今、サーモンが熱い!

コラム「架橋」

 学校給食ではサバの次に出番が多く、回転寿司ではサーモンがかのマグロ人気を上回る。ロシアの戦争攻撃で刺身など生食用として珍重されるノルウェー産のオーロラ・サーモンはロシア上空を通過できず値上がりが続く。
 サーモンの日本語訳はサケ・鮭であるが、マスとの違いは判然としない。調査によるとサケとマスを便宜上おおきさで分けるらしい。大がサケ。小がマス。一番オーソドックスな分け方は、海で育つのがサケで川・湖に生息するのがマスと呼ぶそうだ。専門家や業者は厳密にサケ科サケ属だけをサケと分類する。
 それでいくと日本ではシロザケ、ギンザケ、カラフトマス、ニジマスがそれにあたるという。カラフトマスもニジマスもサケに入っている。日本では「管理釣場」で放流されるのはヤマメ、イワナ、ニジマスが多い。ここではニジマスはマスの代表のように扱われている。
 しかし日本にニジマスを持ち込んだヨーロッパではドナルドソンやスチームヘッドというサケ属の交配によってニジマスはつくり出されているのだ。日本では養殖業者が地元の川や湖になじむようにニジマス同士でかけ合わせる。そのためにニジマスはそれ以上でも以下でもないのだ。
 カラフトマスにいたっては、日本人が知っているのは知床方面の川を遡上するということで本土の川を遡上しないので誰もみたことがない。缶詰で魚体が小さいのでマスと読んだにすぎない。
 40年程前には「サーモン」といえば、北欧・南米産の鮭であったが、70年代には宮城でギンザケの養殖が成功し、日本でも養殖の方向に気運が広がった。とくにノウハウを蓄積した大手水産資本が、漁民、漁協、自治体、企業へと大攻勢をかけた。「獲る漁業から育てる漁業への転換」というキャッチコピーがそれだ。
 北海道苫小牧市の王子製紙が紙パルプの副業としてはじめた「王子サーモン」の成功がその典型だ。続いて名産のりんごをエサに配合した「青森サーモン」が市場に送り出され、8年前には「イカ漁」の不漁に直面したむつ市の漁民が「海峡サーモン」を売り出し、一昨年には岩手の久慈市が「琥珀サーモン」を世に出し、今や宮古、釜石、大槌、大船渡がそれに続こうとしている。
 このラッシュの背景にあるのは気候変動による海水温の上昇である。70年代宮城で養殖が成功した時の8月の海水温は12℃であった。養殖に失敗した岩手の海水温は7℃であった。それが今や岩手沖でも8月には12℃もあるのだ。
 海水温の上昇は一方でサケの養殖を可能にしているが、一方ではサンマの接近を遠ざけ、カツオのUターンを早めている。イカの不漁も乱獲だけではなく海水温の上昇が言われている。
 漁業も農業と同様、社会や自然と切り離して考えることはできない。「乱獲を止めて育てる漁業への転換」を叫ぶのはいいが、このままではかつての「ハマチ養殖」のように赤潮を発生させて終ることになりかねない。          (武)

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