ」と懐かしい言葉を思い出す。日々寒さも和らいできた。気の向くまま、また出かけよう。
(朝田)

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